やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.215 とうとう彼らは避けられない問題を解き始める

「『サルフォジオ』」

「や、やめ……フォルゴレ、助け――」

 ハチマンが呪文を唱えると私の頭上に巨大な注射器が出現する。狙うのはガッシュ、ティオ、ウマゴンに体を押さえつけられ、無防備にお腹を曝しているキャンチョメ。

 サンビームさんとウマゴンを迎えに行き、無事に合流できた私たちはさっそく傷ついたみんなの治療に取り掛かった。人間組は心の力を回復させるためにティオの『サイフォジオ』で、体が頑丈であり、体力も多い魔物組は私の『サルフォジオ』を使う。ガッシュは最後まで『サルフォジオ』を怖がっていたがなんとか逃げずに受けてくれたのだが、それを見ていたキャンチョメが泣きながら逃げてしまったのである。逃げるキャンチョメをみんなで協力して捕獲したのはいいが暴れるので実験動物のように押さえつけるしかなかったのだ。

「じゃあ、行くよー」

「ぎゃあああああああ――」

 叫ぶキャンチョメに巨大な注射器を突き刺すと『サルフォジオ』特有の硬直のせいで彼の叫び声が突然、途切れる。顔も化け物に襲われる一歩手前の一般人のように恐怖に染まった状態で止まっていた。そんなキャンチョメを見ていたみんなは『うわぁ……』とドン引きしている。

「――あああああぁ……あ、あれ?」

「はい、おしまい。痛いところはない?」

「う、うん……刺さった場所はちょっと痛いけど」

「じゃあ、これで全員終わったかな?」

「キャンチョメを捕まえる間にこっちは終わらせたからね」

 今もなお、ペタペタと体を触って不思議そうにしているキャンチョメにジト目を向けるティオ。私たちの方は特に怪我もなく、戦闘を終わらせられたので特に回復する必要はない。それだけガッシュたちと戦った魔物たちは強かった――いや、ガッシュたちを討ち取ろうとしたのだろう。

「それじゃあ、離れ離れになってからのことを話そうか」

 キャンチョメの治療が終わるのを待っていたのか、パン、と手を叩いてみんなの視線を集めた清麿がそう切り出した。

 まず、ガッシュたちの方はキースとブザライという魔物に襲われ、危うく魔本を燃やされるところまで追い詰められたらしい。しかし、その窮地をキャンチョメの新呪文で切り抜け、ブザライを倒すことができたそうだ。キースには逃げられ、ホッと息をついた時にモモンとハチマンと合流したのだという。また、飛行機からスカイダイビングした時に襲ってきたのはこの2人のようだ。しかし――。

(――ブザライを倒した、か)

 私の考えが正しければ少々まずいことになったかもしれない。まだ確証はない上、話し合いの途中なので一先ず黙っておく。

 キヨマロの説明が終わった後はハチマンとモモンの番なのだが、ハチマンはどこか居心地悪そうに頭を掻いた。

「こっちは正直、話すことはほとんどないぞ……森の中に落ちた後、すぐにモモンと会ってガッシュたちの方に向かってただけだ。途中でサイの魔力も感じ取れたんだが距離的にガッシュたちが近かったからそっちに合流した」

「……」

 モモンもハチマンの言葉に同意するようにコクコクと頷く。サンビームさんたちを迎えに行く途中、あの状態になったことをハチマンに謝ったがあの状態になったのは短い時間であったため、血を吐いただけでさほどダメージは受けなかったらしい。吐血でも病院に行くレベルだと思うのだが、『サルフォジオ』は必要ないと言われてしまった。

「最後は私たち……なんだけど」

 ガッシュたちとハチマンたちの説明は終わったので今度は私たちなのだが、戦闘は短かったがあまりにも色々ありすぎてどこから説明していいのかわからず、言葉に詰まってしまう。他のみんなは私に説明を任せる――というより、戦った相手が相手なので私が一番説明役に適していることを判断したのだ。

「……まず、チェリッシュと再会した」

「ッ……」

「チェリッシュ……確かテッドが探してる魔物で、少しの間、サイと魔界で行動を共にしてた」

 何とか絞り出した私の言葉にハチマンが目を見開き、清麿が思い出すように声を漏らす。この中でチェリッシュという名前を聞いたことがあるのは私を抜かすとテッドと出会っているガッシュ、キヨマロ、ウマゴン、ハチマンの4人。特に私の過去を知りたいであろうハチマンはこんなところに彼女がいるとは思わなかったのだろう。

「チェリッシュのパートナーはすごく具合が悪そうだった……多分、例の呪いを受けてるっぽい」

「……何か、話したのか?」

「ううん……私たちが『ファウード』の封印を解くのを阻止しに来たってわかったらすぐに戦闘態勢に入ったから」

 ハチマンの質問に首を横に振って答える。向こうも何か話したそうにしていたが、状況が状況であったため、ろくに会話もできなかった。だが、正直、チェリッシュはそこまで重要ではない(・・・・・・・・・・)

「あと、ハイルもいて私たちはその2人と戦ったの」

「ハイルが?」

「うん、ハイルのパートナーは元気そうだったから呪いは受けてないみたいだったけど……」

 呪いを受けていないのならハイルたちは自分たちの意志で『ファウード』の封印を解こうとするリオウの仲間になったことになる。もし、そうだとしたら邪魔をする私たちの存在は目障りなはず。だからこそ、先ほどの戦いは腑に落ちない。

「ハイルたちの実力は修学旅行に比べて格段……ううん、もはや別人レベルで強くなってた。下手をすれば私たちはやられてたよ」

 あの時のハイルは全然本気を出していなかった。あの消滅の鎖を投げる骸骨を召喚する『ディオガ・ガルジャ・ガルルガ』を使えば私たちはすぐに倒されていたのだから。

「じゃあ、ハイルは手加減してた、と?」

「もしくは使えない事情があった……チェリッシュのことも気にしてたみたいだし。どこか戦いを楽しんでるみたいだった」

 まるで、私に強くなった自分を見せるように、ハイルは自信に溢れた笑顔で戦っていた。空を自由に飛ぶ鳥の如く宙を舞い、多種多様な武器を手足のように操り、中級呪文(ギガノ級)だけで私たちを追い詰めた。あの時、ティオが術が自身へ跳ね返る自業自得のバリア(『ギガ・ラ・セウシル』)を使っていなければ手加減したハイルにさえ負けていただろう。

「それほどの強さに……やっぱり、ここまで生き残っている魔物は一筋縄ではいかないか」

「あと……運よくチェリッシュたちを追い詰めたんだけど、ウォンレイが乱入してきて全員、逃がしちゃった」

「なッ!? ウォンレイが!?」

 目を丸くし、声を荒げるキヨマロ。あの場にいなかった人たちも驚いたようでみんな、似たような顔をしていた。

「ウォンレイは何か! 何か言っていたか!?」

「……言うどころか、私を足蹴りにしてチェリッシュたちを守ったよ」

 蹴る直前、私に謝っていたので完全に敵対しているわけではなさそうだが、それを言ったところで何の慰めにもならず――それどころか、話し合いの余地があると判断されては今後の話し合いによっては困る(・・)ので言わないでおこう。

「私、ウォンレイがサイを蹴った後、顔を見たの。なんか……とても冷たい目をしてたわ。敵を見るような、目」

「……そうか」

 私の説明に捕捉するように言うティオを見てキヨマロは落胆したように肩を落とし、空を仰ぐ。そこには青空が広がっており、ゆっくりと雲が流れていた。

「……サイは、最初から考えてたのか?」

「うん」

 何の脈絡もなく、抽象的なキヨマロの質問に私は何の躊躇いもなく、頷く。この状況で、彼の表情を見れば言いたいことぐらいすぐに察せられた。

「……オレも、考えなかったわけじゃない。覚悟もできてたんだ……でも、心のどこかでそれを否定したくて目を逸らしてた。だが、ウォンレイがティオたちに冷たい目を向けたことで、もうこの問題から逃げられなくなった」

 やはり、キヨマロも考えてはいたのだ。ましてや、ブザライを倒してしまったことでその問題は更に複雑化した。

「問題?」

 ティオの問いにキヨマロは少しの間、沈黙する。どう説明したものかと考えているようだ。そして、しばらくしてから彼は言葉を選ぶようにその問いに答えた。

「呪いの真偽を確かめたわけじゃないが……ウォンレイが向こうに手を貸す――それも、逃がした。それはつまり、あの時点でチェリッシュとハイルを失うわけにはいかなかったことになる」

 それにリオウたちは仲間集めをしていた。ガッシュの友人もその一人であり、パートナーを人質に取ろうとさえしたのだという。

「『ファウード』の封印を解くにはそれ相応の戦力が必要……だからこそ、裏切られる危険を冒してでも強い魔物を集めた」

「でも、ガッシュたちはその力かもしれない魔物の1人を倒した」

 キヨマロの言葉に続けて私は繰り返すようにそう言った。『ファウード』の封印を解くためには強い魔物を仲間にする危険を伴う。だからこそ、集める仲間は必要最低限にするはずだ。つまり、たった1人でも鍵となる魔物が欠けてしまった場合、『ファウード』は復活しない。

「リオウの呪いは『ファウード』の封印を解かなければ解呪されない。でも、ブザライがいなくなったことで『ファウード』の封印を解くための力が足りなくなった」

「じゃあ……ウォンレイたちは!?」

「……呪いによって二日後に命を落とす」

 声を荒げたガッシュにキヨマロは奥歯を噛み締めながら残酷な現状を伝える。しかし、それが問題ではない。ただの現状確認だ。最大の問題点はその先にある。

 だが、その前に早急に対処しなければならない別の異常が発生した。私はその場でくるりと身を翻し、ハチマンに目配せをする。いきなりあらぬ方向を見た私にみんなはキョトンをするがハチマンだけはすぐに察して魔本に心の力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、いつまで隠れてるつもり? そこにいるのはわかってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フム、気配は消していたつもりだったのによくわかったね」

 

 

 

 

 

 

 

 私が少し離れた場所に生えている木に向かって声をかけるとその陰から1人の青年とカブトムシのような角を生やした魔物が姿を現した。

 


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