やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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昨日、ランキングに乗ることができました!
これからも頑張って書きますので応援よろしくお願いします。


LEVEL.8 群青少女はすでに壊れ始めていて彼はまたしても間違える

「よくやった。ガッシュ」

 パタンと赤い本を閉じて青年がガッシュを褒める。特に相談もなしに連携っぽいものしてみたが何とか上手く行ったようだ。

(サイもよくもまぁ、あんな連携を思い付くもんだ)

 自分を囮にしてマルスの気を引き、ティオの攻撃を当ててガッシュが接近する時間を稼ぎ攻撃呪文を当てる。そんな作戦を視線だけで送って来るとか俺のこと信用し過ぎじゃないかな?

「ふざけるなああああ!」

 呆れていると突然、マルスが絶叫した。その声量にサイですら目を丸くして驚愕する。

「何で俺様がガッシュごときに倒されなきゃならん! 俺様は王様になるんだ! てめえら落ちこぼれとは格が違うんだ! レンブラント、何している。もう一度攻撃だ!」

「お、おう! 『エイジャス・ガロン』!!」

 いつの間にか本を拾っていたようでレンブラントと呼ばれた男が呪文を唱える。それと同時に青年も本を開く。しかし、俺はただ一点だけを見ていた。マルスの視線である。

(おい、まさか……)

 憎しみで顔を歪ませている魔物はこっちを見ていた。その視線は人を殺そうとしているものだった。

 マルスは魔界でティオと仲が良かった。だが、人間界に来て敵対した。ティオなどすぐに倒せると思ったから。

 ガッシュは『弱虫ガッシュ』と呼ばれていた。つまり、弱かったのだろう。

 そんな奴らにここまでされてあいつは何を考えるのだろうか。決まっている。一泡吹かせてやろうと思うはずだ。最も彼らが苦しむことをしてやると思うはずだ。

 じゃあ、それは一体何なのだろう。俺ならどうする? 俺なら。

 チラリとサイを見る。彼女も俺を見ていた。そして、俺の顔を見て察したのだろう。顔を引き攣らせる。

「ハチマン、駄目ええええええええ!!」

 サイが俺に手を伸ばしながら凄まじいスピードで近づいて来る。でも、間に合わない。

(俺なら……苦しめたい奴の一番大切な物を壊す)

 じゃあ、ティオやガッシュの一番大切な物は何なのだろうか。きっと、“パートナー”だ。魔物にとってパートナーはいなくてはならない存在である。攻撃されるのはあの青年か大海だ。そして、青年と大海の大きな違いは男か女。それを踏まえて狙われるのはどちらなのだろう。それこそ――決まっている。

「ッ!」

 俺は自分のパートナーを無視して大海に向かってタックルをかました。それと一緒に魔本を抱えるように持って攻撃から守る。

「『ザケル』!」

 青年が呪文を唱えた。だが、俺はその行く末を見ることができない。

「ぁッ……」

 地面から飛び出して来た鉄球を真正面から受けたから。気絶する直前に見たサイの泣き顔が印象的だった。まるで――この世の終わりを見たような顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッシュの放った『ザケル』はマルスに直撃し、後ろにいたレンブラントが持っていた本も一緒に燃えて彼は魔界に帰った。

 しかし、オレたちは喜ぶことなどできなかった。

「ハチマン! ハチマンってば!」

 マルスの攻撃から大海さんを守るために自分の身を犠牲にした群青色の瞳を持った魔物の本の持ち主。ハチマンと呼ばれている人はまともに鉄球攻撃を受けて傷だらけで地面に倒れている。命に別状はないようだが、それよりも魔物の方が心配だった。

(何だ……この子……)

 颯爽と現れてオレたちに力を貸してくれた優しい子。それが今、この世の終わりを迎えたような顔でハチマンさんの体を揺すっている。パートナーが心配なのはわかるがこの反応はあまりにも異常だった。

「お、おい……あまり揺すらない方が――」

「うるさいッ!!」

 無意識の内に声をかけたが彼女の絶叫で遮られてしまう。その絶叫は大気を震わせるほどの声量だった。

「私は……私はハチマンを守るんだ」

 ハチマンさんから手を離し、フラフラと立ち上がる。そして、オレたちの方を見た。

「ッ――」

 ただ見られているだけなのに背筋が凍りついてしまう。群青色の目がオレの心臓を鷲掴みにした。その異常性に当てられたのかティオは体を震わせて半歩、後ずさる。ガッシュですらも声をかけられずに呆然と彼女を見ていた。大海さんは責任を感じているのか俯いたまま。

「私が守る。守る守る守る守る。そう誓ったのに……何があってもハチマンを傷つけさせないって誓ったのに」

 群青の目はとても澄んでいた。見ているこっちが恐怖を抱いてしまうほど綺麗だった。その綺麗さはあまりにも異常だった。

「それなのに何、この結末。結局私は誰も守れない。誰も、誰も守れないんだッ!!!」

 八つ当たり気味に己の右拳を地面に叩き付ける群青少女。殴りつけられた地面はその威力に耐え切れずに陥没する。

(術なしでこの破壊力……)

「ねぇ、貴方たち」

 血だらけの右手を見ながらオレたちに声をかける彼女から嫌な気配を感じた。俗に言う殺気というものだろう。

「もし……貴方たちもハチマンを傷つけるなら――容赦しないから」

 群青少女は初めてオレたちを睨んだ。彼女から漏れる威圧で呼吸ができない。今まで出会って来た魔物の中でも……一番、強い。きっと戦えば一瞬にして負ける。

「バカたれ」

 凄まじい威圧を放つ群青少女の頭を魔本で叩き、乾いた音が響いた。

「あいたっ」

 叩かれた彼女は威圧を解いて振り返る。そこには肩で息をした目の濁った男がいた。そう、先ほどまで倒れていたハチマンさんである。

「余計な敵を作ってんじゃねーよ。庇い切れないわ」

「は、ハチマン!? 大丈夫なの!?」

「いや、全然大丈夫じゃない。今すぐにでも眠れそう。だからこれ以上、戦うなアホ」

「痛いッ! 痛いから叩かないで!」

 ぺしぺしと連続で頭を叩かれて涙目になる群青少女。先ほどまでのあれは一体……。

「ティオ、知り合い?」

 疑問に思っていると大海さんがティオに質問した。結構、小さい声だったので今も騒いでいる彼らには聞こえていないだろう。

「……あの子の名前はサイ。私とガッシュが通ってた学校にいた子よ」

 そう語るティオだったが、声が震えていた。何か恐ろしい物を見ているような。

「あの子は……『孤高の群青』って呼ばれた。多分、戦闘能力だけならトップクラスの魔物よ。でも……魔界にいた頃とちょっと雰囲気が違ったから驚いちゃって」

「どんな感じだったんだ?」

 思わず、質問を重ねてしまう。まさか質問されるとは思わなかったようでオレの方を見て目を丸くしながらティオは答えてくれた。

「魔界にいた頃はずっと独りで何をしても優秀な成績を修めていたの。でも、さっきの戦いではすごく楽しそうだった……だったんだけど」

 先ほどの威圧。独りになることを恐れ、全ての物を拒絶する。まるで――。

 

 

(――鳳仙花)

 

 

 『私に触れないで』。それがその花の花言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンね。ハチマン……」

 大海恵コンサートも無事に終わり、家に帰っているのだが隣を歩くサイはずっと俯いたままだった。

「別にもういいだろ。協力してくれるって言ってたし」

 目を覚ますとサイがとんでもないことになっていて驚いた。正面から顔を見たわけではないがあの威圧はまずい。人を殺せるレベルだ。

「うん……」

 そして、サイが高嶺(あの後、名前を聞いた)たちに謝った後、何故か皆で優しい王様を目指そうみたいな話になった。よくわからないがその協定に俺とサイも含まれている。まぁ、戦わなくてすむなら全然いいけど。あ、危なくなったら手伝ってくれるのかしらん。じゃあ、サイは俺が抑えておくから魔物の相手、よろしくね。

「……ハチマン」

 不意に立ち止まったサイは俺の目を真っ直ぐ見つめた。その目は後悔の色に染まっている。

「ゴメン。守ってあげられなくて」

「……」

「私、魔界では結構優秀だったの。そのせいで友達とかできなかったけど、あの頃は全く気にしてなかった。独りでもやっていけるって思ってた」

 ギュッと彼女は自分の着ているワンピースを掴む。相当力を入れているのだろう。元々、真っ白な手が余計、白くなっていた。

「でも……人間界に来て本当に独りになって怖くなったの。周囲にいる人は皆、敵。私を倒そうと襲って来る。そう思って何もかもが怖くなって。その時に駄菓子屋のお婆ちゃんに出会った。それからは楽しかったよ。たまに魔物とか襲って来たけど。すっごく楽しかった」

 “楽しかった”。彼女の話は結局、過去形なのだ。

「でね。ある日、魔物を何とかやり過ごして家に帰ったの。そしたら……お婆ちゃん、冷たくなってた。私の知らない間に死んでたの」

 サイの声は震えている。彼女の瞳から一粒の涙が零れた。

「ねぇ、ハチマン。貴方は私の知らない間に消えたりしないよね? 勝手に無茶しないよね?」

「……」

「今日、メグちゃんを守る前、私と目が合った時、ハチマンの顔すごく無表情だった。すっごく危ないことしようとしてるのに何にも感じてなかった。それが“当たり前”だって言うように」

 当たり前だ。この世界は弱い者と強い者がいる。弱い者は強い者の踏み台にされ、いいように扱われる。必要とされる命が危険ならさほど必要性のない命を犠牲にする。だから、俺の行動もそれと同じ。俺が大海を庇ったからコンサートを続けることが出来た。当初の目的は達成出来たのだ。

 だが、どうして彼女はとても辛そうなのだろうか。俯いて悔しそうに奥歯を噛み締めているのだろうか。

「ハチマン……ゴメンね」

 俺は彼女に謝って欲しくて戦ったわけではない。じゃあ、何故こうなってしまったのだろうか。俺は――何か間違ってしまったのだろうか。

「……気にすんな。ほら、帰るぞ」

「……うん」

 しかし、俺の疑問に答えてくれる人はいなかった。でも、俺とサイの間に何か小さな亀裂が入ったような気がしてサイの方を見ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 鼻歌を歌いながら濡れた赤い髪をドライヤーで乾かすティオ。その表情はとても嬉しそうだった。

「ティオ、嬉しそうね。コンサートの途中で寝ちゃってたし」

「ね、寝ちゃったのは疲れてたからよ! それに嬉しくないし!」

 そう言いながらそっぽを向いた。本当にこの子は素直じゃない。本当は仲間が出来て嬉しいくせに。

「それにしてもガッシュの他にサイも仲間になってくれるなんて思わなかったわ。ガッシュはともかく、サイは私なんかよりもずっと強いし」

「そうね。2人ともすごく強かったから頼もしい限りね」

 あの時の威圧には驚いてしまったが、八幡君が起きてからとても明るかった。どこか無理しているようにも見えたけれど。

「……でも」

 ティオはドライヤーの電源を切ってテーブルに置いた。その顔は少しだけ曇っている。それを見て私も思わず、俯いてしまった。

「サイ……大丈夫かな。八幡と話してる時はすっごく楽しそうだったけど」

「相当、八幡君に懐いてたみたいね。サイちゃん本人も言ってたけどずっと独りだったらしいし」

「……何があの子をあんな風にしちゃったのかな」

 魔界では優等生だったサイちゃん。人間界に来てたった独りで戦い続け、やっと八幡君に出会った。だから少し依存しているのかもしれない。ただ――。

(私は……サイちゃんよりも)

「恵?」

「え? な、何?」

「どうしたの? 浮かない顔して」

「ううん、何でもない。ほら、早く寝ないと朝起きれなくなっちゃうわ」

 首を傾げているティオから顔を逸らして携帯の画面を見る。そこには『比企谷八幡』と書かれており、その下に電話番号やメールアドレスが書かれていた。

 ――俺が時間を稼ぐ。隙を見て逃げろ。

 あの時、彼は1人だった。相手が魔物だって知っていた。それなのに何の躊躇もなく囮になった。

 それだけじゃない。いち早く相手の攻撃を見極めて私を庇った。当たり前のように。それが運命だと悟っているかのように。

(私が一番、心配なのは……八幡君)

 いつか彼は自分で自分の身を滅ぼしてしまうのではないか。そんな予感しかしなかった。

 




何とかガッシュたちと仲間になることができました。まだ少しぎくしゃくしていますが、これから仲良くなっていく予定です。
それと、八幡とサイの間に亀裂が入りましたね。この後、どうなってしまうのか。


後、清磨目線と恵目線の場面を書いてみました。何か違和感などがありましたら教えてください。
なお、清磨は恵のことを大海さんと言っていますが、いずれ恵さんと呼ぶことになります。
あと、八幡の携帯に『高嶺清磨』と『大海恵』のアドレスが増えました。やったね!

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