やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.74 群青少女は深海に宝物を隠す

 思わぬところでキス写真を手に入れてしまった俺は三浦たちの刺々しい視線を背中に受けながらサイと手を繋いで園内を歩く。まぁ、刺々しい視線を送っているのは三浦と一色だけ。他の人はなんか生暖かい視線だった。それも少し心に来るから止めて欲しい。サイももじもじして恥ずかしがっているし。恥ずかしいならするなよ。嬉しかったけど。

 写真を撮った後はカリブ海の海賊王に乗り、その足で流れに乗って、ブラックサンダーマウンテンのファストパスを取った。これがあれば人気のあるアトラクションを長時間列に並ばずに乗ることができる。だが、ファストパスは連続で取れない。次のファストパスを取れるようになるまで時間がかかるのだ。そのため、どのアトラクションのファストパスを取り、次のファストパスが取れるようになるまで別のアトラクションで時間を潰すか計画を立てなければ時間を無駄にしてしまう。因みに俺なら入場せずに電車に乗って家に帰る。無駄のない完璧な計画。

 それからぐるっと回ってトゥモローネバーゾーンに到着し、今日のコースを考えた一色を先頭に園内を歩く。

「次はあれです」

 しばらく歩いていると一色が一つのアトラクションを指さした。スペースユニバースマウンテン。三大コースター系アトラクションだ。確かにディスティニーランドに来たらこれに乗るべきなのはわかる。しかし、一応今日はクリスマス合同イベントの参考にするための取材という目的があるのだ。

「これは……クリスマス色があまりないから参考にならないんじゃないかしら?」

 俺と同じことを思っていたのか雪ノ下も首を傾げながらそう呟く。それを聞いた由比ヶ浜が慌てて説得していた。

「あれもアトラクション?」

 それを見ていると不意にくいくいとサイが俺の手を引きながら問いかけて来る。その視線の先にはスペースユニバースマウンテンのドーム。

「ああ、コースター系のアトラクションだ」

「コースターってジェットコースター? あの時は身長制限で乗れなかったけどここは大丈夫かな?」

「あ、そっか。身長制限もあるんだ。じゃあ、聞いて来るね」

 雪ノ下の説得を終えた由比ヶ浜が近くにいた係員のところに行ってしまった。何の躊躇いもなく係員に話しかけている彼女を見て尊敬してしまう。俺なら絶対噛む自信あるし。感心しながら遠巻きにそれを見ていたら何故か係員と一緒に戻って来た。

「並ぶ前に身長測ってくれるって!」

 なるほど。確かに何時間も並んだのに身長制限で引っかかって乗れなかったらかなりショックだよな。すでにファストパス取っちゃったけど。ここはお言葉に甘えてサイの身長を測って貰おう。因みに117cm以上あれば大丈夫らしい。由比ヶ浜に他の人にも説明するように頼んで俺とサイは係員の後を追う。

「118cm、ですね。大丈夫ですよ」

 どうやら、身長制限には引っかからなかったようだ。しかも、ディスティニーランドのアトラクションに設けられている身長制限の最大は117cmなので他の身長制限が設けられているアトラクションにも乗れるとのこと。

「じゃあ、あれにも乗れるんだね! 前は乗れなかったから乗るの楽しみ!」

「……そうだな」

 やっぱり乗るべきだよな。だって山だし。ほら、山って雪積もるじゃん? 雪ってクリスマス感出ているじゃん? クリスマス感出ているなら乗るしかないよな。そのために来たのだから。よーし、スペースユニバースマウンテン乗っちゃうぞー。

 サイと手を繋いで他の人たちと合流し、スペースユニバースマウンテン――通称、スペマンの列に並んだ。俺たちの後ろには雪ノ下と由比ヶ浜。そして、その前に何故か3列になって並んでいる葉山、三浦、一色。葉山を挟んで三浦と一色が彼にさかん話しかけ、その度に一瞬、お互いに牽制している。こちらから葉山の顔は見えないが困ったように微笑んでいることだろう。

「ほら、2人とも。こんなところで騒いでたら他の人に迷惑かけるぞ」

 だが、すぐに三浦と一色に注意した。以前の彼なら黙って傍観していただろう。葉山も少し変わったのかもしれない。まぁ、すぐに戸部が葉山に一緒に乗ろうと誘ったせいで余計、騒ぐことになってしまったのだが。

「ねぇ、ハチマン」

「ん?」

 前の3人がごちゃごちゃと揉めている中、サイが俺に声をかけて来た。視線を下に向けるとすぐにシャッターが切られる。また写真を撮られてしまったようだ。

「うん、ばっちり」

「お前なぁ……他のところ撮れよ。ここには取材に来てるって言っただろ?」

「だって人ごみのせいで風景は撮れないでしょ? なら、ハチマンを撮るしかなくて」

 いや、他の奴撮れよ。

「あ、サイちゃん。ヒキタニ君と一緒に撮ってあげようか?」

 戸部が葉山の方へ言ったことで後ろにずれてきた海老名さんが振り返ってサイに手を差し出した。

「撮ってくれるの? ありがとー!」

 サイは海老名さんにデジカメを渡し、俺の腕に抱き着く。そのままカメラにピースをした。

「ほら、ヒキタニ君もピースピース」

「……ピース」

 やる気のないピースをしたらすぐに写真を撮られた。きっといつもより目の腐り具合は酷いことになっていそうだ。こんな写真を見て誰が喜ぶんだろうね。あ、サイか。

「はい、どうぞ。ちょっと容量が少なくなってるから整理した方がいいかも」

「え、ホント?」

 海老名さんの言葉を聞いてデジカメを操作するサイ。どうやら、本当に容量が少なくなっていたようですぐに整理し始めた。本当に写真好きになったな。パソコンに何枚も保存しているようだし。前に見ようと思ったがファイルの中に何十個もの空のファイルを作ってその一つ一つにまた大量の空のファイルが保存されていた。特定のファイルを開け続けなければデータを発見できないらしい。ファイル名が全て1文字だったので疑似的なパスワードのようになっていると思う。パスワード知らないからすぐに諦めてアークス業に戻ったけれど。アルファベットの他に平仮名、片仮名、ハイフンなど記号もあるのだ。当てずっぽうじゃ一生かかっても辿り着けないだろう。何でそんな厳重にしているのだろうか。

「ヒキタニ君、ごめんね」

 何かよからぬ写真でもあるのだろうかと首を傾げているといきなり海老名さんに謝られた。何に対する謝罪なのか、何となく察する。

「……別にもう終わったことだし」

「そうそう、もう終わったことでしょ。それにああなったのは全部私のせいなんだから気にしないで」

 デジカメを操作しながらサイがさも当たり前のように言う。それを聞いた海老名さんは目を伏せて並んでいる人に迷惑にならない程度に頭を下げた。

「ううん、きっかけは私……私たちだもん」

「なら、ありがとう」

「……え?」

 まさかお礼を言われるとは思わなかったのだろう。目を丸くした彼女はサイを見る。写真の整理が終わったのかデジカメをポケットに仕舞いながらサイも海老名さんに視線を向けた。

「確かに……修学旅行のあれで奉仕部は壊れちゃったし、ユキノもユイも私たちから離れちゃった。でも、今はこうやって一緒に笑い合ってる。だから、ありがとう。きっかけをくれて……変われるチャンスをくれて」

 ああ、そうだ。奉仕部が――いや、俺たちの関係が壊れるきっかけをくれたのは他でもない海老名さんたちだ。由比ヶ浜が変われたのも、雪ノ下が答えを得たのも、サイが再び笑えるようになったのも。きっと、あのままダラダラとあの関係を続けていればいつか自然消滅していたに違いない。話し合いをすることもなく、喧嘩することもなく、笑い合うことも、泣くこともなく、いつの間にか終わっていただろう。ちらりと後ろを見ると雪ノ下も由比ヶ浜もサイの言葉に頷いていた。

「……そっか。うん、それならいい、かな」

「そうそう、今は楽しまなきゃ! ほら、皆こっち向いてー!」

 サイの呼びかけにより葉山たちがこちらを振り返る。カメラを向けられていることに気付いた三浦と一色は一瞬にして仏頂面を笑顔に変えた。女の子ってすげー。戸部も葉山と肩を組んでピースしているし。海老名さんも三浦に近づいて笑顔を浮かべた。

「はい、チーズ!」

 パシャリとカメラのシャッター音が響く。その写真もきっとファイルの深海に隠された宝箱に放り込まれることになるだろう。こうやって少しずつでいいから大切な物を増やして欲しい。そんな気持ちが溢れたのか俺は無意識の内にサイの頭を撫でていた。

「ん? どうしたの、ハチマン」

「いや、何でもない」

 不思議そうにこちらを見上げるサイに笑ってみせて前を向く。もちろん、サイと手を繋ぎ直して。




因みに身長制限ですが、某ネズミーランドのアトラクションを調べたところ、最大で117cmだったのでこのようにしました。
そして、サイの身長が発覚したので一応、軽めにサイのプロフィールを公開します。なお、一部ネタバレ(と言うより、設定)がありますので嫌な方は見ない方がいいかもしれません。









名前:サイ
性別:女
年齢:?
身長:118cm
体重:18キロ
好きな物:ハチマン、ピーナッツ
嫌いな物:リア充、雪ノ下陽乃、自分

呪文一覧(作中で出て来ていない効果は『???』とします)


第1の術 『サルク』
・目の強化。サイの動体視力が上がり、相手の攻撃を見切ることが出来る。

第2の術 『サシルド』
・盾の呪文。サイの目の前の地面からサイの身長の2倍ほどの盾が出現。盾の形は湾曲しており、受け止めるのではなく受け流すような構造になっている。

第3の術 『サウルク』
・強化呪文。サイのスピードが上昇する。怪我を負っていても痛みも怪我による阻害も一時的に失くすことができる。術が解けた後、怪我を負っていた場合、一気に負荷がかかる。

第4の術 『サルフォジオ』
・回復呪文。サイの頭上に群青色の液体が入った巨大な注射針が出現し、刺した対象の傷を回復させる。少し痛い。刺されている間、声すら出せないほどの硬直がある。

第5の術 『サグルク』
・強化呪文。全体的にステータスが上昇する。???

第6の術 『サフェイル』
・飛行呪文。飛ぶことができる。

※『サルク』、『サウルク』、『サグルク』、『サフェイル』は重ね掛け可能。
※『サフェイル』時に『サウルク』を発動すると飛行速度が上がる。

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