やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「テッド、こっちだ!」
「おう……って、なんだこれ」
ジードの近くまで移動し、そっとウマゴンを降ろしたオレは急いで瓦礫に手を伸ばす。だが、瓦礫と瓦礫の間から助けを求めるように上に向かって伸ばされた誰かの左腕に目を丸くしてしまった。二の腕の部分に変なひらひらが付いているし、意識はあるようでオレたちの会話に反応するようにずっと手招きをしている。
「お~い……お~い……」
「なんか聞こえんだけど」
「瓦礫を移動させていたら急に出てきたんだ。だが、周りには大きいのばかりで出てこれないらしい」
なるほど、確かに腕の周りには人間では動かせそうにない瓦礫ばかりが落ちている。普通なら瓦礫に潰されて死んでいそうだが、この腕の主は奇跡的に圧死せずに済んだようだ。
(あの王冠は……)
「おい、ルーパー。これ、いつまで動かせばいいんだ?」
「とにかく言われたとおりにしましょ! また殴られちゃうわ!」
チラリと周囲を見渡すと『ファウード』の肛門で出会った王冠を被った魔物は別のところで作業をしていた。ガッシュたちの仲間は今のところ、傷だらけのウマゴンしか見つかっていない。この腕の下から全員が出てくる保証はないので広範囲の捜索が必要になる。あのままにしておいた方がよさそうだ。
「とにかく大きいのを退かすからジードは細かいのを頼む! チェリッシュ、手伝ってくれ!」
「え、ええ」
まだ状況を把握しきれていないのか、歯切れの悪い返事をしたチェリッシュだったがニコルをウマゴンの隣に寝かせた後、オレの隣で瓦礫を退かし始めた。
一人でも持てるが大きすぎて動かすのが大変な瓦礫をチェリッシュと一緒に捨てているとふと魔界にいた頃を思い出す。あの頃もこうやって土木工事の手伝いをして金を稼いでいた。トラブルも多かったし、怪我が絶えない日々だったが今となってはいい経験だったと思う。
そんなことを考えていたせいか、無意識に隣で作業するチェリッシュをチラ見する。相変わらずキレイな髪だし、いい匂いするし――。
「お~い……お~い……」
「……」
「……」
「お~い……お~い……」
「うるせぇな! 今、助けてやっから黙ってろ!!」
――思わず、瓦礫の下に向かって叫んでしまった。オレの怒声が聞こえたのか、左腕はビクリと震えてシュンと大人しくなる。
「これで、最後っと」
そのおかげで作業に集中することができ、瓦礫の撤去作業もすぐに終わった。
「いやぁ、助かったよ! このパルコ・フォルゴレでもキャンチョメを庇いながら瓦礫を持ち上げるのは無理だったからね!」
そして、左腕の主――フォルゴレは目を回しているアヒル顔の魔物を右脇に抱えながら大笑いしながら瓦礫から出てくる。その右手には魔本を持っているため、この男は人間なのだろう。頭から血は流しているがこんな大きな瓦礫の下敷きになっても気を失わずにいたのは運が良かったのか、それともこの男が頑丈すぎるのかわからない。
「おい、怪我は大丈夫なのか?」
「ああ、キャンチョメの分身が身を挺して守ってくれたおかげでね。きっと、この付近に他の皆も埋まっているはずだ。急いで瓦礫を退かそう!」
さすがに同じ人間として怪我の心配をするジードだったが、フォルゴレは軽くそれを流す。そして、アヒル顔の魔物をウマゴンの隣に寝かせた後、瓦礫を持ち上げた。魔物ならともかく人間が持つには大きすぎるそれを運んでいる姿に少しだけ驚いてしまう
「お、おう」
ガッシュの仲間は面白い奴ばかりなのか。そう思いながらオレも大きな瓦礫を優先して退かしていく。
「ッ! ガッシュ!」
そして、やっと見覚えのある金髪を見つけ、声を荒げてしまった。その声がきっかけとなり、ガッシュの瞼がピクリと動く。
「う、ウヌ……テッド、なのか?」
「ああ、助けに来たぞ! 今、引っ張り上げてやるからな!」
邪魔な瓦礫を投げ捨て、ガッシュの右手を掴んで助け出す。ウマゴンほどではないがガッシュもボロボロだ。
「テッド、こっちにも人間が二人!」
「こっちもだ! なんだ、この……兎と猿を足して2で割ったような顔の奴だ!」
チェリッシュとジードの声で振り返るとその言葉通り、ガッシュの仲間たちを助け出しているところだった。
「ガッシュ、あとは誰がいない!?」
「ヌッ!? ティオたちがいないのだ!」
「何人だって聞いてんだよ!」
「5人なのだ! ティオたちは少し離れたところに一緒にいた!」
「よし来た!」
チェリッシュたちの方はもう少し時間がかかりそうだが、任せていいだろう。それに一緒にいたのなら吹き飛ばされていない限り、同じ場所にいるはず。
「ガッシュ、お前はフォルゴレって奴の方を手伝え! オレは王冠の――」
「ガハッ」
「くっ……」
オレはガッシュに指示を出しながら走ろうとした時、こちらへハイルが飛ばされてきた。慌てて受け止めたがその勢いが凄まじく、二人まとめて壁に叩きつけられてしまう。普段から鍛えていたのでこれぐらいでは怪我などしない。だが、問題は飛んできたハイルの方だ。
「テッド!?」
「こっちは任せろ! お前は仲間を助けろ!」
ガッシュがこっちに駆け寄ろうとしていたので叫び、制止させる。一瞬だけ迷ったような表情を浮かべたガッシュだったが仲間の救出が最優先だと判断したようでコクリと頷いた後、瓦礫の山へと向かった。
「おい、大丈夫か!?」
「はぁ……はぁ……なん、とか……」
右の翼は折れ、息も絶え絶え。体も血だらけであり、今にも倒れてしまいそうだ。それほど今のサイは厄介な相手なのだろう。
「もうおしまい?」
そして、何よりハイルと戦っていたはずのサイは全くの無傷。息切れはおろかつまらなさそうに口を尖らせていた。はぐれてしまったのか、サイの
「ハイちゃん、これを飲んで!」
その時、ハイルの
「それはなんだ?」
「こ、これは『ファウード』の回復液で、です……傷とか心の力とか回復します。治療室を見に行ったついでに少しだけ持ってきてました」
水筒の中身を聞くとビクッと肩を震わせたユウトは冷や汗をかきながら教えてくれた。回復アイテム。これから戦う敵もそれを持っている可能性があるということか。
(でも、まずは――)
「どうしよっかなー。もういいかなー」
動かないオレたちを見て頭をフラフラさせながら何かを呟いているサイ。その直後、ゾクリと背筋が凍りつくほどの悪寒が体を駆け抜けた。
「ジード!」
「『ドラグナー・ナグル』!」
咄嗟に
「テッド、駄目!」
「今度はあなた?」
チェリッシュの悲鳴とサイの呑気な声が聞こえたのはほぼ同時だった。
「……あ?」
そして、オレはいつの間にか崩落してもなお、なんとか原型を留めている天井を見上げていた。