やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
私たちの前にそびえ立つ巨大な扉。この向こうにリオウがいる。ハチマンに黙っているように言われたが、それはハチマンが1人でリオウと会話をする、ということなのだろう。
ハチマンはハイルから情報を貰っているため、私よりも『ファウード』に詳しい。そして、その情報を基に何か作戦を立てている。
「……」
扉を見上げるハチマンを見て私は思わず拳を握ってしまう。もし、ザルチムに話した話が本当で、ハイルがメッセンジャーになったせいで私に相談ができなかったとしたら――どうして、作戦を立てた後、私に話さなかったのだろうか。
ハイルの情報を基にして立てた作戦だから言えなかったのか。
それとも不確定要素の多い作戦とは呼べない杜撰なそれだったからか。
はたまた、別の理由があったか。
「何をしてる? 早く入れ」
私たちが一向に動く気配がなかったからか、後ろからザルチムがリオウのいる部屋に入るように命令する。とにかく私にできることはハチマンを信じて様子を窺うことだ。それでタイミングを見計らって助け舟を出そう。彼が立てた作戦の内容を知らないので行動を起こすのは本当に最終手段だ。慎重に動かなければ。
「……ああ」
ハチマンは後ろをチラリと見た後、すぐに扉へと歩み寄る。もちろん、私も並んで前に進んだ。私たちはほぼ同時に扉に手を当てて頷き合い、押す。巨大な扉はその大きさに比べて思った以上に軽く、ゴゴゴと音を立てながら少しずつ開いていく。
「……」
扉が完全に開き、私たちは部屋へ入室する。
そこはハチマンの治療に使用した客間とは比べ物にならないほど豪華で広い部屋だった。
その部屋の中央に強大な魔力を持つ魔物が一体、立っていた。しかし、その魔物は私やガッシュのような人型の魔物ではなく、それでいてウマゴンのような動物型の魔物でもない。
いや、人型と動物型の魔物を足して2で割ったような――確か、ハチマンの部屋にあったギリシア神話に出てくる馬の首から上が人間の上半身に置き換わったような姿を持つケンタウロスに似た魔物。
(あれが、リオウ)
ライオンのような立派な金髪に黄金の鎧。そして、手には大きな杖。なにより、胴体部分に巨大な口があった。近くに
「お前たちが『比企谷 八幡』と『サイ』か」
リオウまでの距離が数メートルのところまで近づいた時、リオウが声をかけてきた。私たちの足もそこで自然と止まる。何となくそれ以上近づくなと警告されているような気がしたのだ。
「……ああ、そうだ」
「そうか。知ってるかもしれんが、オレの名前はリオウ」
そう言ったリオウはコン、と杖の先で床を叩く。それに対し、ハチマンは特に反応しなかった。チラリとハチマンを見るが緊張している様子はない。向こうが威圧的な態度を取ることは予想していたのだろう。
「お前たちには『ファウード』の封印を解くために力を使ってもらう」
「悪いな。俺たちは攻撃呪文を持ってないんだ」
「そんなことはハイルから聞いている。他の魔物の呪文を強化できるんだろ。それを使え」
ハチマンはとぼけたように言うが、リオウは鼻で笑ってそれを一蹴する。
ザルチムはガッシュとキヨマロの他に私たちの捕獲も視野に入れていた。だが、はっきりと私たちの呪文――『サザル』のことを話したわけではないし、『サフェイル』や『サジオ』のことは知らなかった。なにより、私の呪文を見て『
褒められたことではないが、私の呪文のほとんどはメリットとデメリットが存在し、正直な話、使いにくいものばかりだ。私の呪文の詳細を知っていればそんな言葉は出てこない。
そして、今のリオウの発言で何となく状況を把握できた。彼らは私たちのことで知っているのは『サザル』の効果、それもメリット部分と私が攻撃呪文を持っていないことだけだ。
『サザル』のように他の魔物の術の効果を向上させる代わりに心の力を強引に消費させるなど、私の呪文は使いにくいものばかりだが、そのデメリットを含めて本来の使い方とは違った運用方法もある。むしろ、私たちの場合、そっちの使い方で使うことが多い。
(うん、これは使える)
いや、すでにハチマンは使っている。ハチマンとハイルが協力関係にあるのなら彼女からリオウにどれだけ情報を流したか聞いているだろう。
リオウは完全に私たちを舐めている。その理由はただ一つ。
私たちが攻撃呪文を持っていないから。
「……わかった」
「なんだ? 素直だな」
「正直、ハイルから話を聞いた時、信じられなかった。だから、返事を待ってもらったんだよ。普通、信じられるか? 巨大な魔物がいるなんて」
リオウの言葉に頷いたハチマンを見て奴は意外そうに目を見開いて声を漏らした。それが聞こえたのか、ハチマンは肩を竦めながら答える。
「そもそもハイルとは戦ったことがあるぐらいなんだ。サイでなくてもすぐに信じられなかった。でも……」
そこで言葉を区切ったハチマンはリオウを見ながら
「『ファウード』は本物だった。こんなことならあの時にハイルの話をもっと聞いておけばよかったと後悔したほどだ」
「……あの連中と動いていたから正義感に溢れてるやつかと思えば……くくっ、なるほど。お前はこっち側だったか」
ハチマン渾身のスマイルはリオウを信じさせるには十分な証拠になったらしい。本来であればもっと警戒するだろうが、彼からしてみれば私たちは所詮、攻撃呪文を覚えていない気に留めることすら必要のない有象無象だ。
「……」
なるほど、ハチマンの作戦はだいたい把握できた。それなら私も協力できそうである。そう判断した私はあえてハチマンから視線を逸らす。浮かべる表情はずっと信じていた男に騙され、悲劇のヒロインぶっている女。
「ああ、だから、協力に関してはこっちからお願いしたいくらいだ。むしろ、あいつらから自然と離れる機会を作ってくれて助かった」
「封印を解くのに協力してくれるのならそれでいい……だが、お前のパートナーは納得していないようだぞ」
「別に構わねぇよ。どうせ、人質がいるんだ。こいつが納得してなくても協力せざるをえない。俺がいなければ術すら使えねぇんだから」
「ああ、あの
「ッ……」
リオウが何気なく言った言葉にハチマンは僅かに反応し、すぐに笑みを浮かべる。それは先ほど浮かべた凶悪な作り笑いではなく、心の底から込みあがった笑みだった。
「どうした?」
「いいや、何でもない。まぁ、そういうことだから。少なくとも俺は『ファウード』の封印を解くのに協力する……でも、細かい方法とかは後でいいか? さすがに疲れた」
「ああ、お前が協力的だと分かっただけでも十分だ。とりあえず、仮眠を取った後、また呼ぶからその時に詳細を話す」
「それで頼む。じゃあ、俺たちは部屋に戻るから」
そう言ってハチマンは私の手を取って引きずるように扉へと向かった。その途中、私はまるで親の仇を見るようにリオウを睨みつける。リオウたちはそんな私たちを表情を変えずに見送った。
「……」
バタン、と扉を閉めて私たちは手を繋いだまま、顔を見合わせる。彼は神妙な顔をしながら頷いた。私の対応は正解だったらしい。作戦の内容の細かいところまではわからないが、ハチマンの役に立ててホッと安堵のため息を吐いた。
「行くか」
「うん」
リオウとの初顔合わせはおおむね成功と言えるだろう。ここでは誰が聞いているかわからないため、話の続きは部屋に戻ってからだ。