やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!


LEVEL.53 比企谷八幡の受難はまだ終わらない

 新しい呪文――『サフェイル』。俺が魔本に『サイが自由になるための力』を願ったことで発現した呪文だ。

 そして、今まさにサイが『妖精さん』になった。

 『サフェイル』はサイの背中に翼……いや、羽が生える呪文らしい。現にサイの背中には半透明の2対4枚の群青色の羽があった。まさに妖精さん。パタパタと上下に羽ばたかせ減速している姿に八幡はもうメロメロ。親方ー! 空から妖精さんが!

「サイ!」

「ハチマン!」

 手を伸ばして彼女の名前を呼ぶとサイも嬉しそうに俺を呼んだ。よかった。魔本からもあの嫌な感じは伝わって来ないし一先ず大丈夫そうだ。だが、サイの両手がないのに気付いてすぐに現実に戻される。急いで回復させないと。そう思っているとサイが俺の胸に飛び込んで来た。羽で減速していたとは言え、あんな高い場所から落ちて来たのだ。サイタックルを喰らって思わず、呻き声を漏らしてしまう。

(でも……)

 サイの温もりをまた感じることが出来てホッとしてしまった。本当に、よかった。

「……おかえり」

「ただいま!」

 俺とサイは抱き合ったまま、笑い合う。もう大丈夫だ。

「それじゃまずは回復させるか」

「う、うん。そうだね。すごく痛い」

 そりゃ、両手がなくなり、右足も傷だらけなのだ。痛いに決まっている。『サフェイル』を消してサイの体を地面に置いた。夜の特訓の時に『サルフォジオ』はサイを回復させられるか実験したのだが、サイ本人を回復させる場合はサイが地面に横になるしかないのだ。

「『サルフォジオ』」

 残り少ない心の力をかき集めて唱える。サイは手の無い腕を夜空に向けて伸ばすとその先に群青色の注射器が出現した。そして、そのまま腕を横に大きく広げる。すると、空中に浮いていた注射器が支えを失ったかのように落ちてサイの胸に太い針が刺さった。サイの体が群青色に輝き、いつの間にか全ての傷が治っていた。本当にすごいな、この呪文。無くなった部位さえも治すことが出来るのか。

「サイ、体の調子はどうだ?」

「んー……うん、大丈夫みたい」

 手を握ったりジャンプして確かめていたがどうやら問題ないらしい。後は――。

「サイ」

「何、ハチマ――いたッ!?」

 ――説教の時間だ。サイの頭を割と本気で叩く。絶対的強者のサイでも痛かったようでその場に蹲った。

「サイ、俺はどうして殴ったと思う?」

「え、えっと……私が、暴走したから」

「違うわ、アホ。もう一発」

「あいたっ!?」

 再度殴られたサイは涙目になって俺を見上げている。ちょっとゾクッとした。あれ、俺ってSだったのか。いや、相手がサイだからか。目をうるうるさせてこちらを見上げて来るその姿、まさに幼女。俺、ロリコンだったのか。いや、違う。俺はサイコンだ。

「……私が自殺しようとしたから」

「おう。何で自殺しようとしたんだ?」

「だ、だって! 私がまた暴走したらハチマンを傷つけちゃうと思って……じゃあ、いっそのこと――」

「――お前、言ってたじゃねーか。これからもずっと一緒だって」

 あの日――文化祭2日目。俺が相模を、皆を騙したあの日、サイは俺を抱きしめながら言ってくれた。その言葉を聞いたからこそすぐに立ち直ることが出来たのだ。俺のしたことを否定せずに認めてくれる人がいる。たったそれだけで俺は救われた。

「なのに、お前から離れようとしてんじゃねーよ。これからもずっと一緒だ」

「……ごめんなさい」

 サイは俯いて謝る。まぁ、俺も人のことはそんなに言えないしこれぐらいにしておくか。

「よし。謝ったから許す」

「……う、うぅ。ごめんなさあああああいいいいい!」

 許したのに余計、泣き始めるサイ。あ、あれ。ここで『ハチマンだーいすき!』とか言って抱き着いて来る予定だったんだが。やべ、怒り過ぎたか。

「八幡君」

「っ! お、大海? あのこれはな? 別にサイを虐めてたわけじゃなくて」

「もう、わかってるわよ。そんなことよりサイちゃんを抱きしめてあげて。素直に謝ったことを褒めてあげるの」

「お、おう」

 大海の指示通り、号泣しているサイの体を抱き寄せて頭を撫でてやる。サイもすぐに俺の背中に腕を回した。

「よくできました」

「うわあああああああああん!! ハチマあああああああン!」

 あの大海さん、更に泣いちゃったんですけど。戸惑いながら大海の方に視線を送るが抱き合っている俺たちを見て微笑ましそうにしているだけだった。いや、助けてよ。

「さ、サイ! 大丈夫!?」

 そこへティオが近づいて来た。彼女もすでに涙目である。

「ティオおおおおお! ごめんねええええええ!」

「わかったから落ち着きなさいって。もう……ぐすっ」

 絶叫しながら謝るサイと腰に手を当てながらも必死に涙を堪えているティオ。何だろう。喧嘩した幼稚園児を宥めている先生の気分だ。

「そう言えばハイルたちは?」

 とりあえず、泣きそうになっているティオも呼んでサイと一緒に抱きしめ、2人の頭を撫でながら大海に質問した。あいつら、どこ行ったんだ?

「あー……もう行っちゃったみたい。ハイルちゃんもサイちゃんの傷が治ったのを見て安心したみたいだったし。あとハイルちゃんから伝言」

「伝言?」

「『諦めないから。今度は家に行く』って」

 え、家まで把握されてるの? それただのストーカーだよ? まぁ、向こうは魔本を燃やすつもりはないみたいだから戦闘にはならないと思うけど。とりあえず、もう安全ってことだな。

「雪ノ下、大丈夫か?」

 抱き着いて離れない2人をまとめて抱っこして立ち上がり、近くで座り込んでいた雪ノ下に声をかける。だが、彼女は反応しなかった。

「……雪ノ下?」

「ッ……な、何かしら?」

「大丈夫かって聞いたんだよ。どっか怪我とかしてないか?」

「え、ええ……大丈夫よ」

「……そうか」

 俺たちの会話はそこで終わった。いや、もう俺から話しかけることが出来なかったのだ。彼女は一度も俺の方を見なかったから。何かに怯えるように震えていたから。

(……こりゃ、面倒なことになったなぁ)

 さて、どうするか。

「……ねぇ、八幡君」

「ん? 何だ?」

「……学校の方はいいの? もう夜遅いから点呼とかあるんじゃ?」

「……あ」

 やばい。これガチでやばいやつ。大海の時間を聞けばとっくに点呼時間は過ぎているし。どうやって言い訳しようか。

「ハチマン、けいたい……ぐすっ。かして」

 頭を抱えて(幼女を抱えているが)いると不意にサイがそう言った。この状況で何をする気ですか、貴女は。でも、今は藁にでも縋りたい状況。ここはサイに任せてみようか。

「じゃあ、どっちか降りてくれ」

「「……(ふるふる)」」

 幼女は同時に俺の方を見ながら拒否した。てか、ティオ。俺じゃなくて大海の方にいけよ。あ、駄目? マジかー。

「……大海、俺のポケットから携帯出してくれ」

「え、ええええ!? わ、わかったわ!」

 いや、なんで携帯を取るだけでそんなに気合入れるの?

 大海に携帯を取って貰い(なんか妙にドキドキした)そのままサイに渡す。慣れた手つきで携帯を操作したサイはどこかに電話を掛ける。

「……あ、もしもし? シズカ?」

 まさかの平塚先生だった。え、なんで先生に電話かけるの? まだ帰ってないってばれたら半殺しされる。サイの特訓で鍛えられたとは言え、先生の一撃を喰らって無事でいられる自信はない。

「こんばんはー。えっとね……あの。ごめんなさい……どうしてもハチマンと離れたくなくて京都まで付いて来ちゃったの。あ、メグちゃんと一緒に……詳しい話は後で話すね。えっと、それで“何故か”宿の外にいたハチマンを見つけてそのまま泣いちゃって……今までずっとハチマンとお話ししてたの。うん、うん……そう、“本当に何故か”一緒にユキノもいて。そうそう……うん、うん。そう? わかった。じゃあまた後でね」

 そこでサイは電話を切った。

「シズカがとりあえず、帰って来いだって。出来ればメグちゃんたちも来て欲しいみたい」

「……お前、今脅してなかったか?」

 俺たちが外に出ていたのは平塚先生と一緒にラーメンを食べに行ったからだ。サイはそれを知らないはず。それなのに『何故か』とか思わせぶりな言葉を使っていた。サイ、恐ろしい子。

「んー……まず、ハチマンがこんな夜遅くに外に出るわけないでしょ? それに加えてユキノと一緒にいたのもおかしいよね? ユキノがハチマンと一緒に出掛けようとは思わないだろうし。だから2人は誰かに強引に外に連れ出されたんだなって思って。それで八幡とユキノの知り合いかつ強引に外に連れ出せる人は誰かなって考えたらユイかシズカしかいないでしょ? でも、ユイはここにいない。なら、シズカだって仮定してさっきカマをかけたら動揺したから……まぁ、これでハチマンとユキノが咎められることはないんじゃないかな? 私とシズカっていう免罪符があるんだし。少しは注意されるだろうけど」

 ……サイ、恐ろしい子! 後、平塚先生に関しては大目に見てやって。下手すると首になるから。

「は、はは……それじゃ八幡君たちが泊まってる宿に行こっか。ティオ、そろそろ降りなさい」

「む、無理! なんか安心したら体から力が抜けちゃって……」

 まぁ、後少しでサイが死ぬところだったし。それに目の前でサイの左手がズタズタになるところを見たのだ。そりゃ安心したら腰も抜けるだろう。

「しょうがない。このまま行くか」

「でも、大変じゃない? ティオぐらいなら私も」

「お前は雪ノ下を頼む。あいつも動けそうにないから」

 チラリと雪ノ下を見るとまだその場に座り込んでいた。心ここにあらずと言った感じか。それに……今、俺が近づけば面倒なことになるだろうし。

「……ええ、わかったわ」

 大海も雪ノ下の様子を見て頷いてくれた。さて、泣き虫幼女2人を抱えながら帰りますか。あー、すごい疲れた。早く寝たい。サイを抱きしめながら寝たい。もうチュッチュしたい。いっそのことペロペロしたい。しないけど。普段考えないようなことを考えてしまうほど疲れた。

「……」

 だからさ、サイ。そんなに雪ノ下を睨むな。面倒事はこりごりなんだよ。もう、“関係ないんだから”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行2日目である。いやー、昨日は大変でしたね。あの後、宿に戻った俺たちは平塚先生に真実(大海がサイを連れて来たこと)と嘘(サイが俺を見つけて泣いてしまったこと)を混ぜて説明した。夜遅いと言っても日付は変わっていなかったし、事情(サイが独りで寝られないこと)も事情(平塚先生が俺たちを外に連れ出したこと)なので結構、あっさり許してくれた。大海も安心してホテルに戻れたし。雪ノ下はいつの間にか消えていたが。そんなことよりも、嬉しいことが起きた。

「ねぇ、ハチマン。今日はどこに行くの?」

 そう、サイの同行が許されたのである。大海の学校に平塚先生が連絡し、こちらの学校でサイの面倒を見ると言ったのだ。サイも俺から離れようとしなかったし。え? 昨日の夜はどうしたのかって? サイと一緒に寝たけど? チュッチュもペロペロもしなかったけどギュッギュはしたよ。朝起きたらなんか右頬がべとべとしたけど。涎垂らしながら寝たのか?

「今日は太秦方面だ。最初に太秦映画村に行く」

「へぇ。どんなとこなんだろ?」

 俺の肩の上にいるサイは楽しそうに笑う。楽しそうにするのはいいけど気配は消してくれよ? 他の人に見られて学校にクレームが入ったら面倒だからな。あ、因みに平塚先生にサイのステルスを見せて強引に納得させた。だって目の前で気配を消しても見失うレベルだし。やっぱりサイは忍者だったのか。まぁ、サイ曰く気配を消しているわけではなく、別の場所に魔力を流して自分の気配そのものを誤魔化しているとのこと。言っちゃえば、自分の気配をその辺に転がっている石ころレベルまで薄めているのだ。石ころに注目する奴なんかほとんどいない。それを利用しているのだ。石ころ帽子かな? 魔力を少し使うから魔物相手にはこの技は通用しないらしいが。普段は魔力を隠しているからそう易々とは見つからないだろうけど。

 それからバスに乗って移動する。石ころ帽子を装着しているサイだが、さすがにバスの中では隠れるのが面倒なのでバスの横を並走するそうだ。電柱とか屋根の上を走るらしい。後々考えればそれは正しい選択だったな。バスの中はもう満員で死にそうになったから。ただ戸塚を守り切ったのは俺の中で誇りに思っている。戸塚は俺が守る!

「そろそろアレ行かない?」

 太秦映画村を見て回っていると由比ヶ浜が不意にとある建物を指さして言った。その建物は史上最怖のお化け屋敷だった。お化け屋敷は吊り橋効果を見込める。由比ヶ浜も最初から目を付けていたようだ。昨日はあまり戸部たちの援護が出来なかったから今日こそは意気込んでいるみたいだし。サイも嬉しそうに俺の頭を抱きしめていた。ちょっと痛い。由比ヶ浜たちにもサイの存在は言っていないので呻き声すら漏らせないんだからもう少し落ち着いてくれ。あ、さすがにサイの料金は払った。気配を消せると言っても犯罪は駄目だからな。

「ハチマン、ドキドキするね」

 だからと言って耳元で囁かないでくれ。思わず、ドキッとしちゃうだろうが。サイの声って子供っぽくないから妙に艶めかしく聞こえるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お化け屋敷も無事にクリア(途中、由比ヶ浜と頭をぶつけるというアクシデントは合ったが)し、洛西エリアに向かう。もちろん、移動はバスだ。だが、洛西は金閣寺など人気観光スポットの多いエリアである。それに加え、映画村からの帰り客も多い。そのせいで結構な時間待つだろう。すでに何本か見送るほどだ。俺たちが乗るバスも満員になるだろう。立ちっぱなしで疲れて来ている上に満員のバスに揺られるのは些か堪える。サイとの特訓で体を鍛えている俺でも精神的疲労は耐え難い。サイと話しながら心の中でため息を吐くと視界の端にタクシー乗り場は映る。タクシーで行けばいいんじゃね?

「でも、バスと同じでばれちゃうよ? また走る?」

「……すまん。頼む」

「ううん、気にしないで。私、ハチマンと一緒にいられるだけで楽しいから」

 この子、俺が貰っていいですか? 昨日のこともあって今日のサイは甘えん坊モードなのですごく可愛い。普段も可愛いけど今もすごく可愛い。ねぇ、サイ結婚しよ。あ、駄目ですか、そうですか。

 サイが俺の肩から降りて離れて行ったのを見送った後、由比ヶ浜を呼んでタクシーを拾うことを提案する。最初は渋っていた彼女だったが、4人で乗って割り勘すればそこまでお金がかからないこととタクシーという密室空間に戸部と海老名さんを放り込めば関係が進むかもしれないと言って説得した。よし、俺ナイス。さぁ、行こう仁和寺へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次は龍安寺である。仁和寺? ああ、あいつは良い奴だったよ。いや、違うけど。仁和寺は秋より春の方が人気のあるスポットだし映画村のようにアトラクションがあるわけでもない。普通の高校生が見てもさほど面白みを感じられないだろう。俺もそこまで寺について知識があるわけじゃないしな。なら、名前がカッコいい龍安寺に行くしかない。10分ぐらい歩けば着くし。

 サイを肩車しながら道を歩く。肩の上の彼女は紅葉に興味があるのか手を伸ばしてはしゃいでいた。あ、キャッチ出来たのか俺の顔の前に紅い葉を差し出して来る。目に入るからやめなさい。

 集団の一番後ろでサイといちゃいちゃしていると前を歩いていた由比ヶ浜がいつの間にか隣に来ていた。少しだけ落ち込んでいるようである。

「上手く行かないもんだね」

 おそらく戸部と海老名さんのことを言っているのだろう。確かに彼らの関係は進んだとは言えない。

「まぁ……他人に軽く手伝って貰っただけで上手く行くんならもっと人は成功してるだろうよ」

 それに由比ヶ浜が戸部たちをくっ付けようとしている中でどっかの誰かさんがその邪魔をしているからな。本当に面倒なことになったもんだ。どうすっかな。

「……そう、だね」

 そっとため息を吐いていると由比ヶ浜も小さく頷いた。

「そうそう。どんなに頑張っても上手く行くことの方が少ないんだからユイが落ち込む必要なんてないでしょ?」

「はは、ありがとサイ……サイ!?」

 あれ、石ころ帽子外したの? めっちゃ由比ヶ浜が俺の頭の上にいるサイを見て驚いているけど。

「やっはろー、ユイ」

「や、やっはろー! じゃなくて何でここにサイがいるの!?」

「由比ヶ浜、もう少し声小さくしてくれ。一応、サイはお忍びなんだ」

「ニンニン!」

 忍者の真似をしなくても十分お前は忍者だよ。

 混乱している由比ヶ浜にサイが京都に来た経緯を話す。

「そ、そっか……メグちゃんに」

「ああ……結果的にはサイがついて来てくれてよかったけどな」

 いい機会か。いつか話さなきゃ駄目だと思っていたし。

「それってどういう?」

「……昨日、魔物に襲われた」

「ッ?! だ、大丈夫だったの?!」

「大丈夫だったからここにいるんでしょ……まぁ、大丈夫だったとは言えないけど」

 サイが零した意味深な言葉を聞いて由比ヶ浜が怪訝な顔をする。続きを話そうとするがその前に龍安寺が見えて来てしまう。

「続きは後だ。サイ」

「はいはーい。ニンニン!」

「あ、あれ? サイが消えちゃった」

 いやいますけどね。俺の肩の上に。

 受付を済ませて敷地内に入っていくと大きな池が見渡せた。参道沿いには竹で編まれた垣根が設けられ、石段を上って行く。方丈と呼ばれるお堂に入るといよいよロックガーデンこと石庭とのご対面だ。枯山水という水を使わずに石などでそれを表現する庭園様式である。あー、うん。確かに波紋に見えるね。だからサイ、降りて庭に入ろうとしないで足跡でばれる。そして、ガチで怒られる。少し歩き疲れたからか皆座って石庭を眺めはじめた。俺も座るか。

「……待ってハチマン」

 端っこの方へ移動しようとするがそれをサイが止める。何だろうとサイが指さしている方を見ると雪ノ下の姿があった。向こうも俺たちに気付いている。青い顔をして。

「……ごめんなさい。少し外すわ。先に行ってくれて構わないから」

 雪ノ下はそうグループの人たちに言って足早に去って行った。俺たちから逃げるように。

「あれ? 今のゆきのん?」

 それを見たのか由比ヶ浜が俺の隣で不思議そうに聞いて来る。

「……ああ。なぁ、由比ヶ浜。さっきの話なんだが」

「うん?」

「……魔物に襲われた時、雪ノ下も一緒にいた」

「え?」

「ばれたんだよ。魔物のこともサイのことも」

 そして――。

 

 

 

 

 

 

 ――あいつは俺とサイに対して恐怖心を抱くようになってしまったのだ。

 




さぁ、皆さん。

心がもやもやする準備は出来ましたか?
ええ、そうです。次回があのシーンとなります。


ふふ、こじれるぜぇ。

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