やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
とある国の洞窟の中、ペタペタと独特な足音を響かせる人――いや、カエルが一匹とその後ろを歩く人影が2つ。魔物の子パティとそのパートナーのウルルである。
数日前、パティは日本で偶然にも想い人であるガッシュに出会った。しかし、魔界の頃の記憶を失っているガッシュにとってパティは初対面。ガッシュのデリカシーのない発言に堪忍袋の緒が切れ、ガッシュのパートナーである清麿が通う中学校のプールで戦ったのだ。だが、その結果はパティの惨敗。パティの最大呪文である『スオウ・ギアクル』は『バオウ・ザケルガ』に敗れ、魔本が燃やされそうになってしまった。その時、パティを助けたのがパティたちの前を歩くカエル――ビョンコだった。もちろん、ビョンコも魔物の子である。
「一体ここはドコ!? いつまで歩かせるのよ!」
薄暗い洞窟の中を歩かされていたパティが我慢の限界に達したのか絶叫した。彼女の声が洞窟内で反響する。
「もう少しゲロ。さっきからうるさいゲロ」
パティの文句に対し、振り返らずに答えるビョンコ。その声音はとても面倒臭そうだった。
「全く……目を覚ましたら知らない国にいるし。今度は洞窟探検? ふざけんじゃないわよ!」
「いい加減にするゲロ! お前、態度が悪すぎるゲロ! オイラはお前の命の恩人ゲロよ!」
「何が命の恩人よ! あんたも一緒に電撃くらって2日ものびてたんでしょ!? その間に看病してたのはウルルだったのよ? さぁ、どっちが命の恩人?」
「……」
『バオウ・ザケルガ』からパティを救おうとその間に割って入ったビョンコだったが、彼のパートナーは丁度、歯医者に行っており、術を撃つことができず、パティもろとも『バオウ・ザケルガ』の電撃を受けてしまった。だが、そのおかげで元々『スオウ・ギアクル』を撃ち破った際に力が弱まっていた『バオウ・ザケルガ』の電撃が分散し、パティの魔本は燃やされずに済んだのである。そのため、ビョンコはパティの命の恩人と言えばそうなのだが、その後パティのパートナーに看病されたため、胸を張って『命の恩人』だと言えなかった。
「まぁ、いいゲロ。でも、ロードに会ったら言葉遣いに気をつけるゲロ」
露骨に話を逸らすビョンコだったが、パティはそれよりも彼の言葉の中に気になる単語を見つけ、胡散臭そうな表情を浮かべる。
「ロード? ロードって王様とか主人って意味よね?」
「ああ、そうゲロ。オイラのロードゲロ。ロードはとても強くておっかないゲロ。怒らせたら終わりゲロよ。さぁ、着いたゲロ」
そこまで説明した時、パティたちの前に1つの大きな扉が姿を現す。まさか洞窟の中に扉があるとは思わず、パティは眉を顰めた。この洞窟は人工的に造られた物か、はたまた天然物を改造して造られたのかもしれない。
「ロード、パティを連れて来たゲロ」
そう言いながらビョンコは扉を開ける。その先にいたのは大きなマスクとローブを着た人物だった。体はローブのせいで隠れており、顔も口元しか見えなかった。
「待ってましたよ、ビョンコ。そしてパティ……悔しい想いをしましたね。君の戦いはビョンコの目を通して私も見せて貰ったよ」
目の前の人物はニタリと口を歪ませ、パティを歓迎した。歓迎された本人は腕を組んでそっとため息を吐く。ビョンコにロードと呼ばれている人物があまりにも怪しかったからだ。
「はは~、マイ・ロード、マイ・ロードぉ!」
その時、唐突にビョンコがそう言いながらその場で土下座する。
「あんたは何でひれ伏してんのよ。こいつが偉ぶる理由なんて――」
パティが呆れた様子で呟いた刹那、ロードから凄まじい殺気を感じた。その殺気に思わず、口を噤み、生唾を呑んでしまう。
(ち、違う。こいつ、今まで出会ったどんな魔物とは……ううん、あの子と同じくらい危険な感じがする)
パティの脳裏に浮かんだのは群青色の瞳を持つ魔物だった。誰とも群れず、誰も寄せ付けず、誰も目に入れない孤高の存在。彼女の瞳の奥には確かに狂気が存在していた。パティは一度だけ彼女の目を見たことがあったが、背筋が凍ったのを覚えている。そして、マスクの奥に見えるロードの目にも『孤高の群青』と同じように狂気が渦巻いていた。冷や汗を掻いて構えたパティを見たロードは歪んだ笑みを浮かべながら口を開く。
「ハハ……パティ、そんなに構えなくていい。それより君に見せたいものがある」
「見せたいもの?」
「ああ、丁度準備が整ったところなんだ」
そこで彼はパティたちに背中を向けた。自然とパティとウルルはそちらに視線を向ける。そこにはいくつもの石版が並べられていた。その石版にはそれぞれ魔物の絵が掘られている。
「なっ……これは、この石版は何!?」
その光景に目を丸くしたパティはロードに問いかけた。
「前回の……千年前の魔界の王を決める戦いの敗北者さ」
「……え? そんなだって負けたら……本を燃やされたら魔界に帰るルールでしょ? なんでこの石版が敗北者なのよ!? なんで千年経った今も人間界にあるのよ!」
そう、魔界の王を決める戦いで負けた者は魔界に強制送還される。だからこそ、パティは目の前で鎮座している石版が千年前の戦いで負けた魔物だと言われてもすぐに信じることはできなかった。しかし、最初から質問されるとわかっていたのかロードは笑みを浮かべながら答える。
「いい質問だ、パティ。私も最初にこれを見つけた時は同じことを思ったよ。そして調べ……前回の戦いで最も多くの勝利を収めた魔物に辿り着いた。『石のゴーレン』。その呪文は『戦った相手を生きたまま石に変える力』」
「っ……じゃあ、この石版はそのゴーレンの術を受けた魔物?」
「その通り。この魔物たちは本を燃やされることも、魔界に帰ることもなく……ただ封じ込められたまま、千年もの間、人間界で眠り続けていたのです」
「ゲロロロロ! すごいだゲロ! この石板、ほとんどオイラが集めたゲロ!」
ロードの言葉を引き継いだビョンコはドヤ顔で胸を張った。この石版たちは世界各国に散らばっていたのだが、それをたった一人で集めたのはすごいことなのだろう。しかし、あからさまに自慢されたパティは感心よりも苛立ちを覚えた。それとは対照的にロードは自慢するビョンコを見て口元を緩ませる。
「ああ、ありがとうビョンコ。おかげで十分すぎる戦力が備わった。これで残ったライバルどもを一掃できる」
ロードはそう言いながらグッと手に力を込めた。彼はこの作戦に全てをかけているのだろう。
「ハン……たいした作戦ね。でも、なんで私を仲間にしたいの? この石版の魔物を使えば私なんて必要ないんじゃない?」
千年前の魔物の石版はざっと数えて40ほどあった。復活させた後、いくつかのグループに分けたとしても1体に対して3体以上の魔物で囲んでしまえばよっぽどのことがない限り、千年前の魔物たちの負けはないはずだ。だからこそ、パティは己の必要性を問う。下手に信用したせいで自分が酷い目に遭うかもしれないから。
「いいえ。この作戦には私の意を受け、魔物たちをまとめる長が必要です。その役目は現在の戦いの事象を知ってる魔物ではなくてはいけません」
「でも、この石版の魔物が蘇ったとしてもあなたの思い通り戦ってくれるかしら?」
「彼らは千年もの間、魔界には帰れず、死ぬこともできず、人間界に閉じ込められていた……その恨みや怒りは計り知れません。そして、その怒りを誰かにぶつけたくて仕方ないのですよ」
その矛先を今の魔物たちに向ければいい。そうすれば強制しなくても千年前の魔物は勝手に今の魔物たちを攻撃し、本を燃やし、己を王に導く。それがロードの作戦だった。さて、ここで問題となるのがビョンコの存在である。王になれるのはたった1人。この作戦が成功し、他の魔物を全滅させたとしても協力者であるビョンコが残ってしまうのだ。だが、その問題はすでに解決していた。
「ゲロッパ! やはり我がロードは素晴らしいゲロ! これで我がロードは次の王に! オイラは魔界に帰った後、地位も財産も欲しいだけ」
そう、元々ビョンコは王の座を求めていなかった。いや、もしかしたら魔界の王を決める戦い参戦した直後は求めていたのかもしれない。しかし、彼は王になるために無謀な賭けに出るより王の座を諦め、王となったロードから富と栄光を施して貰うことを選んだのだ。
「抜け目がないのね。でも、まだまだ問題は――」
そんな2人を見てパティは思わず、感心してしまう。ロードの作戦にも、ビョンコの判断にも。だが、まだ問題はいくつも考え付く。それを指摘しようとした彼女だったが、それをロードは遮った。
「――大丈夫。あなたが考え付く程度の問題ならすでに解決策はできてます。まぁ、口で説明するより実際に彼らを蘇らせた方があなたも決心がつくでしょう」
「蘇らせる?」
言葉を遮られムッとしていたパティはロードの言葉を繰り返す。怒りを忘れるほど彼の口から出た言葉が予想外だったのだ。
「ええ。この石化を解く方法がわかり、今まさに復活させるところだったのです。この石化を解く方法は2つあります。あなたも知ってるのでは? 人間と魔物の恋物語」
「っ……」
『人間と魔物の恋物語』魔界の王を決める戦いの中で魔物の女とそのパートナーである人間の男の間に禁断の恋が芽生え、数々の困難を共に乗り越える話だ。この物語は魔界の中で最も有名な童話だった。何故ならば――この物語は実話だからである。
「思い出してください。『緋巫女』が他の魔物と協力して倒した魔物はどんな攻撃をして来ましたか?」
「それは石化の呪い……まさか!?」
「そう、その魔物こそがゴーレンなのです。彼女の力で石化を無効化し、協力関係を結んでいた魔物が攻撃してゴーレンを倒しました。つまり、『緋巫女』の力を使えば簡単に石化を解くことができるのです。しかし、それは不可能。彼女は魔界に帰った後、すぐに他界しましたからね。なので、今回はもう1つの方法を使います。ライト!」
その声で薄暗かった洞窟がいきなり明るくなった。石版たちの上に設置されていたいくつもの照明が同時に点いたのである。
「その方法には特殊な光が必要です。そして、その光は人間界の月の光によく似てます。私は研究の末、その光を作り出すフィルターを完成させたのです」
ロードは淡々と説明するが、すでにパティはほとんど彼の話を聞いていなかった。今まさに目の前で千年前の魔物たちが復活しようとしているから。
「さぁ、目覚めよ! 千年前の戦士たちよ!!」
ロードの絶叫に応えるように千年前の魔物たちは一斉に雄叫びを上げた。それは喜びか、悲しみか、怒りか、憎しみか……はたまたその全てなのか。
「さぁ……どうします?」
雄叫びを上げ続ける魔物たちを前にして冷や汗を掻いていたパティにロードは問いかける。
「あなたは愛する者に忘れられ、敗れ、とても悔しいのではないんですか?」
その声音はとても優しく、それでいてとても自信に溢れていた。
「彼らという力を得て……ガッシュをあなたの思い通りにしたいとは思いませんか?」
そんな彼の言葉にパティは――。
「さぁ、残った魔物を一掃してやりましょう!」
――不敵に笑った。
今週の一言二言
なんで……なんでボックスガチャ上限あるんですか?
私の黄金林檎の貯蓄は十分なのに……くっそおおおおおおおお!!!
寄越せ……寄越せよ!
マナプリ寄越せええええええええ!
親に嵐のコンサートに連れて行かれました。