やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.273 彼らは再会する

 瓦礫の下から引っ張り上げたのはオレがずっと探していた魔物、チェリッシュ。頭から血が流れ、服もボロボロだが意識はある。この程度の傷なら動くことに支障はないだろう。

「とにかく、他の瓦礫も退かすから待ってろ!」

 駄目だ、今は時間がない。チェリッシュの手を離したオレは急いで他の瓦礫を適当に投げ捨てていく。きっと、清麿のメールにチェリッシュがいたことが書かれていなければもっと動揺していただろう。本当は『ファウード』を止めた後に探す予定だったが、少しだけ再会が早まっただけ。

「……」

 だが、チェリッシュの様子がおかしいのも事実だ。お互いに聞きたいことがあるはずなのに何故か会話がない。作業しているオレはともかくチェリッシュはジッとこちらを見つめていた。

「……ねぇ、テッド」

「あ? もう少し待ってろ。これを退かせばそこから出られるからよ」

「あれを、見ても……何も思わないの?」

「は?」

 その言葉に顔を上げると彼女はオレの後ろを指さしていた。振り返るとそこには見つめ合っているサイとハイルがいる。相変わらず群青色に染まっているあいつからおぞましい気配を感じるがあれは間違いなく、オレたちが知っているサイだ。

「確かにサイの様子はおかしいけど、一発ぶん殴れば治るだろ?」

「そんな簡単に言わないで!!」

「ッ……チェリッシュ?」

「あれは……違うの。そういう次元じゃないの……もう、何もかも終わりなの」

 瓦礫を退かしたのに何故か動こうとしないチェリッシュ。何かに怯えるように自分の体を抱きしめ、ガタガタと震えていた。

「ちぇ、チェリッシュ……お前……」

 魔界にいた頃のチェリッシュはいつも弱かったオレたちを助けてくれた。生きるために世話を焼いてくれた。強くて、キレイで、どんな時でも弱いところを見せなかった。

 そんな彼女が子供のようにその場に蹲って恐怖に体を震わせている。咄嗟に声をかけようとしたが言葉が出てこず、伸ばしかけた指先が情けなく宙に浮いていた。

「ッ――」

 その時、オレたちのすぐ隣を何かが通り過ぎて壁に叩きつけられた。土煙が舞い、その正体が見えない。しかし、今の状況から壁に叩きつけられた人物は容易に想像できる。

「ああああああああああ!!」

 そして、その答え合わせをするように土煙を吹き飛ばしたのは口から血反吐を吐き散らしながら咆哮するハイルだった。その手には刀身が折れた巨大な剣の柄を持っており、大きな翼を広げて飛翔する。

「ユウトおおおお!」

「『ギガノ・ハバガルルガ』!」

 そのまま剣の残骸をサイへ投げながら本の持ち主(パートナー)の名前を叫ぶ。それに答えるようにユウトが呪文を唱え、ハイルの手に巨大なハルバードが出現。

「ちっ、とにかく今は瓦礫の下に埋まってる奴らを助けるぞ! お前も手伝え!」

「ッ……ニコル!」

 後方から凄まじい戦闘音が響く中、チェリッシュの手を強引に引っ張って立たせる。そのおかげで彼女の思考を切り替えられたようでオレの隣で瓦礫を退かし始めた。

「ニコル!? それは誰だ!」

「私の本の持ち主(パートナー)よ! あの子(・・・)のおかげで私たちはまだ軽症で済んだけど人間が瓦礫に埋もれたままなのは危険すぎるわ!」

 この戦いの中、オレとジードのように絆を結んだのだろう。チェリッシュは叫びながら必死の形相で瓦礫を投げ捨てていく。それを見て少しだけ胸の奥がもやっとした。

「ちっ、あの子ってのは!? ハイルの話だと瓦礫の下には魔物が3体いるって言ってたが」

「っ……一人はゼオンの手下できっと手遅れ(・・・)よ! でも、あの子はまだ――」

 『手遅れ』という言葉が気になったが、チェリッシュが何かに気づいて手を止めた。そして、オレの耳にも瓦礫の下からパチパチと何かが燃える音が届く。

(まさかっ……)

 この状況で燃えるものといえばオレたちが人間界に存在するために必要な魔本以外考えられない。もしかして、チェリッシュの魔本が燃えてしまったのだろうか。いや、隣にいるチェリッシュの体は透けていないからオレの早とちりだ。だが、そうだとしても緊張せずにはいられなかった。

「これ、は……」

 チェリッシュと協力して巨大な瓦礫を後ろへ投げるとその下からすでに消えかかっている鎧の魔物が出てくる。その半透明の体の奥にはこいつの本の持ち主(パートナー)の姿もあった。その男の手の先には燃え尽きそうな魔本。大方、本の持ち主(パートナー)を身を挺して守ろうとしたが守り切れずに魔本を燃やされてしまったのだろう。

「ギャロン……」

 チェリッシュは特に感情の籠っていない目で消えていく鎧の魔物の名前を呟く。そして、それとほぼ同時に魔本が燃え尽き、ギャロンと呼ばれた魔物は人間界から姿を消した。

「……早くお前の本の持ち主(パートナー)を助けるぞ」

「……ええ」

 後ろの戦闘音はまだ続いている。だが、サイの狂った笑い声とは裏腹にハイルは苦しそうな呻き声や絶叫を上げながら戦っているようだ。急いで加勢しなければハイルがやられてしまう。

「ッ!? お、おい!」

「ニコル!」

 ギャロンの本の持ち主(パートナー)を助け出し、比較的安全そうな場所へ置いた後、瓦礫の撤去作業を再開。そして、すぐにチェリッシュの本の持ち主(パートナー)と思わしき男とその男に重なるように気を失っている馬の魔物――ウマゴンを見つけ出した。

「ウマゴン! しっかりしろ、おい!」

 こいつはガッシュの家にいた魔物であり、清麿の仲間。幼すぎるせいで『メル』しか話せないがそれでも一緒に飯を食べ、少しだけだが一緒に遊んだ仲だ。

「この子、ウマゴンっていうの?」

「ああ……って、もしかしてこいつが」

「ええ……でも、どうして敵である私を……」

「まさかっ!」

 ガッシュの家を出る直前、オレは皆に少しだけチェリッシュの話をした。その時、ウマゴンもいたのでその名前を憶えていたのだろう。

「ウマゴン……」

 ニコルを守ろうと小さな体を広げているウマゴンは傷だらけだ。だが、その中に火傷の後もあり、この階層に来る前にも戦っていたのかもしれない。つまり、大怪我を負った状態でチェリッシュたちを守ったのだ。

「おい、テッド! こっちを手伝ってくれ!」

「ああ! チェリッシュ、ここにはもう誰もいないよな!?」

「ええ、おそらく」

 オレたちの動きが止まっているのに気付いたようで後ろからジードの焦った声が聞こえる。オレはウマゴンを抱き上げ、チェリッシュはニコルに肩を貸してジードの方へと駆け出した。きっと、向こうの瓦礫の下にガッシュたちがいる。急いで助け出さなければ手遅れになるかもしれない。

「……急がなきゃ」

 慌てていたせいだろうか。それとも、チェリッシュに限ってそんなはずないと信じ込んでしまったのか。オレの頭からはチェリッシュの様子がおかしいことなどすっかりすっぽ抜けていた。

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