やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「……」
「……」
私とチェリッシュはお互いの名前を呼び合ったはいいものの、どうしていいかわからず黙ってしまう。まさかテッドが世界中を旅してあんなに探していたチェリッシュとこんなところで会うとは思わなかった。まぁ、それは彼女からしても同じだろう。テッドと同様、私の変わりように驚いているようだし。
「メっ……」
そんな中、唯一反応したのはウマゴンだった。この中でテッドを知っているのはキヨマロの家に住んでいるウマゴンのみ。彼だけはチェリッシュという名前に聞き覚えがあったのだろう。
「……うん、そうね。好都合だわ
その時、ずっと何か考えていたハイルが納得したように頷いた後、後ろにいる彼女のパートナーであるユウトに目配せをする。ビクッと肩を震わせたユウトだったが慌てて魔本を開き、心の力を込め始めた。
「ふっふっふ! まさかこんなところで会うとは思わなかったわ!」
そう言ってビシッと人差し指を私に向けるハイル。いきなり大声を上げたハイルにチェリッシュと彼女のパートナーは目を丸くして驚いていた。
「きっと、あなたたちは『ファウード』の封印を解くのを邪魔しに来たのよね? ええ、わかるわ。だって、千年前の魔物たちの事件に首を突っ込んだあなたたちが『ファウード』を放っておくわけがないもの」
「邪魔、をする? 本当なの、サイ?」
ハイルの言葉を聞いたチェリッシュが私に問いかけてくる。その目は信じたくないものを見てしまったように恐怖の色に染まっていた。ああ、やっぱりチェリッシュは『ファウード』の封印を解く側の魔物なのだ。
「……そうだよ」
「ッ……そう、なの」
私が認めると彼女は少しだけ肩を落とし、パートナーに視線を向ける。彼女のパートナーは真っ青な顔で頷き、魔本を開いた。もしかしたらあの人もウォンレイたちのようにリオウに呪いをかけられたのかもしれない。
「私たちに言葉は必要ない。話し合っても意味なんてない。だから……戦うしかない。そうでしょう、サイちゃん!」
「『ギガノ・ガクラガ』!」
ユウトが呪文を唱えるとハイルの手に彼女の身長の倍はあるエネルギー体の棒が出現。両手を使ってその場で舞うようにブンブンと回し、最後に挑発するようにその先端を私に向けた。初めて見る呪文だが、以前に戦ってから半年ほど経っているのだ。新しい呪文を覚えていてもおかしくはない。
「くっ……『ゴウ・シュドルク』!」
ハイルが呪文を使ったのを見てサンビームさんがウマゴンを強化した。チェリッシュはともかくハイルには自身の速度を上げる『ガウルク』がある。私だけを見て驚いた様子からしてハイルも『魔力探知』ができるみたいだし、ウマゴンの速度でも逃げ切れるのは難しいだろう。
「さぁ、戦いましょ? でも――」
棒を持って構えていたハイルだったがニヒルな笑みを浮かべた後、一気に私たちへと突っ込んできた。翼を使った低空飛行による高速移動。以前に比べ、明らかに戦い方が洗礼されている。私は咄嗟にみんなの前に躍り出て右手と右足を前に出し、左手を隠す構えを取った。
「――前に戦った時と同じとは思わないでね?」
私の目の前で笑った彼女は棒を私から見て右から左へ横薙ぎに振るう。それを右から迫る棒を右腕で受け止め、上へと振り上げるようにして受け流した。未強化の体で受け止めたせいでビリビリと衝撃が走り、鈍痛が右腕を襲う。
「あはっ!」
受け流され、棒をかち上げられたハイルは楽しそうに笑い、翼をはためかせてその場でくるりと縦回転し、逆さまの状態で棒を振り上げようとする。だが、棒はハイルの身長の倍はあるのであのままでは地面に棒が当たってしまう。そう思った瞬間、彼女が持っていた棒が突然、
「なっ」
「『キロガルル』!」
そして、無手の状態で振り上げた両手の中にエネルギー体の彼女の身長ほどの鎌が現れる。鋭い刃が私へと迫るが棒を受け流したこの態勢では避け切れない。駄目だ、斬られる。ならば、少しでも被害を抑えるために右腕を無理やり動かし――。
「メルメルメ~!」
――だが、鎌が私の右腕を切り裂く直前、ウマゴンが私を守るように横から角を突き出した。鎌の刃と角が激突し、火花が散る。そのまま、鎌と角はお互いに弾かれた。このままでは『ゴウ・シュドルク』で体が大きくなったウマゴンとぶつかってしまうので咄嗟にウマゴンの背中に飛び乗り、私たちは弾かれた反動を利用してハイルから離れた。
「ウマゴン、ありがと。助かった」
「メルメ――」
「――『ゴウ・コファル』!」
「『ギガノ・ガクラガ』!」
逃げた私たちを追いかけるようにチェリッシュが両手から大きな宝石を放ち、その間にハイルが鎌を消して再びあの長い棒を出現させた。ウマゴンはすぐに逃げようとするが私が彼の背中を叩いてそれを止める。私たちの後ろにはサンビームさんたちがいた。私たちが避けても後ろにいる彼らに宝石が当たってしまう。だから、大きな宝石は彼女たちに任せる。
「『マ・セシルド』!」
ティオの盾が私たちの前に現れ、大きな宝石を受け止めた。盾で見えないが宝石が消滅する音が聞こえる。だが、油断は許させない。盾の向こうでハイルの魔力が僅かに膨れ上がったからだ。
「ウマゴン、来るよ!」
「メル!」
「『ブオ・ロン・ガルルガ』!」
ブン、という音と共に何かが『マ・セシルド』に激突し、粉砕してしまう。いや、まだだ。『マ・セシルド』を破壊したばかりか、私たちに向かってそれは――凄まじい勢いで伸びたハイルの棒が迫る。
「メルッ」
その棒をウマゴンは角で受け流し、上方に軌道を逸らした。棒の突きは点の攻撃。軌道さえ、変えてしまえば私たちはもちろん背後にいるサンビームさんたちに棒が直撃する心配はない。それにこの長さの棒を一瞬にして振り下ろすにはそれ相応の筋力が必要だし、『マ・セシルド』が消えた今、ハイルの姿が見える。そんな動きを見せた瞬間に動けば十分、間に合――。
「ッ――」
「メ、メル?」
――しかし、ゾクリと嫌な予感がして私はウマゴンの背中から飛び出し、棒を追いかけた。まさか私が棒を追いかけるとは思わなかったようでサンビームさんたちは目を丸くしている。
「『ブオ・オル・ガルルガ』!」
私の嫌な予感は的中し、点の攻撃であったはずの棒はサンビームさんの真上を通り過ぎたところでいきなり棒全体が不自然に真下へ急降下した。叩きつけるように落ちてくる棒にいち早く気づいたメグちゃんが魔本に心の力を込める。
「『セウシル』!」
「ぐっ……駄目、耐え切れ――」
棒を受け止めた『セウシル』だったがたった数秒で砕けてしまう。でも、そのおかげで間に合った。私は大きくジャンプして棒を横から蹴ってもう一度、軌道をずらす。サンビームさんたちのすぐ横を打つ棒は地面を易々と砕いた。その余波でサンビームさんたちに破片が飛び散るが幸い、大きな石は当たらなかったようで怪我はないようだ。
「サイ、ありがと」
「ううん、気にしないで」
「メルメルメ~!」
ティオの隣に着地したところでウマゴンも慌てた様子で戻ってきた。そんな私たちを見てハイルは棒を消して勝ち誇ったような笑みを浮かべ、チェリッシュはどこか居心地悪そうにしている。
(それにしても……)
あの様子では2人は即席で組んだコンビではなく、お互いの術の性質を把握しているのだろう。
それにハイルと前に戦った時、剣やレーザー、鎖と彼女の術に一貫性はなかった。しかし、あれから彼女は私と同じように自身の力の性質を理解し、それを伸ばしてきたのだろう。彼女は確実に強くなっていた。
「さぁ、サイちゃん……この私――」
「『ギガノ・キロガルルガ』!」
「――
鋭く尖った八重歯を見せつけるように口を歪ませたハイルはエネルギー体の巨大な鎌を手に持ち、翼を大きく広げて飛翔する。その下ではチェリッシュが両手をこちらに突き出し、いつでも宝石を飛ばせるように構えていた。
オリジナル拡張子:『ブオ』
・武器にnの性質を与える。nは『ロン』や『オル』のような拡張子が入る。