やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「……」
『ファウード』の脳へ繋がるエレベーターが静かに昇る。エレベーターの中にいる皆は黙ってエレベーターが到着するのを待っていた。しかし、人数はエレベーターの入り口に着いた時より一人、少なくなっている。
エレベーター前で行われた戦闘は『ファウード』の力を得たファンゴの強大な術により、激闘となった。しかし、ウマゴンのスピードを活かした連携により敵を壁に追い込んだ後、リーヤの最大呪文で一網打尽にした。だが、倒したはずのザルチムは咄嗟にファンゴの体を盾にして生き残り、隙を突かれてしまった。その結果、リーヤの魔本は燃やされてしまい、大切な仲間を失ってしまったのである。
「……っ」
また、何もできなかった。閉じ込められたエレベーターの中で仲間を傷つくのを見ているしかなかった。きっと、他の皆も同じ気持ちだろう。
清麿君はギリギリのところで一命を取り戻したものの、心肺停止になるほど痛めつけられた。
八幡君はサイちゃんを守るためにその体一つでゼオンの電撃を受け続け、生死不明。
ウォンレイはウン――あの怪物の自爆から私たちを身を挺して守ってくれた。
そして、今回のリーヤ。
千年前の魔物たちと戦った時、デモルトの術を受けきれずに自分の力不足を呪った。
でも、今回は違う。守ろうとすらさせてもらえなかった。何もさせてもらえなかった。それがこれほど辛いとは思わなかった。
「……」
『ファウード』が日本に到着するまで残り15分。ゼオンのいる脳へ行くにはあと二つの部屋を通過しなければならない。ゼオンから『ファウード』のコントロールを奪うことを考慮すれば一つの部屋を通過するのに5分もかけられないだろうとサンビームさんは言っていた。もちろん、それぞれの部屋に私たちを邪魔をするために敵が待ち伏せしているだろう。
「メ、メル……」
エレベーターの床に傷だらけのウマゴンが倒れている。サンビームさんも一人で立っているものの、ボロボロだ。心の力だってほぼ使い切っている状態。ガッシュ君も清麿君が目を覚まさなければ術は使えない。そう、満足に戦えるのはティオ、キャンチョメ君、モモンしかいないのである。
ティオは守りの術が主体で攻撃力はほぼ皆無。キャンチョメ君の『ディマ・ブルク』は強力な呪文だが、相手は『ファウード』の力を得ているはず。それだけで倒せると思わない方がいいだろう。モモンもティオと同様、変則的な術ばかりで直接的な攻撃呪文は持っていない。
もちろん、『サイフォジオ』ならサンビームさんとウマゴンを回復することは可能だ。しかし、こんな狭いエレベーターの中では『サイフォジオ』は使えないため、時間もないことから移動を優先したのである。
(もし、八幡君とサイちゃんがいたら……)
サイちゃんも直接的な攻撃呪文を持っていなかった。それでも彼女は強かった。戦い方を知っていた。どんな強力な攻撃呪文を持っている相手でも臆さずに前へ踏み出し、八幡君と共に驚くような方法で戦っていた。きっと、ここに彼らがいれば心強かっただろう。
「……」
でも、八幡君とサイちゃんはここにはいない。私たちと一緒に戦うことを選ばず、自分たちだけで『ファウード』を止めようとした。
ギュッと拳を握る。駄目だ、思考が悪い方向へ向かっている。このまま戦いに挑んでも気持ちで負けてしまう。こんなことでは適切な判断ができなくなる。今は時間がない。目の前のことに集中しなければ。
「着いたぞ!」
フォルゴレさんの声にハッとして顔を上げる。いつの間にかエレベーターが2階に着いていた。ティオの魔本を掴む手に力が入る。皆が警戒しながらエレベーターを降りていくのを見て私もその後に続いた。
「ヌゥ、これは!?」
部屋に入ったガッシュ君が目を見開き、声を荒げる。もちろん、私も目の前の光景に言葉を失っていた。
私たちを出迎えたのは扉。だが、問題はその数。四方の壁一面に等間隔に扉が並んでいる。そんな異質な部屋に少しだけ寒気がした。
「この、扉は……」
「フッ、この扉の中で一つだけ上の階へと繋がっている。『数の鉄扉』という罠さ」
サンビームさんの呟きに答えたのは部屋の中央に立つ鎧を着た魔物だった。その隣には『ファウード』に降り立った時にハイルと一緒に戦っていたチェリッシュという女の子の魔物が立っている。しかし、彼女の顔色は青く本調子ではなさそうだ。
「上に行きたければそのたった一つの扉を探し当てるこった。まぁ、扉は800個あるがな」
「800!?」
チェリッシュの様子も気になったが鎧の魔物が発した言葉に思わず叫んでしまった。ただでさえ時間がないのに800個の扉の中からたった一つの正解の扉を探すのはあまりに時間がかかってしまう。それに奴らも私たちが正解の扉を探すのを黙って見ているわけではないだろう。
「フハハハ、それがどうした! だったらとにかく片っ端から開けてくまでよ!」
「『コファル』!」
「ぎゃあああああああ!」
「うわーん、フォルゴレー!」
いつの間にか近くの扉に飛びついたフォルゴレさんだったがチェリッシュの宝石を受けて悲鳴を上げる。慌ててキャンチョメ君が助けに向かった。
「バカが……我らが邪魔をせぬわけがなかろう」
「くっ、どうする? 奴らを先に倒してから本物の扉を探すか!?」
「いや、それでは時間がかかりすぎる! その間に『ファウード』が日本に着いてしまう! 奴らを止めつつ、同時進行で扉を開けていくしかない!」
「よし、『ディマ・ブルク』!」
アリシエとサンビームさんが冷静に作戦を立てた。そして、チェリッシュの宝石を受けたはずなのにほぼ無傷なフォルゴレさんがすぐにキャンチョメ君の分身を生み出す。
「キャンチョメの分身が奴らの攻撃を防ぐ! その間に皆で扉を開けまくるんだ!」
私たちの人数は扉を開けられないウマゴンを抜かして10人。その内、敵の攻撃を防ぐフォルゴレさんとキャンチョメを抜かしても8人いる。一つの扉を開けるのに10秒もかからないので800個の扉も手分けをすればすぐに開けられるだろう。
そう考えたガッシュ君たちが一斉に扉に飛びつき、そのドアノブに手をかけた。
「フッ、バカめ。全員で探せば早く見つかるって考えだろうが……」
「ヌッ!? ぐ、お、おおおおおおお!」
「その扉、やたら重くて魔物の力でもなかなか開けられねぇぜ」
鎧の魔物の言葉通り、怪力のガッシュ君ですら少しずつしか扉が開かない。成人男性であるサンビームさんやアリシエも全力でドアノブを引っ張っているが扉は素直に開いてくれない。これでは非力である私やシスターでは開けることすらできないかもしれない。
「そ、んな……」
これが『数の鉄扉』。時間のない私たちにとって最悪の罠だ。私は思わず奥歯を噛み締めてしまう。
いや、結果からしてみればまだ鎧の魔物とチェリッシュを相手にしながら鉄扉を開けた方が楽だったかもしれない。
だが、それはあくまで『たられば』の話。現実はより一層、最悪へと向かっていく。
「ッ――」
その時、この部屋にいる全ての生き物が息を呑んだ。私たちも、敵である魔物も。
膝から崩れ落ちそうになるほどの肩に降りかかる重圧。氷の術を受けてしまったと錯覚しそうになる悪寒。
あまりの
そんな異常事態に全員が言葉を失う。何が起きた? 何が起こる? これもゼオンの罠? いいや、違う。多分、そうじゃない。そうじゃないけど、誰もこのイレギュラーに対応できないである。
(でも――)
それでも、一つだけ確信したことがあった。きっと、私だけじゃない。全員が同じ思考を持っただろう。
決して良くないナニかがこちらに近づいてくる。そして、本能が今すぐここから逃げろと訴えかけていた。
「う、そ……これ、は……」
そんな中、ただ一人だけその正体に気づいたのか。チェリッシュは顔を真っ青にして後ろを振り返った。それとほぼ同時に一つの扉がスムーズに開いた。ガッシュ君ですら少しずつしか開けられない鉄の扉。それを簡単に開けたのである。
「きゃはっ。やっと、見ーつけた」
その扉の向こうから顔を出したのは綺麗だった黒髪の