やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「……」
さっきまで声を荒げていたリオウも、私を見たら所構わず騒ぎ出すハイルも、こんな状況でも私と話し合おうとしてくれたハチマンも、言葉を失くして私を見つめている。
「……それはどういうことだ?」
その中で最初に正気に戻ったのはリオウだった。ゼオンの話をまだ信じられていないようで低い声でそう口にする。
「災は王の術によって討伐されたはずだ。生きているわけがない」
「ああ、表向きはそう発表されたし、実際に王の術で災は機能を停止した」
「なら――」
「――だが、死んだわけじゃない」
『なぁ?』とゼオンは私に問いかけてくるが何も答えられなかった。その時のことを何も覚えていないから。
「にわかには信じ難いな……」
「そ、そうよ!」
その時、ずっと硬直していたハイルが叫んだ。顔を真っ青にしながらも彼女は否定するように首を横に振りながら話を続ける。
「だって……そう、サイちゃんは今年で6歳でしょう!? あの事件は5年以上前の話よ!?」
「いや、そいつは6歳じゃない。事件当時とほぼ容姿は変わってないだけだ」
「……」
ハイルとゼオンの会話にハチマンは特に割り込まない。前にパスポートを作る時に6歳じゃないと教えたし、私自身が『魔界の脅威』だと言ったからだ。
「でも……そんなはず……」
「おいおい、現実から目を背けるつもりか? お前の家を潰した犯人が目の前にいるんだぞ? 復讐するチャンスじゃないか」
「復、讐……」
ハイルはこの戦いに参加しているのに王になることに興味はない。ハチマンはそう言っていた。それでも夢がないわけじゃない。私と友達になること、そして、衰退してしまった『ツペ家』の繁栄。
もし、自分の家が衰退してしまった原因が私にあるとしたら――ハイルはどうするのだろうか。
いいや、そんなことどうでもいい。
(バレた……バレたバレたバレたバレたッ)
三人の会話を聞き流す私の頭を埋め尽くすのは焦り。
ずっと、隠していた。どんなに関係が冷たくなろうとこれだけは言えなかった。
だって、数万人の命を奪った化け物です、と馬鹿正直に話して何になる? ただ恐れられるだけだ。『魔界の脅威』だとか封印のことだとか。許容できる範囲で皆に情報を提供してきたがそのことだけはどうしてもできなかった。
それがバレたのだ。それも私の口からではなく、よりにもよって今まさに私たちを追い詰めている敵から。
「……すぅ、はぁ……すぅ、は、ぁ……」
駄目だ、落ち着け。深呼吸だ。大丈夫、大丈夫。きっと、大丈夫。きっと、きっと。
「はぁ……はぁ……はぁ、はぁ……」
心臓が爆発しそうなほど強く鼓動する。嫌な汗が額から滲み出る。あれだけ動いていたのに何故かどんどん寒くなっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁはぁはぁ」
呼吸が、速くなる。視界がどんどん暗くなっていく。止めようとしても、止められない。自分では制御できない。これ、もしかして、過呼――。
「
「ぁ」
不意に隣から私を呼ぶ声がする。
ずっと、聞いていたい声。今は聞きたくなかった声。
ずっと、一緒にいたい人。もう、一緒にはいられないかもしれない人。
(そういえば……手、繋いでないなぁ)
目の前が霞んでいく中、ふとそんなことを思い出した。
少し前までどこに行っても必ず手を繋いでいたのに、いつの間に離れてしまったのだろうか。
それに気づけないほど私たちはいつから間違えていたのか。何を間違っていたのか。
もう、何もわかんないや。
「ハ、チ――」
「―――――――――!!」
乱れた呼吸のせいで上手く話せない。意識も朦朧としてしまっている。
ただ、もうほとんど見えなくなってしまった視界の中、助けを求めるようにハチマンへ伸びる私の右手と私へと手を伸ばす彼の姿が見えた。
(に、げ……)
最後に目に映ったのはぐにゃりと曲がる空間と群青色の光だけだった。
「おい、しっかりしろ!」
いきなり倒れてしまったサイの肩を揺らしながら叫ぶが彼女は起きる様子はない。おそらく、過呼吸だ。ストレスなどで酸素を取り込もうと強く呼吸を繰り返してしまうと体内の二酸化炭素濃度が低下して様々な不調が起きる現象。
(くそっ、最悪だ)
まさか過呼吸が魔物にも起こるのは予想外だったが、それ以上にまずいのは『サウルク』を使って逃げようと考えていたのにサイが気を失ってしまったため、それが出来なくなったことだ。
咄嗟に魔本を守るための細工はしたが、これが通用する相手とも思えない。どうにかしてサイだけでも守らなければ俺たちは終わる。
「サ、イちゃん……嘘、だよね?」
サイが気絶してしまったのを見てハイルもゼオンの言っていることが正しいのだとわかってしまったのだろう。震えた声でサイの名前を呼ぶが呼ばれた本人は気絶しているので答えられるわけがない。きっと、彼女自身も無意識のうちに漏らしてしまったのだろう。彼女の後ろにいるユウトは体を震わせながらゼオンのプレッシャーに顔を青ざめさせていた。今の状態でゼオンと戦うのは難しそうだ。
考えろ。俺たちにとって最悪な事態はどんなことだ? すでに詰みの状態だが、その中でも絶対に避けたいことはなんだ?
「っ……ハイル、逃げろ」
「……え?」
「
「で、でも……」
「いいから行けッ!!」
珍しい俺の怒声にビクリと肩を震わせたハイルは何度か目を泳がせた後、後ろで硬直しているユウトの手を取ってメインステージの入り口に向かって飛ぶ。
「……」
それをゼオンは黙って見送った。何か術を使うようなら体を張って止めるつもりだったので少し拍子抜けしてしまう。
「……へぇ、お前、面白いな」
そして、ハイルたちがメインステージから逃げた後、こちらを見てニヤリと笑った。ただそれだけで蛇に睨まれた蛙のように体が縛り付けられる。
「もう少し話をしていればハイルはこっちに味方してただろうな。それを避けるために逃がした。違うか?」
「……どうだろうな」
ゼオンの指摘に答える義理はないので誤魔化したが、緊張と焦りで冷や汗が頬を伝う。
俺たちにとっての最悪――それは
作戦が失敗してしまった現状、もう俺たちでは『ファウード』をどうにもできない。ならば、まだガッシュたちへ味方してくれた方が可能性はある。サイへの復讐と『ファウード』を止めることは全くの別件だ。むしろ、自身の家が潰れてしまった原因が『魔界の脅威』だとわかった今、同じ『魔界の脅威』である『ファウード』を止めようとしてくれるかもしれない。それこそ、サイを目の敵にしていたアースのように。
「まぁ、いい。今、優先するべきなのは『ファウード』だ。お前たちは後でゆっくり相手してやる」
「くっ、オレから簡単に鍵を奪えると言いたいのか!?」
「やってみればわかるさ。こんな風に、な!」
サイが気絶してしまったからか、俺たちを後回しにしたゼオンはリオウへと迫る。その速度は『サウルク』と大差なかった。そう、呪文を使っていない素の状態の移動速度が、である。
(これ、は……)
ゼオンが現れてからすぐにリオウよりも格上だとわかった。だが、見込みが甘かったと言わざるを得ない。たとえ『サウルク』が使えたとしても俺たちは奴から逃げられなかっただろうと理解させられた。
(……それでも)
「『ザケル』」
「ぐおおおおおおおおおお!!」
ガッシュと同じはずの『
(必ず、生き残ってやる……)
気を失ったおかげである程度、呼吸が落ち着いていたサイを見下ろした後、俺は奥歯を噛み締めながらメインステージを駆ける。ゼオンはリオウの相手をしているから少しの間なら大丈夫なはず。
「……」
だから、ゼオンの