やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
また、以前にもあとがきで書きましたがチェリッシュの過去についてオリジナル設定を追加させていただきます。その影響で今後の展開が原作と大きく変わりますのでご了承ください。
地獄を見た。
建物は粉々に砕け、色々な場所で火災が発生しており、熱気や煙でまともに息が吸えない。
「――――! ――!」
周囲で生き延びた魔物たちが救助活動を行っている。だが、動いている人数よりも地面で倒れている魔物の数が圧倒的に多かった。
「……」
私が生き残ったのは奇跡だった。私の足元には私と同じ捨て子だった子供の魔物が何人も転がっている。お互いに協力してこの日まで生きてきた仲間たちが倒れている。その事実を受け入れられず、ただその光景を見ていることしかできなかった。
「―――――!」
その時、また周囲の魔物たちが騒ぎ始める。そして、守りの術を持つ人たちが一斉に術を発動させた。今の私が使える最大呪文ですら突破できないほどの凝固な守り。
だが、あれにとってそんな守り、何の意味も持たない。
地獄が迫る。
魔物たちが発動させた守りの術は粉々に砕け、私たちは塵のように吹き飛ばされた。幸い、体の軽かった私は余波の辞典で遠くまで飛ばされ、あの旋風の直撃は避けられたのである。
「……」
痛む体に鞭を打って立ち上がった。仲間だったモノはすでにどこにもない。周りにいた魔物たちもいない。たった独り、生き残った私は顔を上げる。
そこには群青色の地獄が立っていた。
ゼオンがリオウを倒した。その事件は不本意ながらもリオウの手下になっていた私たちに衝撃を与えた。
だが、問題はここから。『ファウード』を掌握したゼオンは私たちに『ファウード』の力を与えると言い、壁や床に触れながら『ゴデュファ』と唱えるように指示を出した。
『ファウード』の力が手に入る。迷わなかったわけじゃない。この力を使えばリオウを倒したゼオンにさえ手が届くかもしれない。
そして、あの群青色の化け物にも。
「チェリッシュ……」
「ッ……何でもないわ、ニコル」
震える体を手で押さえ、先ほどまでモニターが浮いていた虚空を見上げる。リオウがゼオンを倒し、あの子――サイの
(まさか……)
知っている。私はあれを知っていた。
私もその災害に巻き込まれ、奇跡的に生き残った数少ない魔物。私が孤児となり、独りになった原因。
孤児となった後、同じような境遇の子どもたちを集めて一緒に生活したことを後悔しているわけではない。辛いことも多かったがそれ以上にあの子たちと過ごした日々は楽しかった。
でも、本当に時々、考えてしまうのだ。もし、あの災害がなければ私はどんな生活を送っていたのだろうか、と。
「……」
あの災がここにいる。『ファウード』の中を徘徊している。
(なら――)
リオウを倒したゼオンは脅威だ。でも、それ以上にあの子が怖い。あの子に対抗する力が欲しい。
「チェリッシュ、どうする?」
きっと、いつものニコルなら『ファウード』の力には頼るなと忠告していただろう。でも、今回は私に問いかけてくるだけだった。出会ってまだ1年も経っていないがずっと一緒にいたので私の様子がおかしいことに気づいたのだ。
「……」
おそらく、ゼオンの言う通りにすれば『ファウード』の力は手に入る。だが、手放しに力を与えるとも思えない。何か罠があるのだろう。
それでも、あの子に対抗する力が手に入るのなら私は――。
――今までありがとう。
「……『ファウード』の力は借りない」
確かにあの子は災だった。あの群青色の髪は紛れもなく、本物だった。
しかし、知らなかったとはいえ、あの子と私たちは少しの間だけ一緒にいた。誘ったのは私だし、ついてくるだけでまともに会話したことすらない。
だが、私は知っている。あの子は――サイは心の優しい魔物なのだ。誰にも見えないところで私たちのために動いていた。
「きっと、罠よ。一先ず、様子を見た方がいいわ」
「チェリッシュ……ああ、そうだな」
他人を信じてはならない。この戦いで散々、学んだ教訓だ。だから、私は私の力だけで生き残る。ゼオンからも、災からも。
それから少しして私はゼオンに呼び出された。幸い、ニコルは呼ばれなかったため、本を燃やされる心配はない。だが、安心もできない。呼び出された場所はメインステージ近くにある治療室の傍。殺されはしないにしても攻撃される可能性は高いだろう。
「チェリッシュ、だったか?」
呼び出された場所に行くとすでにゼオンとその
「お前もザルチムと同様、『ファウード』の力を得なかった魔物だな? ザルチムは本気で侵入者を倒す気だが、お前はどうかな?」
「……っ」
ゼオンにそう問いかけられ、私は言葉に詰まる。侵入者――それはこの『ファウード』を止めるために勇敢にも乗り込んできた彼らのことだろう。そして、彼らはサイの仲間だ。
もし、彼らが私の前に現れた時、私は本気で戦えるのだろうか。悪いことをしているのは私たちであり、あの子たちは人間界を守るために戦っている。ただ、生き残りたいという理由で戦っている私とは違う。立派な子供たち。
「オレは役に立たない奴は消すだけだと言ったのを覚えてるか?」
何も答えない私にゼオンは更に言葉を重ねる。駄目だ、黙っているだけでは怪しまれてしまう。一先ず、時間を稼がなければ。
「さぁ、一体何の――」
「――『バルギルド・ザケルガ』」
「きゃああああああああああああああ!」
白を切ろうとした私にゼオンは容赦なく、術を放った。凄まじい激痛が全身を駆け巡り、情けなくも叫んでしまう。
覚悟を決めてきたつもりだった。どんな術を受けても心だけは折らないと決めたつもりだった。そう、人間の身でありながらゼオンの術を受け続けたあの子の
(で、も……これ、はッ)
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い――それがひたすら続く。本来、たくさん存在している術の中でも放出し続けられるものは少ない。連続で使うためには何度も呪文を唱え直さなければならないはずだ。
「この雷はお前の体をボロボロになるまで電撃の激痛を与え続ける。痛みで気絶することすら許されない。体が壊れる前に限りなく強くなるその激痛で心の方が崩壊する」
だが、この電撃はいつまで経っても消えてくれない。相手を痛めつけるための術。そんな凶悪な術を何の躊躇いもなく、放てるゼオンはあまりにも非情すぎた。
「……本来だったらな」
その激痛に心が折れかけた時、ふと電撃が消える。その場で倒れ伏しながら私はゼオンを見上げた。奴は残念そうな顔をしながら治療室の方を睨みつけている。
「まさかここまで脆弱だとは思わなかった。これじゃ満足に拷問もできやしねぇ」
「なに、が……」
「とにかく、オレはいつでもお前を殺すことができる。生かしてるのはまだ利用価値があると踏んでるからだ。それだけは覚えておけ。ギャロン、そいつの監視は任せたぞ」
「ハッ!」
ゼオンはギャロンに電撃によってボロボロになった私を治療室に運ぶように指示を出した後、コントロール室へ戻ってしまった。ギャロンもその指示に従い、動けない私を担いで治療室の中へ入る。
「余計なことはするなよ」
そして、治療用のカプセルに投げ込まれてしまった。背中を強かに打って呻き声が漏れてしまう。それを見届けたギャロンは治療室を出て行った。
「……」
少しずつ体を癒えていく感覚に身を委ねながら天井を見上げる。あれは、想像以上だった。なんとか心が折れる前に止めてくれたからいいものの、あの電撃を受け続けたら私は心を壊していただろう。もし、逆らってあの術を受けたら今度こそ私は心が折れてしまうに違いない。
(情けない……)
リオウに
「……」
バシャリ、と水の音を立てながら体を起こす。傷はすでに癒えている。早く行かなければギャロンにあることないことをゼオンに報告されてしまうかもしれない。
「……ん?」
あの電撃の激痛を思い出し、身震いしたところですぐ近くに誰かの気配を感じた。
「あー……よう」
その方向を見ると私と同じように治療用のカプセルで体を起こして気まずそうにこちらを見ていた目の腐った男がいた。