やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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明けましておめでとうございます。
12月はリアルの方が忙しく更新ができずに申し訳ありません。
今年も俺ガッシュをよろしくお願いいたします。
もし、よろしければ感想、高評価もお待ちしております。


LEVEL.279 それでも彼らは彼女を助けにいく

 ウマゴンはこの戦いに参加している魔物の中でも幼い部類に入る。基本的に『メルメルメ~』としか話せず、本の持ち主(パートナー)との意思疎通も本来であれば困難なほどだ。実際、ガッシュと清麿が知り合った魔物の中にも幼すぎるあまり言葉が通じず、関係がこじれてしまっていた子供たちがいた。

 その点に関しては彼の本の持ち主(パートナー)であるサンビームは事の真偽を見極めたり、心の奥を見透かすことができるため、ウマゴンとのコミュニケーションに関しては問題なかったのは不幸中の幸いだろう。

 もちろん、ウマゴンの考えを全て読み切れるわけではなく、実際にウマゴンの本名である『シュナイダー』は通じなかった。ウマゴンは通じないとわかり、悲しくてその場で泣いた。

 だが、そんな幼い彼にも唯一、自分の言葉が通じる相手がいる。そう、サイである。

 彼女は幼いウマゴンのことを人一倍気にしていた。本の持ち主(パートナー)の八幡もサイがウマゴンを気にかけているのは知っていたが少し過剰じゃないかと考えてしまうほどである。

 しかし、幼いウマゴンにとって親元を離れ、いつ襲われるかわからない戦いはあまりに過酷だった。もし、ガッシュと出会わず、たった独りで過ごしていれば心が壊れていたかもしれない。戦いに恐怖心を抱くウマゴンはそれほど危うい状況だった。

 サイがウマゴンを必要以上に気にしていた理由は定かではない。それでもウマゴンにとって彼女の存在はなくてはならないものだった。

 きっと、お姉ちゃんがいればこんな感じなのだろう。そんな風に考えるほどウマゴンはサイのことが大好きだった。

「メ、ル……」

 チェリッシュの太ももに小さな蹄を置いたウマゴンは彼女の顔を見上げる。下の階での戦いやサイの攻撃からチェリッシュとニコルを守った時に負った傷によってボロボロであり、早く回復しなければ命にかかわるかもしれない。そう考えてしまうほど今の彼は満身創痍だった。

「ッ……恵、早く起きなさい! ウマゴンが危ないわ!」

「モモン、我々も行くのだ!」

 そんな彼の様子に気づいたティオが慌てて気絶している本の持ち主(パートナー)のところへ駆けていく。ガッシュとモモンもサンビームやシスターを起こそうとその場を離れた。

「どう、して……」

 蹄によって立ち上がることのできないチェリッシュは幼い彼を見て動揺してしまう。普通であれば立つことはおろか呼吸すら上手くできないほどの大怪我。それも言葉すら話せないほど幼い子供。泣き喚いたり、動けずにその場で倒れ伏す方が普通だ。魔界にいた頃、多くの子供を集めて一緒に行動していた彼女だからこそ、ウマゴンの今の状態があまりに異常だとわかっていた。

「メル、メルメルメ~」

 ウマゴンはチェリッシュを見上げる。何かを訴えかけるようにただジッと見つめる。

 言葉は通じない。言いたいことはわからない。

 だが、それでも大切な何かを彼は必死にチェリッシュに伝えようとしていた。

「……」

 そんな彼にチェリッシュが何も思わないわけがない。ウマゴンの真意を見極めようと頭をフル回転させる。

(この目を知ってる……私は、この目を見たことがある)

 もう少し、ほんの少しのきっかけがあればわかる。でも、そのきっかけはいつまで経っても訪れない。それがもどかしくてチェリッシュは悔しげに奥歯を噛みしめた。

 

 

 

 

 

「ウマゴンはサイを助けたいんだ」

 

 

 

 

 

 そして、そのきっかけ――ウマゴンの本の持ち主(パートナー)であるサンビームがチェリッシュに声をかける。サイの攻撃によって瓦礫の下敷きになった彼もウマゴンと同様に立っているのがやっとな状態。今もガッシュに支えられている。

「サイを、助けたい?」

「ああ……ずっと訴えかけてくるんだ。『早く助けてあげて!』、『僕も頑張るから!』って」

「頑張るって……そんな無茶な!」

 ウマゴンの心を読んだサンビームの言葉にチェリッシュは目を見開く。当たり前だ。チェリッシュに助力を頼むのはまだわかる。しかし、満身創痍のウマゴンが戦おうとすれば最悪の場合、死んでしまう。あまりに危険な行為であることは間違いなかった。

「それにあれはもう私たちの知ってるサイじゃない! 魔界を崩壊させかけた化け物! 災なの! あんなのどうやって……」

「メルメルメ~!!」

「あだっ」

 思わず反論してしまったチェリッシュにウマゴンが渾身の頭突きを食らわせる。いきなり頭を襲った衝撃に彼女はその場でひっくり返ってしまう。

「……ああ、そうだな。ウマゴン、絶対にサイを助けなくちゃな」

「メル!」

「ウヌ……それはそうなのだが……」

 そんな中、サンビームだけはウマゴンの真意を汲み取っていた。しかし、他の人は違う。ウマゴンとの付き合いが長いガッシュでさえもウマゴンがここまでする理由はわかっていなかった。

「ウマゴンは言葉が話せない。私も完全にウマゴンの言葉を理解しているわけではない」

 そんな空気を読み取ったのだろう。サンビームは今もなお、ハイルとテッドと戦っているサイを見ながら口を動かす。チェリッシュも特に反論せずに体を起こしてそれを聞いていた。

「でも、サイは違った。あの子は動物と意思疎通ができた。ウマゴンもサイのことを慕っていた」

「そう、なの」

 魔界にいた頃、ほとんど話さなかったサイの特技。チェリッシュはそれを知らなかったため、便利な特技だな、程度にしか思わなかった。

「だが、あれは言葉を理解してるわけじゃない。原理は私と全く同じ。サイは動物限定だが、心を通わせて思考を読んでいるんだ」

「ヌッ!? そうだったのか!?」

 サイとウマゴンが話しているところを何度も見ていたガッシュはサンビームの言葉に目を丸くする。当たり前だ、サイは動物限定でも読心術(・・・)を無意識に行っていたのだから。

「でも、心を通わせる、という行為は相手の心を読み取る反面、相手にも自分の心を読まれる、ということでもある」

 サンビームの言う通り、ウマゴンはサイと心を通わせるうちに彼女のことを知った。

 自分のことを本当に心配していること。

 ホウシブというところにいる仲間やガッシュたちのことを大切に思っていること。

 そんな人たちとは少しだけ意味が違うけれど八幡のことが大好きなこと。

 八幡に対する感情と他に向けるそれらが違う理由は幼いウマゴンにはわからない。それでも、自分たちのことを大事に思っていると知れた彼はとても嬉しい気持ちになった。

 もっと、彼女のことが知りたい。もっと、彼女と仲良くなりたい。そう考えるのは自然だった。

 

 

 

 

 

 だからだろう。ウマゴンはサイの心の奥底にあった闇に触れた。

 

 

 

 

 

 触れたのは一瞬。本能ですぐに読み取るのを止めた。あのままあの闇を見続けたらウマゴンの心が持たないから。

 だが、一瞬でもその闇の中にあったサイの悲痛な叫びを知った。

 悲しみ。苦しみ。悔しさ。不安。恐怖。自己嫌悪。嫌悪。嫌悪。嫌悪。嫌悪。

 そのどれもがあまりに濃く、幼いウマゴンはその全貌を理解できなかった。

 

 

 

 

 

 ――助けて。

 

 

 

 

 

 それでもサイが助けを求めていたことは嫌でもわかった。

 だから、助けたい。自分も苦しいはずなのに僕を助けてくれたお姉ちゃんを。

 だから、ウマゴンは立ち上がる。だって、彼には正気を失っているサイが『助けて!』と泣き叫んでいるようにしか見えなかったのだから。

「私にはウマゴンがサイの心を読んで何を感じたのか。その全てはわからない」

 サンビームはハンドサインでガッシュに離れるように伝え、チェリッシュに背中を見せた。つまり、サイたちが戦っている方へ体を向けた。

「だが、伝わってくるんだ。ウマゴンのサイを助けたいって」

「メル、メルメルメ~!!」

「っ……」

 ウマゴンも傷だらけの体に鞭を打ち、サンビームの隣に並ぶ。そんな二人の後姿を見てチェリッシュは言葉を失った。

「……でも、きっと私たちだけではサイを助けられない。ウマゴンはそう考えたようだ」

「……え?」

 そんな彼女に振り返らずに話しかけるサンビーム。すでに彼の持つ薄いオレンジ色の魔本から淡い光が漏れている。

「だからこそ、君たちを助けた。正気を失ってしまったサイを助けるのに必要だと思ったから」

 この部屋にサイが現れた時、ウマゴンだけは彼女が正気を失ってしまったことを本能的に理解していた。そのおかげでサイの攻撃にいち早く反応してチェリッシュたちを助けられたのだ。怪我を負っていたせいで自分の体を盾にすることしかできなかったが、結果的にウマゴンは二人の救出に成功している。

「だから、どうか。サイを助けるために力を貸してほしい」

「……」

「……そうか。すまない」

 サンビームの言葉にチェリッシュは何も答えられなかった。彼はそれを拒絶だと捉えたのだろう。一言だけ謝罪してウマゴンと共に一歩だけ前に進む。

「っや……ちがっ……」

「行くぞ、ウマゴン! 『ゴウ・シュドルク』!」

「メルメルメ~!」

 咄嗟に手を伸ばしたチェリッシュを置いてサンビームとウマゴンは駆け出す。そんな彼らを彼女はただ見つめることしかできなかった。

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