やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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すみません、一部書き忘れていたことがあったので3時33分に追加しました。それ以前に読んだ方は注意してください。


LEVEL.75 サンタはいい子にプレゼントを贈るが、悪い子には罰を与える

 スペマンで脳みそをシェイクされた後、俺たちはパンさんのバンブーファイトに乗った。完全にクリスマス感ゼロなのに先ほどと変わって雪ノ下は何も文句を言わなかった。むしろ、早く乗りたくてうずうずしていたレベル。年間パスを持っているから何度も乗ったことがあるはずなのにどうしてそんなに乗りたいのだろうか。別にサイも楽しそうに乗っていたからいいけど。

「はぁ……」

「……どうした?」

 最後に乗り込んだ戸部と海老名さんを待っていると横で由比ヶ浜が深くため息を吐いた。因みに雪ノ下はサイからデジカメを借りて壁に描かれているパンさんを撮っている。ここは撮影できるからってそんなに撮らなくてもいいと思うが。サイも呆れたように息を吐いた後、デジカメを取り返しに向かった。

「アトラクションに乗ってる時、ゆきのんに話しかけたらすごい目で睨まれた……しかも、静かにって言われた」

 サイと雪ノ下が話しているのを見ながら教えてくれた。感想を呟くことすら許さないとはどんだけ集中して見たかったのだろうか。

「これとこれは消すね。同じ写真があっても意味ないでしょ」

「同じじゃないわ。こことここが違うじゃない」

 デジカメの画面を指さす雪ノ下だったがサイの顔は引き攣るだけだった。

「……いや、まぁ違うところもあるけど」

「だから消す必要はないの。次のパンさんを撮りに行くから返して貰えるかしら」

「これ私のなんだけど……容量がないから駄目」

「後1枚……いえ、2枚でいいの。だから――」

「――待たせてごめーん!」

 雪ノ下が交渉しようとした時、戸部たちが帰って来た。それを見て時間切れだとわかったようで彼女は見るからに肩を落としてこちらに向かって来る。そんなに写真撮りたかったのか。

 全員が揃ったので次のアトラクションに向かおうとするが入り口のすぐ近くにパンさんショップを見つけた。

「ヒッキー、パンさんショップあるけどどうする?」

 由比ヶ浜もそれに気付いたようで問いかけて来る。何で俺に聞くんですかね。ほら、そこで目をキラキラさせてパンさんショップを凝視している部長さんに聞くべきだと思う。質問したところで『突撃』以外の選択肢はないだろうけど。

「サイどうする?」

「んー……」

 困ったのでサイに決定権を譲る。しかし、サイは腕を組んでチラリと葉山たちの方を見た。向こうは次のアトラクションの話をしていた。パンさんショップに寄るつもりはないらしい。

「ん? 比企谷、どうした?」

 俺たちの視線に葉山がそう聞いて来た。しかし、すぐにパンさんショップを見つめている雪ノ下に気付いたようで苦笑を浮かべる。

「ああ、パンさんショップに行くのか」

「いや……どうするかって話をしてるだけだ」

「あれ? ヒキタニ君たちパンさんショップ行くの? なら、俺ら昼飯並んで来ちゃうべ。超混んでそうだったし」

 俺と葉山の会話に割り込んで来る戸部。だから話しているだけって言っているのに話を聞いていなかったのだろうか。だが、確かにそろそろお昼である。早めに並ばないと行列で大変なことになるだろう。魅力的な提案だがいいのだろうか。特に買う物ないんだが。

(……ここで小町のクリスマスプレゼント買えばいいか)

「そう、だな。ならお願いしてもいいか?」

「それぐらいお安い御用だよ。それじゃ後で連絡する」

「ああ」

 まぁ、葉山の連絡先、知らないんだけどね。由比ヶ浜にでもするつもりなのだろう。

 葉山と戸部が外に出ると三浦と一色も2人――葉山を追う。海老名さんも特にパンさんに興味はなかったようで俺たちに手を振って去った。

「何か買うの?」

 俺がパンさんショップに残ったのが意外だったようでサイが聞いて来る。由比ヶ浜も興味深そうにこちらを見ていた。

「小町へのクリスマスプレゼント買う」

 しかし、小町の分はいいとしてサイには何を贈ろうか。サイの趣味と言えばカメラしかないし。一眼レフでも買うか。絶対金足らないわ。

「ふーん……くりすますって何?」

「……はい?」

「え、サイ、クリスマス知らないの!?」

 由比ヶ浜の大声でパンさんに夢中だった雪ノ下もこちらに顔を向ける。俺も驚いてしまったが、サイは魔物。人間界の行事を知らなくて同然である。いや、1年以上人間界にいるのに知らないのか?

「駄菓子屋のお婆ちゃんから聞いてなかったのか?」

「お婆ちゃん、あんまり日付に興味なくて……日曜日休みなのによくお店を開ける準備してたし。それでクリスマスって?」

「クリスマスってのは……いや、それはパンさんショップの中で話すわ」

 だから雪ノ下さん、こちらを睨まないでください。今行くのでもう少しだけ我慢してください。

 パンさんショップに入って雪ノ下と由比ヶ浜と別れた俺とサイは小町へのプレゼントを探しながらクリスマスについて話した。

「いい子にクリスマスプレゼント、ねぇ」

 棚に置かれている大きなぬいぐるみをポフポフと叩きながらどうでもよさそうに言葉を紡いだ。子供が食いつきそうな話だったので彼女の反応に少しばかり驚いてしまう。

「それだけか?」

 だからこそ聞いてしまった。まるで、遠く離れた国で起きている戦争の話を聞いている小学生のような反応だったから。

「それだけって?」

「いや……もっとこう、テンションが上がったりしないかって」

「するわけないでしょ。どうせどっかのお店がお客さんに商品を買って貰うために流した噂が大きくなっただけだし。無償で子供にプレゼントを配るおじさんがいたらまず正気を疑うかな」

 夢のないお返事をいただいた。確かにそうなのだが、プレゼントを贈ろうとしている身としてはなかなか辛い言葉だ。

「それに――」

 どう返事をしたものか考えているとサイが再び口を開ける。

 

 

 

 

 

「――私は悪い子だからサンタがいてもいなくても関係ないでしょ?」

 

 

 

 

 

 そう言った彼女の目は綺麗な群青色に染まっていた。見ているこちらの背筋が凍りついてしまいそうになるほど、綺麗な群青色に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になると臨海部に位置するディスティニーランドに冷たい風が吹き始める。その風の強さによってパレード後の花火は中止になってしまうのだが、何もアナウンスされていないところをみると予定通り、花火はあがるようだ。

「花火ってあの夏祭りの大きな音が出るあれでしょ? あれ、あまり得意じゃないんだよね……」

「そうか」

「でも、パレードは楽しみだよ! なんかキラキラした乗り物が前を通るんだよね? でも、お客さんがすごくなるみたいだけど今から場所取りしなくてもいいの?」

「そんなに早く行っても迷惑になるだけだろ。それにちゃんと次のアトラクションを乗ったら場所取りするし」

「……そっか」

 俺の言葉を聞いたサイは少しだけ寂しそうに頷いた。彼女が寂しそうにしている理由も原因も知っている。あれから――サイのあの言葉を聞いてから彼女と目を合わせていないから。俺だって普通に接したい。だが、どうしてもあの言葉が気になってしまうのだ。

 

 

 

 ――私は悪い子だからサンタがいてもいなくても関係ないでしょ?

 

 

 

 そう言った彼女の目はサイが壊れかけている時に見るものだった。綺麗なはずなのに不思議と恐怖心を抱かせる群青。まだ数回しか見ていないが何度見ても慣れない。別にサイが怖いわけではない。むしろ可愛い。しかし、あの目になったサイは今にもどこかへ行ってしまいそうなのだ。何も言わず、誰にも見られることなく。それが怖い。

「なぁ、サイ」

 前を楽しそうに歩く雪ノ下たちを見ながら手を繋いでいるサイを呼んだ。

「何?」

「……少し、話をしないか?」

 だが、怖いからって動かないわけにはいかない。動かなければ修学旅行の時のように簡単に壊れてしまう。だから、今度こそ正面から聞こう。彼女の抱えている闇を。

「……」

 俺たちはほぼ同時に立ち止まり、見つめ合う。群青色の目が俺の思考を読み取ろうとしているのがわかった。

「あ、やばっ」

 不意に前から由比ヶ浜の声が聞こえる。それを合図に俺たちは前を見ると丁度、通り抜けようとしていた広場に通じる道にパレードの進路確保のためのロープが張られるところだった。どうやら、俺とサイだけが取り残されてしまったらしい。取り残された俺たちに気付いたようで肩で息をしている雪ノ下を支えながら由比ヶ浜がこちらに向かって手を振る。

「先入ってろ、後で追い付く」

「わかったー。ほら、ゆきのん行くよ」

「由比ヶ浜さん……いきなり手を引いて走るのはやめて貰えるかしら」

「いや、でもあのままじゃあたしたちも向こうに――」

 そんな会話をしながら雪ノ下と由比ヶ浜は歩いて行く。そして、すぐに見えなくなった。

「……ねぇ、ハチマン」

「何だ?」

「いいよ。お話、しよ?」

 俺の提案に頷いた彼女の手は微かに震えている。何を聞かれるかわからないから不安なのか、それともわかっているから不安なのか。どちらにしても俺には関係ない。少しでも彼女が安心できるように少しだけ手に力を込めてサイの小さな手を握る。それでも……彼女の震えは止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで話って何?」

 近くにあったベンチに座ったサイがすぐに問いかけて来る。先ほどの震えを思い出し、話を聞くのを止めようかと思ったがそれでは前と同じだ。サイを傷つけるかもしれないが、こればかりは避けられない。覚悟を決めて口を開いた。

「さっきのあれは……どういう意味だ?」

「……どれのことかな?」

「お前が、悪い子だってことだよ。そこらへんにいる小学生よりずっといい子にしてると思うんだが」

 家ではちゃんと家事も手伝っているし、料理は自ら進んで作っているほどだ。親父たちもサイのことを自分の娘のように可愛がっている。それなのにサイは自分を悪い子だと判断した。その理由を知りたい。それがきっと彼女の闇に繋がっているはずだから。

「ハチマンは……」

 俺の目を見ながら何か言おうとしたサイだったがすぐに口を閉ざしてしまう。言葉を選んでいるようにも見える。サイには申し訳ないが追撃させて貰う。

「……それは、留美と距離を置いたことと関係してるのか?」

「ッ……あはは。そっか、ルミから聞いちゃったんだ」

 一瞬、目を見開いたサイはすぐに微笑んだ。そしてすぐに空を見上げる。それに倣うように俺も上を見るがディスティニーランドの照明のせいで星は見えなかった。

「ハチマンはさ」

 とても落ち着いた声音で彼女が俺に質問する。

 

 

 

 

 

「……人を殺したことってある?」

 

 

 

 

 

「……いや、ない」

「うん、知ってた。ユキノもユイもあのユキノの姉も……ルミもしたことないんだろうね。きっと、ガッシュやティオだってそう。人を殺すことはとてもいけないことだから」

 空を見ていたサイが俺の膝に頭を乗せた。顔はこちらに向けていない。

「私はね、あるよ……魔物を、だけど」

 ティオから魔界にいた頃のサイの話は聞いていた。クラスで輝く『孤高の群青』。誰にも近寄らず、誰にも近寄らせない。それが俺の知っている魔界にいた頃のサイ。だが、言い換えれば俺が知っているのは『学校に編入した後のサイ』だけだった。

「たっくさん殺した。いっぱい血を浴びた。白いワンピースが紅く染まることだってあった。それぐらい私はたくさんの人を殺めて来た」

 サイは最初から強かった。気配を読んだり、自分の気配を分散させたりしていた。だが、それは魔物だからではない。同じ魔物であるガッシュやティオはできないのだ。サイが規格外なのである。もし……彼女の言う通り、魔物を殺して来たのならば説明できるのだ。異常な戦闘技術も、彼女が壊れていることも。

「夢でいつも見るんだ。夢の私はね、手が真っ赤なの。今まで殺して来た魔物たちの血でべたべたしてる。それを拭おうと着てるワンピースを見るんだけど、そのワンピースも真っ赤で……気付くの。私の足元にたくさんの魔物の死体が転がってることに。ううん、転がってるんじゃないね。“地面”なの。私が立ってる場所すべて死体で埋まってるんだ」

 想像するだけで血の気が引いてしまうほどおぞましい夢。それをサイは毎日見ている。独りで眠れない理由はこれだったようだ。俺だってそんな夢を見続ければ不眠症になってしまうだろう。

「急いでその場から離れようとするんだけど足は動かない。下を見るとね、小さな手が私の足首を掴んでるんだ。それで死体の床から私の足を掴んでる女の子の死体が出て来て言うの」

 

 

 

 

 

 ――裏切り者。

 

 

 

 

 

「そこでいつも目が覚めて時計を見ると……5分しか経ってないことだってある。あんなに長い夢なのにそれしか経ってないの」

 その言葉に俺は首を傾げてしまう。俺と寝ている時の彼女はとても心地よさそうに眠っているのだ。朝になって俺が起こすことだってある。

「そんな夢から救い出してくれるのはいつだってハチマンなの。空から私に向かって手を伸ばしてくれるんだ。『ほら、早くしろよ』って、少し面倒臭そうに。その手を掴むとね、血も、死体も、女の子も全部消えちゃうの。そして、そのまま引っ張り上げてくれて……抱きしめてくれる。それがすごく落ち着くの」

 くるりと体を回転させたサイは見上げて来る。とても優しい微笑み。それを見てとても不安になった。

「でも、ハイルとの戦いで思い出した。私の罪は消えない。私は悪い子。人をたくさん殺したとっても悪い子。そんな悪い子にサンタはプレゼントをくれない。当たり前でしょ?」

「……」

 俺は彼女に何と言えばいいのだろうか。

 『そんなことはない』

 『俺は君を肯定する』

 『罪は償える』

 言えるわけがない。殺しは罪である。誰に聞いても頷くだろう。そんなことはないと言ってもサイは頷かない。

 何より、サイ本人が罪だと認めていて、自分を否定している。俺がサイを肯定してもサイは認めない。

 罪を償っているとしたら彼女はいつになったらその罪を償い終えるのだろうか。もう何年も悪夢に精神を苛まれ、苦しんで来たのにまだ償い終えることはできないのだろうか。そんな救いもない慰めなどただの『虐め』である。

「ねぇ……ハチマン」

 サイの手が何も言えなかった俺の右頬に添えられる。小さくて温かい手。彼女が生きている証。可愛くて、もう壊れてしまっている……俺の大切なパートナーの手。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな私でも……愛してくれますか?」

 

 

 

 

 

 その問いに俺は添えられているサイの右手を握ることで答える。言葉にできないのなら、態度で示すしかない。今の俺にはそれしかできなかった。それがとても不甲斐なくて悲しかった。パートナーなのにサイの闇を振り払えないことが悔しかった。

「ふふ。ありがと、ハチマン。大丈夫、伝わってるよ。ハチマンの想い……だから、泣かないで」

 いつの間にか泣いていたのか俺の涙をサイは拭い、涙の付いた指を舐めた。俺の想いを確かめるように。

「うん、しょっぱいね」

「当たり前、だろ」

「えへへ……ハチマンなら受け入れてくれるって思ってたよ。でもさ……やっぱり、怖いんだよ。人殺しだって言うのが、悪い子がいい子の傍にいるのが。私は壊すことしかできないからいつか壊してしまいそうで。だから、壊す前に離れる。もう、壊したくないの」

「……サイ」

「ルミは納得できないかもしれない。何も話さずに離れたから……でも、もう私に関わるべきじゃない。いい子はサンタにプレゼントを貰う(幸せになる)べき、でしょ?」

 そう言ったサイはそのまま、目を閉じてしまう。そしてすぐに寝息が聞こえ始めた。寝てしまったらしい。今日はたくさん遊んだので疲れてしまったのだろう。肉体的にではなく、精神的に。

「……はぁ」

 由比ヶ浜から電話が来るまで俺はサイの頭を撫でながら真っ暗な空を見上げ続けた。




サイの過去が少しだけ明らかとなりました。


こんなヒロインでも……愛してくれますか?





次回でクリスマス合同イベント解決……できたらいいなと思っています。少なくとも2話で終わります。
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