やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「よし、では本題に入ろう」
アリシエとリーヤが受け入れられて数分後、時間もないのでアリシエは再び真剣な表情に戻ってみんなに声をかけた。騒いでいた魔物組もすぐに静かになる。私も何とか落ち着きを取り戻し、誰かに悟られることはなかったと思う。
「『ファウード』を帰す方法を探す。実は僕も君たちのような魔物を探していたんだ。正しい心を持ち、一緒に行動してくれる魔物を」
(正しい心、ね……)
まるでアリシエは自分たちの目的を語るように言ったが、あくまで魔物を探していたのは『手段』であり、探していた理由は話していない。どうして、魔物を探していたのか。目的の魔物を見つけたらどうする予定だったのか。これから話すのかもしれないが、あの様子ではすぐにこれからの具体的な動きを話し始めるだろう。そう結論付けた私は彼らに対する警戒度を少しだけ引き上げる。
「僕の知ってる限りでは『ファウード』の奥深くへ入るには僕たちだけでは無理だと判断した」
「『ファウード』の奥深く?」
「ああ、『ファウード』の真の呼び名は『魔導巨兵ファウード』。魔導の術によって作られた魔物だ。そして、その『ファウード』の秘密は主にその体内に隠されている」
キヨマロの質問にアリシエは地面を――真下にいる『ファウード』を指さして答えた。
体内。つまり、私たちはこれから『ファウード』のお腹の中に入って情報を集めることになるようだ。
「これから僕たちは『ファウード』の口から体内へと入り込み、体内のどこかに隠されている『ファウード』をコントロールできる部屋を探し出すことになる」
「入るのか? こいつの中に!?」
「こいつを魔界に帰す方法を探すんだろ? 人間に例えるなら口から食道、胃や腸、肺、心臓などの臓器にあたる。もちろん、安全の保障はない。むしろ、これほど危険な探索はないだろう」
アリシエの脅すような口ぶりにみんなはごくりと生唾を飲み込んだ。『ファウード』が生きているのなら私たちの体と同じように外敵から体を守る防衛装置も存在しているだろう。そんな未知で満ち溢れている場所をほとんど当てもなく探索するとなればどれだけ時間があっても足りないほどだ。二日という言葉だけ聞けばそれなりに長い期間でも間に合わない可能性は十分ある。
「覚悟したまえ、僕たちはこいつの中でタイムリミットまでの二日間、がむしゃらに走り回ることとなる」
そして、二日間で『ファウード』を魔界に帰す方法が見つからなければ今度こそ選ばなければならない。
だから、選びたくなければ探さなければならない、私たちに与えられた二日間で。
「少し狭いが我慢してくれ。この道もやっとのことで見つけたんだ。リオウたちに邪魔されることなくね」
出発の準備を整えた私たちはアリシエの案内で狭い通路を進んでいた。どうやら、この道の先に『ファウード』の口があるらしい。
「リオウたちはアリシエのことを知ってるのか?」
「ああ、奴らのグループの中で『力』が集まるまで待たされていた」
「じゃあ、アリシエたちも『力』として呼ばれたってこと?」
キヨマロとアリシエの会話に割って入って質問した。リオウの中で『力』として扱われているのなら今頃、アリシエたちを探しているのではないだろうか。
「それなら大丈夫だ。『ファウード』を復活させるまである程度、自由を与えられているから。呼び出されない限り、奴は
確かに彼の言うとおり、今のところ私の『魔力探知』の範囲内に私たち以外の魔物はいなかった。侵入者である私たちを排除しようと魔物を送り込んできたところを見るとアリシエたちを捕まえようとしているのならば近くに魔物が来ていてもおかしくはない。少なくとも今すぐに戦闘になるわけではないようだ。
「よし、ここだ」
その時、目的の場所に到着したのか、私たちに少し離れているように指示をしたアリシエは地面を蹴ると底が抜けた。最初から穴が開いていたのか、それともその部分だけくりぬいたのか。そこには正方形の穴があり、蓋をしていたようだ。
「さぁ、ここが……」
その穴を通り抜け、少し進むとアリシエは立ち止まる。私たちも自然と足を止め、目の前の光景に言葉を失くす。
「『ファウード』の口。我々が『ファウード』の体内へ入る唯一の侵入口だ」
それはまさしく口であった。鋭い牙がいくつも並び、舌、歯茎がある。そして、喉の奥は真っ暗で、何もかも飲み込んでしまいそうな印象を与える。
「お、大きいわね」
「これでも口のほんの一部だ」
ティオの呟きに律義に答えたアリシエは何の躊躇もなく、『ファウード』の口内へと入っていく。私たちも彼の後を追った。
「うお……」
私の後ろを歩いていたハチマンが歯茎から降りると驚いたような声を漏らす。きっと、私たちが歩いているのは『ファウード』の舌なのだろう。妙に柔らかく、油断していると足を取られて転んでしまいそうだ。
「すげぇな。本当に生きてんだな」
「そうだね。ほら、触ってみればあったかいよ」
その場で膝を付いて『ファウード』の舌に触れながら言う。幸い、唾液は分泌されていないようで唾液でびちゃびちゃの中を歩くことにならなくてよかった。
「ッ! ハチマン、伏せて!」
その時、無風だった口内で私の長い髪が僅かに揺れ、私は咄嗟にハチマンに声をかける。ハチマンは私の指示に従い、その場で態勢を低くするとその刹那、凄まじい突風が『ファウード』の喉奥から吹き荒れた。事前に身構えていた私とハチマン、また、この突風について知っていたのかアリシエはなんとか踏みとどまったが、他のみんなは突風に煽られ、転んでしまう。
「ハチマン、大丈夫?」
「あ、ああ……今のは」
「呼吸、だろうね」
『ファウード』は封印されていながら生きている。だから、舌を触れば温かいし、呼吸だってしていてもおかしくない。
「でも、よく気づいたな。呼吸する前に気づいただろ」
「まぁ、これのおかげだよ」
私の髪は長い上、ボリュームがある。これだけボリュームがあれば僅かな風でも抵抗を受け、違和感を覚えるのだ。髪が揺れていなければ体重の軽い私はみんなと同じように地面をコロコロと転がされていただろう。
「『ファウード』の心臓はすでに動いている。もう封印を解けばいつでも動き始めるよ。そのせいもあって体内の様々な罠も機能し始めている」
アリシエの言葉にみんなは声をあげて驚く。なるほど、体特有の防衛装置も私たちからしてみれば罠と言える。体の防衛装置が『ファウード』の体内ではどんな形で存在しているかわからない現状、アリシエとリーヤだけではあまりに危険。そう判断して彼らは協力してくれる人を探していたのだろう。
「さて、罠の前にこの部屋だ。清麿、他のみんなもここの図を覚えておいてくれ」
そう言ってアリシエは食道の途中にあった一室に足を踏み入れる。彼を追って中に入った私たちを出迎えたのは巨大なモニターに映し出された人体図だった。