やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
そのため、原作のお話はカットされるものが多いです。具体的に言えば数話ほど書いた後、鉄扉のところまで一気に飛びます。ご了承ください。
ゼオンの通信が途切れた。しかし、私たちはしばらく動くことができず、さっきまで映像が浮かんでいた場所を見上げていた。
(八幡、君……)
ゼオンの術を何度も受け、最後には倒れてしまった彼はどうなってしまったのだろう。あのまま死んでしまったのだろうか。
少なくともゼオンはサイちゃんが『ファウード』の体内を移動していると言っていたので魔本は燃やされていないはずだ。もしかしたら八幡君が上手く魔本を隠したのかもしれない。
だから、きっと八幡君は生かされている。魔本のありかを吐かせるためか。それとも、人質として扱うかもしれない。そう、信じるしかなかった。
「アース」
「はっ」
その時、エリーがアースの名前を呼ぶ。それを受けたアースは顔を青くしながらも私たちに背中を向け、歩き出した。
「みなの者、我らは『ファウード』を魔界に帰す装置を守りに行く! あの装置をあと80分死守し、なんとしてでも『ファウード』を魔界に帰す!」
そうだ。八幡君のことに気を取られていたがゼオンは『ファウード』を魔界に帰す装置を破壊するとも言っていた。このまま放置していれば装置は破壊され、清麿君が残してくれた希望が消えてしまう。
「清麿の体の回復。そして、『ファウード』の足止めは任せる」
「ああ……アース、大丈夫か?」
エリーの言葉に頷いたのはサンビームさんだったが、すぐにアースにそう問いかけていた。その問いにアースは足を止め、僅かに俯く。彼はサイちゃんを憎んでいた。おそらく、ゼオンが言っていた『災』のことだろう。何万人もの魔物を殺した厄災。アースも何か関係があるのかもしれない。
「大丈夫、なわけなかろう。また、あの悪夢が始まってしまうのだから」
「そんなに……サイは厄介なのか?」
「厄介? はは、そんな言葉ですめばよかっただろうな」
そこでアースはこちらへ振り返った。その顔は怒りや悲しみ、後悔でくしゃくしゃに歪んでいる。出会ってまだ少ししか経っていないが異様な彼の様子に皆が息を呑んだ。
「いいか? あやつは化け物だ。見かけたらすぐに逃げろ。絶対に戦うな」
「は、はぁ? そんなにやばいなら早めに倒したほうがいいに決まってるだろ」
「そうじゃない、そもそも倒せないのだ。あいつは次元が違う」
サウザーの言葉に首を振るアース。次元が違う? 確かに映像で見たサイちゃんは明らかに正気を失っていたが今は八幡君が傍にいない。だから、術は使えない。なら、魔本を燃やさずとも気絶させることぐらいはできるはずだ。
「災に術は通用しない。おそらく、某の最大呪文も……今の『バオウ』でさえも」
「なッ!?」
アースの最大呪文は『ファウード』の封印を解く時に見た。巨大な剣を振るう強力な呪文だった。もちろん、ガッシュ君の『バオウ』も知っている。だからこそ、サイちゃんに通用しないと聞いてすぐに信じられなかった。
「魔界で奴が目覚めた時も術が通用せず、魔力に押しつぶされて死んだ者たちが多かった。それほど危険な存在なのだ」
「魔力に、押しつぶされる?」
「某も直接戦ったわけではない。だが、そんな記録が残っていた。そうだな……人間たちにもわかりやすく伝えるのなら――」
少しだけ考える素振りを見せたアースはすぐに思いついたのか真剣な眼差しをこちらに向け、言葉を紡いだ。
「――台風。これが一番近いだろう」
「はぁ……はぁ……」
ここはどこだろう。出鱈目に飛んだのですっかり迷子になってしまった。だが、順路を気にするほど私には余裕がない。今だってユウトを抱えながらとにかく前に進むことしかできなかった。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。今は、逃げる。にげ、る……逃げなきゃ。あれが来る。私も、殺される。
「は、ハイちゃん! 前、前!」
「え?」
ユウトの言葉にハッとして前を見ると通路が左右に分かれていた。つまり、このまま進めば壁に激突してしまうことになる。
「こ、のっ!」
強引に体を傾け、右の通路へ曲がった。しかし、何とか曲がりきれたがバランスを崩してしまい、姿勢を制御できなくなってしまう。
「ぎゃっ」
可能な限り、衝撃を与えないようにユウトを落としてそのまま私は地面に墜落した。ゴロゴロと通路を転がり、仰向けの状態でなんとか止まる。
痛い。全身に鈍痛が広がっていく。ユウトは大丈夫だっただろうか。まぁ、いいか。だって、私はもう――。
「ハイちゃん、大丈夫?」
そんな思考を遮るようにユウトが顔を覗き込んでくる。擦り傷はできてしまっているものの、大きな怪我はなさそうだ。
「……大丈夫よ」
「……」
「……ごめんなさい。全然、大丈夫じゃない」
私の強がりは彼に通用せず、ジッと見つめられただけで私は素直に弱音を吐いた。それを聞いた彼は少しだけ悲しそうな顔をして私の体を起こす手伝いをしてくれる。
「少し、休憩しない? ずいぶん、長い間、飛んだからハイちゃんも疲れたでしょ?」
「ええ……そう、ね」
疲れた? ううん、全然。私は『武姫』、ハイル・ツペ。三日三晩、武器を振り続けられるほどスタミナには自信がある。十数分程度、大人の男を抱えた状態で飛んだだけでガス欠を起こすはずがない。
そのはずなのに私の体は悲鳴を上げていた。力が入らず、ユウトに肩を貸してもらってやっと通路の壁に背中を預けられたほどである。
『魔力探知』にいくつかの反応がある。多分、ゼオンが言っていた『ファウード』の体内に侵入した敵を排除する魔物だ。近くにはいないので少しの間なら休んでも大丈夫だろう。
「……」
「……」
沈黙が流れる。ユウトは何も聞かない。聞かないでいてくれる。多分、聞くのが怖いのもあるだろう。しかし、それ以上に私が話すのを待っていてくれている。彼はノロマで、不器用で、取柄なんて何もない弱っちい人間。でも、どんなに怖くてもほんの少しだけ寄り添ってくれる。そのおかげなのだろうか。不思議と私との相性はよくて、彼と出会ってから毎日が楽しかった。
「……ユウト」
「何、ハイちゃん」
「話、聞いてくれる?」
「もちろん」
ああ、だからかな。自分でも自覚できるほどプライドが高くて、高飛車で、お調子者の私でも彼になら素直に話せそうだった。
「私ね……王になるつもりなんてないの」
「うん」
「この戦いだって正直、飽きたら適当に脱落しようかなって思ってたほどだった……でも、サイちゃんが参加してるから会えるまでは頑張ろうかなって」
そう、私がここまで勝ち残っているのはサイちゃんのおかげだ。彼女がいなければ私はこの戦いに意味を見出せず、自分から脱落していたかもしれない。話したことはほとんどなかったが、ユウトもその辺りは何となく察していたのか特に口を挟まなかった。
「サイちゃんに会ってからすごく楽しかった。今度こそ、友達になってるって……
「たくさんあるもんね。ハイちゃんの呪文」
「ええ、多種多様な武器を操るハイル・ツペに相応しいわ。楽しくて、楽しくて、楽しくて……『ツペ家』の繁栄のことすらも忘れそうになるほどだった」
『ツペ家』。私の実家。私以外の家族や親族は全員死んでしまう前は魔界の中でも随一の良家として有名だった。『吸魔』という特殊な能力のおかげで一目を置かれていたのだ。
「私は出来損ないのいらない子だったから生き残った。生き残ってしまった。だから、今度は私が『ツペ家』の代表となって再建する。それが私の夢。サイちゃんと友達になることと並んで成し遂げたいことだった」
「……」
「じゃあ、なんで私の家は潰れたの? 皆、死んじゃったの? それはね、ある災害を止めるために『ツペ家』全員が戦場に出て、殺されてしまったから」
数年前に起きた数万人の魔物が死んだ災害。
たった一人の魔物にいくつもの街が破壊され、止めようとした魔物たちは押しつぶされ、ぐちゃぐちゃになった厄災。
「『災』。突如として現れた事件が終わった後で『魔界の脅威』に認められるほどの被害を出した化け物……化け物なの」
「ハイちゃん……」
「嘘だよね? サイちゃんが災なわけないよね? だって、災は王の術によって討伐されたはずだもの。生きてるはずが、ないもの」
いいや、わかっている。出来損ないの私は戦場に出なかったが、あの映像を見てすぐに理解した。サイちゃんこそ、『ツペ家』を潰した災本人なのだと。
「なんで……私は、ただ……友達が欲しかっただけなのに……サイちゃんと友達に、なりたかっただけなのに……」
ああ、駄目だ。ポロポロと涙が零れ落ちてしまう。情けない。不甲斐ない。八幡は自分の命すらかけてサイちゃんを守ったのに私は何もできなかった。ただ、逃げるしかなかった。これではツペ家当主など継げるはずがない。
「どうして、こうなるのよ……」
「……」
ぐすぐすと泣く私にユウトは何も言わない。それでも優しく私を抱きしめてくれた。ほら、やっぱりほんの少しだけ寄り添ってくれる。そんなあなただから私はここまでやってこられた。一緒に戦えた。
でもね、ユウト。私、もう駄目かも。心、折れちゃった