やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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随分昔に八幡とサイを姉が描いていると後書きに書きましたが、この度、やっと完成しましたので挿絵を貼り付けておきます。


・姉

【挿絵表示】



これからもみなさんからのイラスト、お待ちしております。


LEVEL.225 彼女は仲間のために思考速度を上げる

「な、なにこれ!?」

 太い触手が一番に襲ったのは空を飛んでいる私だった。咄嗟にその場でバレルロールして紙一重で回避する。だが、私を捉えられなかった触手はそのままキャンチョメを抱えながら走っているフォルゴレの方へと向かう。彼は走るのに夢中で背後から迫っている職に気づいていない。

「フォルゴレ、危ない!」

「なっ……ひぃぃ!?」

 私の叫びが届いたようでフォルゴレは飛び込むように触手を躱した。しかし、触手は彼が肩にかけていた鞄に掠り、音を立てて鞄を溶かした(・・・・・・・・・・・)

「わああ、私の服がぁ!」

「何っ!? あの触手、物を溶かすのか!?」

 キヨマロの言葉にみんなは小さく悲鳴を上げ、迫る触手から逃れようと走る速度を上げる。でも、触手が現れたのは地面に設置してある柔らかい部分を踏んだせいだ。あれでは次々に柔らかい部分を踏んでしまい、より一層触手が私たちを襲うだろう。

(それに後ろには……ッ!)

 襲ってくる触手を躱しながら後ろをチラリと見るとガッシュとキヨマロが触手を回避した拍子に転んでしまったらしく、地面に倒れ込んでいた。そして、彼らの後ろには私たちを粉々にするためのドリルが――。

「ハチマン!」

「『サウルク』」

 今の状態では間に合わないと判断し、すぐにハチマンの名前を叫んだ。その直後、私の体に群青色のオーラが現れ、急いで彼らの背後に回り込み、両腕で抱えて空へと逃げる。だが、そんな私たちを捕まえようと何本もの触手が私たちへと迫った。

「うわあああああ!?」

「『サグルク』」

 私の脇に抱えられているガッシュとキヨマロは絶叫し、一番先頭を走っているハチマンが追加の呪文を唱え、私の纏うオーラの勢いが増した。2人を抱えながら触手の大軍を回避するのは難しいと判断したのだろう。実際、先ほどのようなバレルロールはできない。ガッシュはともかく体の大きなキヨマロを抱えている状態でそれをすれば腕からすっぽ抜けてしまう可能性が高いのだ。

「こっのおおおおお!」

 触手を回避するために右へ左へ、急降下と急上昇を繰り返し、何とか触手の大軍を潜り抜け、比較的安全な場所で2人を降ろした。それと同時に纏っていたオーラが消える。少しでも心の力を抑えるためにハチマンが術を解除したのだろう。

「た、助かったのだ、サイ」

「ううん、でも私とウマゴンたちがフォローできるのも時間の問題。キヨマロ、急いで!」

「ああ、わかってる。わかってるんだが……」

 私の言葉にキヨマロは俯き、すぐにガッシュと共に走り始める。まだあのドリルと触手をどうにかする方法を思いついていないのだろう。しかし、無理もない。後ろから迫るドリルに至るところから伸びる触手に襲われながら脱出方法を考えるのは至難の業である。

「……」

 それでも私たちはキヨマロに頼るしかない。とにかくドリルと触手から逃げ続けるしかないのだ。後ろにはウマゴンがいる。私は上空からいつでもフォローできるようにしていよう。いつまで逃げればいいかわからないが、今は耐えるしかない。

 そして、そのチャンスは予想外にもすぐに訪れる。

「キキー!?」

 触手を躱しながら走ることに慣れ始め、私のフォローがあまり必要なくなった頃、ウマゴンが触手を躱し損ねたのか、モモンのズボンに触手が掠る。ウマゴンの集中力も切れ始めているのか、と内心、冷や汗を流したのだが、モモンのズボンから何かが落ちた。

「ッッッ!?」

 それは3枚のパンツだった。あまり私は子供向けアニメを見ていない(ハチマンと一緒に深夜アニメは見ている)のでそのパンツに描かれているキャラが誰なのかわからないが、あれは間違いなく、ティオのパンツ。それを目にしたティオも声にならない悲鳴を上げていた。

「あ、ティオのパンツだけないわ!」

「あのサルぅ!! また私のぱ、ぱぱ、パンツを!」

 メグちゃんが走りながら鞄を探り、パンツがないことに気づき、ティオが絶叫する。そんな彼女たちを無視してモモンは落ちたパンツを拾おうと手を伸ばし、シスターに止められていた。しかし、2枚のパンツは私たちのついでとばかりに触手に掴まり、溶かされた後、いつの間にか出現していた地面の床へと落とされる。

(あの、穴……)

 地面を走っているみんなは気づいていないかもしれないが、触手が2枚のパンツを落とした穴はいきなり開いていたのだ。それもドリルの下付近だけ。あの穴だけじゃなく、至るところでドリルが近づくと穴が開いていた。

「あ……」

 触手が溶かしたパンツを落とした穴に3枚目のパンツがそのままの状態で落ちていくのを見て思わず声を漏らしてしまう。あのパンツは溶かされていなかった。じゃあ、あの穴に入ることができればここから脱出できる?

「みんな、壁や地面のところどころにある穴に入るんだ! その穴でもいい、穴の内側は溶かされない。そこが脱出口だ!」

 私が気づいた時にはキヨマロの指示が飛んでいた。私は上空から観察していたからわかったものの、キヨマロは走りながらあのパンツを見ただけで答えを導き出している。だが、少しだけ情報が足りなかったらしい。

「駄目! あの穴はドリルの下付近でしか口を開かないの!」

「何!? そうか、養分は細かく溶かしてから吸収される。だからあのドリルの下あたりでしか口を開かないのか!」

 私の声を聞いたキヨマロはすぐに答えを出し直す。脱出ルートは見つけた。あとはあそこまでどう辿り着くか。ドリルの勢いからして穴が開いてすぐに飛び込んでもドリルの餌食になってしまうだろう。どうにかしてドリルを止めるしかない。

「清麿、強い術は撃てるか?」

 その方法を模索していると不意にキヨマロの隣を走っていたアリシエが彼に問いかけた。まさか術をぶつけて押しとどめるつもりなのだろうか。

「いや、『バオウ』を撃つには力が溜まってない!」

「なら、僕が一番でかいのをドリルにぶつける。壊せるかはわからんがドリルを少しだけ押し返すことはできるはずだ。その隙に穴に飛び込め!」

「……わかった。みんな、ドリルの近くへ!」

 アリシエの言葉に数秒ほど考えた後、キヨマロはみんなに向かって叫んだ。私たちの仲で破壊力のある術はガッシュの『バオウ・ザケルガ』。あとは込める負の感情の大きさにもよるがティオの『チャージル・サイフォドン』くらいだ。前者はほとんど術を使っていないので『バオウ・ザケルガ』の威力も半分以下だろうし、『チャージル・サイフォドン』にいたっては最大限に力を引き出してもあのドリルの進行を止めることはできないだろう。

 もちろん、私の『サザル・マ・サグルゼム』を使えば『バオウ・ザケルガ』の威力を最大限にまで引き出せる。だが、『バオウ・ザケルガ』のデメリット――キヨマロがしばらくの間、動けなくなってしまえば誰かが彼を抱えて穴に飛び込まなくてはならない。それを考えたら実力は不明だが、アリシエに任せた方がいい。そうキヨマロは判断したのだろう。

「チャンスは一度きり。みんな、一瞬の隙を見逃すな!」

「……」

 キヨマロの声を聞きながら私はハチマンの隣に降り立つ。視線の先はアリシエ。彼の魔本に少しずつ心の力が溜まっていくのがわかる。だが、その速度はあまりにも遅かった。ドリルを押し返す術がどれほど大きなものかはわからないがあれでは到底、間に合わない。それに魔本に込められた心の力から少しだけ揺らいでいる。まるで、無理して力を引き出そうとしているように。

「アリシエ……?」

 いつまで経っても呪文を唱えないアリシエにキヨマロは声をかける。だが、彼の反応はない。私は咄嗟に『サルク』の効果で思考速度を極限にまで引き延ばす。眼力強化である『サルク』だが見た物事を整理するために思考速度も飛躍的に向上するのだ。

 世界の速度が極限にまで引き延ばされ、ドリルの回転も止まって見えるようになった。だが、引き延ばされているのは私の思考速度だけなので何か対策しなければみんなは

ドリルに粉々にされ、死んでしまう。

 どうする? この状況をひっくり返すにはどうすればいい? 私の呪文ではどうすることもできない。じゃあ、他の人の呪文は? 『サザル』をガッシュに撃ち、『バオウ・ザケルガ』でドリルを押し返す? いや、駄目だ。ドリルはすぐそこまで来ているのだ。時間的に呪文を一つ唱えるので精いっぱいだ。『サザル』を唱えた後に『バオウ・ザケルガ』を唱えようとしても遅すぎる。それに今から走り出しても後ろから触手が迫っている。ドリルと触手に挟み撃ちにされている状態だ。私とウマゴンがフォローしても犠牲者が出る可能性の方が高い。だから、やはり何か術を使ってどうにかするしかない。じゃあ、誰の、どの術を? 今からではもう何もかもが遅すぎて――。

(遅い……遅く?)

「シスター!!」

「え?」

 穴に飛び込むためにウマゴンから降りていたシスターは私の叫び声に肩をビクッと震わせ、こちらを振り返る。そんな彼女の背後にはドリルが迫っていた。


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