やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.266 私はその言葉を飲み込んだ

 その男は私から目を逸らしながら声をかけてきた。上半身は服を着ておらず、鍛えられた体が嫌でも目に入る。治療用のカプセルで詳細はわからないが僅かにズボンが見えているので全裸ではないようで少しだけホッとした。

「あなた……サイの本の持ち主(パートナー)、よね?」

 そう聞きながら『ファウード』の封印を解く時にあの子の後ろに立っていたのを思い出す。あの頃はニコルの呪いの件もあったし、サイの方に意識が向いていたのであまり覚えておらず、ニコルと自己紹介していたようだが名前は聞こえなかった。

「ああ……えっと……」

「?」

 私の質問に頷いた目の腐った男は何故か言い淀みながらカプセルから出て近くに置いてあった鞄からいくつかの服を取り出す。そして、それらを丸めた後、私の方へと投げ渡してきた。反射的にキャッチしたが彼の意図がわからず、首を傾げてしまう。

「ほら……服」

「服……きゃっ」

 頑なにこちらを見ようとしない彼の言葉で私の服が服としてほとんど機能していないことに気づいた。ゼオンの電撃によってボロボロにされてしまったのだろう。

「……いいわ。ありがとう」

「……おう。ごほっ」

「え!?」

 カプセルのせいで服は濡れてしまうが彼もそれを知っているはずなので遠慮せずに服を着たのだが、お礼を言った途端、彼が吐血する。あまりに突然だったので慌ててその場で立ち上がってしまった。

「いや、気にすんな」

「気にするなって……でも……」

「持病みたいなもんだ」

 そう言いながらサイの本の持ち主(パートナー)はいそいそと治療用のカプセルに戻っていく。一瞬、リオウの呪いを受けていた後遺症かと思ったのだが、そもそも彼は呪いを受けていない。おそらく別の要因なのだろうが『ファウード』の封印を解く前はそんな素振りを見せていなかったので戸惑うばかりである。

「どうして、こんなところに? ゼオンにやられたんじゃ」

「ギリギリ生き残っただけだ。それで……」

 そこで彼は口を噤んだ。何か聞きたいことがあるらしいが、どうしてもその一歩を踏み出せない。そんな様子に何故か、私の心がキュッと締め付けられる。なんとなく、彼の聞きたいことがわかったから。

「……サイのこと?」

「ッ……あの後、どうなった?」

「あなたが死んだと勘違いして……暴走して『ファウード』の中を徘徊してるわ」

「……そうか」

 彼も予想していたのだろう。私の答えを聞いた彼は力なく、カプセルへ倒れこんだ。僅かに水の音が聞こえた後、少しだけ沈黙が流れる。

「お前は……どうした?」

「……」

 彼の質問に答えるか悩んだ。彼は『ファウード』を止める側の人間だ。ここで状況を伝える行為そのものがゼオンに対する裏切りに値する可能性がある。そうすればまたあの電撃を受けるかもしれない。そう思うと体が微かに震え出す。

「……ゼオンか。大方、裏切るなよって釘を刺されたんだろ。その時に攻撃を受けたか?」

「……うん」

 しかし、サイの本の持ち主(パートナー)は私の反応だけでほとんど言い当ててしまった。仕方ないので素直に頷く。

(そういえば……)

 彼はあのゼオンを前にして自分の身を犠牲にサイを逃がした。どうして、彼らがコントロールルームのメインステージにいたのか不明だが、ゼオンの登場は予想外だったはずだ。それなのに咄嗟に状況を把握し、土壇場で最善策を考えて見事に成功させてみせたのである。サイの実力は昔から知っていたが、ここまで生き残れたのは彼が本の持ち主(パートナー)だったからかもしれない。

「これからどうすんだ?」

「……戦うわ。そうするしかないもの」

 リオウに手を貸していたのはニコルの呪いのせい。しかし、その後、『ファウード』を止めるのではなく、リオウ側へついたのは生き残りたかったからだ。人間界が滅んでしまうかもしれないとわかっていながら私はリオウに協力した。手下たち全員で襲えばリオウでも倒せたはずだったからだ。

 だが、今はリオウは倒されてゼオンが『ファウード』を掌握してしまったことで全て狂った。リオウの手下のほとんどが『ファウード』の力を得て奴の忠実な下僕になってしまったのである。

 そう、私は間違えたのだ。生き残ることを優先してリオウの手下になるべきではなかった。あそこで『ファウード』を止める側に寝返っておけばよかったのだ。

 だから、こんなところでカプセルの中で縮こまっている。人間界を裏切った私に対する罰。きっと、私はゼオンの電撃に怯え、人間界を守ろうとしているあの子たちを攻撃する。そんな未来が容易に想像できてしまうほど今の私はあまりに弱り切っていた。

「そうか」

「……何も言わないの? 私はあなたたちに邪魔をするつもりなのに」

「そうするしかないんだろ? なら、仕方ないだろ」

「っ……」

 まさか肯定されるとは思わず、言葉を失ってしまう。彼は『ファウード』を止めるためにここにいるはずだ。つまり、私は彼にとって敵。そのはずなのにどうしてそんな悠長なことを言えるのだろうか。

「……もう行くわ。服、ありがとう。借りていくわ」

「ああ」

 それがどこか気味が悪くて私はこの場を離れることに決めた。彼から貰った服は申し訳ないがこのまま持っていかなければならない。彼も承諾してくれたので遠慮なく借りよう。

「チェリッシュ」

「……何?」

「……いや、何でもない」

 彼はそのまま黙り込んでしまったため、治療室を後にした。ギャロンは治療室の外にはおらず、代わりの服を取りに割り当てられた自室へと向かう。

「……」

 その道中、考えるのはあの男が最後に私を呼び止めた理由。何を言うつもりだったのだろうか。サイのこと? ゼオンのこと? 私のこと? それとも、私では考え付かないようなこと?

 わからない。あの男の思惑も、サイのことも、ゼオンのことも――私のことも。

 考えれば考えるほど深みにハマり、抜け出せなくなっていく。この戦いが始まるまで私は何を考え、何を目標に生きていたのだろう。わかりきっていた答えだったはずなのにそれが本当に正解なのかわからなくなるほど私は私を見失ってしまっていた。

「……た、くっ」

 

 

 

 そして、堪えきれなくなったのか、力が抜けて壁にもたれかかるようにその場で座り込んでしまった。咄嗟に口から漏れかけた言葉は何だったのだろう。わかりきっているはずの答えなのに私は見て見ぬ振りをしてそっと目を閉じた。

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