やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
ご了承ください。
親に捨てられた。そう自覚したのは物心がつき、両親と手をつなぎながら楽しそうに笑って道を歩く女の子を路地裏から見た時だった。
どうして、お父さんとお母さんは私を捨てたのだろう。どうして、私は捨てられてしまったのだろう。どうして、どうして、どうして。
そう、何度も問いかけたがお腹が空腹を訴えたから考えるのを止めた。そんな些細なことを気にしていられるほど私には余裕はなかった。
食料を探し回ってやっと見つけた一切れのかびたパンを細かく切って皆で分け合った。
お酒に酔った大人に身に覚えのない因縁をつけられて殴られた。
生きた。生きた。死に物狂いで生きた。
最初は縄張りを争っていた子たちが仲間になった。辛いことも多かったけれど、その分、皆で背中を支え合いながら毎日を生き続けた。
でも、その日々は長くは続かなかった。
「……」
地獄を見た。
建物は砕け、色々な場所で火災が発生しており、熱気や煙でまともに息が吸えない。
あまりにも突然の出来事だった。それまで何をしていたか、まともに思い出せない。それほどそれは唐突にこの街を破壊した。
「――! ――――!」
周囲にいる大人たちが何かを叫んでいる。おそらく、救助活動を行っているのだろう。でも、私はそんなことを気にしている暇はなかった。
「み、んな……
私の周りには仲間だったモノが転がっている。
私よりも年上で頼りになるお兄さん的ポジションだった男の子。
何度も私の頭を撫でてくれた年上の女の子。
いつも一緒にご飯を食べようと誘ってくれた年下の男の子。
他にもたくさん思い出のある子供たちが見るも無残な姿となって地面に倒れている。もう助からない。いや、すでに息絶えている。子供ながらそれがわかってしまうほど酷い有様だった。
「――――――!」
その時、また周囲の大人たちが騒ぎ始める。茫然としたまま、顔を上げるとそこにはどこかに術を放っている魔物たちがいた。だが、すぐに吹き飛ばされ、壁や地面に叩きつけられてそのまま動かなくなる。
「―――!」
別のところでは後ろで怪我をしている魔物を守ろうと守りの術を使おうとしている人たちがいた。しかし、守りの術ごと粉砕され、怪我をしている魔物もろともどこかへ消えてしまった。
強力な攻撃呪文も、頑強な防御呪文も、通用しない。そんな化け物があそこにいる。幼かった私は放心しながらもそいつの正体を確かめるために――。
「――ぁ」
違う。守りの術を粉砕したアレはまだ終わっていなかった。それがわかったのは群青色の余波に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた頃だった。
「ぅ、ぐっ……」
痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。仲間だったモノは余波でどこかへ飛ばされ、大人たちもいなくなっている。
火災によって木材が燃える音。崩壊した壁が奏でる瓦礫が転がる音。あと数分のうちに息を引き取る魔物たちの呻き声。
それを聞きながら私は再び、顔を上げた。
「……」
目と目が合う。私と同じくらいか、少しだけ年上に見える女の子。
全てが群青色に染まった髪は腰まで伸び、炎の赤に照らされている。
全てを吸い込んでしまいそうなほど澄んだ群青色の瞳に映っているのは血を流しながら怯えた表情を浮かべる私。
白い長袖のワンピースは丈が妙に短く、ボロボロで今にも落ちてしまいそうであり、僅かに顔を覗かせた彼女の太ももには無数の傷が見えた。
「……」
その群青色は私を見下ろす。私もその群青色を見上げる。
(あぁ、しぬんだ……)
幼かった私は肉食動物に見つかった草食動物のように死を悟った。このまま他の魔物と同じように群青色の旋風にすり潰されてしまうのだと覚悟を決めた。
「……?」
だが、不意にどこからか化け物に向かって術が放たれ、群青色の旋風がそれを防ぐ。どうやら、あの旋風は化け物を中心にドーム状に展開されているらしい。不思議そうな顔をしたその子はその術が放たれた方へと向かっていってしまう。
「……」
パチパチと燃える音だけが聞こえる街の中、私はその場で尻もちを付いてしまった。
もし、私の体がもう少し大きかったらあの余波の後に全てを薙ぎ払った旋風の直撃を受け、体を切り裂かれていただろう。
もし、私の背後に壁があればぐしゃりと体が潰れていただろう。
もし、ほんの少しでも力を持っていたらあの化け物に目を付けられ、殺されていただろう。
こうやって生き残っているのは奇跡に近い。いや、奇跡だったのだ。あと少しでも何かが違えば死んでいた。そう確信できるほどその群青色は圧倒的だった。
「ぁ、あぁ……」
たった数分の出来事。たったそれだけであの化け物はこの街にあったものを全て壊した。私一人だけが生き残った。生き残ってしまった。
それが幼い頃、私が経験した災の全て。
それから年月が経ち、別の街で私はまた仲間を集めた。今度は私がお姉さんとなり、幼い子供たちをまとめ、支えた。もう二度とあんなことがないように。
その過程でテッドと出会い、色々な子供たちを保護して、理不尽な目に遭いながらも何度も立ち上がって、皆で明日を目指した。生きることに精一杯になった。
だからだろうか。あの悲劇はすっかり私の中で記憶の底へ沈み、思い出すこともなくなった。
「――ねぇ、あんた。よかったら、一緒に行かないかい?」
だからだろうか。木の枝に腰を掛け、月を見上げていた黒髪の少女に私はそう声をかけていた。
その少女こそ、全てを破壊した災の正体だと知らずに。
「あれ、は……」
テッドとハイルが対峙している災。彼女の周囲には魔力のドームが展開されていた。実際に見えているわけではないのにビリビリと肌がひりつくほどの魔圧のせいで嫌でもわかってしまう。
「チェリッシュ、あれはなんなのだ!?」
「術、じゃないわよね!? なんであんなことができるの!?」
私の傍にいたガッシュとティオが目を大きく見開き、こちらへ質問してくる。いや、坊やたちだけじゃない。他の人たちも私を見ていた。おそらくこの中で災のことを知っているのは私だ。
「……あれは災の力。『魔力放出』、らしいわ」
幼い頃に唯一生き残って保護された私に説明してくれたのは王国の軍の人だった。幼い私にも丁寧に説明してくれたので僅かではあるが思い出せる。
「ドーム状に魔力を放って飛んでくる術を弾き飛ばしたり、あえて近づき、ドームにぶつけて魔力の刃で切り刻むの」
「なっ!? それでは近づけぬではないか!」
「そう……だから、無理なのよ」
術が一切、通用しない規格外の相手。魔界にいた頃、大人の魔物が戦ってもなお、数万人という被害を出しているのに魔本という制約のある私たちでは勝てるわけがなかった。
(でも……何かおかしいような)
テッドとハイルを嘲笑いながら戦う災の様子に少しだけ違和感を覚える。その理由はわからない。
「なら、ハイルたちはどうなるの! 私たちのために戦ってるのよ!」
「……」
ティオの言葉に思わず奥歯を噛みしめた。そうだ、テッドたちは動けない私たちを守るために災の気を引いてくれている。
「『ギガノ・ガクラガ』!」
「せいっ……先端から削れていくのは反則でしょ!」
「ジード、トップギアはまだか!?」
「心の力が溜まっても近づけねぇなら意味ねぇだろうが!」
「くそおおおおおお!」
ハイルが2mほどの棍棒でドームを貫こうとするが魔力の刃に削られ、肉体強化が主体のテッドは近づくことすらできていない。
ああ、そうだ。あれがある限り、私たちに勝ち目はない。どうにかしてドームに穴を開けなければ壁まで追い詰められ、最後は――。
「メルメルメ~……」
――そんな時、座り込む私の太ももにポンと置かれたのは小さな蹄だった。
来週の更新はお休みです。次回は12月22日です。