やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「……」
「さ、サイ、ちゃん?」
ザルチムの声を聞いて私は拘束を解く。いきなり拘束を解かれた彼女は目を白黒させるがそれを無視して私はあの状態を解除してハチマンの元へと駆け寄った。彼は相変わらずぐったりとしており、今すぐに死んでしまうことはないが放置しておけばマズイ状況であることには変わりない。しかし、戦っている間に彼は気絶してしまったらしく、『サルフォジオ』をすぐに唱えられないのは痛かった。
「……まぁ、いい。こいつらだけでも確保できただけマシか」
「……どういうこと?」
そう言いながら私たちに近づいてきたのはザルチムだった。その言葉に私は思わずそう問いかけてしまう。彼らの目的は『ファウード』の封印を解くための力だ。それに該当するのはガッシュの『バオウ・ザケルガ』であり、私たちは攻撃呪文すら覚えていない。
そんな私たちを捕まえても封印を解くのに何の役にも――いや、ある。『サザル』だ。あれなら呪文の威力を強制的に底上げすることができる。それを彼らは
(でも、なんで……『サザル』のことを)
「あ? どういうって……何も聞いてないのか?」
私の問いかけに対し、ザルチムは首を傾げた後、小さく笑い声を漏らす。彼のそれは完全に嘲笑の類だった。
「聞いてない……ぁ」
そうか、そうだったのか。やっと全てが繋がった。全てが繋がっていたのだ。
ハチマンが『ファウード』について詳しかったのも。
彼の覚悟がすでに決まっていたのも。
ハチマンとハイルが裏でやり取りをしていたのも。
ザルチムがガッシュだけでなく、私たちを確保したことも。
ハイルは何故か私に関する情報を集めるのが異常に早かった。そのため、リオウに私の『サザル』について教え、その有用性を訴えたのだろう。そして、リオウもその話に乗り、ハイルに私たちを勧誘するように指示を出した。
それを受けた彼女は早速、ハチマンに連絡を取り――ハチマンは私に内緒でハイルと接触。その際に『ファウード』について聞いたのだろう。また、彼らはそれからも何度か連絡を取り合い、情報を共有した。
ハチマンはどうして今まで私に黙っていたのか。
ハイルの勧誘になんと答えたのか。
何を考え、覚悟を決めていたのか。
結局、何がしたかったのか。
私にはわからない。何か事情があったのか。それとも、私には相談するまでもないと判断されたのか。はたまた別の理由か。
その真相はわからないが結局のところ、ハチマンは私に話さなかった。それだけは事実である。
「とにかく、お前らには『ファウード』の封印を解く時に術を使ってもらう。おっと、変な考えは起こすなよ? お前らのお仲間がどうなっても知らんからな」
「……わかった」
やはり、メグちゃんたちは人質として使うつもりだったらしい。この後、どのような扱いを受けるかわからないが少なくともメグちゃんたちとは離れた場所に連れていかれるだろう。
だが、『サザル』を使うためにはハチマンの治療は必須。このまま魔本を取り上げられてハチマンの治療ができなくなる、ということはないはずだ。
「本の持ち主も瀕死だし、縛らなくてもいいだろう。ほら、大切なパートナーを運んでやれよ」
「言われなくても」
ザルチムを睨んだ後、気絶しているハチマンを優しく抱き起こし、背中に背負う。彼の口の中に残っていたのか、背負った衝撃でハチマンは血を吐き、私の右肩が紅く染まる。それを気にすることなく、他の皆はどうしているのだろうと私は周囲を見渡した。
メグちゃんたちはウォンレイの手によって縛られているが今は移動するためにロープ同士を連結されている。あれでは一人が逃げだそうとしても他の人と繋がっているせいですぐに捕まってしまうだろう。
リーヤも私と同じように動けなくなってしまったアリシエを抱えている。盾の呪文を使っていたとしてもザルチムの攻撃を受け続けたリーヤもすでにボロボロだ。それでも痛む体に鞭を打ってパートナーを落とさないように運ぼうとしていた。
ザルチムとそのパートナーは私たちを見てニヤニヤ笑っている。本命のガッシュたちをとり逃がしたとはいえ、私たちの半数以上を捕まえることができたのだ。結果は上々だろう。
そして、最後のハイルは私とハチマンを見て気まずそうに顔を逸らしていた。どんなつもりでリオウに私たちの情報を流したのか知らないがどのような理由があったとしても私は許すことはないだろう。
「とにかく捕まえたこいつらだけでもリオウのいる上の城に持ってくぞ」
そう言って出口へと向かうつもりなのか一歩踏み出したザルチムだったがすぐに足を止めてメグちゃんたちの方へと振り返った。
「ああ、それと……もしガッシュたちを捕まえられなかった時、お前らの力でもひょっとすると封印を解く『力』になるかもしれん。何がきっかけで新しい術が生まれるかわからんからな。てめぇらも役立たずで消されたくなけりゃ残り1日と15時間、必死になって新しい力を目覚めさせな」
「いや、それは大丈夫だ。ガッシュたちは必ず戻ってくる」
ザルチムの言葉に答えたのは私たちではなく、リオウ側についたウォンレイだった。まさか彼が口を挟むとは思わなかったようで全員の視線が彼に集まる。
「ガッシュは仲間を見捨てはしない。ティオたちがいれば必ず助けに戻ってくる」
「ッ……何言ってるのよ!」
そんなウォンレイの言葉に待ったをかけたのはティオだった。彼女のあまりの声量と勢いにウォンレイは目を見開き、縛られながらもウォンレイを睨むティオを見下す。
「ウォンレイだって……ウォンレイやリィエンだってガッシュが見捨てるわけないじゃない! あなただって仲間なんだから!」
ティオの叫びにウォンレイは奥歯を噛み締め、俯いた。彼もリィエンを救うためにリオウ側に付くと決めても千年前の魔物の騒動で共に戦った事実は消えない。それが余計、ウォンレイを傷つけていた。
「ヒヒヒ、泣かせるねぇ……だけど助けにくるなんてカッコいい現れ方はしねぇだろうさ」
「何、どういうことだ?」
ザルチムの言葉にフォルゴレが反応し、その拍子に体を動かしてしまったのかロープで繋がっていたキャンチョメがバランスを崩してその場で転んでしまう。そんな彼を放置してザルチムは目を細めながら先を続けた。
「奴らが入った道は『血管の通路』、体中に無数に走る迷路のような通路さ。正しい道順も知らず、適当に走り回ったところで思い通りの場所へは行けはしない。それどころか、知らず知らずのうちに『ある場所』へと集められて排出させられる。部外者が侵入しても追い出される仕組みさ。その排出される場所で待ち伏せていれば一日もすりゃ、ヘトヘトになった奴らを捕まえられる」
「……」
確かに血管は体中に血液を送るために指先まで通っている。それも毛細血管と呼ばれる血管が存在するほど無数に枝分かれし、複雑――それこそ迷路と言っても過言ではないほど絡み合っているのだ。そんなところに何の策もなく迷い込めばすぐに迷子になってしまうだろう。
(でも、キヨマロたちには……モモンがいる)
彼の『魔力感知』がどれほどの性能なのかわからないが彼がいるといないとでは段違いだろう。あとはモモンが素直に道案内してくれるかどうか。
「……」
いや、今はガッシュたちの心配よりも私たちの方だ。早くハチマンを治療したい。そして……出来れば何があったのか事情を聞きたかった。自分の過去を話さず、ずっと黙っている私が追究するのはあまりにも傲慢なのでハチマンに話したくないと言われたらきっと私はそれ以上聞くことはできないだろう。
(聞くこともできなくなるなんて……弱虫)
千年前の魔物の騒動で確かに私たちはお互いに一歩踏み出して手と手を取り合うことができた。
でも、だからこそ……知ってほしくないことができた。
ばれたくない過去ができた。
話してほしくない事実ができた。
少し前までは仲良くなればなるほど幸せになれると思っていた。
お互いのことを知れば知るほど想いを言葉にせずとも伝わると信じていた。
しかし、現実は違う。近づけば近づくほど傷つけて、傷つけられて……これが本当に私の望んでいた
ザルチムに連れられ、リオウのいる上の城に向かう中、私は背中に広がるハチマンのぬくもりを感じながらそう自分に問わずにはいられなかった。