ある人の墓標   作:素魔砲.

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(実際大したものだ・・・)

 

 

学園都市と郊外とを結ぶ橋の上でエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは声を出さずにつぶやいた。常人では決して到達不可能である超常の戦い、お互いの魔力を力の限り放出した魔法の応酬は一応の決着を見せていた。

自らに掛けられた呪いからの開放を目論み、呪いを施したサウザンドマスターの息子であるネギ・スプリングフィールドの血液を欲して、戦いを挑んだが、こちらに油断があったにせよ、見事にしてやられた。もっとも、後もう少し長く大停電が続いていたのならば、自分が勝っていただろうという自負はあったが。

その戦いに勝利したネギ当人は、今は仲間である神楽坂明日菜と、おこじょ妖精のカモと共に素直に喜びを表現している。その様子を苦々しげに見つめ、エヴァは己の従者である絡繰茶々丸に帰るぞと命じた。

 

 

「それじゃあエヴァンジェリンさん、本当に明日からちゃんと学校に来てくださいね」

 

 

エヴァが吸血鬼化したほかの生徒の事を思い出したのか、ネギはあわてた様子でエヴァに念を押した。一応勝負に負けた事にはかわりがない、不承不承頷いてから、適当に手を振る。自分でしでかした事ではあったが、ネギを手伝う気はさらさらなかった。

久方ぶりの全力戦闘と、再び呪いの影響を受けたために感じる疲労感を鬱陶しく思いながら、エヴァは踵を返した。

 

 

その時、エヴァが最初に異変を察知したのは偶然だったのか・・・。

 

 

唐突に自分達とは別の気配を感じた。ビクリと体に怖気が走る。エヴァはまるで金縛りにあったかのように動きを止め、視線だけで気配を探ろうとした。

 

 

(なんだ?)

 

 

尋常ならざる気配だ、殺気とは違う。まるでこちらを絡めとる様な悪意を感じる。

ここが郊外との連結部分とはいえ、れっきとした学園都市の内部である事には変わりがない。学園都市には侵入者を察知する結界が張られていて、一度侵入者が足を踏み入れれば即座に結界が反応する。それはエヴァにも伝わり、侵入者を感知する事ができる。

だがこの気配はあまりに突然すぎた。まるで結界を素通りして現れたかのように。

エヴァは横目で隣にいる茶々丸を確認して、その様子を伺った。

内蔵されたセンサーに何も感知されていないのか、いつも通り感情を感じさせない目でこちらを見つめている。

それは、ネギと明日菜、カモにも言えることだ、違和感を感じている様子はない。

 

 

(だが気のせいではない)

 

 

額に汗をにじませ、エヴァは茶々丸とネギたちに注意を促すために声を掛けようと後ろを振り向いた。

 

 

そこには一つの影が存在していた。

 

 

いつの間に現れたのだろう。光に照らされ浮かび上がった人影がそのまま直立したかのように、ゆらゆらとその体を揺らしながら、頼りなげにぽつんと一つ立っている。

もちろん影がそのまま両の足で大地に立つことなどありえない。何らかの魔法によるものか?それにしては一切の魔力を感じないが。

ほんの少し影に対して興味を抱かされたが、それは今はおいておく事にする。なぜならエヴァが先程から感じている悪意は、その影から放たれているからだ。

ようやくこちらの様子がおかしい事に気がついたのか、茶々丸とネギたちがエヴァに話しかけてきた。

 

 

「どうしたんですか?エヴァンジェリンさん」

 

 

帰るといっていたにもかかわらず、一向にこの場所から動こうとしない。それに何か緊張しているようだ。ネギがそう感じて声を掛ける。

 

 

「眠いんじゃない?結構いい時間だしさ」

 

 

エヴァの様子を伺いながら明日菜は一つあくびを零した。勤労少女である明日菜の朝は早い。通常ならば、とうに自分のベッドの上で眠りについている時間だった。

 

 

「まあいくら吸血鬼とはいえ、あの姿だからなぁ。それも仕方ないのかもしれやせん」

 

 

六百年近くを生きている真祖の吸血鬼であるエヴァだが、見た目は十歳前後の少女に過ぎない。呪いによって魔力や身体能力を封じられているエヴァが、その姿に影響を受けているのだとすれば、体が睡眠を欲しても仕方がないだろう。

ただでさえ先程までネギと全力で魔法を打ち合っていたのだ、疲れていても不思議ではない。カモは明日菜に向けてそう説明した。

 

 

「貴様ら、後ろを見てみろ」

 

 

その話を黙って聞いていたエヴァが、なんの感情を浮かべることなく、静かに声を上げた。後ろ?茶々丸を含め、その場にいた全員が素直に後ろを振り向いた。

 

 

「なにあれ?」

 

 

明日菜が気味の悪いものを見てしまったという様に顔を引きつらせる。

見た目は文字通りの人影だ。目も耳も鼻も口も無く、体の輪郭すら曖昧で、両手の指がかろうじてわかるくらいだった。当然のようにすべてが黒で塗りつぶされ、生物なのかもわからない。ホラー映画でもこんな単純な化け物を登場させる事はないのではないか?子供がクレヨンで書いた、できの悪いお化けの絵のようだった。

 

 

「人影のように見えますけど・・・」

 

 

ネギが自信なさげに呟いた。エヴァはそれを見て何かを感じているようだ。

しかし、それが異常な事は見ればわかるが、人影は何をするでもなく、ただ立っているだけだ。気味悪くは思うが、それ以上の感想は浮かばない。

要するに、その影が突然現れたせいで、エヴァを除く全員がリアクションをとれずに戸惑ってしまっていた。だから、突然その人影が話しかけてきた時も、一瞬別の誰かが話しかけてきたのかと思ってしまった。

 

 

「檻は完成した・・・」

 

 

その姿からイメージした通りのジメジメとした陰気な声。

誰に話しかけたのかも、目どころか顔すらないために、まったくわからない。おそらくこの場にいる全員に言ったのだろうが。

 

 

「檻だと?」

 

 

エヴァがこれまで経験してきた中でも最大級の悪意を放つ存在の言葉に、いやが上にも警戒心を刺激される。まず間違いなくろくでもないことのはずだ。

 

 

「檻とは何だ?いやそもそも貴様はいったい・・・」

 

 

何者だ?とエヴァが影に向かって誰何の声を上げようとしたその時、いきなり影が両手を振り上げこちらに向かって攻撃を開始した。

影なのだから光の加減によって伸び縮みするのは当然といったように、その体格ではありえないほど両手を伸ばしエヴァたちに向けて振り下ろしてくる。

とっさに体が動いたのは、単に警戒していたからだ。いつ何をされてもいいように重心を偏らせることなく均等に立ち、影の一挙一等足を観察していた。

しかし、ネギたちは違う。まったくの無警戒でぼんやりと立ち尽くしていた。

影の攻撃を紙一重でかわし、目を逸らすことなく対峙していたエヴァは、ネギたちに向かって声を上げた。

 

 

「貴様ら、無事かっ!」

 

 

今の自分には大した力が無い、自分で自分の身を守る事で精一杯だ。それでも警戒を促しておくべきだったと、後悔を滲ませながらエヴァはちらりと視線を動かした。

どうやら化け物に注意を払っていたのは自分だけではなかったらしい。茶々丸に庇われる形でネギと明日菜が揉みくちゃになるように転がされている。

茶々丸にしては乱暴だ。突然の事でネギたちを突き飛ばす事が精一杯だったのだろう。

いたーいと情けない悲鳴を上げながら明日菜がお尻をさすっている。

無事な姿に安堵しながら、あまりにのんきな反応に胃が痙攣を起こしたかのような焦燥感を覚える。

 

 

「馬鹿かお前達はっ!、さっさと立て、殺されるぞ!」

 

 

影の攻撃がどのようなものであれ、あれだけの悪意を放つ存在だ。下手をすれば影に触れただけで致命的なダメージを受けるかもしれない。それほど、この存在は得体が知れない。

 

 

「明日菜さん、早く立ってください。この人・・・人?・・・っとにかく危ないです」

 

 

ようやく目の前の存在に対して危機感を覚えたのか、ネギは明日菜の体から這い出てそう言った。ちなみに突き飛ばされたときに、ネギと明日菜によって下敷きにされたカモは、目を回して気を失っている。そのカモを少々乱暴に抱きかかえながら、明日菜もなんとか立ち上がった。

 

 

「殺されるって・・・いったいなんなのよ、こいつは?」

 

 

「知るかっ!とにかく敵である事に間違いは無い。ぼーや、まだ魔力に余裕はあるな?口惜しいが今夜は魔法薬を持ってきていない。結界が作動している今は大した役には立てん」

 

 

そもそも大停電のうちにケリをつけるつもりだったのだ。所詮は代替品に過ぎない魔法薬など用意してはいなかった。

 

 

「茶々丸をサポートにまわす、神楽坂明日菜にも契約執行で魔力を送れ、とにかくやつの攻撃をまともに食らうな、嫌な予感がする・・・」

 

 

早口でネギに指示を送り、自分は目の前の敵を警戒する。先程の攻撃があっさりかわされたにもかかわらず、影は大した動きを見せてはいない。

ゆらゆらと不自然に伸びた両手をぶらつかせ、こちらの様子を伺っているようだった。

一応人型ではあるが、輪郭が曖昧で常にその姿がぶれているために、攻撃の予備動作が読みにくい事この上ない。体全体が黒一色で、表情も骨も関節もないように見える事も原因の一つになっている。単発ならばともかく、よほど注意していなければ、連続で振るわれる腕の攻撃は避けられないだろう。

どのみち今の自分は役立たずだ。攻撃役はほかの連中に任せ、敵の攻撃を回避する事に専念するべきだ。

 

 

「契約執行30秒間、ネギの従者神楽坂明日菜」

 

 

エヴァの指示通り明日菜に魔力を送ったネギは、続けて攻撃のための呪文を唱えるべく意識を集中している。先程の自分との戦闘により、ネギ本人に残された魔力はそれほど多くはないはずだ。目の前の敵がどのような存在であれ、油断していては思わぬ不覚を取るかもしれない。ネギ当人も当然それを認識しているだろうし、得体の知れない相手に対して余裕を見せられるはずもない。

 

パートナーの明日菜にしても、今日が初めての戦闘と言っていい。無理はさせられないはずだった。しかもこちらは連戦の上に、相手はまったく見当もつかない不気味な存在だ。できることなら遠距離から一斉に攻撃するほうがよい。

ネギが手に持った杖の先端に、魔力が収束していく。そして少年らしい甲高い声で彼は呪文を唱えた。

 

魔法が発動する。光が直接意思を持った様に、ネギが放った魔法の矢は29本に分裂し、余すことなく標的に向けて疾走した。

そして爆発したような着弾音と共に、影の姿が光に飲まれる。

それは隣で見ているだけだったエヴァにも意外に思うほど、あっさりと何の回避行動もとらない影に命中した。

しかし・・・

 

 

「なに・・?」

 

 

エヴァは思わず戸惑いの声を上げた。

ネギの魔法は確実に相手を捕らえていたし、何かの防御手段をとられた形跡もなかった。にもかかわらず、標的であった影当人は先程となんら変わらない様子で、ただ立っている。

 

いかに魔法の射手が初級の攻撃魔法で、けん制のために撃ったのだとしても、自分と互角に撃ち合ったネギが渾身の力を込めて放ったのだ。まともに食らえばさすがに立ってはいられないはずだった。

 

 

(練られた魔力も申し分ない。避けたわけでも、防いだわけでもない。直撃したはずだ・・・)

 

 

さすがにエヴァでもあの魔法を何の対抗手段も無く受けたくはない。

傷は再生できるとしても、当然痛みはあるし、そもそも避けるか、魔法で防御すればいいだけだ。だが目の前の存在はそれをしない。まるでこの程度の攻撃は大した事はないとでもいうように。

 

ネギもそう感じたのか、さらに大きな魔法を使うために魔力を集中していく。

魔法の射手が通用しないのならば、もっと強い魔法を使えばいいというわけだ。実際それは間違いではないのだろうが、余力の無い今とるべき手段ではない。

いやそもそも・・・

 

 

(まともに戦う必要も無い相手だ。ぼーや、力を使い切るきかっ!)

 

 

あわててネギを止めるため声を掛けようとしたその時、ネギの魔法は完成していた。

 

 

「雷を纏いて吹きすさべ、南洋の嵐、雷の暴風っ!!」

 

 

網膜をやく閃光が、夜を照らした。直接標的にされたわけではない、ただ近くにいただけのエヴァ達でさえ、たたらを踏むほどの衝撃が襲い掛かる。

雷が呼ぶ轟音と白光、辺りにあるもの全てを押し流すような強風が、渦を巻き影に向けて殺到していった。

 

先程エヴァとやりあった際に、最後に使った魔法だ。不完全だったとはいえ封印を解いた自分の魔法にうち勝ったその威力はかなりのものだ。

魔法の射手どころではない。まともに食らえば消し炭になってもおかしくはない。

しかし・・・

 

 

それでも、影は棒立ちのままその魔法を受けた。

 

 

白い光の乱流が影を消し去るように飲み込んでいく。

まともに目も開けられないほどの光と音の暴力は、ネギが力尽きて倒れるまで続いた。

 

 

「ちょっ、ちょっとネギ、あんたねぇ・・手加減ってもんを知らないの?危うくこっちまでやられる所だったじゃない」

 

 

ぶつくさと文句を言いながらも、ふらふらと地面にひざをついて転びそうになっているネギを支えるために、明日菜が慌ててネギのもとへ走っていった。

いまだに目を覚まさないカモを潰さないようにしながら、苦労してネギを自分に掴まらせている。言いたい事はいろいろあるのだろうが、自分達を守るために全力を尽くして倒れそうになっているネギを見れば、そう強くはでられないのだろう。

 

 

「あうぅ、すみません明日菜さん。ありがとうございます」

 

 

申し訳なさそうにネギは明日菜を見た。

 

 

「別にいいわよ・・それよりもっとしっかり掴まりなさいよ。ずり落ちちゃう」

 

 

体勢を崩してネギと一緒に倒れこみそうになりながら、明日菜が懸命にネギの首根っこをつかんでいる。エヴァはその様子を一瞬だけ瞳に写して前方を見据えたまま、己の従者に尋ねる。

 

 

「茶々丸、連中を全員連れて飛べるか?」

 

 

「推進力不足でまともに飛行できるとは言いかねますが、かろうじて飛ぶ事だけは可能です」

 

 

それまで主のそばで事態を見守っていた茶々丸はエヴァの問いに対して簡潔に答えた。

 

 

「そうか、ならば奴等を連れてとっととここから離れろ」

 

 

エヴァは茶々丸に今まで見せた事も無いほどの真剣なまなざしを向けた。

 

 

「マスター・・・?」

 

 

何故そのような命令をするのか、茶々丸の思考回路に疑問符が浮かぶ。

あのレベルの魔法を至近距離で直撃させたのだ、仮に生きているとしても、いやそもそも生物であるかも謎であったが、ただではすまないだろう。

魔法を放った当人であるネギも、それを見ていた明日菜や茶々丸にも、脅威はすでに去ったと感じていた。結局、その脅威そのものが何者だったのかは分からずじまいであったが。

 

しかし己の主人は茶々丸たちとは違う考えを持っているようだった。

今もネギの放った魔法の影響で、はっきりと見通せない前方を睨み付けている。

するとエヴァの懸念が的中したかのように、無傷・・といっても元が元だけに分かりづらい事この上ないが、再び影が現れた。

 

 

「どうせ無駄なのだから、あまり抵抗して欲しくはないのだが。そんな事は言っても無駄か」

 

 

やる気の感じさせないうつろな声音で、影はつぶやくように告げた。

声のためか、いまいちはっきりとは言い切れないが、やはりネギの魔法が効いているようには見えない。そう、効いていないのだ。防御も回避も明日菜のように、妙な力で魔法をかき消したわけでもない。あの規模の魔法をそのまま食らって平然としている。何の痛痒も感じていないといったかのように・・。

 

 

「そ、そんな・・・」

 

 

ネギにもそれが分かったのか、呆然としたような言葉がこぼれた。

力を使い果たしてしまった今の自分にはもう魔法を使うことはできない。卓越した魔法使いであるエヴァンジェリンも呪いによって力を封じられている。

明日菜に送った魔力は当に切れているし、そもそも彼女は戦いに関しては自分以上に素人だ。いかに仮契約を果たしたとは言っても、その事実は変わらない。

それに、今度の相手はクラスメイトではない得体の知れない怪物だ。先程茶々丸が自分達を突き飛ばさなければ、どんな目にあったか。その自分達を救ってくれた張本人である茶々丸が、今この場で唯一まともに戦える人物だ。

しかし、魔力を使い切ってうまく立つ事さえままならない今の自分と、それを支えてくれている明日菜は彼女の足かせでしかない。

この状況は・・・

 

 

「茶々丸、何をしているとっととぼーや達をつれて逃げろっ!」

 

 

相変わらずゆらゆらと風に飛ばされそうな影に正面から向き合い、エヴァが茶々丸に命令する。その言葉を聞いて反射的に動き出そうとしていた茶々丸の足が止まる。

エヴァはここに残るつもりだ。自分の飛行能力では全員をつれて逃げるのは不可能だ。

だからこそ、エヴァはここに残って自分達を逃がそうとしている。

だが、どう贔屓目に見積もっても、魔力を封じられているエヴァに勝ち目は無い。

何しろ相手はネギの全力を振り絞った魔法を受けても無傷だった化け物だ。

今ここで自分が離れれば、エヴァがどんな目にあうか。

 

 

「何言ってんの、そんなこと出来るわけ無いでしょっ!」

 

 

茶々丸と同じ事に思い至ったのか強い口調で明日菜がエヴァに噛み付いた。

 

 

「そうです、そんなことはできないですよっ!」

 

 

続けてネギが明日菜に同調する。ネギからしてみればエヴァは自分の大事な生徒の一人だ。見捨てることなど出来はしない。

 

 

「そのざまで何を言っている。今の貴様らは足手まといでしかない。とっととうせろ」

 

 

予想通りの反応が返ってきたことに、エヴァは顔をしかめた。感情論でどうこう言っている場合ではないのだ。飛行能力を有している茶々丸でなければ、ネギたちを連れてこの場を迅速に離れることは出来ない。このままネギたちが残っても、役に立つどころか迷惑でしかないだろう。

 

ふらふらなネギだけをつれて逃げる案もあるにはあるが、正直命を賭けた実戦で素人である明日菜と共闘などごめんだ。もし明日菜をこの場に残せば、性格上必ず自分も戦うと言い出すに決まっている。茶々丸には両方を連れて行ってもらわなければならない。

エヴァが強引に連れて行けと茶々丸に命令しようとしたとき、自分達の様子を伺っていた影がエヴァたちに告げた。

 

 

「かまわんよ、どのみち用があるのはそこの吸血鬼だけだ」

 

 

あっさりと自分の狙いを告白した影は、少しだけ体を傾け、エヴァを指差した。

 

 

「私に用だと?」

 

 

「そうだ」

 

 

「何の用だ?」

 

 

「幾度もとっかえひっかえとはいかない・・・今までいた場所はすばらしくはあったが、動くことが出来ないのでは意味が無い。そんな時、上質の獲物が現れた。君だよ」

 

 

「なにをいっている?獲物だと?」

 

 

「そうだな・・・獲物というよりは、食材か?いやちがうな、料理のように魚をさばく訳でも下味をつけるわけでもない、手間を掛けるつもりも無い。

ああそうかあれだ・・・燃料といった方がいいな。まるで足りないから、君をもらう」

 

 

「さっぱり分からん。もっと正確に話せっ!」

 

 

「それでも一応言っておこうか・・・・・・・・・・いただきます」

 

 

その言葉を告げた瞬間、エヴァ達を闇が覆った。いっせいに数十もの影が湖を割って現れる。どれもが空を突くほどの巨体であり、月明かりさえかき消すような勢いで、エヴァたちを取り囲んでいた。

 

今度こそエヴァが呆然とする番だった。この期に及んでこの影達からは魔力を一切感じない。はじめは違和感を覚える程度だった。自分をこれほどに警戒させる何かを持つ存在にしては魔力を感じさせない。だからこそ警戒をしていたのだが、うまく隠しているのだろうと無理やり自分を納得させたのだ。

 

だがこれほどまで強大な何かになっている今も、まったく魔力を感じないとはどういうことだ?つまり魔法で何かをしているわけでも、そういう姿の魔族でもないということか?奇怪な姿の魔族や種族は確かに存在する。だが彼らも気や魔力の助けなしにここまで急激な変化がなしえるとは思えない。

 

だとしたらこの存在は何なのか?もうこの姿で、このような特性を持ったエヴァも知らない何かということだとでも考えるよりほかない。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当にそうなのか?

 

 

 

(ちがう、本当はもう分かっている。得体の知れない何かの力を、あれから感じる事に私は気付いている)

 

 

鋭敏な感覚を持ち、永い時を生きてきた自分だからこそ分かる。

あれは気の力でも、魔力でもない。

心臓そのものをわし掴みにされるような、あるいは存在そのものに圧力を掛けられたような、エヴァ自身にもうまく表現できないまったく未知の力。

 

 

 

「おまえは、いったいなんだ?」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

それは何も語らない、そしてエヴァたちに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・夜が落ちてきた。

 

 

 

 

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