やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.256 雷帝は彼女の正体を明かす

 突然、俺たちの前に現れた銀髪の魔物――ゼオンはリオウの言葉にニヤリと笑う。ただそれだけなのに俺の背筋は凍り付き、生唾を飲み込む。

(まずいな……)

 状況は最悪だ。リオウだけならさっきの奥の手を使えば何とかなった。だが、魔物をもう一体相手取るとなれば話は違う。言ってしまえば俺たちの奥の手は一回きりの不意打ち。それを見られたらもう二度と通用しない。何より――。

(なんだ、あの本の持ち主(パートナー)は……)

 ゼオンの後ろに立つ無表情の男。きっと、奴がゼオンの本の持ち主(パートナー)なのだろう。しかし、何かがおかしい。その正体はわからないが言葉に形容し難い不気味な何かがあそこにはある。

 リオウの反応からしてゼオンは魔界でも有名な魔物なのだろう。だが、どうしても俺はゼオンよりも後ろに立つ男の方が恐ろしかった(・・・・・・)

「フン、名前まで覚えていてもらえるとは光栄だな」

「なぜ、お前がここにいる? 今になっていきなり……」

 そんな俺の感情など関係なく、リオウとゼオンの会話は続く。

 リオウの疑問はもっともだ。ここは『ファウード』のコントロールルーム。リオウの許可なく入ってこられない場所である。もしかしたら『ファウード』の体内を通れば来れるかもしれないが誰にもばれずに数十分で辿り着くのは不可能だ。

「今になって、か。ザルチムって奴は随分と前にオレの存在に気づいてたと思ってたんだがな」

「まさか……ザルチムの言ってた、オレたちを見張ってる存在……」

 そんなリオウの質問に奴は含み笑いを浮かべ、そう零す。そういえば、メインステージに来る前にザルチムから違和感がないかと聞かれた。きっと、ゼオンのことを指していたのだろう。

「ガッシュたち、いらぬ魔物をここに集めたのもお前か!?」

「おっと、それはお礼を言って欲しいな」

 リオウの言葉にそう言いながら何故か髪の毛を数本ほど引っこ抜いたゼオンはフッとそれに息を吹きかけて飛ばす。するとその髪は一体の不気味な人形へと変化した。

 不気味な人形。そうだ、確か高嶺に不気味な人形を介してリオウの呪いについて教えた情報提供者がいたはず。それが目の前に立つ、ガッシュに似た魔物だったのだ。

「オレがガッシュたちを集めたおかげで足りない力を補えた。『ファウード』の封印も解けてよかったじゃないか」

「くっ……ふざけるな! 奴らが来たおかげで力が一つ欠け、くだらんトラブルが起きたんだ」

 不気味な人形を杖で殴り、消しながらリオウが叫ぶ。ゼオンが余計なことをしなければ俺たちはここには来ておらず、リオウは計画通りに『ファウード』の封印を解くことができたに違いない。

「ああ、お前がガッシュたちのトラブルに気を取られてたおかげで俺は存在を知られず、『ファウード』の中に入り、お前やこいつの仕組みを色々と探ることができた」

 『その途中でお前たちが来るとは思わなかったけどな』とこちらをチラリと見るゼオン。駄目だ、隙がない。魔本に心の力を溜めようとした瞬間、やられるビジョンしか浮かばない。

「『ファウード』を操ることができるのはお前の額にくっついてる石、その鍵たる石を持ってる者だけだ。このコントロールルームに入る手段も鍵を持ってるお前が瞬間移動で入るか、瞬間移動の時にお前の体に触れてる者。そして、その鍵の力でコントロールルームの扉を開けた時だけだ」

 この状況を打破する方法を模索している間もゼオンは話を続ける。どこか浮足立っているようにも見えるがすでに勝ちを確信している? それほどの相手、なのだろう。

「サイ」

「……」

「……サイ?」

 話をしている間にサイと一緒に作戦を立てようと声をかけるが彼女は反応しない。いや、俺の声が届いていないようだ。顔は青ざめ、何かを怯えるように僅かに手が震えている。明らかに様子がおかしい。

「お前、いつから……どうやってコントロールルームに入った!?」

「『ファウード』の封印が壊れた直後、お前がすかさずコントロールルームに瞬間移動した時、真後ろにいたのさ。お前の髪を掴んでな」

「なっ……」

 サイの様子も気になるがリオウたちの会話も聞き逃してはならない。考えろ、何かあるはずだ。リオウも、ゼオンも、どうにかする方法がきっと、ある。

「『ファウード』を復活させ、オレをコントロールルームに導き、邪魔なガッシュまで倒してくれた。礼を言うぜ、リオウ。そして――」

 にやにやと笑っていたはずのゼオンはいつの間にか顔から表情を消す。その冷徹な瞳に奥歯を噛み締めた。くそ、何も思いつかない。高峰のような天才でもなければ、サイのように戦い慣れていない俺ではこの状況をどうにかする方法を導き出せない。

「――もうお前は用済みだ。額の鍵を渡してさっさと消えろ」

「……ふ、ふざけるな!!」

 一方的な命令にリオウは絶叫した。よし、ゼオンもリオウも会話に夢中になっている。今のうちにサイの正気を取り戻して作戦を立て――。

「な、んでここに……王族(・・)が……」

(王族?)

 そう思っていたのだが、サイが不意に零した言葉に目を細める。サイはゼオンを見て怯えているのではなく、ゼオンが王族だから動揺しているのか? でも、どうしてそんなことを気にする? 何か、サイの過去と関係があるのか。

「偶然だ、偶然が重なったに違いない! 最初からオレ様がお前の掌の上で踊らされていたなど……それにお前ほどの名の知れた大きな力を持つ魔物にザルチムが気づかぬハズがない!」

「大きな力? それはこういう力のことを言うのか?」

「ぐッ……」

 リオウの指摘にゼオンは笑うと突然、奴から強大な魔力が放たれた。俺に向けられたわけではないので血を吐くほどではなかったが衝撃でその場でぐらりと体がふらつく。

 ゼオンも完全とは言わずとも魔力を隠せたらしい。そして、その大きさはこれまで出会った魔物のそれを遥かに凌駕している。

 勝てない。

 そう、はっきりと分かった。

「サイ、逃げるぞ! サイ、おい!!」

 『ファウード』の鍵を持っている間、リオウは本を燃やされないがゼオンがサイの本を燃やさない理由がない。なら、一刻も早くここから離れてガッシュたちと合流するべきだ。

「……」

 小声でサイを呼ぶが彼女は動かない。いや、まるで息を潜めてゼオンから認識されないようにしているようだ。

「サイちゃん!!」

 だが、そんなサイの努力はコントロールルームの入り口から入ってきたハイルによって無駄にされる。俺たちの作戦が終わるまで邪魔されないように入り口を守ってくれていた彼女だったがゼオンの魔力を感知して慌てて駆けつけたのだろう。

「ほう……『武姫』のハイル・ツペか。リオウに力を貸してると思ったがサイの味方をしてたのか」

「あ、なたは……どうして、こんなところに」

 そんなハイルを見て何故か愉快そうに笑うゼオンとゼオンを知っている様子のハイル。だが、ゼオンはすぐにハイルから目を離し、ずっと気配を消していたサイへと視線を向ける。

「お前がサイの味方、か……さてはこいつの正体を知らないんだな」

「ッ……や、め……」

 ゼオンの言葉にサイは明らかに怯え、自分の体を抱きしめるように両手で両肩を掴み、震え始めた。もしかして、ゼオンはサイの過去を知っている? だから、注目されないように息を殺していた?

「じゃあ、教えてやるよ。こいつは――」

「駄目えええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――死者数万を超える人災を引き起こし、ツペ家を始めとした良家が総出して止めようとして皆殺しにされた三つ目の『魔界の脅威』。(サイ)と呼ばれる化け物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、サイの悲鳴を踏み躙るようにゼオンは無慈悲にもサイの正体を明かした。

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