やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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前回からわかりますよう、ここから原作改変がございます。ご注意ください。


LEVEL.270 蝙蝠少女は全てを見捨てる

 チェリッシュと鎧の魔物の背後の壁。下から12段目、左端から7番目の鉄扉。その扉を開け、顔を覗かせたのは私たちの仲間であるサイちゃんだった。

 だが、その姿はあまりに異常だった。大きな違いはあんなに綺麗だった黒髪は頭の頂点を除き、澄んだ群青色に染まっているところだろうか。

 それに加え、彼女はこちらを見下ろして笑みを浮かべている。大切な本の持ち主(パートナー)である八幡君が死んでいるかもしれないこの状況なのに。

「サイ、ちゃん?」

 思わず、私は彼女の名前を呟く。それが聞こえたのか、彼女は私の方を見てより一層、笑みを深めた。

「サイ? サイ? ワタシのこと? サイ、ああ、(サイ)? そう、ワタシは災。これからよろしくね」

 ニコニコと笑いながらそう言うがやはり正気を失っているのかその言動は少しだけ不気味だった。よく見れば目の虹彩や瞳孔も彩度の差異はあるが群青色に染まっている。

「お前がゼオン様の言ってた災か! ここで倒せばきっと喜んでくださる!」

 その時、鎧の魔物がサイちゃんを指さして叫ぶ。そして、凄まじい脚力でサイちゃんのいるところまで一気にジャンプした。

「っ! 駄目、ギャロン!」

「『アム・バスカルグ』!」

「ゼエエエエエイ!!」

 チェリッシュが鎧の魔物――ギャロンを止めようと悲鳴を上げるがそれとほぼ同時にギャロンの本の持ち主(パートナー)が術を唱えてしまう。ギャロンの右腕が輝き、それをサイちゃんへ全力で振るった。

「な、何!?」

 だが、ギャロンの振るった拳はサイちゃんに当たる前にピタリと静止する。まるで見えない壁を殴ったようだった。きっと、ギャロンもファンゴと同じように『ファウード』の力を得ているだろう。その身体能力は遥かに向上しているはず。

「くっ……」

 それなのに見えない壁にぶつかったまま、ギャロンは動かない。力を込めているのか、ギリギリと右腕は震えているのに全くサイちゃんには届かない。

「……へぇ?」

「っ!? 全員、伏せてえええええ!!」

 目の前にいるギャロンを見つめていたサイちゃんだったが楽しそうに声を漏らす。それを見たチェリッシュが絶叫。

 

 

 

 

 そして、世界は群青色に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 私たちは『ファウード』の通路を歩く。目指すのは『ファウード』の肛門。確か、あそこに体内に溜まったガスを噴出するための大穴があったはずだ。そこで待っていればいずれ穴が開き、外に出ることができるだろう。淑女としてあるまじき行為だが、今はなにふり構っていられない。何もかもが手遅れになる前にここから離れたかったのだ。

「……ハイちゃん」

「何よ」

「……ううん、何でもない」

 後ろを歩くユウトは何かを言いかけたが特に話すことなく、口を閉ざす。いいや、わかっている。彼が言いたいことぐらい、これまでの付き合いで容易に察することができた。

 でも、あえて聞かない。意図的に気付かないふりをする。そうでもしなければ私は今度こそ壊れてしまうから。

「っ……この匂い……」

 リオウから教えてもらった移動装置を利用し、『ファウード』の肛門に着いたがすでにガスが溜まっているようで強烈な異臭に顔をしかめる。ユウトもへにょっとした情けない顔をして息を止めていた。

(あれ、魔力反応?)

 その時、充満しているガスの中に魔力を感知する。ここに魔物がいる? もしかして、私たちと同じように『ファウード』を脱出しようとしている人がいるのだろうか。

「ッ――」

「ハイちゃん!? 大丈夫!?」

 だが、その正体を確かめる前に遠いところでサイちゃんの魔力が爆発した。しかし、その魔力はあまりに大きく、ここまでその衝撃が届くほどであり、その魔圧にその場でくらりと眩暈がした。そんな私の肩をユウトが慌てて支える。

「え、ええ……大丈夫よ」

「でも……」

「いいから。早く脱出するわ。これだけガスが溜まっているのなら――」

 大丈夫と伝えても心配そうにしているユウトに苦笑を浮かべながらそう言いかけたが、それを遮るように甲高い音が鳴り響いた。

『『ファウード』の肛門辺りで異常発生。腹痛のため、高速移動を一時的に停止します』

「これは……」

「このガスでしょうね。さぁ、ユウト。急ぐわ。ガスを噴出してから穴が閉じるまでそこまで時間はないでしょうし」

 ゼオンと会話しているのだろうか、少し違和感を覚えるアナウンスを聞き流しながら私はユウトを抱きしめる。そして、その場で姿勢を低くした。

『『ファウード』、ガス排出まで3秒前、2、1――噴出』

「ぐっ」

 肛門に溜まったガスが一気に外へ排出される。その風圧に吹き飛ばされそうになるが踏ん張って耐えた。きっと、軟弱なユウトならガスと共に外へ放り出されていただろう。

(よし、止まった。あとは急いで外に――)

「なっ」

 翼を大きく広げ、今まさに飛び立とうとした時、肛門に大きな飛行機が突入してきた。慌てて動きを止めると私たちの目の前で飛行機が停止する。

(飛行機の中に魔力が一つ)

 その奥では少しずつ閉じていく穴が見えたがさすがにこの飛行機を放置できない。中に魔物が乗っているからだ。下手をすれば後ろから攻撃される可能性だってある。逃げるのはどんな魔物が乗っているか確認してからだ。そう思いながら警戒していると飛行機の外側に何かがくっついているのが見えた。

「……パピプリオじゃない」

 それはリオウが集めた力の一人である小さな王冠を被った魔物の男の子、パピプリオとその本の持ち主(パートナー)であるアフロが目立つルーパーだった。もしかしたら、あの大量のガスを発生させたのか彼らなのかもしれない。少し話しただけだったが、臆病な奴だったので『ファウード』をゼオンに乗っ取られた時点で逃げ出したのだろう。向こうは私たちに気づいていないようで飛行機から落ちた後、怒った様子で飛行機の周りをぐるぐるしている。脱出しようとした時、飛行機にぶつかって戻ってきてしまったのだろうか。

「行くぜ、テッド!」

「おう!」

 そして、やっと飛行機から正体不明の魔物がバイクに乗って降りてきた。バイクのハンドルを握る白い髪が特徴的な中年の男性とその後ろに乗っているリーゼントが決まっている金髪の男の子。後ろの男の子が魔物――テッドだ。

(この魔物……)

 強い。それがすぐにわかるほどあの魔物は風格があった。さすがここまで生き残っている魔物だ。そう感心せざるを得なかった。

「待ってー! お願い、この飛行機に私たちも乗せて! ここから脱出したいの!」

 だが、そんな彼らにルーパーが叫びながら駆け寄る。敵か味方かわからない相手に無防備に近づくのは得策ではない。

「なんだ、お前ら? 駄目だぜ、この飛行機はオレの仲間が戻るまでここで待機すんだ」

 だが、テッドは良識を持ち合わせていたようですぐに攻撃することはなく、丁寧に説明までしていた。

 仲間。もしかして、彼らはガッシュたちの仲間なのだろうか。もしそうなら『ファウード』を止めるためにこんな危険な場所まで来たことになる。

「ええー! なんでだよ、お前たち何しに来たんだよ!」

「友達を助けに来た。清麿って友達からメールを貰ってな。そのメールの指示でアポロと連絡を取って飛行機で合流したのさ」

 パピプリオの質問に答えたことで私の推測が正しかったことがわかった。

 

 

 

 ――今はガッシュたちと合流してくれ!

 

 

 

 不意に八幡の言葉を思い出す。彼は私にガッシュと合流するように言っていた。サイちゃんが倒れ、ゼオンを前にしても私の友達2号は諦めずに次の一手を考えていた。

 でも、私はそれを無視して『ファウード』から逃げようとしている。なんと情けない奴なのだろうか。これでは『ツペ家』の再建など夢のまた夢である。

 しかし、駄目なのだ。ガッシュたちと合流したところで何の意味もない。災が復活した今、『ファウード』にいる全員が殺されるだろう。そう、あのゼオンでさえも。

「お前も逃げるのか?」

「ッ……」

 その言葉にハッとして顔を上げる。そこには私をじっと見つめるテッドがいた。

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