やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
リオウとの戦いで瀕死にまで――ううん、心肺停止にまで陥ってしまうほどのダメージを受けてしまった清麿君。全力で心の力を込めた『
その後、もう一度、『
『『ファウード』の体内にいる全魔物に告ぐ。今より『ファウード』の主はこのオレ、ゼオンに変わった。これからお前らにはオレに従うことになる。逆らう者、役に立たん者は容赦なく消す。お前らは所詮、いてもいなくてもいい存在だ』
しかし、その途中でゼオンと名乗ったガッシュ君に似ている魔物――ゼオンが『ファウード』が乗っ取られてしまった。宙に浮かぶ映像にはボロボロのリオウと無傷のゼオンが映っているので間違いない。分断されてしまった私たちが駆けつけた時、ガッシュ君たちは満身創痍だったが、リオウは大怪我は負っていたもののしっかりと経っていた。それほどリオウは強かったはずなのにそんな彼らを倒してしまうゼオンの強さは計り知れない。ただ、間違いなく『ファウード』を止める難易度は上がってしまっただろう。
『さて……この『ファウード』にはリオウの手下となった魔物の他に無駄な抵抗をしている奴らがいる。きっと、今も動き回ってるんだろ? だから、見せしめだ。ここでお前たちの仲間を処刑する』
そして、『ファウード』を魔界に帰す装置を破壊すると宣言し、リオウの魔本を燃やしたゼオンはそう言いながら視線を一つの柱へと向ける。その笑みは何かを企むように歪んでいた。
「……まさか」
ゼオンがいる場所はおそらく『ファウード』の中でも大切な場所だ。そこへ入れる私たちの仲間は限られている。そう、八幡君とサイちゃんだ。
『出て来いよ、
『……』
「は、八幡、君……」
私の嫌な予感は当たり、ゼオンが見ていた柱の陰から八幡君が出てくる。やっぱり、彼らはリオウの手下になって内部に潜入して『ファウード』を止めようとしてくれていたのだ。だが、そのことにホッとできるような状態ではなく、震えた声で彼の名前を呟いてしまう。
(サイ、ちゃんは?)
しかし、いつまで経ってもサイちゃんは姿を現さない。ゼオンに倒されてしまった? ううん、違う。映像だと見えにくいけど八幡君の体から僅かに『サジオ』の白いオーラが漏れている。だから、まだサイちゃんは魔界に帰っていないはずだ。
でも、今のままでは八幡君は無防備だ。そんな状態でゼオンに攻撃されたら『サジオ』があっても大怪我は免れない。
『ほう、素直だな。どうだ? オレの手下にならないか? 『魔界の脅威』であるそいつが手下になればオレとしても色々と楽になるんだが』
柱から出てきた八幡君を見てゼオンは感心したのか、笑いながら八幡君を誘う。そうだ、ゼオンの手下になれば彼らの命は救われる。だから、早く頷いて。私たちはすぐに助けに行けない。攻撃されて重傷を負ってもどうすることもできず、そのまま――。
『ならん』
「ッ!? 駄目、八幡君!!」
『……そうか。じゃあ、死ね』
『『ザケル』』
しかし、八幡君はゼオンの誘いを断った。そして、問答無用で術を放たれ、映像が雷撃の閃光で真っ白になる。その光景に誰もが言葉を失う。
「う、嘘……」
フラッシュは一瞬だけで映像には術を放つために右手を伸ばしたゼオンとその
『……ほう?』
顔から血の気が引いていく中、ゼオンが感心したように声を漏らす。固唾を呑んで皆が見上げる映像に煙幕の向こうから凄まじい勢いで白いオーラを放出させている両手を広げた八幡君が映った。『サジオ』で『ザケル』のダメージを軽減したようだが、服はほとんど焦げてしまい、血も流している。
『今のを耐えるのか。その白いオーラのおかげか? まぁ、いい。死ぬまで撃つだけだ』
「や、やめるのだ、ゼオン!!」
『『ザケル』』
たまらず映像に向けて叫ぶガッシュ君だが、彼らに聞こえるはずもなく、無慈悲にも再び八幡君へ『ザケル』が放たれた。再び目が眩むほどの閃光。それでも八幡君は何かを守るように両手を広げて立っている。
(もしかして、あの柱の後ろにサイちゃんがいるの?)
いつも気怠そうにしている八幡君はいつだってサイちゃんのためなら積極的に動いていた。そのせいで誰かに嫌われてしまうことになっても、サイちゃんとの仲が悪くなっても、サイちゃんのためだったら平気で行動に移せてしまう人だ。
『……』
何度も『ザケル』を受ける八幡君はすでに血だらけだ。体の一部は強力な雷撃によって黒焦げになっている。それでも彼の目は死んでいない。死んでも守ってみせるという覚悟の色が見て取れた。
「もう、やめて……」
ボロボロになりながらサイちゃんを守る彼の姿を見て思わず呟いてしまう。
どうして、私たちは何もできない?
あんなに傷ついている仲間がいるのに助けに行けない?
清麿君の時だってそうだ。リオウに簡単に分断され、必死に駆けつけた時には全て遅かった。清麿君は息を吹き返したが奇跡だったのだ。しかし、八幡君を助けられる人はあそこにいない。誰も、彼を助けられない。
『はは、頑張るな。そんな化け物を守ったところで何になる? そいつは生きてる価値のない存在だぞ。きっと、お前にも危害を加える災厄だ』
一度、雷撃を撃つのを止めたゼオンは気になることを言った。サイちゃんが化け物? 危害? 何のことだろうか。サイちゃんが自分のことを『魔界の脅威』だと言ったことと何か関係が?
『っるせぇな……』
煙幕が晴れ、何とか立っている状態の八幡君は小さな声で悪態を吐く。そして、鋭い眼光でゼオンを睨みつけた。直接、見られているわけではないのに彼の気迫に思わず生唾を呑んでしまう。
『サイが、どん、なこと……をしたのか……知らん。それでも……俺、は
『……何万人もの魔物を殺したのにか? その様子だと多少は察してたんだろ?』
『まぁ、な……』
何万人もの魔物を殺した。ゼオンは確かにそう言ったし、八幡君も否定しなかった。駄目だ、思考がまとまらない。
『ずっと……ずっと、苦しんでた。笑ってても……どこか、引け目を感じてた。でも、何も教えてくれなかった。それだけのことをしたってわかってたんだ』
「八幡、君……」
呼吸が整い始めているのか、先ほどよりも言葉をつっかえさせずに話す八幡君。そんな彼の姿を見て視界が歪む。何もできない悔しさ。そして、こんな状況でも決して心の折れない八幡君の強さに自然と涙が零れてしまったのだ。
『どんないいことをしても、サイの、罪はなくならない……忘れろなんて言わない。気にするなって言わない。でも、
珍しく彼が声を荒げた。それに呼応するように白いオーラが激しく瞬く。心の強さで出力が変わる『サジオ』。果たして八幡君は今の言葉にどれほどの想いを込めたのだろうか。
『これが、罪だっていうなら……間違いだっていうなら……一緒に
『……そうか。デュフォー、やれ』
『『ザケルガ』』
「八幡君!!」
彼の言葉に何か思うことがあったのか、ゼオンは笑みを消したまま、右手から雷撃を放つ。貫通力の高まったそれは八幡君の腹部を直撃し、思い切り吹き飛ばして真後ろの柱に叩きつける。その衝撃で八幡君は口から盛大に血を吐き出した。隣に立つシスターはそれを見て小さく悲鳴を上げる。
『……いってぇなぁ』
『まだ、立つのか』
だが、それでも彼は立ち上がった。白いオーラは不安定に揺れているが消えていない。
今すぐ彼の傍へ駆け寄ってあげたい。助けてあげたい。
でも。彼がいる場所はあまりにも遠く、手を伸ばしても届かない。
『……ハチ、マン』
その時、掠れた女の子の声が聞こえた。柱の陰から顔を出したのは顔色の悪いサイちゃん。よかった、理由はわからないけど動けなかった彼女は八幡君が稼いだ時間のおかげで目を覚ました。これで八幡君も――。
『――なに、これ』
皆から安堵のため息が漏れた束の間、サイちゃんは目の前に立つ八幡君を見て目を丸くする。そして、状況を察したのか、震えた声でそう呟いた。
『サイ、にげ、ろ……』
とっくの昔に限界を迎えていたのだろう。八幡君はサイちゃんの姿を見ると僅かに微笑んでそのまま前のめりに倒れてしまった。受け身を全く取っていない危険な倒れ方。ゼオンの術によって付けられた傷か、それとも倒れた時にどこか打ったのか。少しずつ八幡君の体から血の海が広がっていく。
『ぁ……あぁ……』
倒れた八幡君を呆然と眺めていたサイちゃんだったが、現実逃避をするように首を横に振りながら声を漏らす。彼女の顔は真っ青で、目からポロポロと涙が零れていく。
『ほら、見たことか。そんな化け物を守らなければ死なずに済んだのに』
『ああああああああああああああああ!!!』
ゼオンの心無い言葉をきっかけに絶叫しながらサイちゃんが絶叫する。その拍子にサイちゃんから凄まじい威圧が放たれた。群青色の旋風が彼女の白いワンピースを揺らす。それを見たゼオンは鬱陶しそうに顔を歪ませた。
『私の、せいで! ハチマンが、死んじゃった! 私の、私の私の、ワタシの、ワタシの……あははははははは!』
映像の向こうでサイちゃんは
あんなに綺麗だった黒髪の半分以上が透きとおり過ぎてどこか恐ろしく感じる群青色に染まっている。八幡君はあの色があまり好きじゃなかったらしい。今ならわかる。あれは、良くないモノだ。
『あは、あはははは! あー、もういいや。全部壊しちゃえ』
そして、