やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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ちょっと納得していませんが投稿します。
なので、色々と違和感はあるかもしれませんが許してください。


LEVEL.35 比企谷八幡のラブコメはやはりただではすまない

 クレープも食べ終わり、再びアトラクション巡りが始まった。因みに高嶺はあの後、普通に復帰してガッシュの脳天にチョップを落としていた。慣れた手つきだったから普段からガッシュはやんちゃして怒られているみたいだ。

「ハチマン、あっち!」

 サイを肩車しながら歩いていると急にサイが俺の頭を両手で掴んで右に向ける。下手したら首の骨が折れるから止めて欲しい。一言、サイに注意してからそっちを見るとトイレがあった。

「トイレか?」

「違うよ、ベンチだよベンチ! ちょっと写真の整理したいんだってば!」

 そう言えば今のカメラ係はサイだった。さっき、皆を上から撮りたいとサイが言って肩に乗って来たし。もちろん、頷く前にすでにサイは俺の肩の上にいた。早すぎて気付くのが遅れた。サイ、また腕を上げたな(肩車的な意味で)。

 俺たちの会話が聞こえたのか皆も頷き、トイレの近くに設置されていたベンチで休憩することにした。トイレに行きたい人はトイレへ。休みたい人は自動販売機で飲み物を買った。余談だが、MAXコーヒーがなかった。凹んだ。

「こんなところにMAXコーヒーあるわけないでしょ……」

 そのことをデジカメを操作していたサイに報告すると呆れた様子で言われてしまった。最近、サイさんが冷たい。何かしたっけ?

「これでよしっと。はい、キヨマロ。カメラ係ね」

「了解」

 高嶺がカメラを受け取ると皆でどこに行こうか話し合い始めた。その間、俺は自動販売機に売っていた微糖の缶コーヒーをちびちびと飲んでいた。ああ、MAXコーヒーが飲みたい。

「ほら、ハチマン! 行くよ!」

 ぼーっとしているといつの間にか話し合いは終わっていたのかサイが俺の肩に乗ってペチペチと頭を叩き始める。ちょっと痛い。いや、手加減してくれているのはわかっているんだけどね。でも、せめて缶コーヒーを飲み終えてからで……あ、飲み終っちゃった。そっとため息を吐いた後、ベンチ横にあったゴミ箱に投げ入れる。ナイスシュート。

「八幡君、行くよ!」「八幡、早く来なさい!」

 その時、俺の右手を大海が、左手をティオが掴んで引っ張った。さすがに立ち上がらないわけにも行かず、困惑しながら立ち上がる。前を見れば高嶺とガッシュが俺たちの方を振り返って笑っていた。そして、カメラを構える高嶺。

(お、おい……まさか……)

 心の中でやめろと叫ぶが高嶺に聞こえるわけもなく、写真を撮った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、時間的に後2つしか乗れないな」

 園内にあった時計を見て高嶺が呟く。すでに太陽も茜色に光っている。別に今から帰ってもいいんだけど。帰るって選択肢ない? あ、ないんですかそうですか。

「じゃあ、観覧車乗りたい!」

 手を挙げたサイが興奮しながらそう提案した。そう言えば、乗りたいって言っていた。楽しみを最後に取っておいたのだろう。特に拒否する理由もないので全員で観覧車の列に並んだ。夕方なので観覧車は意外にも混んでいた。あの高さから眺める夕日は綺麗だからだろう。

「楽しみだね!」

 俺の右手を握っているサイが俺を見上げながら叫ぶ。そんなに楽しみなのか。喜んでいるようで俺も嬉しいよ。

「サイ! またデジカメの容量が無くなりそうよ!」

「え!? そんなに撮ったっけ!?」

 ティオの声にサイは慌ててそちらへ駆け寄った。観覧車から写真を撮りたいのだろう。サイとティオがデジカメの画面を見ながらどれを消そうか話し合っている。そこへガッシュが乱入し、騒いでいる魔物組を高嶺が叱った。高嶺の保護者力がパない件について。

「ふふ、皆楽しそうね」

 いつの間にか俺の隣に立っていた大海が嬉しそうに言う。楽しそうだけど羽目を外し過ぎて何かやらかしそうで怖い。特にガッシュ。

「本当に……明日からまた学校なのに疲れた……」

「そう言ってる割に嫌そうじゃないけど?」

「……サイの弁当は美味かった」

「素直じゃないんだから」

 なんか見透かされているような気がする。ため息を吐きながらポケットに手を突っ込もうとするが、その拍子に携帯が地面に落ちてしまった。さっき取り出してポケットに入れたが奥まで入っていなかったらしい。しゃがんで拾おうとすると誰かの手と重なってしまう。反射的に顔を上げると大海も驚いた表情を浮かべて俺を見ていた。俺の携帯を拾おうとしてくれたらしい。数秒ほど見つめ合って慌てて手を引っ込める。向こうも同じように手を引いていた。

「わ、わりぃ……」

「う、ううん……」

 何とも言えない空気が流れ、携帯を拾い立ち上がる。そして、気付いてしまった。

「……あ」

 いつの間にかゴンドラに乗っていたサイがドアにへばりついて俺たちを見ていた。口をパクパクさせているが残念ながらここまで声は届かない。そのまま、ゴンドラは上に進んで行った。

「次の方、どうぞー!」

「……とりあえず、乗るか」

「……そうね」

 置いて行かれてしまったのは仕方ない。今から抜けるとしても他の人に迷惑をかけてしまいそうだ。俺と大海はゴンドラに乗り込んで対面に座る。

「では、行ってらっしゃいませー!」

 ものすごくワクワクしたような目で俺たちを見ていた係りの人(女の人)がドアを閉めた。ゴンドラはゆっくりと昇って行く。

「「……」」

 まさか大海と2人きりで観覧車に乗ることになるとは思わず、黙り込んでしまう。彼女も少し居心地が悪いのかそわそわして黙っている。ものすごく沈黙が重い。助けてサイえもん! 八幡、この空気耐えられないよ!

「あ……」

 不意に大海が横を向いて声を漏らす。そちらを見ると夕日が輝いていた。だが、俺の座っている場所から夕日を見ると丁度、遠くに建っているビルと重なって感動を台無しにしている。きっとあのビルがなければもっと綺麗に見えるのだろう。ちょっと残念だ。

「ん? どうしたの八幡君」

 微妙な顔をしていたのに気付いたのか不思議そうに大海が問いかけて来た。

「いや……夕日は綺麗なんだけどビルと重なってるんだよ」

「え、そう? こっちは綺麗に見えるけど……ほら、こっち来て」

「お、おう……」

 俺の腕を引っ張って夕日を見るように促す大海。立ち上がって彼女の傍に移動すると夕日が綺麗に見えた。たった数歩でもかなり印象が違う。ゴンドラ自体、動いているのでそれのおかげもあるだろう。

「へぇ、綺麗だな」

「ええ、本当に綺麗ね」

 夕日に見とれているとふと我に返り、大海の方を見た。結構、距離が近い。向こうもそれに気付いたようでこっちを見たので俺たちは至近距離で見つめ合うことになってしまった。

「あ、悪い……っと」

 咄嗟に離れようと足を引くがその瞬間、観覧車が突然、止まって揺れる。そのせいでバランスを崩し、後ろに倒れそうになった。まぁ、このまま倒れても尻餅を付くか悪くても背中を打ち付けるだけ。だから俺は特に対処しなかった。

「八幡君!」

 しかし、大海はそう思わなかったようで俺の手を掴んで支えようとした。その瞬間、止まっていた観覧車が再び動き出す。またゴンドラが揺れて今度は大海がバランスを崩した。その結果、俺は尻餅を付き、大海が遅れて俺の胸に倒れ込んだ。彼女の変装用の眼鏡がゴンドラの床に落ちて音を立てる。

「「……」」

 驚いた表情で俺を見上げて来る大海の顔は夕日に照らされていてとても綺麗だった。今の状況に頭が追いつかず、『やっぱり大海ってアイドルなんだな』とのん気に思い、すぐに頭を振って思考を切り替える。危なかった。もう少しでトゥンクしてしまうところだった。

「ご、ごめんなさい」

 慌てた様子で大海が俺から離れて謝る。落ちていた眼鏡を拾った後、座っていた場所に戻って行った。

「い、いや……気にすんな」

 俺も自分の席に戻り、顔を夕日の方に向けた。何とも言えない空気が流れている。まぁ、あんなアクシデントがあったのだ。黙ってしまうのは仕方ないだろう。大海に聞こえないようにそっとため息を吐いていると視線を感じて大海の後ろに視線を向けた。

「……」

 前のゴンドラからサイが満面の笑みを浮かべて俺を見ている。でも、俺は知っていた。あれは笑っているのではなく、怒っているのだと。目を見たらわかる。それに高嶺とガッシュがサイを見てブルブルと震えていた。サイの威圧に怯えているのだろう。ティオだけは呆れたようにサイを見ていたが。

「大海……」

「な、何?」

「……俺、死ぬかも」

「え、えええええ!? どこかぶつけたの? 大丈夫?」

 そう言いながら俺の隣に移動して来て怪我の有無を確かめ始める。や、やめて! こっち来ないで! 今、サイが首を切るジェスチャーしたから!

 震えていると不意に口パクを始める群青少女。俺はそれを見て後悔した。

『後でお・し・お・き♪』

 ……腕の一本で済むかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 両腕を折られて『サルフォジオ』で回復した(見られないようにトイレの裏で術を使った)後、メリーゴーランドに乗った。その時、ティオの弁当を食べたガッシュが『ブリの方が美味しかったのだ』と問題発言をしてティオに首を絞められて終わった。また来ようね、と皆話していたが俺は勘弁願いたい。下手すればサイに腕を折られる。さっきも『八幡ともう一回、観覧車に乗る!』と我儘を言っていたし。観覧車は今、かなり混んでいるため並んでいる時間はもうない。それを聞いてサイは渋々、観覧車を諦めた。ものすごく悔しそうだったが。

 遊園地を出た後、俺は自転車を回収したのだがそれを見て高嶺が目を丸くした。

「は、八幡さん……もしかしてここまで自転車で来たのか?」

「ああ、そうだけど」

「ハチマンは鍛えてるからね!」

 サイさん、貴女の訓練のせいで俺は彼に得体の知れない物体を見るかのような目で見られているんだよ? 普通できないもんな。ここまで自転車で来るなんて。

 それから高嶺とガッシュは徒歩で、大海とティオは電車で、俺とサイは自転車で帰った。サイは荷台に座って俺に抱き着いている。今日、荷台に人を乗せるのはサイで2人目だ。あの事件が今だとすごい昔のように感じる。

「ねぇ、ハチマン」

 どんどん暗くなっていく道をひたすら漕いで進んでいると唐突にサイが話しかけて来た。

「何だ?」

「今日は……ごめんなさい」

 弱々しい彼女の声を聞いてチラリと後ろを見るとサイは俺の背中に顔を埋めていた。

「何で謝る」

「だってハチマン、すごい疲れてるのに自転車でこんなところまで誘導して……しかも、色々と大変な目に遭って……ごめんなさい」

 サイが俺をここに呼んだのは疲れている心をリラックスさせるためだ。しかし、俺は殺し屋や魔物と戦った。そのせいで余計、俺を疲れさせてしまったと後悔しているのだろう。

「謝んなよ」

「え?」

「俺は今日、ここに来てよかったと思ってる」

 俺の言葉が予想外だったのかサイが顔を上げた。走りながらだと話し辛いので一度、自転車を停めて彼女の方を向く。

「サイが黙って俺を誘導しなかったら大海はあの殺し屋に殺されていたかもしれない。俺がここに来なかったらあの魔物たちにガッシュとティオがやられていたかもしれない……全部『たられば』のたとえ話だけどな。そう考えれば……ここに来てよかったと思える。確かに疲れたけどな」

 それだけ言って再び自転車を漕ぎ始める。ちょっと照れくさかったのだ。

「……ハチマン」

 俺を呼ぶ声は弱々しいものではなかった。

「おう」

「今日はメグちゃんを守ってくれてありがとう。私のことを守ってくれてありがとう……一緒に遊園地で遊んでくれて、ありがとう。大好き」

 ギュッと俺にしがみ付いてお礼を言うサイ。それに対して俺は何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。

「さ、サイ……苦し、い……」

 俺の腹部を締め上げているサイに言うが更に力を込められる。ちょ、やばい。色々な物が出ちゃう。

「でも、あの観覧車の八幡は大っ嫌い。私と乗るって約束したのに……それなのにメグちゃんといちゃいちゃして」

「いちゃいちゃなんてしてないって言っただろ? たまたまゴンドラが揺れて……」

「だーめ。許さない。帰ったらおしおきだよ」

 明日、俺学校行けるのかな……あ、それを理由に休もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハチマンへのおしおきも終わり、私はリビングのソファに座ってデジカメを操作していた。因みにハチマンは部屋で倒れている。これもメグちゃんとイチャイチャしていた罰だ。『サルフォジオ』はハチマンが起きたらブスリと刺せばいい。今回は苦痛を重視したので外傷はさほどないから大丈夫だ。

「あ……」

 デジカメの写真を見ていると思わず、声を漏らしてしまった。そこにはハチマンの手をメグちゃんとティオが引っ張って私がハチマンの肩の上ではしゃいでいる写真だった。よく見るとハチマンの口元が引き攣っている。

「……ふふ」

 ハチマンのノートパソコンを開いてデジカメのデータを移す。また私の思い出が増えた。

「それじゃ、頑張りますか」

 明日からまた文化祭実行委員の仕事が始まる。ハチマンが少しでも楽できるように私も動くとしよう。やっぱり私はハチマンのことが大好きだから。

 


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