やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
なお、原作を読んでいない方もそこまで重要なことではないので安心してください。
12月22日までに動画を一本、作らないといけないのでものすごく急いで書きました。本当にごめんなさい……。
サイたちと新幹線の中で別れた後(別れる直前、サイは泣きそうになっていた)、京都に着いた。
修学旅行1日目の予定はクラス全体で行動する。この時に発生するイベントとして集合写真があったりするのだが、ぼっちにはハードルが高い。しかも、強制イベントなのでスキップすることはできない。マジこのゲームクソゲー。
さて、このイベントを回避する方法は3つほどある。
1つ目はアウトレンジスタイル。簡単に言ってしまえば、自ら他の奴らと距離を取る方法。しかし、デメリットは自分に固定ダメージが入ることだ。卒アルとかで自分だけ離れている写真を見れば誰だってダメージを受けるだろう。
2つ目はゲリラスタイル。はしゃぐクラスメイトに混じり、あたかも『自分もはしゃいでいますよー』、『超楽しー』と自分を偽り、写真上でぼっちには見えないように偽装工作する。だが、偽装するために撮影の前後に精神的疲労が襲う。しかも、撮った後に『写真撮る時だけ近づいて来たよね』と言われ、追い打ちをかけられる可能性がある。
最後はインファイトスタイル。
あえて間合いを詰め、零距離で戦いを仕掛ける。その結果、誰かの陰に入る、もしくは被って見切れたりする。完全に写らず、半分ほど写るので一応、思い出にもなるだろう。ただカメラマンに見つかると注意され、仕切り直しさせられるため、そこには注意だ。
これが今までの経験で得た対処法だ。
しかし、今の俺は違う。サイとの特訓の成果を発揮する時が来た。
そう第4のスタイル――ニンジャスタイルである。
今の俺ならば隣を歩いても完全に気配を消せば気付かれない。それを利用するのだ。スッと誰かの隣に立ち、写真を撮った後、サッと消える。しかし、誰でもいいわけではない。俺と言う異端分子が紛れても大丈夫な場所――そう、グループとグループの間を陣取る。そうすればAのグループの人は『あれ、この人Bのグループの人だっけ? ま、いっか』となり、Bのグループの人は『あれ、この人Aのグループの人だっけ? ま、いっか』となるのだ。問題は俺自身が誰がどのグループなのか把握していないことである。やばい、詰んだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか写真を撮られていて気配を消していたせいか、体半分ほど写真の外に見切れることになった。これはこれで面白いからいいか。
さて、仁王門をバックに集合写真を撮った後はクラス単位での移動だ。しかし、移動したのはいいが清水寺拝観入り口は既に入った生徒たちと観光客でごったがえしていた。入るのに時間がかかりそうだ。その証拠に未だ団体入場口には複数のクラスが待っていた。
「ヒッキー」
大人しく並んでいると由比ヶ浜が列から離れて俺の隣に来ていた。い、いつの間に。忍者か、お前も忍者だったのか。そもそも気配を消していたはずなのに何故、わかったのだろう。もっと努力しないと。
「どうした? 抜かされるぞ」
「抜かされる以前に、前に進まないから……ここで待ってるより面白そうなとこ見つけたからちょっと行ってみようよ。ここで待ってても暇だし」
「後でな」
しかし、俺の言葉が気に入らなかったのか、由比ヶ浜は軽く睨んで唸った。
「……仕事忘れたの?」
「旅行なんで仕事なんか忘れました」
旅行に来てまで仕事をする社畜になんかなりたくない。あ、でも文化祭とか体育祭ですでに社畜になっていたわ。もう駄目だ、死のう。でも、今ならトラックに轢かれても無意識の内に受け身しそう。そして、軽傷で助かりそう。これもサイのおかげね。
それから由比ヶ浜によって『胎内めぐり』なるものを体験した。これも戸部と海老名さんをくっ付ける作戦らしい。その時に真っ暗な道を歩いたのだが、気配を読めるようになった俺にとって暗闇など恐るるに足らず。前にどっちかって言うと由比ヶ浜に触れられた方が怖かった。やはり忍者か。俺を動揺させる忍術でも使っているらしい。
その『胎内めぐり』は暗い道の先に大きな石があり、それを回しながらお願い事をするそうな。願い事ねぇ。
「お願い事、決まった?」
「ああ」
由比ヶ浜の問いかけに頷いた。まずは小町の受験合格。そして――。
「よし、じゃあ一緒に回そう」
そう言って由比ヶ浜と一緒に石を回した。
――サイが俺なしでも生きていけるようになりますように、と願いながら。
それから清水寺やその境内にある神社を見て回った。その途中で『恋占いの石』(俺はやってない)やおみくじ(俺は引いてない)なんかをした。戸部も自分から海老名さんにアピールのようなことをしている。俺たちいなくても大丈夫じゃね? 失敗するかもしれないけど。まぁ、依頼だから仕方なく俺も時々アシストっぽいことをしつつ、清水寺を堪能した。その後は南禅寺まで行き、何故か銀閣寺まで歩かされ、強制的に運動させられた。修学旅行って合宿だったっけ? まぁ、紅葉とか綺麗だったし、戸部と海老名さんもいい感じだった。だったのだが――。
「知らない天井だ」
気付けば見覚えのない天井を見上げていた。何がどうなってこうなった?
「あ、八幡、起きた?」
困惑していると不意に声をかけられる。このエンジェルボイスは戸塚か。俺の隣で体育座りをしていたらしい。今は俺の顔を覗くために立ち膝になっているが。
「あ、ああ。これは、一体どういう……」
そう言いながら周囲の様子を確かめるとクラスメイトの男子たちが麻雀をしていた。ああ、なるほど。宿に着いた後、飯を食ってすぐに寝てしまったらしい。家に帰って来たらまず寝るという生活リズムが仇となったようだ。
「もうお風呂の時間過ぎちゃったけど内風呂使っていいって」
「な、何!?」
お、おい。それはどういうことだってばよ。俺は何のために修学旅行に来たのだ。戸塚とお風呂に入るためであろう。それなのに……こんなことになるなんて。この気持ちを誰にぶつければ。そうだ、サイに電話しようそうしよう。戸塚ニウムの代わりにサイニウムを摂取せねば。
「あ、ユニットバスはあっちにあるよ」
電話をかけようとしたが戸塚が部屋の出口の方を指さしながら教えてくれた。そうだ、落ち着け比企谷八幡。まだ修学旅行は始まったばかり。チャンスはまだある。楽しみは後にとっておくものだろう。それにサイニウムは皆が寝静まった後にでも摂取すればいい。慌てる必要などないのだ。サイ、早く来ないかな。
「そっか。サンキュ」
教えてくれた戸塚にお礼を言ってうきうき気分でシャワーを浴びる。今日はたくさん動いたので汗も掻いた。サイと一緒に寝る時に汗臭いとは言われたくない。まぁ……サイはそれが好きみたいだが。特訓の休憩中、よくすり寄って来るし。犬っぽい。サイワンコの誕生だ。
そんな適当なことを考えながら風呂から上がり、部屋に戻ると戸部が寝転んでいて俺と目が合った。どうやら負け続けているらしい。
「お、ヒキタニ君起きてたん? 麻雀やんね?」
「あ? 何で俺?」
「みんな強くてつまんねーんすわ」
それは俺が弱いからカモにしようってことか、おい。喧嘩売ってんのか。
「悪い、点数計算わかんねーからパス」
「そっかー」
断るとそれ以上、深追いして来なかった。実際、計算出来ない。点数はCPUが勝手に計算してくれたからな。チラッと麻雀組を見ると戸塚の姿があった。やり方を教わっているらしい。俺の視線を受けたからかこちらを見た戸塚は嬉しそうに手を振る。誰かカメラ下さい。天使を写真に閉じ込めます。
さて、冗談はこれぐらいにして何をしようか。寝るか。でも、サイが忍び込んだ時に俺が寝ていたら悲しませてしまうかもしれない。コーヒーでも買って来るか。
「はっちまーん! ウノやろ……む? どこへ行くのだ?」
財布や携帯、魔本が入った鞄(新幹線で受け取っておいた)を持って部屋を出ようとするが何故か材木座が現れた。お前、自分のクラスはいいのかよ。
「眠気覚ましにコーヒーでも買って来る。じゃあな」
「え……ま、待て八幡! 我を置いて行くな! おい、聞いているのか? はちまあああああああん!」
「MAXコーヒーがない、だと……」
何と言うことだ。おいおい、京都よ。一体、どうした。お前はそんな奴だったのか。京都なら色々な場所から観光客が来るだろう。ならば、色々な土地の名産品とか置いておけよ。千葉と言えばMAXコーヒー。コーヒーと言えばMAXコーヒー。つまり、全国の自動販売機のコーヒーは全てMAXコーヒーにするべき。はい、論破。
ない物は仕方ない。妥協案としてカフェオレを買ってロビーの端っこに置かれていたソファに座る。部屋に帰ってもよかったのだが雀荘となった部屋に戻ろうとは思えなかったのだ。
しばらくまったりしているとロビーに見覚えのある人影が現れた。雪ノ下雪乃である。湯上りなのか髪をアップし、ラフな格好だ。そんな彼女はお土産コーナーへ直行し、真剣な目で棚を凝視している。まぁ、雪ノ下が真剣に見る物なんて決まっているのだが。
しばらく棚を見ていた彼女だったが想いを決したようにそっと商品に手を伸ばす。だが、その途中で周囲を警戒するように見渡した。
「「……」」
もちろん、ずっと雪ノ下を見ていた俺と目が合う。目が合った彼女は伸ばしていた手をそっとしまうと素知らぬ顔で来た道を戻って行く。なかったことにしたようだ。いつものパターンだな。心の中で『おやすみ』と告げ、残りのカフェオレを啜る。だが、何故か雪ノ下はつかつかとこっちへ戻ってきた。おお、どうした?
「……あら、こんな夜中に奇遇ね」
「それはさっき言うべき言葉だったな」
俺の前で腕を組んでいる雪ノ下にそう言った。どうして戻って来たのだ。しかも、偉そうだし。
「……ねぇ、何のつもり?」
ため息を吐いているといつもより冷たい声音で問いかけられた。
「何の話だ?」
「何って……決まって――」
そこまで言った後、何かを見つけたのか言葉を区切った。何だろうとその方向を見ると平塚先生がどこかへ行こうとしている。スーツの上にコートを羽織り、もう夜中なのにサングラスをかけていた。俺たちの視線でこちらに気付いたのか明らかに狼狽し始める。
「な、何で君たちがここに?」
「飲み物を買いに……先生こそどうしたんすか?」
「う、うむ……他の誰にも言うなよ? 絶対に秘密だぞ?」
それから先生は今からラーメンを食べに行くと白状した。しかも、あろうことか口止め料としてラーメンを奢ると言って来た。あんたそれでも教師か。いいぞ、もっとやれ。主にラーメンを奢る的な意味で。それから雪ノ下も巻き込んで3人でラーメンを食べに行くことになった。サイニウムを摂取するために夜更かしをしようと決心し、MAXコーヒーを買いに行ったらラーメンを食べに行くことにあった不思議。
ラーメン美味しかったです。ご馳走様でした。
「私はコンビニで酒盛り用の酒を買って来る。気を付けて戻れよ」
帰りのタクシーを降りた先生はそう言って颯爽と去って行った。去って行った理由は気にしないようにしよう。そろそろ部屋に戻らないと戸塚が心配する。さて、帰るか。
「待って」
歩き出そうと足を出したその時、後ろから呼び止められた。振り返ると俺の目を真っ直ぐ見つめて来る雪ノ下の姿。
「……何だよ」
「さっき言いかけたことよ。何のつもりか聞いたじゃない」
「だから何の話か聞いてんだろ」
いつもとは違う会話。皮肉めいた小言ではなく真っ直ぐな怒り。だが、雪ノ下が怒るようなことをした覚えなどない。
「……サイさんのことよ」
「あ?」
「どうして連れて来たの。しかも、大海さんたちまで」
「……そう言うことか」
新幹線の時、サイは舌打ちをした。一瞬、魔物のことかと思ったがどうやら雪ノ下の気配を感じ取ったらしい。新幹線の中でも迷子になったのだろうか。自分の車両とは逆の方へ向かってしまったのだろう。
「説明してくれるかしら?」
「説明するも何も――」
そこまで言って俺は口を閉ざした。
「……どうしたの?」
急に黙った俺を不審に思ったのか目を鋭くさせる雪ノ下。だが、そんな彼女を無視してその場にしゃがみ込んだ。その直後、俺の頭上を何かが通り過ぎる。その正体を確かめる前に前に跳んで受け身を取り、雪ノ下の隣まで移動した。
「ひ、比企谷君!」
いきなり襲われた俺の名前を叫ぶ雪ノ下だったが構っている暇などない。急いで立ち上がり、敵を見る。
「へぇ、楽しめそうじゃない。ねぇ? 『孤高の群青』のパートナーさん?」
サイと同じぐらいの女の子が月を背に笑っていた。そして彼女の下には魔本を持った男。
(これ、ヤバくね?)
マイパートナー、サイ。応答お願いします。
また魔物に襲われました。『サウルク』+『サグルク』で駆けつけてください。ピンチです。魔物相手でもあしらえるぐらいにはなったつもりですが、さすがに“空を飛んでいる魔物”を相手にあしらえるとは思えません。しかも、雪ノ下を守りながら。