やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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新章突入です。
……まぁ、最初はまだ俺ガイル色が濃いんですけどね。


第6章 ~千年前の魔物編~
LEVEL.82 神はいつでも人を救い、裏切り、無視をする


 無事年が明けた。今年は去年とは違い、サイと一緒に年を越した。俺とサイが出会ったのは4月なのであれから約8か月経つことになる。まだそれだけしか経っていないと感じるし、もうそんなに経ったのかと感慨深くも思う。まぁ、無事に年を越せた事実を喜ぼう。

「八幡、何してるの?」

 炬燵に入って携帯を弄っていると俺の背中に抱き着いて来たサイが質問して来る。すでに出かける準備を終えているようでダウンジャケットのモコモコが背中に伝わって来た。

「メールの返信」

「へー……って、ざ、ざー……ざい、も……なんて人?」

「覚えなくていい単語だから気にすんな。あけおめメールだよ」

 適当な文章を打ち込んで返信した後、次のメールを開封する。ほう、これはまた可愛らしいシンプルなメール。さっきのただ長ったらしいメールとは大違いだ。真剣に返さねば。

「あけおめ、めーる?」

「あけましておめでとうってメールでやりとりするんだよ。お前もティオとかに送ってやればいいんじゃねーか?」

「うーん……やってみる」

 年末に買って貰った携帯を持ったサイは俺の隣に座ってメールを打ち始める。もちろん、最初にサイの携帯に登録された番号は俺だ。これだけは誰にも譲る気はなかった。

「ん?」

 あけおめメールの返信をしていると不意にメールを受信した。今の時刻は午前9時ちょっと前。あけおめメールを送って来るには少しだけ遅い。まぁ、隣であけおめメールを打っている子がいるので変でもないか。そんなことを考えながらメールを開く。

『あけましておめでとう! 今年もいっぱい遊んでね。後、大好きだよ!』

「こんな感じ、かな」

 やだもうこの子かわいすぎるやろ。照れたように俺の方を見上げているし。ちょっと不安そうにしている表情が守ってあげたくなる。俺より強いんだけどね。

「ああ、こんな感じでいいと思うぞ」

「うん、わかった。それで……返事は?」

 俺は作成していたメールを削除してサイへの返信を考え始めた。あー、どうしよう。書きたいことがたくさんありすぎて困ってしまう。

「そう言えばメグちゃんからも来たの?」

「……ああ」

 来たには来た。だが、返信に困っている1通だ。サイへのメールを作成し終え、送ってから大海のメールを再び開く。

『明けましておめでとうございます! 去年は色々なことがあって大変だったけどそれ以上に楽しかったよ! 今年もよろしくね!』

 一見普通のメールに見えるかもしれないが相手はアイドルである。もし、下手なことを書いてスキャンダルになったら大参事だ。しかし、返信しないわけにもいかない。本当に困った。

「ハチマンっ!」

「ちょっ……何だよ急に」

 ため息を吐いているとサイがいきなり抱き着いて来て驚いてしまう。サイの手から携帯が零れ落ちて床を転がる。そこには俺が送ったあけおめメール。

『明けましておめでとう。今年もよろしく。俺も大好きだぞ』

 まぁ、今年は少しぐらい素直になってもいいかなって思っただけだ。それ以上の意味はない。

「お兄ちゃん、サイちゃん! 初詣行くよー!」

 サイに頬をすりすりされていると小町がうきうきした様子でリビングに現れた。チラリと時計を見ればすでに9時をすぎている。そろそろ行くべきだろう。サイを引き剥がした後、俺たちは炬燵を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あけましてやっはろー!」

「……」

 おかしい。今日は俺、小町、サイの3人だけで初詣に行くはずだったのに何故、目の前でよくわからない挨拶をしているアホの子がいるのだ。小町もサイも笑顔で返事をしているし。

「あけましておめでとう」

「……おめでとさん」

 3人が騒いでいる傍で雪ノ下と軽く挨拶を交わしてため息を吐いた。おそらく小町が呼んだのだろう。いや、サイの可能性もあるか。千葉村の時といい、遊園地の時といい。何故、俺の身内は俺を誘導するのが好きなのだろうか。

「……その様子だと私たちのこと教えて貰っていなかったようね」

「ああ……まぁ、別にいいけど」

「そう。それじゃあ行きましょうか。早く行かないとお参りする時間がなくなってしまうわ」

「「「はーい」」」

 雪ノ下の声で騒いでいた3人は返事をした。いや、あの由比ヶ浜さん。あなた高校生ですよね? 中学生と小学生(に見える子)と同じ扱いを受けているのに気付いていないのでしょうか。

「初詣楽しみだね!」

「……ああ」

 俺の手を握って笑うサイを見て俺も少しだけ楽しみになって来た。それから5人で移動していると参道の両脇に並び立つ出店が見える。

「うわー、お祭りみたいだね」

「ですね! あ、何か食べます?」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら由比ヶ浜が感想を述べると小町も頷き、そう問いかけた。確かに少しだけ小腹が空いたかもしれない。

「いいねー。じゃあ……あたしはリンゴ飴かな」

 そんなことを話しながら小町と由比ヶ浜はふらふらと参道からはずれそうになる。それを隣にいた雪ノ下がくいっとマフラーを引いて止めた。

「先にお参りを済ませてからよ」

「はーい……」

 雪ノ下に注意されて2人はシュンと肩を落として再び歩き始める。何だかその姿が姉妹に見えてくすっと笑ってしまった。

「何だかあの3人、姉妹みたいだね」

 俺の隣にいたサイも3人の後ろ姿を見て同じことを思ったのか呟く。思わず、サイの方を見ると向こうも俺を見上げていた。それだけでお互い同じことを思っていたとわかり、笑い合う。

「2人ともー! 置いてっちゃうよー!」

 由比ヶ浜の声で前方に視線を移すと小町、由比ヶ浜、雪ノ下が立ち止まって俺たちを待っていた。慌てて3人の元に駆け寄り、移動を再開する。

 しばらく人の波に流されていると境内に繋がる石段が見えて来た。石段を昇ると先ほどまでの混雑も緩和され、ホッと息を吐く。そのまま人の流れに乗って社の前までやって来た。

「皆は何お願いするの?」

 その時、由比ヶ浜がそんな質問を皆にする。

「いや、初詣ってそういうのじゃねーだろ。七夕じゃないんだから」

「そうね。別にお願いしてそれを叶えて貰うような即物的なものではないわね」

「そもそも神頼み自体、あんまり好きじゃない……と言うより、神っているの?」

「うわー、この3人つまんなー」

 俺たちの言葉にドン引きした小町がジト目で言うと由比ヶ浜もそれに同調した。

「そうだよー。頼むのはタダなんだし、当たればラッキーって感じなんだからそんな深く考えなくていいと思うけどなー。頼まないより頼んだ方がお得だよ!」

 由比ヶ浜の謎理論に否定組3人は顔を見合わせて首を傾げる。どうやら、理解できなかったのは俺だけじゃなかったらしい。何というかあれだよ。頼んでもし叶ったら神のおかげってされそうで嫌だ。叶ったのはこちらが努力したからだし、良いところ全て持って行かれた感が否めない。

「はぁ……まぁ、いいんじゃないかしら。お願いと言うよりは誓いを立てるニュアンスの方が強い気がするけれど」

 雪ノ下のフォローに由比ヶ浜は嬉しそうに笑い、その腕に飛び付く。仲がよろしいことでけっこうけっこう。でも、他の人の邪魔になるから少し落ち着こうね。

「ん?」

 いちゃいちゃしている2人を見ているといきなりサイの手に力が込められた。何事かと彼女の方を見ると真っ直ぐ前を見ながらボソリと呟いた。

「神なんているわけないでしょ」

「……サイ?」

「何でもない。それじゃ私たちもお参りしよっか」

 すでに小町たちはお参りを済ませたようで(さすがに5人同時にお参りするほどのスペースはなかった)脇にずれている。後ろにいる人たちに迷惑になってしまうのですぐに俺たちもお賽銭を投げて一緒にがらがらと鈴を鳴らした。そして、二礼、二拍手。静かに目を閉じた。

(願い事……もしくは誓うこと、か)

 神頼みはそこまで好きじゃない。それは自分の努力次第でどうにかできることを全て神のおかげにされてしまうから。自分の努力が無駄だったと言われたような気がするから。なら、自分ではどうにもできないことをお願いしよう。

(小町が無事に合格しますように。後は……)

 

 

 

 

 

 ――君は何のために戦っている?

 

 

 

 

 

 そこで思考が停止した。そして、隣でお参りをしているサイを横目で見る。何を願っているのかわからないが、何故か不機嫌そうに目を閉じていた。

(俺が……戦う理由……)

「ん? どうしたの、ハチマン」

 見られていることに気付いたのかサイは首を傾げてこちらを見上げた。それに対し、俺は黙って首を振り、何でもないと返事をする。

(戦う、理由か)

 サイを生き残らせるため。俺がサイと別れたくないから。

 ああ、それが俺の戦う理由だ。それだけでも俺は戦える。

 なら――。

「ハチマンは何お願いしたの?」

「……小町の受験合格」

「あ、一緒! コマチ、頑張ってるからねー。合格して欲しいね」

「ああ、そうだな」

 ――なら、サイの戦う理由は何なのだろうか?


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