やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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とても長いです。
途中で切って次話に続けようかと思いましたが、そうするとどこか味気なくなってしまったのでこのまま投稿します。
14000字です。
前回のお話しの2倍?ぐらいです。



因みに私はこの話を書いていてラストの部分でちょっと涙目になりました。
涙目になりながら書きました……本当、サイちゃん可愛い。早く八幡と結婚して。


LEVEL.54 人間関係はいとも簡単に崩壊し、修復するのは至難の業である

「そ、そんな……」

 葉山たちに声をかけてから人気のない場所に移動した後、昨日起きたことを由比ヶ浜に説明すると彼女はショックを受けたような顔でそう呟いた。

「じゃあ……ゆきのんがヒッキーとサイを避けてるのは」

「まぁ、十中八九、恐怖だろうな。俺たちと一緒にいたらまた巻き込まれるかもしれんし。下手するとサイのことすら怖いのかもな。こんなに可愛いのに」

「わーい、可愛いって言われたー」

 いつの間にか肩から背中に移動していたサイが俺の頬に自分の頬を当てるように甘えて来る。おーよしよし。因みに由比ヶ浜にはサイが暴走したことは話していない。言う必要はないだろう。これ以上心配させることもあるまい。

「……ヒッキー?」

 サイの頭を撫でていると由比ヶ浜は俺を呼ぶ。その表情はとても意外そうだった。

「何だ?」

「何で……“他人事みたいに話すの”?」

 

 

 

「そりゃ、他人だからでしょ」

 

 

 

 由比ヶ浜の質問にサイが心底どうでもよさそうに答えた。

「え……でも、あたしの時は……」

 由比ヶ浜が魔物のことを知った時、俺と彼女の関係を繋ぎ止めたのはサイだ。あの時、サイがああ言わなければ今頃、俺たちは赤の他人として生きていたに違いない。だからこそ、由比ヶ浜は狼狽えた。サイの目にはもう雪ノ下は映っていなかったから。

「ユイの時とは違うからね。ユイは魔物のことを知っても私には恐怖しなかった。でも、ユキノは……私はもちろん、ハチマンのことも怖がってるから。そんな奴と仲良くなんてできない。こっちから願い下げ」

「そんな言い方!」

「じゃあ、ユイは『一番大切な存在』を怖がってる人と仲良くできるの?」

「っ……」

「それが答えだよ。ユイが何を言おうと私の答えは変わらない。ユキノが変わらない限り、ね」

 そう言ってサイは俺から降りてどこかへ歩いて行った。彼女の小さな手の中には俺の携帯。ちょ、俺の携帯を盗んで行かないで貰えます? てか、いつ盗んだの?

「サイ……ひ、ヒッキー! 何とか――」

「――できるわけねーだろ。俺たちが何を言っても雪ノ下は耳を貸さない。恐れてる奴らの言葉なんて信じられるわけがない。それに人の心なんてそう簡単に変わるわけじゃない。お前だって知ってるだろ」

「……」

 由比ヶ浜は空気を読むのが得意である。空気を読めてしまうからこそ周囲に合わせてしまう。そんな自分が嫌だと言っていた。だから、彼女は奉仕部の扉を叩いた。確かにあの頃より由比ヶ浜は流されなくなったと思う。でも、流される由比ヶ浜もいる。人なんて簡単に変わらない。変われない。変えられない。俺がそうであるように。

 そして――空気を読むのが得意な由比ヶ浜も言葉の裏を読むのは苦手らしい。あんなにわかりやすくサイが解決方法を示してくれていたのに。それにすら気付いていない。確かにサイが示した解決方法は難しいが、由比ヶ浜になら出来そうなのに。俺たちにはもう、“出来ない”から。

「雪ノ下に関しては後回しだ。今は依頼の方が優先だろ」

「そう、だね……あまり時間もないし」

「おう。だから――」

「――何としてでもとべっちの依頼を成功させようね!」

 俺の言葉を遮るように気合を入れた由比ヶ浜。

「え、あ、いや……それが」

「あ、そろそろ行かないと。ヒッキー、いこ」

 由比ヶ浜は足早に葉山たちがいる方へ歩いて行った。

「……どうすっかな」

 サイも戻って来ない。携帯を持って行ったから大海たちの方へ行ってしまったのだろう。由比ヶ浜も海老名さんの依頼に気付いていないようだし、俺がどうにかするしかないようだ。

「ヒッキー! 早くー!」

「……はいはい」

 手を振って俺を呼ぶ由比ヶ浜の方へ重たい足を動かして向かう。面倒な依頼のことを考えながら。

 その日、帰るのが遅くなりまた男子の入浴時間に間に合わず、内風呂を使うことになった。俺の目標である戸塚とお風呂はまた未遂に終わってしまった。いや、まだ2日目だ。3日目がある。まだ諦めない。諦めてたまるか! 後、サイさん。そろそろ帰って来て。携帯返して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男子どもが日本昔話のようなご飯の盛り方をしたせいで飯が足りなくなった。そのため、俺はお腹が空いている。今、部屋に戻れば麻雀大会の余波に巻き込まれるだろうし。ステルスヒッキーを発動させてコンビニにでも行くか。そうと決まれば早い。ステルスヒッキーを発動させて素早く部屋から財布を回収し、ホテルのロビーへ向かう。

 ここでステルスヒッキーのデメリットを話しておこう。ステルスヒッキーは気配を完全に消して人の目に映らなくなる素晴らしいスキルだ。しかし、あまりにもこのスキルが優秀過ぎるあまり、自動ドアすら反応してくれなくなってしまう。つまり、自動ドアを通り抜ける時だけ解除しなければならない。

「「あ」」

 そのせいでホテルの入り口でハイルと鉢合わせした。彼女の服装は昨日着ていたゴスロリではなくジャージである。何だろう、普段は高貴なお嬢様なのに家に帰った途端、だらしなくなる干物女を見てしまったような気分だ。

「あ、あんたはサイちゃんの!?」

「……おっす」

 どうやらハイルたちもこのホテルに泊まっていたようだ。再会早すぎるだろ。

「それじゃコンビニ行くんで」

「待って。なら私も一緒に行くわ」

 急いでハイルから離れようとするが服を掴まれてしまった。何故だ。お前の目的はサイなのに。抗議の視線を送るとハイルは気まずそうに目を逸らした。

「……この時間に私1人だけでコンビニ行くと通報されるのよ」

「ユウトはどうした」

「部屋でうなされてるわ。昨日のサイちゃんが怖すぎて熱出しちゃったの。あんなに可愛いのに」

 いや、その件に関しては本当に申し訳ない。後、お前とは美味いMAXコーヒーが飲めそうだ。今度、会ったら奢ってやろう。

「……一緒に行くか」

「うん、ありがと」

 こうして、俺とハイルはコンビニに行くことになった。

「ねぇ、コンビニで何買うの?」

 その道中で彼女が不意に質問して来る。まぁ、黙っているのもなんか気まずいから質問してみましたってとこだろう。

「少し腹減ったから飯でも買う。後、サンデーGX」

「あ、私も読みたい。あれ、すごい好きなの」

「……お前とは美味いMAXコーヒーが飲めそうだ」

「え、あんたもMAXコーヒー好きなの?」

「「……」」

 俺たちは黙って握手を交わした。やべぇ、こいつめっちゃ良い奴だ。何で昨日戦ったのってレベル。サイと友達になる前に俺と友達にならない?

「あ、ごめん。友達第1号はサイちゃんって決めてるから。友達第2号ならいいわ」

 そう言うとハイルは少しだけ嬉しそうに断った。

「じゃあ、友達第2号でいいよ」

 俺もお前が友達第2号だ。因みに第1号は大海。サイは俺のパートナーだから友達以上だぜ。羨ましいか? あ、すみません。尖った爪を喉に突き付けないでください。

「全く……でも、サイちゃんを大切に想ってるところは評価するわ。昨日はサイちゃんを助けてくれてありがと」

「気にすんな。こっちこそサイと友達になりたいって想ってくれてさんきゅ」

 昨日のサイを見た後でも友達になりたいと言ってくれたハイルにお礼を言った。サイにはハイルのような存在が必要だと思う。自分のことを全て受け入れてくれるような人が。ただ今のサイは俺以外を受け入れる気はない。ハイルよりもサイの方をどうにかしなくちゃいけないか。今のところ、どうすることもできないから保留だな。

「それこそ気にしないで。私は自分のやりたいようにやってるだけだから。あ、そう言えば、あんたの名前聞いてなかったわね」

「比企谷八幡だ。よろしく、ハイル」

「ええ、よろしく八幡。後、私はハイちゃんよ」

 あ、まだそこにこだわっているのね。

「それで? ハイちゃんはコンビニで何を買うんだ?」

「氷」

「氷? なんでそんな物を?」

 コンビニの前で思わず、足を止めてしまう。それに気付いたハイルは俺の方を振り返りながら当たり前のように答えた。

 

 

 

 

 

 

「だってサイちゃんの左手が腐っちゃうじゃない。ホルマリン漬けにするまで氷で時間を稼ぐの」

 

 

 

 

 

 

「……」

 そう言えば、サイがハイルの拘束から逃れるために左手を犠牲にしたとか言っていたような。右手だった物はサイが適当な場所に埋めて処理したが左手だけは最後まで見つからなかった。ハイルが持って帰っていたようだ。

「早く来てよ。また通報されそうになっちゃうじゃない」

「お、おう」

 目の前にいる高貴なるツペ家のご当主様にドン引きしていると手を掴まれて引っ張られてしまった。友達第2号になったの間違いだったかな。

「それじゃ氷買って来るわね」

 入店した後、買い物かごを両手に持ったハイルはコンビニの奥へ向かった。さて、さっきの話は聞かなかったことにしてサンデーGXはどこかな。

「ヒキオじゃん」

 お目当てのサンデーGXを見つける前に不名誉な呼び方をされた。声が聞こえた方を見るとこちらを見ずに雑誌を眺めている三浦がいた。俺を見てないなら話しかけんなよ。三浦に目を向けずにサンデーGXを拾い上げてぱらぱらとめくっていく。ハイルまだかなー。

「あんさー、あんたら一体何してるわけ?」

 唐突にそう言われて驚いてしまった。こいつ、気付いていたのか。

「あんま姫菜にちょっかい出すのやめてくれる?」

「……そのつもりだ。海老名さんからの依頼もあるしな」

「……姫菜が何か言ったの?」

 俺の返答が意外だったのか三浦の視線が刺さる。でも、俺は彼女の方を見ない。だって目が怖いから。

「いや、はっきりとは言ってない。皆、仲良くしたいね、みたいなことは言われたけど」

「ふぅん」

 え、それだけ? 質問しておいてどうでもよさそうにスルーされるとなんか恥ずかしいんだけど。

「ま、あんたらが何をしてるのかわからないけど……これ以上余計なことしないで」

「わかってる。むしろ俺は海老名さんの依頼を優先するつもりだからな」

 それが俺のためでもあるから。俺は自分のために海老名さんの依頼を優先する。ただそれだけだ。

「……何その顔。きも」

 いや、ただサンデーGX読んでるだけなんですけど。

「八幡、サンデーGX見つかった?」

 その時、ハイルが2つの籠いっぱいに氷を入れてやって来た。え、そんなに使うの?

「え、何この子。ヒキオの知り合い?」

「親戚だ」

 答えてから気付いたけどハイル金髪やん。親戚に金髪の女の子がいるとかありえない。しかし、三浦はハイルを一瞥した後、雑誌に視線を戻した。あまり興味がないらしい。

「……あんたに何があったのかわからないけど、結衣を悲しませることだけはしないで。したらあーし、ちょー怒るから」

「……肝に銘じておくわ」

 三浦にそう答えてサンデーGXを持って腕をプルプルさせて耐えているハイルの元へ急ぐ。

「は、八幡……助けて」

「いや、数減らせよ」

 左手を保存するだけならそんなに要らないわ。戻して来なさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行3日目。戸部が告白するなら今日しかタイミングはない。明日はもう帰るだけだ。まぁ、俺にはもう関係ない話だけど。そんなことよりサイの方が心配だわ。昨日、来なかったから徹夜しているだろう。それに携帯を早く返して欲しい。何かと不便だから。

 さて、ホテルで朝ごはんを食べ終わったのはいいが、いかんせんやることがない。荷造りも終えてロビーに出しちゃったし。

(……まぁ、1人で京都散策でもするか)

 小町にお守り買わないといけないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 京都の秋はとても綺麗だ。歴史を感じる寺院や神社。彩る紅葉。だからこそ観光客もたくさん訪れるのだろう。俺だって人だ。綺麗な物は綺麗だと感じる。そこまで捻くれてなどいない。しかし、この偶然を偶然だとは思えない。

「あれ、八幡君?」

 ただ道を歩いていたら大海と出会うなんて。とある群青少女が糸を引いているに違いない。

「大海……何でここに」

「昨日、サイちゃんがこの辺りがお勧めだって言ってたから」

 やはり、サイの仕業だったようだ。1日目の夜、布団の中で行きたい場所を聞かれたからな。

「じゃあ、サイは昨日そっち行ってたのか」

「うん……これを私に預けた後、どっか行っちゃったけど」

 そう言って大海は俺の携帯を差し出す。サイよ、そこまで見越していたのか。とりあえず、大海から携帯を受け取り、電話やメールの履歴を確認する。全部消されていた。メールすら1通も残っていない。

「サイちゃんと何かあったの?」

 俺の表情から何か察したのかそう問いかけて来る大海。

「いや、サイとは何もない」

「……雪ノ下さんと何かあったのね」

 あ、やべ。サイとの仲を聞かれたから少しムキになってしまった。

「まぁ、少しな」

「大丈夫なの? サイちゃんもあんまり元気なさそうだったけど」

「……」

 大海が心配そうに俺の顔を見ている。話すべきか、それとも話さずに誤魔化すべきか。雪ノ下に関しては完全に俺たちの問題である。それに正直言ってもう“手遅れ”だ。ばれてしまった上に彼女は俺たちのことを恐れている。もう、俺たちにはどうすることも出来ないのだ。それはこちら側である大海も一緒。大海たちが雪ノ下に何を言ってもそれはこちら側――魔物と一緒に戦っている俺たちの言葉であることには変わらない。それでは雪ノ下を変えられない。

(雪ノ下を変えられるのは――)

「八幡君?」

「っ……いや、何でもない。それよりお前、なんで1人なんだ? 修学旅行なんだろ?」

「……え、えっと、はぐれちゃった」

 少しだけ恥ずかしそうに答えたアイドルは絶賛迷子中だった。まぁ、この辺りは少し入り組んでいるから少し目を離しただけでも一緒にいた人とはぐれてしまうだろう。

「大丈夫なのかよ……」

「うん、もしはぐれたら次の目的地で合流しようって話してたから」

 なるほど。携帯という便利な道具があったとしてもはぐれた相手と合流するのはかなり面倒だ。だが、そうすることによって合流するまでのロスは少ない上、合流できる確率もグッと高くなる。

「この後の予定は?」

「ちょっと待って……北野天満宮かな。学問の神らしくて皆でお参りしようって話になって」

 大海は今後の予定が書かれている紙を取り出して教えてくれた。それにしても学問の神とな? 小町のために合格祈願のお守りが欲しいから丁度いいかもしれん。これはいいこと聞いたぞ。

「俺もお守り欲しい。場所教えてくれ」

「あ、なら一緒に行きましょ?」

「え、いや……俺あれだし」

「もう、そうやって逃げようとしないでよ」

 少し怒った様子で大海は逃げようとする俺の手を掴む。いきなり手を掴まれたせいで硬直してしまう。

「きっと1人より2人の方が楽しいから」

 動けない俺にそう言って歩き出す大海。手を掴まれている俺も自然と動いた。

「八幡君は昨日、どこに行ったの?」

「……」

「八幡君?」

 何も言わない俺を不思議に思ったのか大海はこちらを見ながら首を傾げる。

「い、いや……その……手が」

「手? ――ッ!?」

 やっと手を握ったまま歩いていることに気付いたのか彼女は顔を真っ赤にして俺の手を離す。その反応は止めてくれ。こっちまで恥ずかしくなる。

「ご、ごめんなさい……」

「俺も、なんかすまん……」

「「……」」

 何だ、この空気。ものすごく気まずい。俺の友達第1号さんや、何か話してくれ。思わず、ステルスヒッキーを発動してしまいそうだ。しかし、俺の願いは叶わず、大海は顔を俯かせて黙っていた。

「……とりあえず、行くか」

「え、ええ……」

 それから俺たちは何とも言えない空気の中、北野天満宮に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、あの子に会ったの?」

「ああ」

 何とか先ほどまでの何とも言えない空気を吹き飛ばし、普通に話せるようになった頃、昨日の夜にハイルと再会したことを大海に話した。それを聞いた彼女は目を丸くして驚愕する。当たり前か。

「それで……向こうは?」

「コンビニに行こうとしたけど子供だからって通報されそうになったんだと。そこで俺と会ったから一緒にコンビニに行った」

「……はい?」

「だから、コンビニに一緒に行ったんだよ。それにあいつ、結構良い奴だぞ」

 MAXコーヒー好きに悪い奴なんていない、それにサイと友達になりたいという点も評価できる。だから俺が気前よくサンデーGXを貸してしまうのも仕方ないのだ。

「そ、そう……」

「ああ。今度、漫画を借りる約束までした」

「ええ!?」

 だって、丁度読みたかった漫画持っているって言ったから。早く読みたいな。

「へぇ。そんなにハイルと仲良くなったんだ」

 その声が後ろから聞こえた瞬間、俺の背中が凍りついた。

「ね、ねぇ、八幡君。後ろに……」

 お願いします、大海さん。顔を引き攣らせて俺の肩を叩かないで。死んじゃうから。絶対殺されちゃうから。絶対後ろなんて見ない。絶対にだ。

「ハチマン。こっち見て」

「はい」

 しかし、絶対的強者のお言葉の前では俺の覚悟なんて無意味だった。おそるおそる後ろを振り返ると腕を組んでニッコリ笑っているサイの姿。

「ハチマン。こっち来て」

「い、いや……今から北野天満宮に――」

「付いて来て……くれるでしょ?」

 あ、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイのおしおきを受け、『サルフォジオ』ですっかり両手と両足が元通りになった俺はサイと共に北野天満宮に到着する。因みに大海には先に行ってもらった。サイの顔を見た瞬間、長くなるとわかったからだ。

「それでハチマン。ヒナの依頼はどうするの?」

 小町のお守りを買った後、適当にぶらついていると不意にサイが問いかけて来た。やはり、サイは気付いていたようだ。まぁ、気付いていたからこそ大海に頼んでここまで来たのだろうけど。

「何とかする」

「その方法は?」

 隣を歩くサイが鋭い眼光で俺を見上げた。前科があるからな。そりゃ怪しまれても仕方ない。実際、俺が思い付いた方法は前科と同じようなものだし。

「悪い」

 だから俺は素直に謝る

「悪いって思ってるなら止めてよ」

「……悪い」

 もう一度、謝った。こんな方法しか思いつかなかったことを。サイが悲しむと知っている上で実行することを。

「……ハチマンのバカ」

 今の俺に何を言っても無駄だとわかっているのだろう。罵倒したサイは顔を俯かせて俺の手を握る。行かないでと言わんばかりに。その手を握り返そうとした時、不意にポケットの中で携帯が震えた。サイに目配せすると黙って頷いてくれる。急いで携帯を取り出して届いたメールを開封した。由比ヶ浜からだ。

「……」

「誰から?」

「由比ヶ浜。戸部の告白ポイントを見つけたって。この場所で……戸部は告白する」

 そして、このクソみたいな板挟みの依頼を解決する場所でもある。

「……そっか」

 サイは鋭い目を由比ヶ浜からのメールに向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽつり、ぽつりと竹林の道に灯篭が灯る。その光景はとても幻想的で、戸部のために用意された舞台。そう、ここが由比ヶ浜が見つけた告白ポイントである。

 夕食を食べ終えた後、戸部の依頼に関わった人物――俺、由比ヶ浜、戸部、葉山、大岡、大和、そして、雪ノ下雪乃がここに集まっていた。雪ノ下は俺が怖いのか由比ヶ浜の傍を離れようとしない。

「……なぁ、ヒキタニくん」

 それを見ていると不意に葉山が話しかけて来た。何だよ、いきなりだったから吃驚しただろ。

「何だよ」

「いや……君は、何か気付いてるのかと思って」

「あ?」

「何となく……あの時の君と同じ表情だったから」

 文化祭の時のことだろう。こいつは俺の嘘に気付いていた。そして、あの時の俺を見ている唯一の人間でもある。だからこそ、気付けたのだろう。俺が今から同じことを繰り返そうとしているのに。

「お前だってずっと邪魔してたろ」

「邪魔ってわけじゃ……」

「それに依頼だからな。やるしかない」

「……何で君はそこまでして人を助けるんだ? どうしてそんなことが出来るんだ」

「そんなの決まってるだろ」

 ああ、そうだ。決まっている。そもそも俺は『人を助ける』なんて大層なことは思っちゃいない。俺は自分のためにやっているだけだ。

「お前だって気付いてるからこそ邪魔してたんだろ。人間関係なんて簡単に壊れる。たった1つの出来事でな」

 俺と雪ノ下の関係がたった1度の戦いで壊れてしまったように。海老名さんの関係もたった1つの告白で壊れる。壊れずとも前のようには戻れない。皹の入ったガラスと同じように。

「海老名さんは今の関係を壊したくない。だからこそ依頼した」

 ――だって、今まで通り、仲良くやりたいもん。

 彼女はそう言っていた。それが彼女の依頼。

「まぁ、海老名さんだけがそう思ってたわけじゃないみたいだけどな」

「……君は、何とか出来るのか?」

「ああ、出来る」

 出来なきゃここにいない。断言した俺を見て葉山は悔しそうに顔を歪める。

「君にだけは……頼りたくなかったのに」

「気にすんな。だって――」

 

 

 

 

 

 ――もう、目の前で関係が壊れるところを見るのはこりごりなのだから。

 

 

 

 

 

 俺の言葉を聞いた葉山は言葉を失っていた。しかし、俺はすでに葉山から目を離している。海老名さんが現れたのだ。戸部もそれに気付いて体を硬直させた。後ろからでも緊張していることがわかる。由比ヶ浜たちも息を潜めて2人の様子をうかがっていた。そんな空気の中、とうとう海老名さんが戸部の前に到着する。

「あの……」

「うん……」

 戸部が彼女に声をかけるとその反応は薄い。見ているこっちの胸が痛くなるほど。そして、すぐに理解した。戸部は振られる、と。関係が壊れてしまう、と。

 戸部だって告白すれば関係が壊れてしまうことぐらいわかっているはずだ。でも、彼は動いた。後悔したくないから。動かないまま、失いたくないから。

 しかし、戸部と同じように失いたくない奴らがいる。

 だからこそ、海老名さんは依頼を出した。

 だからこそ、葉山は苦悩していた。

 彼らは結局、大切な人を、今の関係を、失いたくないだけなのだ。

 じゃあ、どうすればいい?

 戸部の説得? すでに葉山がしている。

 壊れた後に関係を修復する? それが出来たら苦労はしない。

 なに、答えは簡単だ。告白の邪魔をすればいい。告白して関係が壊れるなら告白させなければいいのだ。

 しかし、俺たちは第三者である。それに加え、奉仕部は戸部の依頼を受けた。何か騒動を起こして告白の邪魔をすれば奉仕部に迷惑をかけてしまう。それだけは駄目だ。

 

 

 

 

 

 

 ならば――海老名さんたちとは全く関係ない俺が動けばいい。告白現場に割り込んで当事者になればいい。奉仕部としてではなく、比企谷八幡個人として動けばいい。こうすれば戸部の告白の邪魔も出来るし、海老名さんたちの関係を壊すことにもならない。全部、解決する。

 

 

 

 

 

 

「あ、あのさ……」

 戸部が意を決して口を開く。だが、その時にはすでに俺も動いている。スタスタと歩いて戸部の真横まで移動した。そして、何か言われる前に言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「ずっと前からす――」

 

 

 

 

 

「――ヒナー!」

 俺の言葉を遮るように可愛らしい声が竹林に響き渡る。海老名さんの後ろからサイが何かを持って走って来ていた。

「あれ、サイちゃん? どうしたの?」

 まるで俺と戸部を無視するようにサイの方へ振り返った海老名さん。ああ、なるほど。そう言うことか。

「はい、頼まれてたBL本! 確か新撰組系の奴が良かったんだよね?」

「そうそう! サイちゃん、ありがとう!!」

 サイからBL本が入っている鞄を受け取り、中身を取り出してその場でぱらぱらと読み始めた。

「ぐへへ。やっぱり、BLはいいよね! 私、趣味だけで生きていけそう」

「もう、そんなこと言ってたら恋人なんて出来ないよ?」

「趣味に生きてるからいいの! むしろ、BLが恋人って言ってもいいぐらい! 今は恋人なんていらないかな。あ、そう言えばとべっち、話って何だっけ?」

「え!? あ、いやー……この場所けっこう良さげだったから教えておこうかなーって。な! ヒキタニ君!」

「おう。他の皆も来ればよかったのにな。なんか用事あるとかで来れなかったみたいだけど」

 俺は話を合わせた。戸部は俺も告白の邪魔をされたと思っているみたいだし。

「そっか。教えてくれてありがと。うん、とべ×はちもいいかも。2人がこの竹林を並んで歩いて……その雰囲気にあてられたとべっちがヒキタニ君に迫って! ヒキタニ君も嫌がるんだけど心の中では!!」

「やめて。本当にやめて……」

 こんな趣のある場所でBLのネタにされたくない。

「だって、ヒキタニ君って捻くれ受けなんだよね? サイちゃんから聞いたよ」

「……サイ?」

 サイの方を見ると気まずそうに目を逸らした。お前、海老名さんに何言ったんだよ。

「あ、ごめん。サイちゃんが買って来てくれたBL本を部屋で読みたいからこの辺で」

 そう言い残して海老名さんは足早に去って行った。

「いやー告らなくてよかったわー。絶対振られてたわー」

 頬を掻きながら呟く戸部。あ、もしかして俺に言ってたりする?

「だな」

「にしても……ヒキタニ君もかー。まぁ、気持ちはわかっけど」

 そこで言葉を区切り、俺の方に手を差し出した。

「でも、絶対負けねぇから。今から俺たち、ライバルな!」

「……おう」

 頷きながら戸部の手を握る。大丈夫だぞ、戸部。俺は別に海老名さんのことは好きじゃない。だからそんなに嬉しそうに笑うな。ライバルと戦って『お前、なかなかやるな』とか言っちゃうキャラみたいな反応するな。

 言いたいことを全て言ったからか戸部は歩き去っていく。彼の向かう先には大岡と大和がいた。肩を組んだり背中を叩かれている。絶対、向こうの方が組み合わせ的に合っていると思うぞ、海老名さん。

「どうやら……ヒキタニ君でもこの展開は予想してなかったみたいだね」

 そんな彼らの姿を見ていると葉山が話しかけて来る。

「ああ」

「……でも、やっぱり君がやろうとしてたことは許されることじゃない。それじゃ」

 葉山はそれだけ言って戸部たちの方へ走って行った。余計なお世話である。お前に何を言われても俺は変わらない。

「えへへ」

 そんなことよりドヤ顔で俺を見上げているサイが問題だ。

「お前……いつから?」

「昨日の夜にヒナと打ち合わせしておいたんだよ。ハチマンがハイルと一緒にいた頃に」

 ジト目で見ながらサイが教えてくれた。その件に関しては散々謝ったはずだ。だからそんなに睨まないで。

「ねぇ、比企谷君」

 その時、後ろから呼ばれた。聞き覚えのある絶対零度。振り返らなくてもすぐにわかった。雪ノ下だ。

「さっき……あなたは何をしようとしたの?」

 彼女の方を見るとその目はとても鋭かった。冷たく、糾弾するような視線。でも、不思議と怖くなどなかった。その瞳の奥が恐怖で揺れていたから。

「別にあのままだと戸部は振られてたからな。それを防いだだけだ」

「だから、嘘の告白をしようとしたって言うの?」

「ああ。サイに邪魔されたけどな」

「……」

 失敗していたらきっと、止められたのだろう。しかし、未遂とは言え、俺があのまま、告白していれば十中八九、戸部の告白を止められていた。それがわかってしまったから雪ノ下は俺を止められない。

「あなたのやり方……嫌いだわ。言葉に出来なくてもどかしいけれど、とても嫌い」

 そのせいでそんな幼稚な好き嫌いしか言えないのだろう。そんな言葉など何も意味を成さない。

「……」

 だから、俺は何も答えない。答える必要などない。雪ノ下雪乃なんかに答えてやる義理などどこにもない。

 その沈黙に耐えられなかったのか。雪ノ下はチラリと由比ヶ浜の方を見る。おそらく、由比ヶ浜も何か言いたいことがあると察したのだろう。視線で促された由比ヶ浜は苦しそうに目を伏せながら口を開く。

「……ヒッキー、前に言ったよね。ヒッキーはすごく優しいから誰でも救っちゃうって。でも、ヒッキーも救われなきゃ意味ないって。あたしでもわかるよ? あのまま、ヒッキーが姫菜に告白すればとべっちは振られずに済んだって……で、その後、ヒッキーは救われないって。サイだってそれを見るのが嫌で――」

 

 

 

 

 

 

「――知ったような口、聞かないで」

 

 

 

 

 

 由比ヶ浜の言葉をサイが止めた。俺にも伝わって来るサイの殺気。それをまともに受けた由比ヶ浜と雪ノ下は顔を青くしてサイを見ている。

「黙って聞いていればごちゃごちゃごちゃごちゃ」

「さ、サイさん?」

 苛立っているサイを呼ぶ雪ノ下だったが見るからに怯えていた。一昨日の出来事を思い出しているのかもしれない。

「ユキノ……私、知ってるんだよ。全部」

「知っている? 何を――」

 

 

 

 

 

 

 

「――ずっとハチマンとユイのことを羨ましそうに見てたこと」

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 図星だったのか雪ノ下は目を丸くして絶句する。因みに俺は初耳だ。

「きっと、頭がいいユキノなら気付いてたんでしょ? ハチマンとユイは何か共通の秘密があるって。ユキノに教えてないことがあるって。辛いよね? 同じ部活仲間なのに知らされてない秘密があるのって。裏切られた気分だった? どうして、2人は私に何も言わないんだろうって。悲しかった? 仲間だって思ってたのは私だけ、みたいな? だから、『見せ付けないで』とか言ったの? まさか同じぼっちだと思ってたハチマンに別の仲間がいて嫉妬しちゃった?」

 ニコニコと笑いながら語るサイだったが、突然その顔から表情を消して言い放つ。

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろよ、臆病者」

 

 

 

 

 

 

 ――とても冷徹な罵倒を。

「いつから気付いてたのかわからないけどさ。影でこそこそ探るようなことしてたでしょ? 新幹線の時とかまさにそう。ハチマンが私たちと一緒にいるのを見てたの知ってるんだからね」

「あ、あれは……向かう方向を間違えて」

「でも、私たちを見つけた瞬間、隠れたよね? 話しかけもせず、すぐに引き返すこともせず、黙って聞き耳を立てて。私、知ってるんだよ?」

「……」

 雪ノ下は悔しそうに顔を背ける。サイの言っていたことは事実なのだろう。

「それで? 魔物のことを知った途端、離れる、と。あれだけ知りたかった私たちの秘密だよ? あれだけ羨ましく思ってた私たちの関係だよ? なんで、離れるの? どうして受け入れられないの? どうして私たちを信じられなかったの? 何かユキノには言えない事情があったって」

「それは――」

「――ユキノが臆病者だからでしょ。人を信じるのが怖いから疑って。受け入れられないような秘密だってわかった途端、怖くなって離れて。これを臆病者って言って何が悪いの? 臆病者は臆病者らしく……部屋の隅で震えてろよ」

「――ッ」

 雪ノ下はサイの殺気にやられてしまったのかガクガクと足を震わせてその場にへたり込んでしまった。しかし、サイは止まらない。次の標的――由比ヶ浜に視線を移す。

「ユイもユイだよ」

「え?」

「ハチマンはね……ユイに相談しようとしたんだよ。今回の依頼のこと」

「……うそ」

「嘘じゃない。それなのにユイは話を聞かずにトベの依頼を成功させようとか言ってすぐにハチマンから離れたでしょ。これが証拠」

 すると、いつの間にか俺のポケットから携帯を盗んでいたサイが録音していた音声を再生させる。

『そう、だね……あまり時間もないし』

『おう。だから――』

『――何としてでもとべっちの依頼を成功させようね!』

『え、あ、いや……それが』

『あ、そろそろ行かないと。ヒッキー、いこ』

『……どうすっかな』

『ヒッキー! 早くー!』

『……はいはい』

 それは雪ノ下に魔物のことがばれたと報告した後に交わした会話だった。

「そこで震えてる臆病者。これ聞いてどう思った?」

「……」

「答えて」

「……ひ、比企谷君は、何か言いかけていたけれど……由比ヶ浜さんがそれを遮っているように聞こえるわ」

「うん、だってそうだもん」

 雪ノ下の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべるサイ。だが、今その顔を見ても楽しい気分にはなれなかった。

「せっかくあの捻くれぼっちのハチマンが手を伸ばしてくれたのに……ユイはそれを突っぱねたんだね」

「あ、あたし……そんなつもりじゃ」

「いや、別にいいんだよ? その直前にユキノが私たちを避けてるって聞いてたから動揺してたんだろうし。大丈夫大丈夫。最初からわかってたもん、“ユイは役立たず”だって」

 何度も頷いてみせたサイはニッコリと嗤いながら言う。言ってしまう。

「やく、たたず?」

「だってそうでしょ? 文化祭の時、ハチマンとユキノは身を粉にして働いてたのにも関わらずユイは何も知らないまま、過ごしてたんでしょ? しかも、それを知った途端、怒り出す始末。そんな権限、お前にはないんだよ。今回だってそう。いや、違う。今回の方がもっと酷い。ハチマンが伸ばした手を払っておきながら偉そうにお説教とか。じゃあ、ユイの言葉で返してあげる。“ユイ、前に言ったよね”。何も知らない奴に怒る資格なんてない。お門違いなんだよ……役立たず」

「っ……」

 サイの言葉があまりにもショックだったのか由比ヶ浜は顔を歪ませて涙を零してしまう。それをサイはどうでもよさそうに見ていた。

「サイ……お前」

 俺は、気付いてしまった。サイの思惑を。サイが何故、こんなことをしたのかを。全て、知ってしまった。そして、それを受け入れようとしている自分がいることに。

「あーあ……私、結構期待してたんだよ? あの捻くれぼっちのハチマンと仲良く出来そうな人たちだって。でも……失望しちゃった。1人は人のことすら信じられないただの臆病者で、もう1人は自分では動きもしないただの役立たず。本当に……残念」

 震えている雪ノ下と泣いている由比ヶ浜をサイは群青色の瞳で一瞥した後、歩き出す。しかし、その途中で彼女たちの方を振り返り、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、奉仕部やめるね。ハチマン、いこ?」

 

 

 

 

 

 

 

「……おう」

 俺は雪ノ下と由比ヶ浜を放置してサイの隣を歩く。

「「……」」

 それからしばらく俺たちは黙って歩き続ける。その沈黙はあまり不快に感じなかった。サイは“俺のために”あんなことをしたのだから。

「……ハチマン、ごめん」

 ずっと黙っていた群青少女は俺の手を握りながら謝った。

「いや、気にすんな。ありがとな、サイ」

「っ……ぐすっ」

 お礼を言いながら彼女の頭を撫でると今まで我慢していたのかサイの目から大粒の涙が流れ始めた。

「ごめんなさい……ごめんなさい!」

「いいって。俺の方こそごめんな。あんな辛いことさせて」

 優しく抱き寄せて俺も謝る。今回の件に関しては俺が悪い。変われない俺が悪いのだ。

「だ、って……あのま、まあそこにい、たら……ハチマン、傷ついちゃうから。それが、嫌だから……いや、だから!」

「わかってる。全部わかってるよ」

 サイは……自分を傷つけてまで依頼を解決させようとする俺をもう見たくない。しかし、俺に何を言っても変わらない。だから――奉仕部をやめさせたかった。悪役を演じて雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣と比企谷八幡の関係を壊した。粉々に、木端微塵に。

「ごめんなさいっ……ごめんな、さい!」

 たとえ、自分が傷つくことになっても彼女は俺を守りたかったのだ。

「ありがとう、サイ」

 そんな彼女の気持ちを裏切るわけにはいかない。裏切れるわけがない。こんな小さな体を震わせて泣いている女の子を裏切れるほど俺は捻くれているわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――こんな健気な女の子を見て変われないほど俺は落ちぶれちゃいない。

 




いかがだったでしょうか……心はもやもやしてますか?
私はこのお話しが受け入れられるか心がもやもやしてますw



次回、サイ視点です。
2日目、サイが裏で何をしていたのかなどを書く予定です。

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