やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
コントロールルームのメインステージに鈍い音が響く。ゼオンが呪文によって狂暴化したリオウを攻撃する音だ。殴ったり、蹴ったりするだけで呪文を使っていないのにあの巨体が仰け反るほどの威力に冷や汗が流れる。リオウも殴られたりする度に呻き声を漏らす。すでに血だらけで腹部の口に生えていた太い牙はほとんどへし折られてしまっていた。
そして、なにより恐ろしいのがここまでたった20秒しか経っていない。やはり、先ほどまでのゼオンは遊んでいただけだったのだろう。
「ゼオン」
「フン、遊びは終わりか」
そのタイミングでデュフォーがゼオンに声をかける。すぐにゼオンはリオウの頭部に降り立ち、左手をポンと当てる。その時にはすでにデュフォーの持つ魔本は心の力を注がれて輝いていた。
「『テオザケル』」
「ルォオオオオオオ!?」
『ザケル』よりも強力な雷撃がゼロ距離でリオウを襲う。これまでのダメージが蓄積されていたのもあるが、『テオザケル』の破壊力にリオウは黒焦げとなり、体が元の大きさに戻ってしまった。
(禁呪を使っても駄目だったか)
もしかしたらゼオンにダメージを与えてくれるかもしれないと思ったが結局、一撃も与えられずに終わった。
チラリと横で気を失っているサイを見る。顔は真っ青で苦しそうに呼吸している。俺たちが生き残るためには絶対にサイを守らなければならない。
(そのために俺は……)
「必ずだ……」
ボロボロになりながらもリオウは体を起こす。立ち上がる元気もなく、血だらけだがその目はまだ死んでいなかった。
「どんなことをしても……必ずオレは王になるんだよ!!」
「『ファノン・リオウ・ディオウ』!!」
リオウの最大呪文が放たれる。リオウがそこまでして王になりたい理由はわからない。だが、その一撃にはリオウの全てが込められていることぐらいは察せられた。
「『ジャウロ・ザケルガ』」
しかし、それに対してゼオンは雷の輪から無数の細い雷撃を放つ術で迎え撃つ。この体質になってから何となく込められた心の力の量がわかるようになったが、『テオザケル』ほどしか込められていないようだ。
「あ、あぁ……」
三つ首の大きな獣が細い雷撃を受け、粉々に砕けた。消えていく己の術をリオウは呆然とした様子で眺める。しかし、ゼオンの術はまだ消えていない。無数の雷撃がそのままリオウを襲い、その体を吹き飛ばした。
「り、リオウ!!」
「お前は寝ていろ」
地面に叩きつかれたリオウをバニキスが助けようとするがその前にゼオンが一瞬で近づき、腹部を殴って気絶させる。さすがに手加減したのかバニキスはその場に崩れ落ちた。
「……」
ここまできっかり30秒。リオウが自ら指定した時間制限である。その間にゼオンはリオウを完全にノックアウトしてみせた。倒れ伏すリオウの髪を掴み、強制的に顔を上げさせて額の宝石を奪う。宝石は細い針のような物が付いており、そのまま自分の額に差すゼオン。
「リオウ!」
「お、やっと手下とやらが来たか?」
その時、リオウの助けを聞いてザルチムがやってきた。だが、何もかもが遅い。すでにリオウは倒され、『ファウード』はゼオンの手に落ちた。
「だが、遅かったようだな……『ファウード』はこのオレが手に入れた」
「なっ……」
「ほう? こいつは便利だ。この鍵たる石から『ファウード』の操り方が直接、脳に流れ込んでくる。お、さっき、『ファウード』の全身に声を流したように映像も流せるのか」
目を閉じてブツブツと独り言を呟いていたゼオンだが、周囲を見渡して俺が隠れている柱で視線を止める。その口元は緩んでおり、良からぬことを企んでいるのがすぐにわかった。急いで顔を引っ込めたが、デュフォーだけじゃなくゼオンにも居場所がバレてしまった。
「……どれ」
少し経ってからおそるおそる柱から顔を出すとすでにこちらから視線を外しており、意識を額の宝石に向けている。ザルチムはリオウがやられた驚きとゼオンの威圧で動けないようで黙ってその様子を眺めていた。
「『ファウード』の体内にいる全魔物に告ぐ。今より『ファウード』の主はこのオレ、ゼオンに変わった。これからお前らにはオレに従うことになる。逆らう者、役に立たん者は容赦なく消す。お前らは所詮、いてもいなくてもいい存在だ」
『ファウード』の体内にいる魔物たちに映像を見せながらゼオンはそう宣言する。きっと、その手に掴むリオウも一緒に見せることで己の強さを誇示しているのだろう。
「く、そが……だが、てめぇが、いばって……られるのも今の、うちだぞ。あと80分、で……てめぇが、乗っ取った『ファウード』は魔界に、帰るんだ」
気は失っていなかったリオウが掠れた声で負け惜しみを口にする。確かに高嶺が残した仕掛けが残っている現状、ゼオンが『ファウード』を操れるのは残り80分。
「……は」
そんなリオウの言葉をゼオンは鼻で笑った。まるでリオウを馬鹿にするような態度であり、リオウも言葉を失ってしまう。
「『ファウード』を魔界に帰す装置のタイマーのことだろ? あのタイマーにかけられたロックが外せないから装置を解除できない。なら、この戦いが終わったら『ファウード』を人間界に捨てればいい。だから、『ファウード』を魔界に帰す装置を破壊する」
「ッ!?」
その発想はなかった。完全に忘れていた。装置によって80分で魔界に帰ってしまうのならその原因を壊せばいい。そうすればゼオンは『ファウード』を使って人間界に残っている自分以外の魔物を全滅させ、魔界の王になれる。
きっと、その時は人間界は『ファウード』によってめちゃくちゃにされていることだろう。そして、ゼオンは魔界へ帰り、ここに残るのは滅びた人間界とその元凶となった『ファウード』だけ。
「『ファウード』には体内に侵入した敵を排除する存在――人間でいうとばい菌を殺す白血球のような役目を果たす魔物がいるようだ。そいつらに装置の破壊を任せるとしよう」
「『ザケル』」
そこで言葉を区切ったゼオンは己の
「さて……この『ファウード』にはリオウの手下となった魔物の他に無駄な抵抗をしている奴らがいる」
パチパチと燃える魔本と体が消えていくリオウから視線を外し、ゼオンはニヤリと笑いながら話を進める。ゾクリと背筋が凍りつき、嫌な予感が俺の頭で警鐘を鳴らしていた。
「きっと、今も動き回ってるんだろ? だから、見せしめだ。ここでお前たちの仲間を処刑する」
「っ……」
そう言って奴は俺が隠れる柱を見た。やはり、ゼオンの目的はサイを倒してガッシュたちの心を折ることだ。そうすれば『ファウード』を止めようとする邪魔な存在がいなくなり、『ファウード』を魔界に帰す装置を破壊したゼオンは魔界の王になれるだろう。
「出て来いよ、災のパートナー。そこに隠れてるのはわかってるんだ」
「……」
このまま隠れ続けていても意味はない。むしろ、痺れを切らしたゼオンが攻撃してくる可能性もある。俺はサイの体を柱に密着させるように動かした後、ゆっくりと柱の陰から出た。
「ほう、素直だな。どうだ? オレの手下にならないか? 『魔界の脅威』であるそいつが手下になればオレとしても色々と楽になるんだが」
「ならん」
「……そうか。じゃあ、死ね」
「『ザケル』」
ゼオンの誘いを一蹴すると奴は問答無用で術を放つ。凄まじい閃光と共に俺に必死の雷撃が迫った。