やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
迸る群青色の魔力。その奔流にローブがバタバタと激しくはためき、それが鬱陶しくて手で押さえた。
奴から放たれる威圧によってビリビリと震える大気に呆然としていたザルチムが顔を青くさせ、その後ろに立つ
「……はは」
それを受けたオレは思わず声を漏らして笑ってしまった。
数万人の命といくつかの都市をまとめて消し飛ばした【
たった一人。そう、たった一人だ。どれだけ強力な術を持っている魔物でさえ、一人で同じ被害を出そうとすればどれほどの時間がかかるのだろう。ましてや、他の魔物たちの妨害がある中で、だ。
(残された資料を読んだ時、多少オーバーに書かれたものだと思っていたが……)
奴を前にした今ならわかる。あの資料は事実しか書かれていなかった。目の前で泣きながらケラケラと笑う化け物は
「ゼオン、どうする?」
群青色の魔力によって髪が乱れてしまったデュフォーが顔色一つ変えずに問いかけてくる。こんな時でも冷静――いや、これは無関心か。興味がなさそうにしている姿にため息を吐きながら改めて考える。
奴の
しかし、何もせずともこれほどの魔力を迸らせているのなら話は別だ。きっと、奴は見境なく攻撃してくる。目に入る物全てを壊す。つまり、現状だとその対象はコントロールルームにいるオレとザルチムだ。
ザルチムはともかくオレは
「きゃはっ! ははっ……あ?」
その時、災がオレに気づいて笑うのを止めた。その顔には『誰?』と書かれており、先ほどまで話していた人格とは違う奴が表に出てきているらしい。なるほど、そのせいで元の人格は災のことをあまり知らなかったようだ。
一応、いつ襲ってきてもいいように構えたがいつまで経っても奴は動く気配がない。いや、不思議そうに首を傾げている?
「んん? 王族? 多分、王族。でも、ないの? アレ持ってないの?」
「アレ?」
「『バオウ』」
「ッ!?」
奴の口からその言葉が出てくるとは思わず目を見開いてしまう。だが、奴はそれだけでオレが『バオウ』を持っていないとわかったのかつまらなさそうに息を吐いた。
「なーんだ、つまんないの」
「お、まえッ!!」
「なら、いいや。じゃーねー」
災はそう言った後、姿を消す。そう、文字通り目の前から消えたのだ。あれほど暴れていたのに魔力を感じ取れず、気配すらわからない。
「デュフォー、あいつはどこに行った!?」
「あそこだ」
すさかず
「くそっ……オレをコケにしやがってッ!」
「ごふっ」
災の態度にイラつき、無意識に魔力が溢れてしまう。すると、死んでいるはずの奴の
(だが、何故今になって血を?)
「どうやら、負の感情が乗った魔力に過剰反応する体質らしい」
オレの疑問に聞いていないのにデュフォーが答えた。消えた災の居場所を突き止めた時といい、やはり便利な能力だ。
「……まぁ、いい。本を燃やしさえすればあいつは消える」
消える前の災は何も持っていなかった。もちろん、奴の
そう思って柱に近づき、裏を覗く。だが、そこには何もなかった。
(どうなって、やがる?)
ここから立ち去る前に災が拾った? いや、今のあいつにそこまでの理性があるとは思えない。
オレがリオウで遊んでいる間に
「じゃあ、一体どこに……」
「あの魔物が持って行ったぞ」
「あ? 出ていく前に拾っていったのか?」
「いいや、最初から持っていた。そこの男が隠した」
デュフォーの答えはいささか要領を得ない。つまり、今床で倒れている瀕死の男が災に隠すように渡した、ということだろうか。
「具体的に言え。お前はいつも言葉が足らん」
「言葉の通りだ。そいつがさっきの魔物に渡しただけ。目には見えないが持ってる」
「……そういう術か」
そういえば災が気を失う前、この男は呪文を唱えていたような気がする。特に何も起こらなかったので気のせいかと思ったがその時に何か細工したらしい。
「ゼオン」
「なんだ?」
「そいつ、あと数分で死ぬぞ。生かしておくなら治療室に運べ」
「……はぁ。人質にはなるか」
面倒な荷物が増えたことに憂鬱になるがその前にしておくことがある。額の宝石に意識を集中させ、もう一度『ファウード』の体内にいる魔物たちに映像を流した。
「『ファウード』の体内にいる全魔物に再び告ぐ。今、ここに災が復活した。映像が途切れたのも奴の復活の余波によるものだ。現在、災は『ファウード』の体内を移動している。きっと、見かけた存在を殺しにかかるだろう。リオウの手下……っと、あいつが消えた今、オレの手下になるのか。手下でも助けたりしないからせいぜい頑張って出会わないことを願うんだな」
映像は一方的にしか送れない。向こうが文句を言っていてもこちらには伝わらないが一応、最低限の手助けもしてやろう。
「だが、さすがに手下になったのに何もしないのはオレの良心が痛む。だから、『ファウード』の力を分け与えよう。この『ファウード』の力が欲しければ壁でも床でもいい。どこかに手をつけ、こう唱えよ。『ゴデュファ』、と。これでお前たちは今までとは段違いの力を手に入れることができる。あの災に出会ってもそれなりに戦えるだろう」
そう言いながらも心の中で体内にいる手下たちを憐れに思う。『ファウード』の力を手に入れたとしても災には敵わないはずだ。そもそもあいつの場合、強いとか弱いとか関係ない。おそらく『
そんなことを考えている間に数体の魔物が『ファウード』の力を手に入れた。もちろん、ガッシュたちは手を出していない。その他に力を欲さなかった魔物の中で把握できたのは目の前にいるザルチムのみ。リオウの手下を全て把握しているわけではないが、ザルチムの他にも力を手に入れていない魔物はいるだろう。
「今からお前たちの主はこのゼオンだ。ゼオンに従い、ゼオンのために戦うがよい」
可哀そうに、とは思わない。自分で選んだ道だ。この先、どんな結末が待っていようと自己責任。そういった意味ではザルチムたちは賢いと言える。
(さて……)
映像を切り、足元で倒れている災の
「ザルチム、こいつを治療室に持っていけ」
「……わかった」
『ファウード』の力を手に入れなかったが、俺の手下にはなるようでザルチムはその指示通り、瀕死の男――確か、災はハチマンと呼んでいた。そのハチマンを抱えてメインステージを後にする。
それを見届けたオレは玉座に腰掛け、目を閉じる。
『バオウ』。まさかあいつからその単語が出てくるとは思わなかった。
「……やはり、決着をつけなければ、な」
そう呟き、気を取り直して『ファウード』のコントロールキーへ意識を向ける。さて、この玩具はオレを楽しませてくれるだろうか。