やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.222 アイドルは下品な言葉は叫ばない

「私の名前を言ってみなさい。大きな声で」

「……」

 ウンコティンティンにそう言われたメグちゃんは器用に眉間に皺を寄せながら真顔になった。初めて見るその顔に私は思わず同情してしまう。私だって『ウンコティンティン』なんて下品な言葉は言いたくない。

「さぁ、どうした? 言え」

「……」

「恵さん、どうしたんだ!? 何故、言わない! こいつの名前はウン――あッ!?」

 ウンコティンティンから催促されても無言を貫くメグちゃんを見て声を荒げるキヨマロだったが何かに気づいたように目を見開いた。そう、メグちゃんは現役高校生アイドル。ただでさえ言いたくない名前なのにアイドルという肩書が更にメグちゃんにブレーキをかけてしまっているのだ。ましてや、ここにはハチマンがいる。好きな人の前で『ウンコティンティン』と叫ぶのはメグちゃんじゃなくても躊躇してしまう。

「そうだ、私の名前は『ウンコティンティン』。何も『ウン〇〇ンチン』という下品な言葉を言えと言ってるんじゃないんだ」

「いや、十分下品な言葉でしょ」

「シャラップ!! 『ウンコティンティン』は下品な言葉などではない! むしろ、高潔である!」

 思わずツッコむとウンコティンティンは大声で否定する。しかし、もしメグちゃんが『ウンコティンティン』と言えないと分かった上でチャンスを与えたのならこいつはなかなかのやり手だ。

「さぁ、早く言うのだ。なんならメロディーをつけて言ってもいいぞ? ウーン〇、ティー〇コティーン〇〇ィーン。おっとっと、『ティ〇コ』って言っちまったぜ! ハッハッハ!」

 まぁ、あの様子では絶対にメグちゃんに言わせたかっただけなのだろうが。だが、どうする。このままでは悪戯に時間が過ぎていってしまう。私たちの目的は『ファウード』を魔界に帰す方法を探すこと。こんなところで油を売っている場合ではない。

 しかし、だからといってメグちゃんも今にも泣きそうになりながら下唇を噛んでいた。彼女も躊躇っている場合ではないことぐらいわかっている。わかってはいるのだがそう簡単には言えない。それが乙女心というものである。『ウンコティンティン』と大声で叫ぶなんて下品な真似は乙女としては絶対に避けたいのだ。

「恵ぃ! 頼む、言ってくれぇ! 私のケツがなくなってしまう!」

 その声で崖の下を覗き込むと最初にリールに掴まったフォルゴレのズボンが何故かほとんどなくなっていた。どうやら、胃液の蒸気で溶かされてしまったらしい。あのままでは冗談抜きでフォルゴレのお尻はなくなってしまいそうだ。

「恵、私、耳を塞いでるから! お願い!」

「そうだ、みんな、耳を塞げ! 恵さんの声が聞こえないようにするんだ!」

 さすがにまずいと思ったのか、ティオが咄嗟に耳を塞ぎ、キヨマロもティオの真似をする。それからみんなも耳を塞ぐがそれでもメグちゃんは口を閉ざしたままだった。耳を塞いだところでこんな至近距離で大声を出せば聞こえてしまう。それによく見ればみんな――あのハチマンでさえ、耳を塞いだように見せかけて普通に耳を澄ませている。ガッシュなど状況がよくわかっていないのか、耳を塞いですらいない。

(こうなったら……)

「ハチマン、音楽プレイヤー持ってたよね!」

「え? あ、ああ……あるけど」

「それ付けた方が聞こえないんじゃないかな!」

「はぁ? でも、一個しかないから俺しか――」

「――八幡君、あるなら付けて欲しい! お願い! お願いします!」

 きっと、メグちゃんにとってみんなの中で一番聞かれたくないのはハチマンだ。最悪、ハチマンに聞こえなければいい。そう思っての提案だったが、必死にお願いするメグちゃんの様子を見て考えは当たっていたのだと察すると同時に……なんというか、可哀そうになってきた。もう許してあげて。メグちゃんのストレスはマッハよ。

「……」

 鬼の形相でお願いされたハチマンは渋々と言わんばかりにポケットに入れていた音楽プレイヤーを取り出し、耳にイヤホンを装着。そのまま操作してきちんと音楽が流れていることを証明するために下にいるメグちゃんに音楽プレイヤーの画面を見せた。それを見たメグちゃんはホッと安堵の溜息を吐く。

「……」

 だが、崖の上から見ていた私は知っている。音楽を流す直前、ハチマンが音量をゼロにしていた。つまり、音楽は流れているが全く聞いていない。むしろ、手で耳を塞ぐ必要がなくなった彼は音楽を聴いている感じを醸し出しつつ、リールに掴まっていた。

 まぁ、私もメグちゃんに見えないように顔を引っ込めたので耳を塞いでいないのだが。

「すぅ……はぁ……ぅ、ウン……こ、てぃ……ん」

 それでもやはり恥ずかしさが邪魔をするのか、メグちゃんの口から零れたのはか細く、掠れた声だった。もちろん、それを見逃すウンコティンティンではない。

「んん? 聞こえないなぁ、もっと大きな声で」

「ッ!! ウン――」

 この後、メグちゃんは見事、アイドルらしくお腹から声を出し、彼の名前を叫んだ。




短いですが、キリがいいので今週はこの辺で。




なお、没シーンとして八幡が恵に気を使ってウンコティンティンに『大声より囁いてもらった方がよくないか?』みたいなことを言い、恵が顔を真っ赤にしながらぼそぼそと『ウンコティンティン』と言う、というシーンがありましたが、それだと八幡が女の子に下品なことを言わせたい思春期真っただ中の男の子みたいな感じになってしまったのでなくなりました。

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