やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「ぁ、がっ……」
いつの間にか天井を見上げていたオレだったが、遅れて襲ってきた激痛に思わず呻き声を漏らす。痛みは腹部。おそらく、サイの攻撃を受けたのだろう。
(でも、何も見えなかったぞ……)
フラフラと立ち上がりながら前を見やるとサイは余裕そうな笑みを浮かべていた。体を動かした様子はない。そういえば、ハイルもあいつに変な攻撃を受けていたが今のがそれなのだろう。
しかし、ここで退くわけにはいかない。痛む体に鞭を打ち、いつものように構えた。
「テッド!」
その時、オレの隣にハイルが降りてくる。あれほどの大怪我を負っていたのに今ではすっかりそれらが治っていた。『ファウード』の回復液はそれほど強力なものなのだろう。
「サイちゃんは『魔力放出』で魔力の弾丸を放ってくるわよ。目に見えないし、弾速も桁違いだし、連射もできるわ」
「けっ、相変わらず厄介な奴だ」
見えない弾丸。なるほど、それがあの攻撃の正体か。それを連射できるとなると近づくことはおろか何もできずに叩きのめされてしまう。
「だから、私が防ぐわ」
「『リマ・シルガルル』!」
攻めあぐねているとハイルがオレを守るように前に出る。そして、それと同時にユウトが呪文を唱え、彼女の両腕に半透明な小さな盾が出現した。
「防ぐって……目に見えないんだろ?」
「私は『魔力探知』があるから何とか認識できる。でも、防ぐことに集中しないと駄目だから攻撃はあなたに任せたわ」
「……ああ、やってやる。任せておけ……ジード!」
「『セカン・ナグル』!」
サイの魔力弾に対抗する手段が思いつかない今、ハイルに任せるしかない。ジードが呪文を唱えてくれたおかげで体もそこそこ温まってきた。
「今度は二人で来るの? いいよ、おいで?」
オレたちの話し合いが終わったとわかったのか、サイは嬉しそうに手招きをする。だが、すぐに何かを思いついたように笑みを深めた。
「あ、そうだ! さすがに可哀そうだから手加減してあげる」
「手加減だぁ?」
「だって、あなたたちじゃワタシには勝てないもん」
そこで言葉を区切ったサイは右手の人差し指だけを立てた。『1』。彼女が示した数。
「だから、一発。一発でもワタシに攻撃を当てられたら見逃してあげる」
「……てめぇ、舐めんのもいい加減にしろよ!」
「え、だって――」
「ッ――」
一瞬。瞬きすらもできないほどの短いやり取り。その間にオレの顔面に向かって放たれたサイの魔力弾をハイルが右腕の盾で防いだ。
「――見えてないでしょ、これ」
「……」
サイの言葉にオレは何も言い返せなかった。本当に見えなかったし、ハイルが防いでくれなければ被弾してその場でひっくり返っていただろう。
(……だが)
ほんの少しだけわかったような気がする。確実性がないから防御はハイルに任せるがもう少しで何か――。
「テッド、行くわよ!」
「ッ……お、おう!」
駄目だ、今は戦いに集中しよう。悔しいが今のサイは今まで戦ってきた魔物の中でも最も厄介な敵だ。少しでも気が緩めばその瞬間、やられる。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸。前方ではサイの魔力弾をハイルが弾いてくれている。どうやって奴の懐へ潜り込むか。オレはその機会をじっと待つ。何か掴めるかと期待しながら。
「ッ――」
防ぐな、弾け。左腕の盾でサイちゃんの魔力弾を受けながら私は自分に対して言い聞かせた。テッドが戦いに参加してくれるまでこの魔力弾を何度も防いだが真正面から受け止めてしまったらすぐに態勢を崩してしまった。
だから、弾く。逸らす。とにかく、後ろにいる人たちに当たらないように軌道を調整しながらやり過ごす。
魔力弾が盾に触れた瞬間、姿勢を低くしながら左腕の角度を調整。魔力弾は盾の上を滑り、後方へと飛んでいく。多分、魔力弾の軌道上には誰もいないはずだ。それを確認している余裕はない。
(目で追ってたら間に合わないっ)
『魔力探知』で魔力弾の軌道は何とかわかる。だが、それらを視線で追ってから対処できない。考えている暇さえない。
「はあああああああ!!」
どうやって盾を動かすのか。どの方向へ逸らすのか。次にどう動くべきなのか。その全てを直感へ委ねる。
まっすぐ飛んできた魔力弾を右の盾で掠めるように当てながら体を回転させる。遠心力が加わり、その弾は大きく軌道を変えて右の壁へ激突。
その激突音が響くとサイちゃんに背中を見せている私は目視せずに左腕の盾で別の魔力弾を下から押し上げる。真上へ飛ばすことはできないが軌道が僅かに上にズレて後ろの壁に向かって飛んでいった。
正面を向く時間すらなく、次の魔力弾が私に向かってくる。弾の軌道上には私しかいない。翼を大きく広げ、空気抵抗を変えて態勢をあえて崩すと魔力弾が私の右頬を掠り、通り過ぎた。
もちろん、態勢を崩している私を狙わないサイちゃんではなく、狙い撃つように魔力弾が迫る。しかし、その間に正面を向くことはできたので翼をはためかせ、崩れた態勢のまま、両腕の盾を魔力弾に叩きつけてその上を飛び越えた。
私は『武姫』のハイル・ツペ。これぐらいできなければ姫を名乗る資格などない。
(とにかく、テッドのために隙を――)
「すごいねー、ちゃんと防げるんだ……じゃあ、これはどう?」
「ぐっ」
すでに数えきれないほどの魔力弾を弾いたところでサイちゃんが楽しそうに笑う。そして、魔力弾の数が増えた。形状もまちまちであり、盾を適当にぶつけると思いもよらない方向へ飛んで行ってしまうかもしれない。
(でも――)
それでも、私が何とかしなければサイちゃんを倒せない。これを乗り越えなければサイちゃんをぶん殴れない。この魔力弾の壁を壊さなければ皆が――。
「あああああああああ!」
気づけば私は淑女らしからぬ雄たけびを上げながら魔力弾の壁へと突っ込んでいた。