やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「すぅ……はぁ……」
呼吸を整える。心は熱く、頭は冷たく。常に冷静な思考を持たなければ一秒にも満たない間に状況が変わる戦闘で最適解を導き出せない。
それが魔界にいた頃、あいつとの修行で学んだことだった。もちろん、オレ自身、喧嘩っ早い性格だと自覚しているし、ほんの少しのことで心が乱されてしまう。今でも完璧にできているとは思っていない。
「すぅ……はぁ……」
だが、今のオレはこんな状況なのに不思議と落ち着いていた。きっと、これこそオレが目指すべき状態なのだろう。
目の前でハイルが小さな二つの盾で不可視の魔力弾を弾き飛ばしている。腕を振り、翼をはためかせ、雄たけびを上げながら後ろにいるオレたちを守っていた。なるほど、
「……」
ふとオレは呼吸を止める。相変わらず、魔力弾は見えない。
でも、わかる。今なら確実に行ける。そんな予感がした。
「『サーズ・ナグル』!」
「シッ」
後ろからジードの声が聞こえ、更にギアが上がったオレの視界がぶれる。無意識のうちに前へ飛び出していたのだ。目の前に両腕に装着した盾を振り回しているハイルの背中が迫る。
「ッ……」
いきなりオレが動いたからか、彼女が弾いた魔力弾が迫ってくるのが
確かに魔力弾は見えない。魔力を探知できないし、今だって本当に目の前に迫っているのか確信しているわけじゃない。
(だが、オレは――)
「らああああああああ!!」
――魔界にいた頃、あいつの理不尽な拳を何千回と受けてきた。だから、わかる。目の前に迫るあの感覚がオレの体を勝手に動かしてくれる。
オレが振るった右拳に凄まじい衝撃が走った。油断をすれば後ろへ吹き飛ばされそうになる。しかし、それでも気合で踏ん張って右腕を振り切った。その瞬間、右拳に激突した何かが弾けるのがわかる。
「よっしゃ! 行けるぞ、ハイル!」
「ッ……ええ、その調子で行くわよ!」
オレの絶叫にハイルが笑みを浮かべ、サイへと視線を戻した。感覚は掴んだ。あとはこの魔力弾の壁をぶち抜くだけ。
「おらあああああ!」
大半の魔力弾はハイルが何とかしてくれる。だから、とにかく前へ。あいつの余裕そうな顔をぶん殴れるほどの至近距離へ。
もう一度、右拳を握りしめ、オレは再び拳をふるった。
(急がなきゃ……)
私は大きな瓦礫を乱暴に退かしながら泣きそうになっていた。後ろではテッドとハイルが
「ぬぅああああああ!」
私の隣で叫びながら瓦礫を投げているのはガッシュ。すでにボロボロなのに私以上の速さで瓦礫を撤去する姿はあまりに痛々しい。
また、私たちの周りでは気絶している人間たちを起こそうとしている子や災の見えない魔力弾を警戒している人たちがいる。特にあのフォルゴレという人はパートナーであるアヒル顔の坊やを起こそうと必死に呼びかけていた。この中で術が使える可能性が高いのはあのアヒル顔の坊やだろう。
「モモン、本当にここなのだな!?」
「キキー!」
さすがに痺れを切らしたのか、ガッシュが彼の仲間であるウサギとサルを足して二で割ったような魔物――モモンに問いかけると彼は必死な表情を浮かべながら頷く。どうやら、モモンの坊やはハイルと同じように魔力を感知できるらしく、彼らの仲間がこの下にいることを教えてくれたのだ。
(でも、本当に瓦礫が多いっ……)
私たちも瓦礫の下敷きになったのだが、ここは特に酷い。いや、少し積み上がり方が違うのだ。まるで、落ちてきた瓦礫を何かで受け止め、それが消えたせいで再び瓦礫が動いて隙間がなくなったような――。
「ッ……見つけた!」
そんなことを考えていると不意に瓦礫の下から小さな手が現れる。その拍子にピクリと動いたので生きているのはわかった。私の声にガッシュたちも集まってきたので3人で協力して瓦礫を退かしていく。
「こ、これ……」
そして、瓦礫を退かした先に見たのは『ファウード』の回復カプセルに入った男性を庇うように倒れている数人の女性たちだった。その中でも魔物らしき女の子は一番上で気絶しており、頭から血を流している。きっと、カプセルに入った男性を守るために飛び込むようにして庇ったのだろう。
「ティオ! 無事か!?」
「ぅ……ガッシュ?」
「ウヌ! よくぞ無事だったのだ!」
ガッシュは一番怪我の酷い女の子を抱き上げ、声をかけた。災のあの攻撃からそれなりに時間が経っているからか、それだけでティオは目を覚まして周囲を見渡し始める。
「っ! そうだ、清麿!」
ガッシュの姿を見つけ、何かを思い出したように下を見て清麿と呼ばれた男性を見つけ、ホッと安堵のため息を吐いた。
「皆で清麿を守ってくれたのだな……ありがとうなのだ」
「ううん、それは恵が咄嗟に『セウシル』を唱えてくれたからできたの。一度、瓦礫を受け止めて勢いを殺した後、みんなでカプセルの上に……」
「恵殿が……」
二人の視線が気を失っている黒髪の女性に注がれる。きっと、必死だったのだろう。意識がないのに魔本をしっかりと掴んでいた。
「っ! そうだ、ティオ! 急いで皆を回復して欲しいのだ! 今、サイをハイルとテッドが抑えて――」
「――駄目よ」
ガッシュの言葉を私は遮った。まさか口を出されると思わなかったようでガッシュたちは驚いたようにこちらへ視線を向ける。
「な、何故なのだ!? サイを止めるために皆で戦わないとならないのだ!」
「そうよ! サイの目を覚まさなくちゃ!」
「……違うの。そうじゃないの」
ガッシュとティオの言い分はわかる。私だって仲間がいて、その子が暴走していたら止めていただろう。
「あの子は……もう手遅れよ。王様じゃなければ止められない」
「ッ……王様? それはどういう――」
「――ぐああああああああああ!」
「――きゃあああああああああ!」
私の発言の真意を確かめようとしたガッシュだったが、後ろから聞こえたテッドとハイルの絶叫に口を噤み、目を丸くする。私も急いで振り返った。
「が、ぁ……ぐ……」
「つっ……はぁ……」
「あはは、それで終わりなの?」
そこには血だらけになって倒れているテッドとハイル。そして、その前でケタケタと笑っているサイの姿があった。