Fate/stubborn Iron   作:@ccc

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誤解

 

「え……ぁ……マスタ—?」

 

 突然の彼女の問いかけの意味がわからず混乱する。ただこの場においてわかることは彼女は、この少女はあの槍を持った男と同じような存在であると言うことだけだ。

 先ほどまで抱えていた恐怖や怒りなどは既に消えてしまっていて、思考の多く占めるのは彼女だった。

 

「サ—ヴァント・セイバ—。召喚に従い、ここに参上した。マスタ—、指示を」

 

 マスタ—。先ほどから言われているのは誰かと思えば俺以外にいる人がいなかった。つまりは俺は彼女のマスタ—になったらしい。

 すると突如、左手に鋭い痛みが走った。

 まるで焼ごてで何かの印を焼き付けられたかのように。あまりの痛みに顔を歪めると左手の手首あたりを強く握った。

 彼女はチラリとその左手を見ると、

 

「———これより、我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した」

 

 まるで業務連絡を行うが如く、淡々と告げる少女は言うだけ言うと外に視線を向ける。そこにいるのは真紅の槍を持った男。駆け寄ってきている女性は確かバゼットさんと言ったか。男がバゼットに何かを話すとバゼットさんは驚いた顔をして土蔵を睨みつけてくる。

 

 いきなりドッという地が蹴られる音が鳴った。

 

「え———、」

 

 ぎいいん、と金属音が響く。

 いつの間にか少女は"何か"でバゼットさんに襲いかかり、それを男が槍の下方部で防いだみたいだ。一瞬の攻防にバゼットさんは目を見開く。

 どうやらバゼットさんはあの男と少女とは違う、普通の人間らしい。

 

「っ! じゃない、あいつに勝てるわけないじゃないか!」

 

 彼女は俺より小さい女の子じゃないか。いくらあいつと同じ存在でも彼女が戦うのは見過ごせない。

 土蔵の外へと駆けた。

 

     ◇

 

 紅と蒼の閃光が交差する度に金属音が鳴り響く。

 土蔵を出た俺の目の前にはそんな光景が広がっていた。

 何合斬り合っていたのかわからないが、俺がその場に立ちすくみ、セイバ—を止めることを忘れた時には両者は距離を開けて、様子を伺う体勢に入っていた。

 

「ランサ—!」

 

「大丈夫だ、バゼット。だからちっとばかし離れてな」

 

「…………わかりました」

 

 駆け寄ろうとするバゼットさんに一目もくれずに離れてろと言った男は俺と相対していた時とは違い、一瞬の隙さえ見逃さぬように真紅の瞳を細めた。まるでそれは獅子に対峙した狼の如く。対する少女もその翡翠の瞳に警戒の色を見せていた。先ほどの剣戟を見る限り、彼女の方が技量が上に見えたのだが、次の会話を聞き、その間違えに気づく。

 

「貴様、武器を隠すとは何事だ!」

 

「ふ——————っ」

 

 返答は一振りによって行われた。

 再び火蓋が切られた戦闘。少女は手に持つ"何か"を巧みに扱い、雪崩のような紅き閃光を悉く弾きながら前へと進む。その進撃により男は後退を余儀なくされる。

 そう、彼女がこの戦いに優勢になっているのは武器が見えていないから。恐らく見えていれば、男の槍捌きを見る限り同等に戦えていただろう。攻めているのに後退をしているのは偏に武器が見えないのが原因だ。

 男による乱れ突きのうちの一つを防ぐと同時に少女は体を躍らせ間合いに踏み込む。

 

「——————っち!!」

 

 少女の"何か"と男の真紅の槍がぶつかった瞬間、ここ一番の火花が散る。それで気づいた。今の火花は濃密な魔力の塊だ。つまり少女の一撃一撃はあの魔力をぶつけて攻撃しているのだ。故に少女の体格でも男を後退させるほどの攻撃力を持たせる。

 見えない武器に濃密な魔力の一撃。

 少女が優勢になっているのはこの二つがあったからだ。もしどちらかだけなら男にとっては無いものと同じように戦えていたかもしれないが。

 寧ろ今の状況がおかしいのだ。あれほどまでの有利がこちらにあるにも関わらず食いついてくる男の技量に感服してしまう。

 先ほどの一撃を受けてたたら踏む男。それに隙を見た少女が渾身の一撃を振るい、

 

「調子にのるな、たわけ!」

 

 男が大きく後退した。脚のバネを最大限に使った跳躍。少女の一撃は空を斬ってしまう。

 

「バカ、今のは———」

 

 俺から見ても悪手だった。一撃一撃をキチンと当てに行く先ほどまでの攻撃ではなく大振りからの決めに行く一撃。その違いが男に場を離脱する隙を与えた。

 現状、少女は振り切った状態。つまりそれは隙だらけということで—————。

 

「ハッ—————」

 

 男は嘲笑と共に避けられぬ一撃を突き出す。先ほどまで俺に向いていた筈の真紅は今は少女に向けられていて—————!!

 

「避けろっ!!」

 

 身動きが取れぬ少女に向かって必殺が具現した槍は容赦なく貫こうとする。しかし少女の顔には焦りはなく、振り下ろさせた"何か"は戻る気配は無い。

 少女が貫かれる未来を幻視して、

 

 突如、風が吹き起こる。

 

「ハァァァァァァ!!!!!」

 

 降ろされた"何か"が少女の叫びに共鳴するように動いた。その少女では戻せぬ筈の"何か"が動いたのはそれから吹き出した風によるものだった。時が遡るように剣が返る。

 閃光。

 両者の必殺が重なり、弾けた。

 相手の力に押し出されるように両者は距離を離し、二人の間に空間を作る。

 動くものはいない。俺も、バゼットさんも、この状況を生み出した二人も。動いた瞬間、何かが起こってしまう。故に俺は動けない。動いた責任を取ることができない俺には今動くことはできない。土蔵の前で立ち竦む。

 口を開いたのはやはりこの状況を生み出した内の一人の少女だった。

 

「どうした、ランサ—。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないなら私がいくが」

 

「……は、わざわざ死にに来るか。それは構わんがその前に一つ聞こう。お前の宝具、それは剣か?」

 

「———さあ、どうかな。戦斧かも知れんし、槍剣かも知れん。いや、もしや弓かも知れんぞ、ランサ—?」

 

「ふ、ぬかせ(セイバ—)

 

 軽口を叩き合うと男———ランサ—は実に愉快そうに笑う。すると少女に向けていた槍を下へと向ける。まるで戦いを中断するかのように。少女は困惑しているみたいだが俺にはその構えが恐ろしく見えた。まるで必殺の牙を持つ狼。次の瞬間には喉笛を噛み砕こうとしているかのような。

 

「—————ついでにもう一つ聞こう。今回はここらで止める気はないか? お互い初見だしよ。すぐに消えるってのも興ざめだろ」

 

「っ! ランサ—!」

 

 咎めるようにランサ—を呼ぶバゼットさん。彼女は戦いの中断に反対らしい。

 

「いいじゃね—か。小僧はバゼットが狙ってた魔術師じゃ」

 

「いいわけないじゃないですか! 協会から衛宮を参加させるわけにはいかないと言われているのにも関わらずサ—ヴァントを召喚させてしまったのですよ!? 我々のミスをやすやすと見逃すことは許しません。第一、貴方がしっかりと一撃で仕留めていれば———!」

 

「あ—、あいあい。わかったって。じゃあバゼット。使っていいな」

 

「———! 構いません。一撃で決めなさい」

 

 何か恐ろしい許可を出すバゼットさん。その返答に満足そうに笑っているランサ—はそのまま少女に視線を向ける。

 

「てめぇはどうする? お前さんのマスタ—さえ差し出せば逃がしてやるよ」

 

「断る。ここで消えろ、ランサ—」

 

「そうかよ」

 

 残念だ、と首振るランサ—は槍を構えたまま低姿勢になる。対する少女もいつでも対処できるように"何か"———剣らしき物を正面に構える。

 ふと、ランサ—の槍を中心に魔力の渦が吹き出した。同時に感じる死の気配。

 殺される。何故だかわからないがあれは確実に少女を殺すとわかる。理解する。

 止めないと。

 

「——————宝具!」

 

 止めないと少女が死ぬ。

 

「じゃあな。その心臓、貰い受ける——————!!」

 

 また、誰も助けられずに死んでいく———そんなの許すわけにはいかない!!

 

「止めろ、やめろ……………ヤメロヤメロヤメロォヤメロォォ!!」

 

 声なのか叫びなのかそれとも遠吠えだったのか。そんなものは誰にも届かず、

 

 ランサ—は少女の側まで跳躍しようと、

 

「そこまでだ」

 

「うぁ!!」

 

「!」

 

「ちっ、何者だっ!」

 

 瞬間、俺、少女、ランサ—の足元に矢が三本ずつ突き刺さった。それによってランサ—の攻撃は中断される。少女にも怪我はないようだ。

 が、二人とも同じ方向を向けて警戒を現している。

 視線の先にいるのは白髪の褐色肌の男。赤い外套を揺らしながらその右手に収められた黒塗りの弓をゆっくりと下ろした。

 

「お前……ッ」

 

 帰り道の、と言うところを白髪の男に睨まれて威圧される。喋るな、とでも言いたいのだろうか。

 

「新たなサ—ヴァント、まさか挟まれた!?」

 

「安心したまえ。私はセイバ—とそこのたわけとは共闘関係を結んでいない。これはマスタ—の命令だ」

 

 叫んで焦りを隠せないバゼットさんはそんな言葉を真には受けず拳を構えている。ランサ—も少女も己の得物を白髪男に向けていて新たな戦闘を始まらせようとする。ため息をつきながらも黒塗りの弓を構え直した白髪男も満更、嫌でもないのだろう。

 一髪触発。

 それを止めたのは聞き覚えのある女性の声。それもつい最近、学校の廊下で。

 

「ア—チャ—、挑発しないで武器を降ろしなさい。初めまして、魔術協会、封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツさん。魔術協会から封印指定の執行者が派遣されるのは先ほどバカ神父から聞いたけど、さすがに冬木の管理者(セカンドオ—ナ—)に挨拶もなく、私の知り合いに襲いかかるなんて礼儀がなってないんじゃないの?」

 

「ッ! 貴方は遠坂ですか。私たちは任務の最中です。邪魔しないでください」

 

「邪魔ってなによ、邪魔って。なにやら誤解が生じているようだから衛宮くんが不憫で来てあげたんじゃない」

 

「結局、貴方は衛宮の為に来たというわけですか!」

 

 黒い髪のツインテ—ルに赤で中心に十字があるシャツに冬を感じさせないミニスカ—ト。せめてもの寒さの対抗の為の筈の黒のニ—ソックスは男性を魅惑する。

 その女性は———

 

「遠坂、なのか?」

 

「ええ、衛宮くん、こんばんわ」

 

 間違いがない。

 遠坂凛。

 穂群原学園のアイドル。美綴曰く、穂群原のミスパ—フェクト。先日慎二をふったご本人様だ。容姿端麗、文武両道を具現化して女の子に形付けてみたら遠坂になったと言われても間違いじゃない気がする。

 それにしてもこんなところになんで遠坂が……?

 

「何が何だかわかってないって顔してるってことはやっぱり聖杯戦争のことを知らなかったみたいね」

 

「せ、……なんだって?」

 

 ごめん。うまく聞き取れなかった。

 というか遠坂はこんな感じだっただろうか。どうも俺の知っている遠坂とは違うような……。主に性格と喋り方において。

 

「な、……!! 嘘をつきなさい、貴方は前回の聖杯戦争で聖杯を破壊した張本人でしょう!!」

 

「……? 聖杯? 破壊した? ちょっと待ってくれ。遠坂、なに言ってるんだこの人」

 

「私に言わないでよ。私だって、なに言ってるんだこいつ状態なんだから」

 

「…………」

 

 バゼットさんの必死な叫びには申し訳ないのだが俺に覚えなど一切ない。

 そして少女がじっとこっちを向いているのはなんでなのだろうか。

 バゼットさんは肩をわなわな震わせながら遂に限界が来たのか、

 

 

「ふざけないでください! 衛宮切嗣(・・)!」

 

 

 盛大に叫んだ。

 それに敏感に反応したのは俺を含めて約三名。

 俺、少女、そして白髪男。

 俺は恐らく、何故その名前が今挙がったのか、と疑問を隠せない顔をしていた。少女に限っては苦虫を潰したような顔をし、白髪男は眉を微かに動かしていた。

 それは兎も角、とりあえず遠坂とランサ—が腹を抱えて爆笑しているのは止めた方がいいのだろうか。

 

「な、何が可笑しいのですが! 遠坂、ランサ—!!」

 

「ひぃ、ひぃ。い、いえ。本当に面白かったから。……ふぅ、一つだけ貴方の間違いを訂正しておくわ」

 

「間違い?」

 

「ええ、間違い。そこのボケッとしてるあなた方が先ほどまで襲っていた少年の名前は衛宮士郎(・・)キリツグ(・・・・)なんて名前じゃないわよ」

 

「へ?」

 

 惚けたような声を出すバゼットさん。ランサ—に関しては、

 

「マジかよ、本当に気づいてなかったのかよ! こりゃ傑作だわっ!」

 

 なんて言って大爆笑。

 真っ赤になっていくバゼットさんは味方を探そうと周りを見渡すが誰もいず、俺と目が合う。

 

「……あ……その」

 

「えっと、どうも。衛宮士郎です」

 

 なんとなく自己紹介してしまう。

 そのことがトドメとなったのか、

 

「……すいませんでした」

 

 素直に頭を下げた。

 

 

     ◇◇

 

 

 遠坂の提案によってとりあえず皆、状況を確認しようということになったはずだったのだが。

 

「衛宮くんはとりあえずセイバ—(あの子)と話をしてあげて。まだ召喚してちゃんと話してないんでしょ? 丁度、今からバゼット(この人)に話があるからその間にやっておいて」

 

 バゼットさんを連れて行く(連行していく?)遠坂はそう告げて庭から玄関の方へ行った。ランサ—と白髪男(アイツ)はいつの間にか消えていた。遠坂に聞くとまだ近くにいるらしいが、姿はないのでもしかしたら帰ったのかもしれない。

 こうして庭に残ったのは俺と少女。

 初めは遠坂に警戒をしていたみたいだが、話をする機会を与えられたからか、玄関方面を軽く警戒しながらも俺と向き合ってくれた。

 

「えっと、初めましてだよな。それと助けてくれてありがとな。もう知ってるかもしれないけど俺は衛宮士郎だ」

 

「衛宮……士郎。ええ、わかりました。マスタ—」

 

「マスタ—なんて呼ぶのは止してくれ。俺はそんな大層なもんじゃない」

 

「そうですか……。ならばシロウと。ええ、私としてはこの発音の方が好ましい」

 

 シロウと言われた瞬間、顔から火が吹くかと思った。

 初対面の人をフツ—、名字じゃなくて名前で呼ぶか!?

 

「次は私の番ですね。此度の聖杯戦争でセイバ—のクラスとして呼ばれました。セイバ—と呼んでください、マスタ—、いえシロウ」

 

「そう、それだ。とりあえず、そうだな……そのマスタ—って」

 

「いえ、わかっています。貴方は正規のマスタ—ではないのですね。大丈夫です。それでも貴方は私のマスタ—です。契約を結んだ時点で私は貴方の剣となり、盾となります」

 

 契約という言葉を使った時、彼女———セイバ—が俺の左手を見つめていたのに気づいて俺もその視線の先を見た。そして気づいた。

 

「……え、なんだよこれ」

 

 左手の甲には紅い刻印が浮かび上がっていた。形状としてはまるで剣のような印象を受ける。

 

「それは令呪です。契約を結んだサ—ヴァント———つまり私に対しての絶対命令権です。令呪は三回のみしか使えないので軽率に使わないように」

 

「絶対命令権? なんでそんなものがいるのさ」

 

「私たち英霊の中では格が上のはずの自分が格が下のマスタ—に指示されるのが嫌だ、という者もいます。他にもマスタ—の方針に納得がいかない者やマスタ—自身が気に入らない者も。そんな不満を持った者は全員ではないですが、大抵マスタ—を殺して自由の身を手に入れようとするのです」

 

「あ—————」

 

 当然の流れのように契約が行われていたから気付けなかったが言われてみればそれは当然だ。英霊っていうのはわからないけどセイバ—とかランサ—とか白髪男(アイツ)のことを指すのだろう。ならば当然、使役しているはずのマスタ—より彼らは強いはずだ。大人しく使役されているわけがない。

 ここで登場するのが先ほどセイバ—が話してくれた"令呪"という代物。つまり殺されそうになったときに『俺を殺すな!』と命令すればサ—ヴァント達はマスタ—を殺すことはできなくなるのだ。

 

「なるほどな」

 

「又、サ—ヴァントが己の能力を使ってもできぬことを令呪を使ってできるようにさせられます」

 

「でも、セイバ—達に出来ないことなんてあるようで無いものだろう?」

 

「いえ、例えば地球の裏側でシロウがサ—ヴァントに襲われたとき、私はどう頑張っても助けに間に合いません。いくら私が全力を振り絞っても距離が遠すぎます。ですが、令呪を使って私を呼ぼうとすれば、転移のように一瞬でシロウの下に行くことができます」

 

 転移。

 つまり、距離関係無しにセイバ—を呼び出せるということだ。召喚と言ってもいいだろう。

 

「今の説明で分かったと思いますが、その令呪は緊急時のみに使ってください」

 

「ああ、分かった」

 

 さて、セイバ—のおかげで少しずつ知識を手に入れたが、どうも戦うことが前提の話になっていてよくわからない。先ほどバゼットさんが言っていた聖杯戦争とやらが絡んでくる話だとは思うが。

 

「ところでセイバ—。大事なことを聞いておいていいか?」

 

「!……真名のことですか。すいませんが、教えることはできません」

 

「しんめい? 違うぞ、セイバ—。俺が聞きたいのはさっきバゼットが言っていた聖杯戦争って何だって話だ」

 

「は?」

 

 空気が完全に凍った。

 セイバ—の顔は完全に理解をしていない顔だ。聞いた言葉が衝撃的すぎて、本当にそんなこと言ってたのかをもう一度頭の中で考え、そしてまた同じ結論に至った時の顔だ。間違いない。藤ねぇの言葉に驚く桜の顔によく似ている。

 

「あら、やっぱりこんな展開になってたか」

 

「遠坂。話は終わったのか?」

 

 玄関の方向からやってきた遠坂は相変わらず学校での遠坂でないみたいだ。まさか夜になるとテンションが高くなって性格が変わる、みたいなそんな何かなのか。……違う気がする。

 遠坂の背後にはバゼットさんがいて、完全に失敗から立ち直っているみたいだ。

 

「えぇ、粗方ね。とりあえず、家に入りましょっか」

 

「家って……うちか!?」

 

「寧ろ他に何処があるっていうのよ」

 

 まったく、といった顔をして背を向けて再び来た方向を戻り始める。当然のように玄関へ向かう遠坂を呆然と見ているとバゼットさんが口を開いた。

 

「先ほどはすいませんでした。遠坂家の———いえ、凛に聞いたところ貴方は私が狙っていた人とは違ったみたいです」

 

「そうか……まあ、殺そうとしてきた人をそう簡単に許すつもりはないけど、とりあえず家に入りましょう。遠坂はもう入っているみたいだし、ここは冷えるし。セイバ—も行こう」

 

「はい」

 

 その言葉で動き出すと思っていたが、素直に返事をするセイバ—とは裏腹にバゼットさんは無言でそのまま動かない。

 

「どうしたんですか」

 

「貴方は…………いえ、なんでもありません」

 

 今度こそバゼットさんは玄関に向かっていく。最後の言葉、バゼットさんが俺に言おうとしていた言葉は何だったかはわからないが、その表情は何かを確かめようとしていたように見えた。

 

「どうしたのですか、シロウ」

 

「ん、ああ、すまんセイバ—。今行く」

 

 玄関から入ろうとしているセイバ—の声に思考を止める。

 ふと空を見た。

 月を見上げて手を伸ばす。

 今にも届きそうな満月を、光り輝くその月を掴むように伸ばした手を握り締めた。

 

———————正義の味方になる。

 

 この月夜に誓った約束を離さぬように。

 

 

     ◇◇

 

 

 満月は二人を照らし、この夜を生き抜いたことを祝福する。運命を乗り越えた一人の少年はこの戦いでいくつもの答えを見る。その先にあるのは、理想か、正義か、はたまた日常か。

 皮肉にも、少年の誓いの日と同じ満月の日。

 歪みに歪みきった第五次聖杯戦争が始まろうとしている。

 

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