やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
全ての動きがゆっくりに見える。呼吸すらしているか自覚できず、ただひたすら目の前に迫る魔力弾を弾くことに集中。
「おらぁッ!」
左後ろからそんな雄叫びが聞こえたような気がした。あえて無視した魔力弾。テッドならなんとかしてくれると信じ、別の魔力弾の処理を優先した一発。それを彼が対処してくれたのだろう。『魔力探知』はできないと言っていたがどうして不可視の弾を殴れるのだろうか。
(ううん、違う)
そんなことはどうでもいい。ほんの少し。ほんのちょっとずつ、サイちゃんの姿が大きくなっていく。
「あはは」
サイちゃんは今も笑みを浮かべながら魔力弾を放ち続けている。私とテッドが前に進んでいるというのにそれに気づいていないのか。気にするほどでもないのか。とにかく、彼女の態度は明らかに私たちを舐めていた。
「負、けるかぁ!!」
心を燻る悔しさに奥歯を噛みしめる。
サイちゃんの強さがどうとか。
テッドの燃えるような闘志がどうとか。
一歩ずつしか進めない私の弱さがどうとか。
そんなことはどうでもいい。
悔しい。悔しいのだ。こんな状況になってもサイちゃんが私を見て笑ってくれていることに喜びを感じていることが。
本当に私は弱い。明らかに発狂しているサイちゃんを見て、ツペ家を滅ぼした災を前にして、こんなに楽しそうに遊んでくれているサイちゃんを見て。
私はただ、この子が笑っていることが嬉しくて仕方ない。もしかして、友達と遊ぶのってこんな感じなのかしら?
「ははっ」
小さな盾で真正面から魔力弾を防ぎ、短く笑い声を漏らす。
ふざけるな。そんなわけがない。そんなはずがない。
私がずっと、ずっと焦がれていた女の子はあんな風に笑わない。
人を傷つけて平気な顔をしない。
後ろで救助活動を行っている皆を集中的に狙うはずがない。
だから、負けない。絶対に止める。殴ってやる。
だって、間違いを犯した友達を止めるのは友達の役目でしょ?
その時、ほんの一瞬。私が弾いた魔力弾とテッドが殴って返した魔力弾が魔力弾の壁を穿ち、サイちゃんの姿が完全に露出する。ここだ。ここしかない。この一瞬に全てをかける。
「ユウトおおおおおお!」
「ジードおおおおおお!」
「『フォルス――』!!」
「『ギガノ――』」
私とテッドの絶叫にユウトとジードが術を唱える。術を唱え終えるのに1秒にも満たない隙が生まれる。その隙を埋めるため、魔力弾の壁の穴にテッドと共に飛び込みながら両腕についていた小さな盾をサイちゃんに投げた。そして、すぐに現れる得物を掴むために手を前に突き出す。そんな私の隣でテッドもサイちゃんを殴るために右腕を引いた。
「……」
ゆっくりと進む視界の中、サイちゃんは私たちをぼーっとした様子で見上げていた。今から魔力弾を生成し、二つの盾を弾いたとしてもその頃には私とテッドが彼女の懐に潜り込んでいる。これで――。
「――きゃはっ」
そんな可愛らしい声を共にゾッとするような悪寒が私の全身を駆け巡った。
「『――ナグル』!」
「ッ……『――シルガルルラ』!」
私の目の前に現れたのは得物ではなく、巨大なタワーシールド。それを咄嗟に掴み、隣で体を覆うオーラを大きくさせたテッドに向かって手を伸ばす。
そして、私の視界は群青色に染まった。
「――ぐああああああああああ!」
「――きゃあああああああああ!」
全身を襲う凄まじい魔力の
そんな時間はそこまで長くは続かず、私とテッドはその場で地面に落ち、倒れ伏した。
「な、にが……」
「え? 生きてる? どうして?」
霞む視界の中、意外そうな声を漏らすサイちゃん。すぐに起き上がらなければならないのに体を言うことを聞いてくれない。
「あ、もしかして……守った? あの一瞬で? どうやって? あなた? あなたのせい?」
「ひっ」
不思議そうにしているサイちゃんの声に後ろからユウトが悲鳴をあげる。そうだ、あの時、ユウトが咄嗟に
「んー、どうしよっかなー。使わされちゃったし、次のステージに行ってもいいかも?」
「ぁ? 次の、ステージだ?」
私の隣でテッドが立ち上がる気配を感じ取る。サイちゃんの攻撃を受ける直前、彼は肉体強化の術を発動させていた。そのおかげで私よりダメージが少なかったのだろう。
(な、ら……私も……)
「ぐ、ぁ……はぁ……はぁ……」
私だけ倒れているのはプライドが許さない。体に鞭を打って立ち上がるとサイちゃんは変わらないあの笑みを浮かべながらゆっくりと両腕を広げていく。
「じゃあ、これはどうかな?」
「ッ――」
首を傾げながら彼女は魔力を放出する。これまでの非ではない魔力濃度に私は顔を引きつらせ、サイちゃんの思惑を理解した。
「う、そ……」
「おい、ハイル! 何かわかったのか!?」
「……はは。これは、大変ね」
サイちゃんの周囲3メートル。その範囲をドーム状の魔力が覆っている。つまり、彼女に近づくためにはこの魔力のドームを突破しなければならない。
「魔力のドーム?」
「ええ……さっき、私たちがやられたあれよ。あれに触れた瞬間、そこからミキサーに手を突っ込むみたいにズタズタに切り裂かれる」
「はぁ!?」
手短にそれをテッドに説明すると彼は目を見開く。あの魔力の旋風を受けた私たちだからこそあのドームのやばさがわかるのだ。
「だが、このまま黙ってるわけにもいかねぇだろ!」
「それはもちろんよ。だから、何か方法を――」
「――そんな突っ立てていいの?」
「は――」
ほんの少しだけサイちゃんから意識を外した瞬間、目の前に彼女の姿があった。あえて、魔力のドームを消して私たちに接近したのだろう。ギリギリ、私は翼、テッドは腕で防御したがそれでも簡単に吹き飛ばされてしまった。
「へぇ、ガードしたんだ? でも、今度はワタシも遊ぶからよろしくね」
「……よろしくしたくないね」
「そうね。もうちょっと日取りを変えてもいいのよ?」
「だーめ」
冗談を言っていないとやっていられない。そんな気持ちのまま、私とテッドは再びサイちゃんと対峙する。絶対に殴ってやる。