やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「これ、は……ひでぇな」
バイクから降り、私の隣に立ったテッドが眉間にしわを寄せながら呟く。彼の言葉どおり、部屋はあまりに悲惨な状態になっていた。
リオウの事前情報ではこの部屋は四方の部屋が重い鉄の扉を敷き詰められた『数の鉄扉』という罠が施されていたはずだ。800もの扉の中からたった一つしかない正解の扉を見つけなければ上の階に行けない時間稼ぎにはもってこいの罠。
しかし、その扉は何かに吹き飛ばされたように壁から剥がされ、地面に落ちていた。また、そのほとんどが私たちが乗ってきたエレベーター側の壁に叩きつけられ、残骸が地面に散らばっている。
それに加え、天井が崩落したらしく、鉄扉の残骸と混ざるように大きな瓦礫が壁際にゴロゴロと転がっていた。そのくせ、部屋の中央には瓦礫などは落ちていない。もしかしたら私たちの正面の壁側から凄まじい勢いで何かが放出され、鉄扉や天井、瓦礫を全て
(でも、エレベーターは壊れてない?)
チラリとエレベーターの方を振り返った。多少の損傷は見受けられるがきちんと稼働しているのは実際に乗ったから知っている。鉄扉や天井を崩壊させるほどの威力で放たれた何かに耐えられるほど頑丈にできているとは思えない。
(まさか……)
「誰もいないのか?」
嫌な予感がして咄嗟に周囲の魔力を探るのとテッドが言葉を零したのはほぼ同時だった。魔力反応、複数あり。それもその全てが私たちの背後の壁に転がっている瓦礫の下からだ。
「違う! 魔力反応がいくつかある! 全員、瓦礫の下!」
「なっ!?」
私の叫びに目を丸くしたテッドは慌てて瓦礫の方へ駆け出す。そして、手当たり次第に瓦礫を退かし始めたが少しだけ魔力反応から離れている。
「テッド、そこよりもうちょっと右に3つの反応があるわ! 残りの反応はパピプリオの真後ろ!」
「お、おう!」
さすがに瓦礫に生き埋めになっていると聞いて手伝わないわけにはいかないと思ったのか私の指示にパピプリオも素直に頷いてくれた。テッドも凄まじい勢いで瓦礫の山を退かしていく。あそこはテッドに任せていい。問題は――。
「ルーパーとジードはパピプリオと一緒に瓦礫をお願い! ユウト、構えて!」
「ぇ、あ、うん!」
「おい、構えってどういう――」
「――こういうこと、よ!」
テッドが困惑したようにこちらを振り返そうとした時、私は拳を突き出す。それとほぼ同時に視界が群青色に染まった。そして、その正体を認識する前に私の体は簡単に後ろに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまう。肺から強制的に酸素を吐き出されてしまい、苦痛に顔を歪めた。
「ぐっ、ユウトおおおおお!」
「『ギガノ・キロガルルガ』!」
だが、怯んでいる暇はない。ユウトが出してくれた巨大な鎌を出鱈目に振り上げる。普段なら情けないほどキレのない一閃。でも、鎌の巨大さに助けられ、追撃してきた何かと鎌の刃が激突する。体のほとんどが壁に埋もれているおかげで踏ん張りが効き、相手の動きを止めることができた。
「なっ、サイちゃ――」
そして、私を攻撃してきたのが髪のほとんどが群青色に染まったサイちゃんだと気づき、目を見開いてしまう。この部屋にある魔力反応は全て瓦礫の下だった。サイちゃんの魔力は全く感じられなかった。きっと、彼女の『魔力隠蔽』のせいだろう。なんとか初撃を防げたのは瓦礫の下にいる人たちを救助しようとしたと同時に私を貫いた殺気のおかげだ。
「――きゃはっ」
私が驚愕した瞬間、サイちゃんが笑う。その直後、視界がぐるりと回転して地面に転がっていた。そのまま、息を吸おうと口をパクパクと動かすがゴボリと聞き慣れない音と一緒に血を吐き出す結果になってしまう。
(なに、をされ……)
チカチカと瞬く世界の中、私は茫然と今の状況を整理しようとした。おそらく、サイちゃんに何かされたのだろう。でも、それを全く認識できなかった。
「ハイちゃん!」
「まだ壊れてない? 壊れてないの? へぇ、頑丈なんだね」
私に駆け寄ってくるユウトとサイちゃんのはしゃぐ声が聞こえた。駄目だ、このまま倒れていたら今度こそ殺される。ふらふらと立ち上がるも口内に広がる鉄の味に顔をしかめた。
「ハイちゃん、大丈夫!?」
「え、ええ……けほ、今のは?」
「わからない……あの子が何かを放ったと思ったらハイちゃんが何かに操られるように地面まで叩き落されてて」
放つ。その言葉に『ファウード』の客室でサイちゃんの『魔力放出』を受けて窓から外へ叩き出されたことを思い出した。あの時は小さな魔力の塊を何度もぶつけられて外へ誘導されたはずだ。もしかしたら今回も同じように『魔力放出』によって地面に叩きつけられてしまったのかもしれない。
(それにしたって……)
サイちゃんの『魔力放出』はそこまで性能は良くなかったはずだ。普段は自分の足の後ろからジェット噴射するように放出して速度を上げたり、横に放って回避に使っていた。
「ユウト、覚悟しなさい」
「え?」
拳を握りしめながら前を向く。そこには私たちを見てケラケラと笑うサイちゃん。あの子はあんな下品な笑顔を浮かべない。あんなおぞましい魔力を持っていない。
「あの子はサイちゃんじゃないわ……災よ」
そうだ、あれは私の家を潰した――私以外の『ツペ家』を皆殺しにした化け物。私の仇敵。なんとしてでも殺したい奴。
(それでも――)
「さぁ、ぶん殴って目を覚まさせてあげなきゃ」
「ッ……うん」
こうして彼女を前にしてわかった。やっぱり、私はサイちゃんと友達になりたい。その気持ちは変わらない。何も変わらなかった。
「くそっ……どんだけ瓦礫あんだよ!」
ペッと口から血の塊を吐き出すハイルがサイと対峙するのを尻目に乱暴に瓦礫を退かす。あいつがサイに殴られるまでサイがこの部屋にいることに気づかなかった。いや、殴る直前に凄まじい殺気が部屋を満たすまで何も感じられなかったのだ。
(ほんとにあれがサイなのか?)
瓦礫を退かすついでに髪が群青色に染まったサイを観察する。見ているだけで背筋が凍り付きそうなほどの
(くそ、急いで加勢しねぇと!)
ハイルは確かに強い。『ファウード』の肛門で会った時からわかっていた。だが、あれは次元が違う。一人で戦えば時間稼ぎすらできない。だから、急いで加勢に入らなければハイルは魔本を燃やされる前に殺されてしまう。
「おい、無事か!」
その時、やっと瓦礫の下から誰かの手が出てくる。オレの声にピクリと反応したから生きているのは確か。急いで周囲の瓦礫を投げ捨て、その手を掴んで引っ張り上げた。
「ッ!? おま、え……なん、で……」
「ぅ……テッド?」
そして、その手の先にいたのはこの戦いが始まってからずっと探していた魔物――チェリッシュだった。