Fate/stubborn Iron   作:@ccc

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序章
美綴のお願い


 

 月は二月になり、ここ冬木の街にも冬の寒さが本格的に厳しくなってきた。周りの生徒もまちまちとコートを着て登校している人が見える中、校門を抜けると大会が近い陸上部の団体のランニング姿が見ることが出来た。

 その中には知り合いである蒔寺、氷室の姿を見ることが出来る。例えば蒔寺。いつもの猪突猛進ぶりを見ていると先頭に走り、後輩達を置いてけぼりにしていくイメージがあるのだが、しかし。彼女はマネージャーである三枝のアドバイスから後尾に陣取っている。

 はて、これには意味はあるのだろうか。

 そう思って少し前に三枝に聞いてみたところ、

『えっとですね、蒔ちゃんって足がとっても速いじゃないですか。ですから狩人の役をやってもらっているんです。蒔ちゃんは三十秒後にスタートして追いかけてもらって、後ろから捕まった人は一回につき五周追加で走るんです。ね? 蒔ちゃん、そういうの好きそうでしょ?』

 最悪でも二回しかタッチされないんで大丈夫ですよ、とフォローする三枝のとてもいい笑顔に対して薄っすら額に汗が流れたのだが、なるほど。実際に見てみるととてもいい案だ。蒔寺に鬼の形相で追いかけられた後輩が不憫ではあるが、あれだけ全力で走れば体力は嫌でも付く。

 まあ、どちらかと言うと追いかけられる獣と追いかける狩人というより、狩りに失敗した狩人とそれを付け狙う野獣というところか。

 

「でもまあ、朝からよくやるよなぁ……」

 

「何懐かしがってるんだよ。衛宮も一年の時は朝から弓を射ってただろ?」

 

 ふと背後から凛とした声が聞こえ、俺はその主へと振り向く。

 

「ああ、おはよう美綴」

「ん、おはよ」

 

 声の主たる彼女は美綴綾子。未だに弓道衣を着ているところをみると先程朝練が終わったようだ。弓道部主将であり、当然ながら部長である。俺こと衛宮士郎も一年の時に弓道部に所属していたことがあり、その時に彼女と出会った。容姿端麗、文武両道。そんな四字熟語を並べるのはうちの学校では彼女ともう一人の優等生しかいない。しかしまあ、これだけの利点を持っていながら未だに彼氏がいないというのも考えものである。

 俺が思うにはこの男らしい所となんでも一人でこなしてしまう辺りが周りの男に高嶺の花と思わせていると思うのだが……。

 

「おい、衛宮。なんか失礼なこと考えてない?」

「いえいえ、滅相もない。ただ事実をありのままに考えてただけだ」

「……まあ、なんとなく納得いかないけどいいや。お互い忙しいだろうしね」

 

 はあ、と見せつけるようにため息をつく美綴。

 そのわざとらしさに視線で抗議をするが、美綴は見て見ぬ振り。はいはい。わかりましたよ。

 

「あー……ドウシタンダ、美綴」

「うわ、わざとらしい。

 言っとくけどね、あんたが弓道部辞めてなければ私が苦労しないで済んだんだよ。このストレスの責任の一端は衛宮にもあるんだからな」

「俺が辞めなければ?」

 

 さっぱり事情がわからない。美綴は眉を潜めている所を見ると本気で言っているみたいだし。

 後頭部を掻きながら最近のことを思い出してみるが、弓道部に迷惑をかけたことはないとは思う。いや、藤ねぇのことだろうか? あの人の件に至っては保護者である俺にも責任がある。

 

「あー、もしかして藤ねぇがまた暴れたか?」

「藤村先生のことは確かに大変だったけど正直どうにかなった。問題はそれ以外」

「それ以外?」

 

 他に心当たりがないか考えみるも無念、該当する事柄はなさそうだった。そのまま首を傾げていると美綴が見兼ねたように正解を口に出す。

 

「慎二だよ、桜の兄の間桐慎二」

「慎二? あいつ何かやらかしたのか?」

「やらかしたも何も、あいつの所為で一年生の男子が一人辞めちゃったし」

 

 はあ、と美綴は再び息を吐く。その表情は困ったというよりも呆れたという顔をしていた。

 それにしてもその話は聞き捨てられない。

 

「なんだよそれ、部員が辞めたって」

 

「八つ当たりよ、八つ当たり。なんでも女子を集めて弓持ったばかりの子に射をさせて的中するまで笑い物にしたらしい」

 

「はあ!? おまえそんなふざけたこと見過ごしてたのか!?」

 

「そんなわけないでしょ。主将だって忙しいんだよ。いつでも道場にいるわけじゃないんだ。衛宮だって知ってるだろ?」

 

「そりゃそうかもしんないけど……。でも慎二の奴なんだってそんなことを…」

 

「だから言ったでしょ。八つ当たり。昨日あいつ遠坂にこっぴどくふられたらしくて」

 

「遠坂って……」

 

 頭に浮かぶのは昨日一成といたときにすれ違った赤のコートを着たツインテールの少女。なるほど、あの遠坂なら確かに容赦ない言葉で慎二をふりそうだ。

 

「二年A組、遠坂凛。ミスパーフェクトとは奴のことだ」

 

「へぇ……そのあだ名は初耳だ」

 

 まあ、しかしわからなくもない。

 美綴に並んで容姿端麗、文武両道の看板を背負うのは彼女しかいないだろう。別に他の女子が劣っているとかではなくて、二人が圧倒的すぎるだけだ。

 

「まあ、とにかくそういう理由で朝から慎二の見張りしててこんな遅い時間になったわけ」

 

「ん?」

 

 あれ? と思って学校の校舎に取り付けられているアナログ時計を見ると確かに今から着替えてホームルームギリギリの時間だ。

 

「本当だ。もうこんな時間だったのか」

 

「そうそう。本当困っちゃうよね」

 

 やれやれと美綴が肩を竦めた。

 ふむ。まあ、確かに慎二が問題行動しているのには俺に原因がないわけでもない。昨日は慎二から話しかけられたし。もしかしたら相談しに来ようとしていたのかもしれない。

 何よりこんなことが続いていたら美綴がもたないだろう。

 

「なあ、美綴。俺に何かできることあるか?」

 

「……へぇ、一体どんな心変わり?」

 

「心変わりって、なにがさ」

 

「いや、衛宮さ、いつも弓道部の話になるとどこか態度が冷たくなってたからさ。まあこの際どうでもいいか。なら衛宮、もう一度弓道部に来てくれよ」

 

「悪いがそれは無理だ。バイトがあるし、最近は生徒会の手伝いもあって時間がないし。さらに言えば俺自身、弓道部に戻る気はないからな」

 

 えー、と文句あり気な顔で抗議してくる美綴。どうも美綴は俺のことを過剰評価しすぎる。入った当初に俺が美綴より射が出来ただけなのだが今でも美綴は俺をライバル視している節がある。時折このように部活に戻ってくるように言ってくるのだ。

 なんにせよ、途中で辞めた半端者が再び弓道場に立つべきでないのである。

 

「まあ本人が望まないなら仕方がないか。んー、頼み事ね。そういや衛宮、弓道部の去年の夏見学のときに見本見せたのってあんただっけ」

 

 突然の脈絡のない話に首を傾げるも記憶を辿って去年の夏のことを思い出す。

 確かあの頃はちょうど俺が辞めるか辞めないかぐらいのとき。二年、一年で一人ずつ射をして見せるって物だった気がする。でもあのとき立候補したのは慎二だったはずで……。

 

「ああ、思い出した。そうだ、慎二の奴が用事があるって言っていなくなって代わりに俺が射をしたんだっけ」

 

「うん、やっぱ衛宮だったか」

 

 うんうん、と納得するように首を振る美綴。全く話が見えてこない。

 

「衛宮、頼みたいことだけどさ」

 

 手招きする美綴に耳を貸すとこそばゆい息があたりながらボソボソっと頼み事を言われる。

 

「ん? そんなことでいいのか?」

 

「うん、頼む。これは衛宮だから効果があるし」

 

 うーん? そんなものだろうか。

 どうもよくわからないが頼まれた以上はやるとしよう。

 

「……そうだ、もう一つ頼まれごとしてくれない?」

 

「ん。俺にできる範囲までなら」

 

 ニヤニヤしている美綴がまたまた手招きをして耳を貸すように催促する。っていうかこれの意味はあるのだろうか。

 

「あのな、衛宮」

 

 美綴がそんなことを言った瞬間。

 突如耳に生暖かい息が吹き込まれ全身に鳥肌がたつ。同時に情けない悲鳴と共に後ろに飛び退いた。

 

「な、ななななな何するんだ!?」

 

「ニシシ、大成功! いやぁ、ホント、いい反応してくれるよね」

 

 あはははは、と笑う美綴。こ、この野郎………っ!!

 

「おっと、ヤバイヤバイ。こんな時間じゃん。んじゃ衛宮またな」

 

「お、おい美綴! 逃げるな!」

 

 そんじゃ、と美綴は手を振りながら校舎へ走り去っていく。その顔は終始笑顔だった。

 や、やりやがったな……。

 いつの間にか陸上部が練習を終了させていなくなった校庭の前で美綴の背を見届ける。

 真っ赤になっているだろう顔を涼しい風が冷やす。手を扇子のように扇ぎながら俺も急ごうと、足を校舎へ向けるのだった。

 




改訂

一部変更しました。
特に物語に支障はありません。
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