やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「『ブオ・セン・ガルルガ』!」
大きな鎌を持って飛翔していたハイルはユウトの呪文に合わせるように鎌をその場で横薙ぎに一閃。すると、鎌の刃から斬撃が飛び出し、私たちへと向かってくる。私やウマゴンはともかく他のみんなはあれを躱せない。
「ティオ!」
「『マ・セシルド』!」
すぐにティオの名前を叫ぶと盾が現れ、斬撃を受け止めた。だが、油断はしない。『魔力探知』によればハイルは私たちの真上に向かっているし、チェリッシュも術を放つつもりなのか魔力が膨れ上がった。
「ウマゴン、上から来るハイルの足止めをお願い」
「メル!」
私の指示を聞いてウマゴンはいつでも動けるように姿勢を低くする。そして、『マ・セシルド』が消えると同時にチェリッシュへと突貫。迫る私の速度を見て彼女は目を見開くがすぐに目を鋭くさせ、右手の指先を突き出した。
(指先それぞれに魔力が集中してる……つまり――)
「『ガレ・コファル』!」
――指先から飛び出す連撃系の術。
そう判断した私が進行方向を右に変えるのとチェリッシュの右手の指先から小さな宝石がそれぞれ飛び出すのはほぼ同時だった。私の左頬を一つの宝石が掠め、後ろの地面を抉る。だが、躱した。これで次の術を放つまでに彼女の懐に――。
「ッ……」
そこで彼女の左手の指先にまだ魔力が集まったままなことに気づき、咄嗟にその場に伏せた。その直後、彼女が振りかぶるように左手を私に向け、もう一度小さな宝石を飛ばすが、それらは私の頭上を通り過ぎていく。
「なっ」
まさか躱されるとは思っていなかったようでチェリッシュは驚愕のあまり、声を漏らす。その間に立ち上がった私は再び駆け出そうとするが不意に後ろからウマゴンの悲鳴のような鳴き声が聞こえた。
「あはは! そんな角で私を止められると思って?」
「メ、メルぅ……」
思わず振り返るとそこでは巨大な鎌を巧みに操り、ウマゴンを翻弄しているハイルの姿があった。『ゴウ・シュドルク』はウマゴンに頑丈な鎧と角を纏わせ、身体能力も向上する術だ。しかし、ハイルは宙に浮きながら戦うというトリッキーな動きでウマゴンを惑わせ、強力な武器でウマゴンの鎧や角を確実に削っている。足止めをお願いしたはいいものの、あのままではチェリッシュを捕まえる前にウマゴンはハイルに突破されてサンビームさんとメグちゃんが持つ魔本を燃やされてしまう。
今のところ、チェリッシュの術は宝石を飛ばすものばかりだ。ティオの『マ・セシルド』で防げるはず。もし、強い呪文を使おうとしても『魔力探知』で察知できる。ウマゴンの足ならば心の力が溜まり切る前にチェリッシュの元に移動できるだろう。だから、私とウマゴンの2人がかりでハイルを倒す。それしかない。
「ティオ、チェリッシュの術を防いで!」
そうと決まればすぐに作戦変更。ティオに指示を出しながらその場で踵を返し、私はウマゴンとハイルの元へ急ぐ。
「ニコル!」
「『ゴウ・コファル』!」
「『マ・セシルド』!」
いきなり背中を見せた私にチェリッシュはパートナー――ニコルの名を叫び、大きな宝石を飛ばすがそれをティオの盾が防ぐ。背後から宝石が消滅する音が聞こえた。
「ッ! 『ブオ・ウル・ガルルガ』!」
「メル!?」
ハイルに接近する私に気づいたからかユウトは新しい呪文を唱える。その瞬間、ハイルの持っていた鎌から青白いオーラが迸り、いきなり振るう速度が上がった。ウマゴンは速度の上がった鎌を何とか角で受け止めたがとうとう角をかち上げられてしまい、顔ごと上を向いてしまう。無防備になったウマゴンの首筋に凄まじい速度で死神の鎌が迫る。
「させるかあああああ!」
絶叫しながらハイルの鎌を蹴り上げ、軌道をずらす。鎌の刃はウマゴンの目と鼻の先を通り過ぎ、空を切る。空を飛んでいたハイルの体はその反動で仰け反り、態勢を立て直すのに数秒かかった。その隙に私とウマゴンは彼女から距離を取る。
「ウマゴン、私たちでハイルを倒すよ」
「メル! メルメルメ~!」
「『ディオエムル・シュドルク』!」
私の言葉に頷いたウマゴンはサンビームさんに『あれ使って!』と声をかけた。『あれ?』と首を傾げるがサンビームさんはウマゴンの言葉の意図を汲み取ったようで初めて聞く呪文を唱える。ウマゴンの鎧は形を変え、体も『ゴウ・シュドルク』よりも大きくなった。
(そういえば新しい呪文を覚えたって言ってたっけ……確か、炎を操る力があるって)
出張で北海道に行くことになったサンビームさんを追いかけたウマゴンだったが乗る飛行機を間違え、数日ほど行方不明になった。何とか北海道でサンビームさんと合流できたが、その時に強い魔物と戦うことになり、その時に今使った『ディオエムル・シュドルク』を覚えたらしい。
「あら? サイちゃんも一緒に遊ぶの?」
巨大な鎌を消したハイルは宙に浮いたまま、私を見て嬉しそうに言う。その顔を見て今すぐにでも『サフェイル』で彼女の顔面をぶん殴ってやりたくなったがハチマンがいない今、それができないことが悔しくてたまらない。
「……遊びじゃないでしょ」
「ええ……そうね」
苦し紛れの揚げ足取りにハイルは笑みを消し、どこか悲しげに頷いた。ハイルだけではない。ユウトも、チェリッシュも、ニコルも目を伏せる。だが、それも一瞬だけでハイルはニヤリと口元を歪ませ、ユウトに目配せをした。
「だからこそ、全力で戦いましょ? お互いに譲れないもののために」
「『リマ・ダガルル』!」
ユウトが呪文を唱えると今度は両手にエネルギー体の小さなダガーを持つハイル。
剣、ドリル、鎖、棍棒、鎌、ダガー。
そして、武器に特殊な効果を付与する呪文。
やはり、ハイルの術の特性は『武器』だ。自分でも己のことを『
「『ブオ・バオ・ガルルガ』!」
「また、何か――」
「――さぁ、サイちゃん! これはどうやって防ぐのかし、ら!!」
ユウトが呪文を唱え、ハイルの持つ2本のダガーが赤いオーラに包まれた。そのまま、2本のダガーを私とウマゴンそれぞれに投げつける。私は即座に半身になってダガーを躱し、ウマゴンは角でダガーを弾いた。
「きゃっ!?」
「メルゥ!?」
だが、躱したはずのダガーは地面に落ちた瞬間、小規模な爆発を起こし、爆風が私の背中に叩きつけられる。まさか『ブオ・バオ・ガルルガ』は武器が爆発する効果を付与する呪文? そんなダガーを角で受け止めたウマゴンは爆発を間近で受け、吹き飛ばされてしまった。
「ウマゴン!?」
「『リマ・ダガルル』! 『ブオ・バオ・ガルルガ』!」
再び赤く光る2本のダガーを持つハイルに私は奥歯を噛み締めた。あのダガーを防ぐにはティオの『マ・セシルド』が最も有効的だ。しかし、肝心のティオは私の指示通り、現在進行形でチェリッシュの術を受け止める。投げる前に止めようとしてもハイルは空を飛んでいるため、私とウマゴンの攻撃は届かない。いや、今のウマゴンなら炎を飛ばせるかもしれないが何の策もなしに炎を飛ばしてもハイルは悠々と躱すだろう。
「さぁ、もっと激しくなるわよ、サイちゃん!」
そう言ってハイルは2本のダガーを投擲。ダガーは何かに触れた瞬間、爆発する。手や足で弾くのは論外。でも、幸い、ダガーは2本。爆風に巻き込まれないところまで逃げれば――。
「『ブオ・ブル・ガルルガ』!」
「なッ!?」
――ユウトが追加の呪文を唱えた刹那、2本のダガーはいくつにも分裂した。まさに爆発するダガーの雨。あれではどこに逃げても爆発に巻き込まれてしまう。
「ウマゴぉおおおおおン!!」
「メルメルメ~!」
その時、サンビームさんの絶叫と共にウマゴンは私を庇うように前に現れ、炎を盾のように展開する。そして、ダガーと炎が触れた瞬間、大爆発を起こし、ビリビリと大気を震わせた。その衝撃と熱量に思わず腕で顔を庇ってしまう。
「っ……ウマゴン、前!」
「メッ――」
「『ギガノ・ガソル』!」
そのせいでハイルの魔力が爆風を突き破ってくるのに気付くのが遅れる。巨大なエネルギー体の剣を振りかぶったハイルは鋭い八重歯を見せるような笑みを浮かべ、ウマゴン目掛けてそれを一気に振り下ろした。