やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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最近、忙しくて随分前に指摘された清麿の誤字を直せずにいます……もし、お手数でなければ誤字報告機能で名前の誤字を教えていただければ嬉しいです。
自分で直すのが当たり前だと思うのですが、今月は学会発表、来月はインターンシップと色々とありまして……更新するだけで結構、精一杯だったりします。本当に申し訳ない。



あ、インターンシップ期間中は更新できません。時期が近くなったら活動報告でお知らせします。


LEVEL.80 一先ず、彼らの問題は解決する

「全く……こんなところで何やってるのよ」

 “ブラック”コーヒーの缶を持ちながら外にあるベンチに座っていると呆れた表情を浮かべたハイルがやって来た。実は彼女にも色々と協力して貰ったのである。台本(会場には呼ばなかったが)の制作もそうだが、主に今日のビデオ撮影だ。俺は何かあった時のために指示を出す役割だったからな。そのおかげで留美が先走りそうになったのを止められたし。

「はい、綺麗に撮ってあげたわ。後でダビングしてね」

 そう言いながら貸したビデオカメラを差し出して来たので受け取る。家に帰ったら今度はビデオの編集作業だ。ハイルに協力を依頼した時に『なら、サイちゃんの演劇の映像データ頂戴』と言われたのである。こんなんでいいのか、本当に。

「おう」

「……本当に、貴方もサイちゃんも不器用よね。傷つけたくないから離れようとしたり、自分を傷つけながら人を救ったり」

 俺の隣に座った彼女はため息交じりにそう言った。それに対して俺は無言を突き通す。

「……友達が傷つくところを見せ付けるのも私への悪戯かしら?」

「……すまん。サイを傷つけた」

 ハイルにとってあの演劇は苦痛以外の何ものでもなかっただろう。サイが目の前で傷ついたのだ。留美とは仲直りしたようだが、それでも傷ついたことには変わらない。

「謝るくらいならしないでくれる? それに謝る箇所が違うわ。私が言ってるのはサイちゃんを助けるために傷ついたあなたを見せつけられたってこと。確かに、サイちゃんが苦しそうにしてるところを見るのは嫌だけど……あなたが傷つくところを見るのも嫌なの。もう少し私の友達だってこと自覚しなさい」

 その言葉に思わず、彼女の方を見てしまった。サイのことしか眼中になかったハイルが俺の心配をしていたのだから。

「……何よ」

 見られていることに耐えられなかったのか、それとも先ほどの発言を思い出して恥ずかしがっているのか少しだけ顔を赤くしたハイルが俺を睨む。

「……いや、何も。とりあえず、編集が終わったら連絡する」

「ええ、楽しみにしてるわ。それじゃそろそろ私帰るわね」

「ああ、色々サンキュな」

「友達を助けるのは当然よ。また何かあったら連絡して」

 言いたいことを言ったからか彼女は立ち上がって歩き始める。しかし、すぐに立ち止まってこちらを振り返った。

「色々気付いてるわよ、サイちゃん」

「……知ってる」

「もう……しっかりしなさいよね。友達2号」

 『それじゃまた』と手を軽く振り、去って行った。ハイルの言葉はもっともだ。あれだけ自分を傷つけることはしないと言ったのに結局、俺はそれしかできなかった。そんな自分が、嫌になる。

「ハチマンさん」

 それを見届けているといつの間にか俺のすぐ近くに高嶺がいた。だが、彼の視線は俺ではなく、すでに小さくなったハイルの背中に向けられていた。

「今のは……魔物か?」

「ああ、ハイルって奴。訳あってちょっと協力して貰った」

「そう、だったのか」

 自分から聞いたのにも関わらず、高嶺の反応は薄い。チラリと彼の顔を見ると目が合った。その表情は強張っている。怒っているのだろう。主に俺がしたことについて。

「あれしか、なかったのかよ」

 高嶺は声を震わせてそう呟く。彼には今回の演劇の裏に隠された依頼について軽く話してあった。だからこそ、怒っている。あんな大衆の前で追い詰め、無理矢理本音を引き出したのだから

「俺には思いつかなかった」

「なら……オレたちに相談してくれても!」

「すまん。これに関しては無理だった。時間もなかったしサイの過去を話すわけにもいかんかったしな」

「……そうか」

 高嶺は悔しそうに拳を握る。だが、すぐにため息を吐いて力を抜いた。今更後悔しても全て終わっているのだ。

「今回は色々事情があったと思うし、こっちもそこまで首を突っ込もうとしなかったから仕方ない。でも、ハチマンさん、オレたちは仲間なんだ。些細なことでもいいから相談して欲しい」

「……善処する」

 相談と言っても問題は解決してしまったのだからしようにもできない。まぁ、本当に困ったら頼らせて貰おう。本当に頼るかはその時の状況次第だが。

「……はぁ。恵さんが言ってたこと、やっとわかった。ああ、それとこの前、変な奴が来たぞ」

「あ? 変な奴?」

「ナゾナゾ博士っていう老人だ。魔物もいた。名前はキッド。その時は戦わなかったが、相手の目的がいまいちわからなかったんだよ。なぞなぞ……って言えるほどじゃないが、問題出して帰って行った」

「……なんだそいつら」

 問題出して帰ったって何がしたかったのだろう。偵察か? なら、少し戦って逃げた方が早いし、情報も得やすい。高嶺の言ったように相手の目的がわからない。

「もしかしたらハチマンさんたちのところにも来るかもしれないから用心だけはしておいた方がいいと思う」

「ああ、わかった……まぁ、サイなら近づいて来たらすぐにわかるだろうけど」

「あー、そう言えば魔力を探知できるんだったな。なぁ、今度お互いが持ってる魔物に関する情報を交換しないか? これでも戦闘回数だけは多いから有益な情報を持ってると思うんだ」

 確かに高嶺たちの戦闘回数は秋の時点で俺たちの倍以上だった。特にサイは戦闘能力は高いものの攻撃呪文を1つも覚えていないため、少しでも魔物に関する情報は欲しい。サイなら情報1つで戦況をひっくり返せるだろうし。

「そうだな……時間合わせて交換するか」

「それじゃ決まりだな。時間が空いてる日を教えてくれ」

「いや、こっちが合わせる。冬休みに入ったから基本的に暇だしな」

「ああ、わかった。じゃあ、恵さんたちにも連絡して皆の都合が合う日にする。決まったら連絡するからもし用事が入ってたら言ってくれ」

 あ、大海も呼ぶのね。まぁ、人がいればその分、情報も増えるし処理も早くなる。問題は年末だからアイドルの仕事も多くなるってことぐらいか。下手すると情報交換会は年明けになるな。

 高嶺がガッシュを回収するために建物の中へ入って行くのを見送り、空き缶をベンチに置いた俺は空を見上げる。さて、最後の仕上げと行くか。

「サイ」

「何?」

 俺に呼ばれた彼女は近くの街灯の上から俺の背後に降りて来る。俺とハイルが話している途中、ハイルの魔力を感じ取ったからか、外に出て来たサイはすぐに街灯の上に移動したのだ。気配を分散させていたからハイルは気付いていない。俺はギリギリ視界に捉えることができたから何とかなったが、おそらくサイは俺だけが気付くように調整していたに違いない。

「……今日はすまんかった」

「うん、すっごく怖かった」

 振り返らずに謝るとすぐにサイは俺の足に抱き着いて来る。足の骨がへし折れそうになるほど力強く。骨が軋む音を聞きながらサイの方を見ずに彼女の頭を撫でる。まだポニーテールにしていたのかいつもとは違う

「留美が自分の声で聞いて来た時、すぐに八幡の作戦に気付いたよ。あそこで話そうとしなければ演劇は崩壊するし、嘘を吐いてもあの時の留美には通用しなかった。思わず、感心しちゃったもん。ハチマンは策士タイプだね」

 何故か楽しそうに話すサイ。俺の作戦に気付いているのなら他のことにも気付いているはず。なのに、彼女はそれを咎めようとしない。約束したのに。もう自分を傷つけるようなことはしないと誓ったのに。まるでそれを――。

「――許すよ」

「っ……」

 俺の思考を読んだのか小さな声でサイはそう言った。だが、わからない。何故、今になって許すのだろう。不思議に思っているとサイは俺の正面に移動する。俺を見上げた彼女は笑っていた。

「確かに……怖かったし、ハチマンのことちょっとだけ恨んだりもした。留美と仲直りするためだったとしてもあんなこと言えるわけないし、あんな大勢の前で演劇の話に合うように言葉を選ぶのだって大変だったよ。なんでパートナーである私を策にはめるの!? みたいなことも思った。いつの間にハイルとあんなに仲良くなったのかも気になった。でも、それ以上に……安心しちゃったんだ」

「安心?」

「だって……ハチマンだけ変わっちゃったから。私は何も変わってないのにハチマンは自分だけで先に行っちゃったから」

 それを聞いて一色が生徒会長に推薦された時のことを思い出す。俺が自分を傷つけずに解決したと聞いたサイは辛そうにしていた。ああ、そうか。やっとわかった。一緒に前に進むと言っていたのに俺は先走ってサイを置いて行ってしまったのだ。

「でも、またハチマンは自分を傷つけて私たちを助けてくれた。ハチマンは何も変わってない……わけじゃないけど、前のハチマンもちゃんといるんだなって。自分を傷つけるのは駄目なのに。そして、わかっちゃったんだ。自分が傷つくことになろうと人を助けようとするハチマンも、今のハチマンもハチマンなんだって。私の大好きなハチマンなんだって」

 置いて行かれたサイは前を走る俺の背中に向かって手を伸ばしていた。焦っていた。そのせいで不調となり、いつものような戦闘を行うことができなかった。だが、俺が目の前で転んだ(自分を傷つけた)ことで俺に追い付くことができた。一緒に並ぶことができた。転んで倒れている俺に手を伸ばすことができた。だから、サイは笑っている。怪我の功名。そんな言葉がふと脳裏を過ぎる。

「でも、約束は破ったからおしおき、ね。後、ハイルと友達になってたみたいだけど? それについてもちゃーんと、教えてくれるよね、ハチマン?」

「……はい」

 どうやら、『怪我』の方はまだ払い切っていなかったらしい。予め先に帰ると雪ノ下たちに伝えていたようで俺の荷物を持ったサイに引き摺るように連行され、俺は家に帰った。おしおきはとても痛かったです。特に結局、サイに泣かれたことで心に甚大なダメージを受けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス合同イベントが無事に終わった翌日。12月25日。クリスマスである。そんな聖なる日に俺とサイは奉仕部の部室にいた。

「じゃあ、無事にイベントも終わったと言うことで! クリスマスパーティーを開きまーす!」

「わー」

 ジュースの入ったペットボトルを持った由比ヶ浜が楽しそうに言い、俺の隣に座っていたサイが抑揚のない声で盛り上げる。俺と雪ノ下は若干、顔を引き攣らせながら顔を見合わせていた。

「……後片付けに来たのよね?」

「ああ……そう言われて来たんだけど」

「あたしだってそのつもりだったんだけどいろはちゃんが『先輩方にはお世話になったので後は任せてください!』って言ってたから」

「なら、もっと早く教えろよ。来る必要なかったじゃねーか」

 せっかくのクリスマスなのに。因みに小町へのクリスマスプレゼントはすでに渡しておいた。ディスティニーランドで買ったパンさんグッズだったが、喜んでくれていたので良しとする。

「えー、やろうよパーティー。昨日、ヒッキーたちすぐに帰っちゃったから出来なかったんだし」

 そう言って鞄からお菓子を取り出し始める由比ヶ浜。すでに買い込んでいたらしい。

「それにしても……サイさん、今日もその髪型なのね」

 パーティーの準備をしている由比ヶ浜を横目に雪ノ下がサイに聞いた。サイの髪型は昨日と同様、ポニーテール。髪留めに使っているのは俺があげたあの木製の髪留めである。「うん、せっかくハチマンから貰ったからね。付けないと勿体ないでしょ?」

 軽く髪留めに触れながらサイは嬉しそうに笑う。喜んで貰えたようで何よりである。

「そうだったの。綺麗な髪留めね、あなたにそんなセンスがあったとは思わなかったわ」

「ああ、大海と買いに行ったからな」

「……ん? メグちゃんと?」

 まさかここで大海の名前が出るとは思わなかったようでサイが意外そうにこちらを見た。ティオに台本を作る手伝いをして貰った日にサイのクリスマスプレゼントを選ぶ手伝いをして貰ったのだ。最初はノリノリだったのに最後の方は少しだけ落ち込んでいたのは気になるが、何かお礼をした方がいいかもしれない。まぁ、それは後でいいか。

「ふーん……へぇ、だからなんか妙に大人っぽいって思ったんだよ、ね!」

「がっ、ぐぉぉぉ……」

 サイがいきなり俺の脇腹にエルボーを叩き込んで来たので変な声が漏れてしまった。めっちゃ痛い。昨日のおしおきレベルでやばい。涙出ちゃいそう。悶えている俺を雪ノ下たちは苦笑を浮かべたまま、見ていた。

「い、いきなりなんだよ……」

「知らなーい」

 ぷいっと顔を背けるサイ。その拍子に彼女のポニーテールが俺の頬をペチンと叩く。痛くはないが、拒絶されているような気分になる。いや、本当に拒絶されているようだ。何かしたっけ、俺。

「もう、喧嘩は止めてよ。今日はクリスマスなんだから!」

「いえ、由比ヶ浜さん、クリスマスは関係ないと思うのだけれど」

「え? そうかな?」

 不思議そうに首を傾げている由比ヶ浜だったが、お菓子のセッティングは終わったようで今度はコップにジュースを入れている。注ぎ終わったのかそれを俺に差し出して来た。

「はい、ヒッキー」

「おう……おう?」

 受け取ったのはいいが、見覚えのないコップ――と言うより、湯呑だった。何故かパンさんの絵がプリントされている。

「こっちはサイのね」

「う、うん。ありがと」

 湯呑を見ているとサイも見覚えのないマグカップを受け取っていた。そのマグカップには俺が持っている湯呑のパンさんと同じ絵柄のパンさんがプリントされていた。

「これは?」

 今までは紙コップにお茶を淹れて貰っていた。

「クリスマスプレゼント!」

「まぁ……今回は色々お世話になったのだし、そのお礼。後、ずっと紙コップと言うのも不経済でしょ」

 由比ヶ浜は嬉しそうに、雪ノ下は視線を逸らしながら言う。思わず、もう一度湯呑を見てしまった。何というか、彼女たちにとってこれは奉仕部復活の記念品――いや、仲直りの証なのだろう。

「……すまん、俺何も用意してない」

「私も」

 だが、問題は俺とサイはお返しを用意していなかったことだ。まさかクリスマスプレゼントを用意しているとは思わなかったのである。

「ううん、気にしないで。ヒッキーだけ紙コップってのもなんか嫌だなーって思っただけだし。サイもヒッキーと同じ物がいいかなって。あ、形はあたしが選んで絵柄はゆきのんが選んだんだよ」

「そっか……ありがとな」

「ユイ、ユキノありがとー」

「そこまでのことじゃないわ。それより、パーティー始めるのでしょう?」

「じゃあ、皆コップ持ってー」

 由比ヶ浜が立ち上がって自分のマグカップを上に掲げる。それに倣って俺たちも同じようにした。

「イベントお疲れ様ー! これからもよろしく! かんぱーい!」

 そして、俺たちはほぼ同時にコップを軽くぶつけ合ったのだった。

 




一先ず、クリスマス編完結。

ですが、この後、後日談として例の博士の襲来とぼーなすとらっくがありますのでもう少しだけお付き合いください。

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