やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
後、先週の話を投稿した後にいただいた感想のほとんどに修羅場が楽しみですって書いてあったのですが……私も修羅場が大好きです。
ただ今回のお話しもなかなか難産でした。もっと修羅場らせたかった……。
部室に夕日が射し込む。それはとても綺麗でまるで青春の1ページを照らしてくれるライトのようだ。
「……」
でも、その青春はとても静かで冷やかなものだった。空気が重い。大海たちも自己紹介が終わった後、急に黙ってしまった俺たちを見て何と言っていいのかわからないのか困惑している。サイだけは俺の膝の上に座って優雅に紅茶を飲んでいるが。
「さて、比企谷君……説明してくれるかしら」
いつもの定位置で紅茶を啜っていた雪ノ下がカップを置いて絶対零度の眼差しを俺に向けた。その近くで由比ヶ浜はちらちらと大海の方を見ている。由比ヶ浜と雪ノ下が部室に来てすぐに大海は魔本を隠したが見えたのだろう。おそらく、俺たちの関係をわかっている。だからこそ、言えないのだ。近くに雪ノ下がいるのだから。
「別にサイとティオが友達でティオの保護者が大海だっただけだ」
そう、ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。てか、仲間とか言ったら魔物のこと言わなきゃならん。由比ヶ浜はともかく雪ノ下に言うわけにはいかないだろう。
「え? 私は八幡君と友達だって思ってるけど」
だが、裏切ったのは仲間発現した本人である大海だった。ああ、そんな事言ったら――。
「友達? あの比企谷君に?」
ほら見ろ。雪ノ下が訝しげな表情を浮かべた。俺だって八幡に友達が出来たって聞いても信じない。こんな目の腐ったぼっちに友達が出来るわけがないのだ。俺がうんうんと頷いているのを見たのか大海は首を傾げている。
「でも、この前一緒に遊園地に行ったし……」
「ゆ、遊園地!?」
彼女の呟きを聞いて由比ヶ浜は目を見開いて立ち上がった。え、そんなに驚くことなの? 雪ノ下も口をぽかんと開けているし。後、大海さん? どうして彼女たちを見て少しだけ笑ったんですか?
「ええ。八幡君、ちょっと疲れてるみたいだったから一緒に遊ぼうと思って」
「で、でも……あのヒッキーが遊ぶなんて」
「おい」
俺だって遊ぶぞ。外ではなく家で遊べること限定だけど。それに最近は外にも出ている。主に訓練だが。あー、今日の夜もサイの特訓があるのかー。今日、何回『サルフォジオ』唱えるのかしらん。
「私が誘導したんだよー。ハチマンってば普通に誘っても来ないし」
カップに紅茶を注ぎながらサイが嬉しそうに言った。遊園地で魔物と戦ったとは言え、サイにとってあれはいい思い出なのだろう。
「それによく八幡君の家にも行くし……私たちって友達じゃないのかな?」
確かめるように俺の方を見ながら問いかけて来る大海。そんな不安そうにしないで。頷きそうになってしまう。早く助けてサイえもん。いや、親指立ててグッてやっても何も変わらないんだってば。
「ヒッキーの家にも……」
どうしようか悩んでいると由比ヶ浜が力尽きたように席に座った。いや、家に来るって言ってもティオを迎えに来るだけなんですけど。しかも、そこまで来ていないし。
「……?」
サイは助けてくれなさそうなのでティオに視線を移すが彼女も彼女で大海を見ながら首を傾げていた。誰でもいいから早く助けてください。
「大海さん」
そこで大海に声をかけたのは雪ノ下だった。助けてくれたのはいいんだけど何でそんなに大海を睨んでいるの? 怖いよ? あ、いつもだったわ。
「どうやら、比企谷君は友達とは思っていないようなのだけれど?」
「でも、ハチマンって捻デレだから素直に頷かないと思うんだけど」
雪ノ下の指摘を真正面から叩き潰したのはサイだった。君、どっちの味方なん?
「それにハチマンは今までぼっちだったんだよ? 友達の基準を知ってるわけないでしょ」
「あの、サイさん? それ結構、心に来ますからね?」
おかげで八幡のライフはもう0よ。このままバーサーカーソウルされてしまうん?
「じゃあ、今から私と八幡君は友達ってことでいい?」
「そんな簡単に決められることかしら? 私、その言葉を何度も聞いて来たけれど、最後は皆、離れて行ったわ」
俺が返事をする前に否定する我が奉仕部の部長様。俺の意見を聞いてからでもよくね? 後、雪ノ下重いから。そんなヘビーな話を淡々と話さないで。由比ヶ浜がうるっと来てるから。
「んー、私と八幡君に限ってそれはないと思うわ」
「その根拠は?」
「だって、私たちなか――」
「――大海、ストップ」
『仲間』と言いそうになった彼女を止める。まさか遮られるとは思わなかったようで大海はキョトンとした様子で俺を見た。ちょいちょいと手招きして近寄って貰う。
「どうしたの?」
「仲間って言った後、どんな仲間か説明する気か?」
「……あ」
やっと自分の失態に気付いたのか顔を引き攣らせる大海。
「私たち……何かしら?」
そんな俺たちを追い込むように雪ノ下が先を促す。由比ヶ浜も気になるのか真剣な眼差しをこちらに向けていた。これは逃げられない。どうする、大海。そんな助けて欲しそうな目を向けられても俺にはどうすることも出来ないぞ。ティオとサイも顔を逸らした。薄情な仲間達である。
「私たちは……えっとその、何と言うか」
大海が言葉を紡ぐ度に雪ノ下の視線の温度が下がって行く。呪文でも唱えてるの? 目から冷凍ビームとか出ちゃうの? 目からビームを出すのはデ・○・キャラットだけじゃないの?
俺も相当、焦っているのか訳の分からないことを考えていると何か思いついたようで大海が雪ノ下を見ながら口を開けた。
「そ、そう! 友達以上の関係なの!」
世界が凍りついた瞬間を俺は目の当たりにした。雪ノ下や由比ヶ浜はもちろん、サイまでも呼吸を忘れたかのように動きを止めていた。唯一、ティオだけはため息を吐いていたが。
「……ハチマン、どういうこと?」
数秒ほど沈黙が続いたが、サイが俺を見上げながら低い声で問いかけて来る。群青色の目がどんどん澄んでいく。これ、やばくね?
「友達以上の関係って……ま、まさか!?」
由比ヶ浜も顔を真っ赤にして絶叫する。彼女の言葉を聞いて大海は自分の発言の意味に気付いたのか由比ヶ浜に負けないぐらい赤面してあわあわし始めた。お前のせいなんだからお前がどうにかしてくれよ。どうすんの、この状況。
「……比企谷君、大海さんとは友達以上なのかしら?」
「……全くの誤解だ。俺と大海はそんな関係じゃない」
だからそんな鋭い眼光を向けないで。
「じゃあ、彼女の発言の真意は何なのかしら? エロ谷君」
「やめろ。俺は何もしていない」
「こんな男がいるから泣く女がいるのね。そしてそんな父親の血を引く子供を独りで――」
「実はお前も結構、混乱してるだろ」
この後、めちゃくちゃ落ち着かせた。
「そう、仲間って言いたかったのね」
混乱していた奴らを落ち着かせた後、大海が言いたかったことを正直に話した。やっと納得してくれたようで雪ノ下も頷いてくれた。
「でも、仲間ってどういう仲間なの?」
そして、魔物について知っている由比ヶ浜が何故かそんな質問をして来た。まぁ、魔物の戦いを知っているからこそ疑問に思うかもしれない。最後の1人になるまで戦うのだから。
「大海ってアイドルだろ? たまに意見を聞かれるんだよ。それで仲間って言いたかったんじゃねーか?」
混乱している間に考えておいた言い訳を述べた。少し無理があるかもしれないが、魔物のことを言うわけにはいかない。
「なら、はっきりそう言えばいいじゃない。どうして言葉を濁したの?」
「あまり言っちゃ駄目なんだとさ。特に異性である俺に意見を聞いてるって噂になったらスキャンダルになるかもしれん」
「……そう」
何か言いたそうだったが、雪ノ下は何も言わずに紅茶の入ったカップに目を落とすだけだった。だが、すぐに顔をあげる。
「最後に聞いてもいいかしら」
「何だよ」
「……このままでいいの?」
「……」
おそらく、俺がやらかしたことについてだろう。
「別にいいだろ? 誰か困るだけでもないし」
「貴方が困るじゃない。今じゃこの学校一の嫌われ者よ?」
「え……どういうこと?」
まだ一般生徒まで噂は流れていないのか状況を飲み込めていない由比ヶ浜。サイが少しだけ悲しそうな表情を浮かべながら説明しに彼女の方へ向かう。
「元々、嫌われ者だっただろ。それにそのおかげで文化祭も成功したんだ。万々歳だろ?」
「ええ、そうね。逃げたことで責められるはずだった相模さんは今じゃ英雄扱い。先生の話では大海さんのライブがあったから歴代の文化祭で最も盛り上がったと言っても過言ではないそうよ。あんなに暗い顔をして仕事をしていた委員たちも笑顔になった。そして、私も……」
「……」
「皆、救われたわ。貴方が自分を犠牲にしたおかげで」
「犠牲じゃねーよ。あれが一番手っ取り早かった……だけだ」
『誰も傷つかない』とは言えなかった。俺はすでにサイを泣かせているのだ。もうあんな気持ちを抱くのは勘弁である。
「そうね。そんな理由だけで貴方は全てを救ってしまう……でも、そんなやり方、私は認めない」
そう吐き捨て、雪ノ下は立ち上がり鞄を持って部室を出て行こうとする。
「それと……お願いだからもう見せ付けないで」
部室を出る直前、こちらを振り返らずにボソッと呟いた。その言葉の意味はわからない。だが、最近雪ノ下の様子がおかしかった原因なのかもしれない。そんなのん気なことを考えていると不意に俺の袖が引っ張られた。
「ヒッキー……」
そちらを見ると由比ヶ浜が泣きそうな顔をして俺を見ていた。
「何で……そんなことしたの?」
「……だから、手っ取り早かっただけで」
「ううん、違う。ヒッキーはそんな理由だけじゃ動かない。もっと……理由があったんだよね? 誰かを救うためなんだよね?」
懇願するような眼差し。それに対して俺は無言を貫く。それを肯定とみなしたのか少しだけ微笑む由比ヶ浜。でも、相変わらずその表情は暗い。
「うん……そうだよね。ヒッキーは優しいもん。誰かのために動いて、皆を救っちゃう。でもね?」
「ヒッキーも救われなかったら、意味がないんだよ?」
「……」
由比ヶ浜が去った部室で俺は魔本を机に置いてその表紙を撫でていた。結局、由比ヶ浜には俺と大海たちの関係を話した。魔物同士、手を組むとは思っていなかったようで彼女は驚いていた。その後に『ヒッキーをお願い』と頭を下げたのには吃驚したが。俺、そんなに信用ないん?
「ハチマン、そろそろ帰ろ?」
サイの声を聞いて顔を上げると大海とティオが不安そうに部室の入り口から俺を見ていた。大海たちはライブでステージを使わせて貰ったお礼を言いに職員室に行っていたのだ。すぐに向かわなかったのはまだ生徒がたくさんいたため、見つかってしまう可能性が高かったからだ。そうなればパニックになるだろう。
「なぁ、サイ」
「ん? 何?」
「俺のしたことって……意味あったのか?」
雪ノ下は俺のやり方を認めないと言った。
由比ヶ浜は俺のやり方は意味がないと言った。
俺は何のために――間違えたのだろうか。
「……」
俺の疑問にサイは答えなかった。でも、嬉しそうに微笑んでいる。何もかもわかっているかのように。
「何だよ……」
「ううん、何でもない。ほら、帰ろ?」
腑に落ちないが仕方ない。帰ろう。外もすでに暗くなって来ている。
「八幡君、大丈夫?」
部室の鍵を閉めて職員室に向かっている途中、隣を歩いていた大海が声をかけて来た。
「ああ、別に何ともねーよ」
「……いつでもいいから私にも相談してね」
「それは……仲間だからか?」
「ううん、私が八幡君の力になりたいから」
「……いつか、な」
俺の返事を聞いた彼女は少しだけ嬉しそうに頷く。俺も大海になら相談していいかと思えた。『仲間だから』と言う義務ではなく『大海 恵』がそう思ってくれているのだから。
「ちょっと私にも相談しなさいよ! 私だけのけ者とか許さないんだから!」
「はいはい、いつかいつか」
仲間外れは嫌なのか必死になってアピールして来るティオをあしらいつつ、職員室で平塚先生に鍵を返す。
「今年の文化祭は君の力があったから成功したようなものだ……しかし、あのやり方はあまり褒められたものじゃない。君がいくら傷つくのに慣れていたって傷つく君を見て傷つく人もいるんだ」
「……さっき身を持って知りました」
「はは、そうか。なに、人は失敗して成長していくものだ。これからも励め、少年。青春は今しかないのだから」
そんな言葉を先生から貰い、俺たちは校舎の外に出た。外はすっかり暗くなっており、とても静かだ。
「あ、そうだ。メグちゃんたち、家に寄って行ってよ。晩御飯食べてって! いいよね、ハチマン」
急なサイの提案に反対する人はおらず、すぐに可決された。別に拒否する理由もない。あ、でも小町にはなんて言おう。また大海が変なこと言わなきゃいいが。
「比企谷君!」
すると、突然後ろから名前を呼ばれた。何だろうと後ろを見ると息を切らしためぐり先輩の姿。こんな時間まで残っていたらしい、生徒会長も大変ですね。
「や、やっと見つけた……学校中、探し回ったのに全然見つからなくてどうしようかと……」
俺のせいでした。ごめんなさい。
「なんかすみません……」
「あ、ううん! 気にしないで! 比企谷君は何も悪くないから!」
「……で、何ですか?」
「ご、ゴメン。どうしても言いたいことがあって」
そう言った後、呼吸を整えるためにめぐり先輩は深呼吸を繰り返す。もしかして怒られるのだろうか。まぁ、文化祭は成功したものの色々とやらかしているからなぁ。痛いのは勘弁です。骨とか折らないで!
「ありがとう! そして、ごめんなさい!」
だが、俺の予想とは反対に頭を深々と下げながら彼女は感謝と謝罪の口にした。
「君がいなかったら文化祭は成功しなかった。それなのに私は……周りの話を聞いただけで君に偉そうなことを言って……ごめんなさい。比企谷君がいてくれて本当に良かった。ありがとう」
「……」
俺は言葉を失ってしまった。まさかお礼を言われるとは思わなかったのだ。そんな俺を見たからかギュッと手を握るサイ。こいつ、めぐり先輩がずっと俺を探しているのに気付いていながら言わなかったな。
「……いえ、そう言って貰えただけで十分です」
ああ、そうか。よかった。
「ううん、それだけじゃ駄目だよ! 比企谷君の悪い噂は生徒会が責任を持って対処するから!」
「あ、それはしなくていいです」
「え!? な、何で!?」
「気にしませんし。やるだけ無駄ですよ。それに……」
めぐり先輩の言葉を聞いてホッとしたのだ。
俺のしたことに意味などなかったかもしれない。やり方は褒められるようなものではなかったかもしれない。でも、無駄ではなかった。こうやって、感謝してくれる人がいた。
それだけでも十分――俺は救われたのだから。
「あ、お兄ちゃん、サイちゃんおかえ……お、お客さん!? お兄ちゃんが友達、しかも女の人を連れて……って、メグちゃん!?」
「あ……」
大海たちと共に家に帰って来たのだが、小町のことをすっかり忘れていた。
まぁ、文化祭は家に帰るまでが文化祭だ。騒がしくてもいいかもしれない。それが祭りってものなのだから。
これにて文化祭編は完結です。
次回は体育祭を吹っ飛ばして修学旅行編へと移ります。
なお、新しく活動報告にアンケートを用意しましたのでよろしければお答えしてください。よろしくお願いします。