Fate/stubborn Iron   作:@ccc

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動き出す月の下

 

 バ—サ—カ—のマスタ—である銀色の髪の少女、イリヤスフィ—ル・フォン・アインツベルンはその華奢な拳を振り下ろして机を揺らした。その顔は怒りと動揺で歪んでおり、可愛らしいいつもの彼女とはかけ離れた物だった。

 その行動によって溢れた紅茶を拭くのは彼女のメイドであるセラとリズである。彼女達は主の突然の激昂に不安を持つ。生活係として一緒に生活してきた彼女達にはわかるのだ。こんなに動揺することは彼女の親であり、アインツベルンの裏切り者のキリツグのことを罵る時ぐらいだった。

 それが今回は違う。

 夜遅くに帰ってきたイリヤはセラの説教も無視して部屋に閉じこもり、そして部屋から出てきたと思ったら、さっきからこの調子だった。状況が飲み込めないセラとリズにとっては困惑の極みである。

 

「セラ。イリヤ、怒ってる、焦ってる」

 

「こら、リ—ゼリット! イリヤスフィ—ル様と呼びなさいといつも言って……? 焦ってる?」

 

 焦ってる。それがリ—ゼリットがイリヤから流れてきた感情だった。

 リ—ゼリットはイリヤを"天のドレス"を着させるためだけに作られたアインツベルン製のホムンクルスだ。その為か、リ—ゼリットはイリヤに"天のドレス"を着させる為の予備パ—ツとしてイリヤの一部となっている。つまりはイリヤの体の手や足や耳や鼻と同じように"イリヤの体の一部"で一心同体なのである。リ—ゼリットが死ぬことによってイリヤが死ぬことはないが、イリヤが死ぬことによってリ—ゼリットは死ぬ。

 そんな彼女はイリヤの一部であるためか、イリヤの感情を読み取るのが得意だ。今回のリズの発言はイリヤが垂れ流した感情を受け取ったからである。

 

「どうして、いったい……!」

 

 イリヤは呟くように言葉を溢す。

 その言葉は数時間前の出来事に対しての言葉だった。

 

      ◇◇

 

 白髪男———ア—チャ—との会話の後、急いで家へと帰ったイリヤは怒り心頭なセラの横を通り抜けて自身の部屋へと向かった。

 イリヤの部屋は基本的にセラとリズが整頓をしてくれるため綺麗な状態が保たれてる。真っ白な部屋に入るとカ—テンが付いている煌びやかな修飾のされたベッドが出迎える。体型が小さなイリヤは、大きすぎて使いずらいと言ったのだが、アインツベルンの特注品であるらしく、安眠効果云々の長ったらしい説明をセラから受けて、面倒くさくなったイリヤが仕方がなく受け入れた。大き過ぎるベッドは一人にで寝ると空いているスペ—スが広くて寂しくなるから嫌いなのだが。

 それは今はどうでもいい。ベッドの奥の窓際には椅子が一つ置いてあり、そこには一つの人形が乗っていた。チンパンジ—の人形だ。頭を叩くと手に持つシンバルを叩く。この街にいるお兄ちゃんを入れる為の容れ物にしようと遥々アインツベルン本家から持ってきた物だ。

 人形を退かしてイリヤは椅子に座り込んだ。体の力を抜いて意識を自身に向ける。

 

 先刻の会話。

 見知らぬサ—ヴァント(ア—チャ—)に言われたことでイリヤがわかったことが二つある。

 一つ。全てサ—ヴァントに言えるかわからないが、サ—ヴァント側に何か違和感を持たせる何かがあること。

 二つ。その原因は大聖杯にあるかもしれないことだ。

 元々、大聖杯と言うのはアインツベルン家が聖杯を手に入れるために作った聖杯生成システムである。大聖杯の下にある霊脈から魔力を供給し、それによって七体の英霊を召喚し、そのうち六体分の魔力を小聖杯に吸収させ、聖杯を降霊、残った一体の英霊で干渉し、手に入れるという物だった。それは今も変わっておらず、変化などありえないはずだった。

 

 イリヤは自身が小聖杯であることを使い、大聖杯の状態を確認する。制御などは"天のドレス"が無いとできないが、確認程度ならイリヤだけでもできる。パイロットの操縦はできないが、操縦席を見ることはできるようなものだ。

 目を閉じたまま、聖杯としての機能を発動させる。

 

 

……………………………?

 

 

 瞼の裏には一向に大聖杯の状態が見えてこない。感覚としても大聖杯から情報が与えられてない。

 おかしい。

 もう一度、大聖杯にアクセスを試みる。

 反応は無し。

 

—————違う、そこじゃない。

 

 イリヤの本能の部分が何かを告げるがそれを無視する。

 嘘だ、ありえない、何かの間違いだ。

 

 アクセスをする。

 反応は無し。

 

—————違うでしょ。

 

「うるさいっ!!」

 

 怒鳴り散らす。一人でいる部屋に誰かの声など聞こえるはずのないのに、その声に怒鳴る。

 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 違う、違う違う違う違う違う違う違う。

 間違いだ、間違いだ間違いだ間違いだ。

 

—————最初の一回で気づいてるんでしょ?

 

「うるさい、だまれっ!!」

 

 悲痛な声が部屋に木霊する。

 うるさい、わかってる。本当はわかってるよ。

 一回目で、気づいてた。

 二回目で、逃避した。

 三回目で、受け入れた。

 ありえない。ありえないが、受け入れるしかない。それは現実として起こっていた。

 

 

「嘘でしょ、聖杯が停止している……!」

 

 

 アクセスとか、そこが問題ではない。小聖杯が停止しているから(・・・・・・・・・・・・)大聖杯の情報を得られない。

 大聖杯とイリヤ自身の繋がりはある。それは間違いない。

 だが、イリヤスフィ—ル・フォン・アインツベルンの小聖杯としての機能の一部が停止していた。

 例えば、そう。大聖杯との交信と他に。

 

 死んだ英霊を集める機能。

 

 

 

     ◇◇

 

 

「えっと、つまりなんだ。聖杯ってのはなんでも願いを叶えることができて、それを奪い合うのが聖杯戦争。その聖杯戦争ではサ—ヴァント、つまり英霊っていう過去の英雄を召喚して戦うって感じか?」

 

「まあ、簡単に言うとそんな感じね。その参加資格がサ—ヴァントを律することのできる令呪ってわけ」

 

 なるほどな、なるほど。

 つまりはあれか。そこに正座で座っているセイバ—も、いつの間にかいたランサ—も、ここにいないアイツも過去の英雄で、その聖杯とやらを奪い合う戦いに俺は巻き込まれたってわけか。

 

「にしてもよく状況もわからずランサ—を相手にできたわね。セイバ—を召喚するまで一人で対処してたんでしょ?」

 

「……相手なんてできてない。一方的にやられてただけだ」

 

「ふ—ん、見栄張らないんだ。そっか、ホントに見た目通りなんだ」

 

 その言葉にバゼットさんの後ろの壁に寄りかかってニヤニヤしているランサ—を睨みつける。

 現在、うちにあるテ—ブルを囲って遠坂とバゼットさんと話し合いをしている。俺の隣にセイバ—。向かい側に遠坂とバゼットさん。バゼットさんの後ろにはランサ—が壁に体重を預けている。

 ア—チャ—(アイツ)はうちの家の屋根で見張りをしているらしい。

 

「いや、悪くなかったぜ、坊主。正直、即死だと思ってたしな。一発目は手抜きでやったといっても二回防いだのは褒めてやる」

 

「あら、英雄様から高評価みたいよ。良かったわね—、衛宮くん」

 

 うるせ—。

 完全にからかいにかかっている遠坂から顔を逸らすように横に向く。なんなんだ、この遠坂は。学校の時とはまるっきり違うじゃないか。

 

「それによくもまあ、あんな魔術で挑もうとしたもんだ」

 

「しょうがないだろ。あれしかできないんだから」

 

 ランサ—の皮肉った言葉に不貞腐れながらも返答する。と、何か遠坂らしき物が凍った気がした。

 

「待った、衛宮くん。今なんて言った?」

 

「ん? だから、魔術はあれしか使えないって」

 

 遠坂はバゼットさんに視線を送ると、送られた本人はこめかみを掻きながら、

 

「確か"強化"の魔術だったかと」

 

「…………またなんて半端な魔術を」

 

 頭を押さえつけて首を振っている遠坂は呆れたと言わんばかりにため息を溢す。横のバゼットさんもこれは何も言えないと苦笑い。

 

「なに? 貴方もしかして五大要素の扱いとか、パスの作り方とかも知らないの?」

 

 おう、と素直に答えた。

 

「あっきれた、じゃあ貴方は工房もろくに管理出来ない半人前ってわけ?」

 

「そもそもうちに工房なんてものはないぞ」

 

 まあ、一応それらしき土蔵はあるけどあれを工房だって言った方が本気で遠坂が怒りそうだ。

 

「…………強化以外は」

 

「へっ?」

 

「強化以外は何か使えないの、って聞いてんの!!」

 

「まあ、そうだと思う多分」

 

 遠坂の勢いに負けて煮え切らない返答をしてしまった。

 遠坂の視線がヤバイ。なんていうか、餌あげ忘れた猫みたいな目をしてる。しゃ—ってしそう、しゃ—って。

 

「—————はぁ。なんでこんな奴がセイバ—を引き当てるのよ」

 

「———む」

 

 どうやら遠坂は一周回って怒りが消えたみたいだが、なんか気にくわない。

 別に今まで何もして来なかったわけじゃない。未熟なのは認めるけどそれとは話は別だ。

 

「あの、少し私からいいですか」

 

「なんですか、バゼットさん」

 

 今まで黙りきっていたバゼットさんが口を開いた。因みに後ろでは俺の話を聞いてランサ—が腹を抱えてまたもや爆笑している。こいつは本当に過去の英雄なんだろうか。

 

「バゼットと呼び捨てで結構です、士郎くん。衛宮切嗣、貴方知ってますよね」

 

「ああ、知ってるも何も俺の親父だ」

 

「親父? 貴方は衛宮切嗣の息子と言うんですか?」

 

 眉を潜めるバゼットは不信そうに俺を見つめる。その話題に変わって、落ち込んでいた遠坂も復活してこちらを見てくる。

 

「衛宮切嗣は俺の親父だ。俺は十年前に養子として引き取られた」

 

「なるほど、養子。だから魔術刻印もないのですか」

 

「魔術刻印?」

 

 なんだ。また新しい単語が出てきたぞ。

 

「無い貴方が知らなくてもいい物よ。正直、そんなのどうでもいいのよ。それより貴方のお父さん、前回の聖杯戦争にいたって本当?」

 

「そんなこと切嗣は一言も言ってなかったけど……」

 

「いえ、アインツベルン陣営の一人であったと前回の教会の管理者が書き残しています」

 

「……そう」

 

 ダメだ。新しい情報が俺の情報と噛み合わなくて混乱する。切嗣が前回の聖杯戦争に参加していたとか、全く知らなかった。

 頭を押さえてどうなってるんだと首を振ると視界に難しそうな表情をしたセイバ—の横顔が見えた。

 まるで何か嫌なことを思い出したかのように。

 

「セイバ—、大丈夫か?」

 

「え、えぇ。問題ありません、シロウ。それより、バゼット。続きをお願いします」

 

「そうですね、士郎くん。切嗣は今どこにいるかわかりますか?」

 

「親父に会いたいってことか? なら、ほらそこ」

 

 指を指すのは棚の上にある切嗣の写真。俺と藤ねぇと切嗣で出かけた時に撮った写真で、あまり見ない切嗣の笑った顔だ。まあ、笑ったってよりは微笑む程度なのだが。

 うちの家に飾る写真はどうしてもこれがいいと藤ねぇが葬式の時に押し付けていったものだ。藤ねぇの宝物であったはずなのだが、当時小学生だった俺が寂しくないようにと気遣ってくれたみたいだった。

 俺も藤ねぇもお気に入りの一枚だ。

 

「まさかそれは魔術礼装で……!」

 

 ガタンと急に立つバゼットはいきなり拳を構えるので必死にそれを止めさせる。この写真に何かあったら俺が藤ねぇに殺されかねない。

 というかこの人は本能的に動きすぎな気がする。自重しろ、自重。

 

「違うって。仏壇買えなかったからだけど写真だけでも、って理由で飾ってるんだ」

 

「仏壇って……まさか」

 

 えっ、と衝撃の事実を知ったかのようにバゼットは目を見開く。

 

「あれ、知らなかったのか? 親父はとうの昔に死んでるぞ」

 

「あら、そういえば藤村先生が保護者の代わりとか言ってたわね」

 

 そんなバゼットを横目に遠坂がのんびりと戯言を呟いた。

 

 

     ◇◇

 

 

「セラ、リズ。出かけてくるわ」

 

 イリヤはセラとリズにそう声をかけるとひとりでに開く大きな門を潜り抜け外に出た。後ろからは門を開けた本人であるバ—サ—カ—が霊体化を解いてついてくる。

 

 イリヤが出した答えは一つ。

 現状では結論は出せないということだ。何より情報が足りない。イリヤが知っているのは自身の異変とサ—ヴァントの異変だけ。大聖杯に何かあったと考えるのが妥当だが決めつけるのは軽率過ぎる。

 手がかりはあの赤い外套を着た男。

 思えば何故彼は自分を小聖杯だと知っていたのか。キャスタ—ならわかるが、彼の肉体から見るに戦士のものだ。三騎士のどれかであるかが妥当な線だろう。最初から知っていたサ—ヴァント。つまり、彼の主人は自分を小聖杯だとサ—ヴァントに打ち明けていた人物。

 

———小聖杯を知っているなら恐らく御三家の一つ。マキリは今回の参加はないはずだったから……。

 

「……遠坂ね。確か、凛」

 

 目標は決まった。あとは狙うだけだ。

 

「バ—サ—カ—。凛を見つけるわよ。サ—ヴァントは赤い外套の男」

 

「■■■■■■■■■■■■■■—————!!!」

 

 バ—サ—カ—は主人の頼み(オ—ダ—)を聞き入れたかのように地を砕き、光の無い闇の中にイリヤを肩に乗せて駆け出した。

 進路は、墓地へ。

 

 

     ◇◇

 

 

 遥か高く。

 青年はそんな思いで駆け上ったビルの終着点である屋上へ辿り着くと彼は迷わず縁へ向かう。見えるのは深夜を越えてなお光を放つ街。青年が見ることのなかった文明が放つ世界の輝きだ。その光を見て美しいと感じさせないのは普通の感性なのか青年にはわからない。が、彼は槍に生き、槍に死んだ青年。その感性が普通であろうとなかろうと関係は無い。元々、ここへ来た目的は周囲で一番高い場所で冬木市を見るためだったからだ。

 さて、と言って準備を始める彼は手にある無名の槍を屋上のコンクリ—トに刺す。まるで豆腐のように音もなく槍は刺さり、その表面に掘られた文字———ル—ン文字を使って魔術を発動させる。

 ル—ン魔術、探知。

 探知範囲内に目標がある場合、文字が掘られたものが目標までの障害を避けた最短距離を導くという簡単な魔術だ。

 現に彼の槍は何かに引きつけられて何処かへと向かおうとしている。それを防いでいるのは刺さっているコンクリ—ト。飛ぼうとしている槍は横に力を込めているためか全く動かない。この槍は刃は鋭い。だが、刃が当たらなければ切れることはない。故に豆腐のように切れるコンクリ—トは槍を防ぐことができている。

 魔術を止めると槍は静かになった。それを確認した青年は自身の槍が引き寄せられていた方向を見つめる。そこは住宅街。ほとんどの家が闇に包まれている中、一つポツンと光を灯している場所があった。

 とはいえ、目立つからといって人間の視力で見えるものではない。ここは新都。隣町の深山町とは離れすぎている。

 それでも青年はそこに視線を送る。

 

 ああ、彼はそこにいるのだろう。

 

 ああ、彼はそこで立っているのだろう。

 

 ああ、彼は全盛期の頃の姿なのだろう。

 

 楽しみだ。たのしみだ。

 

 ニヤリと、青年の口元が酷く歪む。

 知るものは知る。それは渇望というものであると。求めていた何かを見つけた時にでる笑みであると。そして、そんなところまで彼に似ているのだと。

 強者を喰らう者。

 

「楽しみだ、ああ」

 

 青年は嘲笑する。運命を嘲笑する。

 

 

     ◇◇

 

 

「それで、衛宮くんはどうするの?」

 

「どうするって……」

 

 遠坂凛の言葉に衛宮士郎は少なからず狼狽える。

 どうする。それはつまり、

 

「聖杯戦争、するの? しないの?」

 

「と、言われてもな。セイバ—には悪いが俺には戦う理由もないし……」

 

 そう、衛宮士郎には戦う理由がない。

 己の中に存在しない(・・・・・・・・・)のだ。

 そもそも、士郎は現在ランサ—とセイバ—との戦闘を一度見ただけの魔術からっきしの半人前魔術使いである。現実味がないのはしょうがないのかもしれない。

 まあ、本来はそんな理由でないのだが。

 

「聞いたのは私だけど、ここまで来てその返事をするとは……」

 

 ため息をつく凛は辛労絶えないと力無さげに肩を落とした。すると次に声を出したのはランサ—である。

 

「おい、坊主。話聞いてたか? なんでも願いが叶う(・・・・・・・・・)聖杯だぞ?」

 

「ああ、願いなんてない(・・・・・・・)

 

 間髪入れずに士郎は答えが口から出ていた。ランサ—は少し驚いた顔をしていたが、納得がいったように笑って、なら何も言うことはない、とでも言いたげに黙り込む。

 一方、バゼットは何か恐れているように士郎を見つめていた。

 

「それは、つまり。願いが、ないということですか?」

 

「だからそう言ってるだろ」

 

 何言ってるんだ、と士郎が返すとバゼットはふと思いつめた顔をし、そして何もなかったように元の表情へ戻した。

 それが何だったのかは士郎にはわからないがそれを問い詰める前に凛の声が聞こえる。

 

「わかったわ。教会に行きましょう。そこならしっかりと説明できる神父(ヤツ)がいるわ」

 

「いや、こんな時間に教会が開いてるわけ」

 

「あるのよ、それが。どうせあのエセ神父のことだから必要な時に行けばいつでも起きてるわ」

 

 ムカつくぐらい察しがいいしね、と後付けした凛はその後、暫し顔を暗くする。そして顔を上げた時には何かを決めた顔になっていた。

 

「その前に。最後に一つ、確かめたいことがあるの」

 

「確かめたいこと?」

 

 真剣な顔の凛に一瞬怯むも士郎は復唱する。

 

「ええ、確かめたいこと。この事実次第では、衛宮くんには悪いけど、教会にはついていけないわ」

 

「え、寧ろついてきてくれる予定だったのか?」

 

 なんとお人好しなのか。凛の話の中では聖杯戦争の魔術師達は出会ったら即殺し合い、と言っていたのを士郎は覚えている。故に彼女が説明はしてくれども、教会にまで来てくれるとは思ってもいなかった。

 

「べ、別に貴方の為とかじゃないから。聖杯戦争に参加の意思もないマスタ—を倒すのは遠坂家の娘として納得いかないだけよ」

 

「……そっか」

 

 微笑む士郎は察してますよ、と言っているかのような表情であり、凛は納得いかないと不満気な顔をするが切り替えの早さが彼女のいいところだ。再び真剣味の纏った表情に変わる。

 

「衛宮くんのお父さん、確かキリツグ、だったわよね」

 

「ええ、衛宮切嗣です」

 

 確認するようにバゼットを見ると悩むことのなく頷く。バゼットのタ—ゲットだったのだから当たり前といえば当たり前だろう。

 凛はその返事に満足すると話を進める。

 

「私のお父さん、遠坂時臣って言うんだけど、殺されてるのよ。十年前にあった第四次聖杯戦争でね」

 

「第四次って……」

 

 切嗣が参加していたと言っていた聖杯戦争と同じ。

 結論はすぐさま結びついた。いかに鈍感と言われている士郎でも流石にわからないわけない。

 

「まあ、なんとなく察してるかもしれないけど、そうよ。衛宮くん。貴方の父親、衛宮切嗣は私のお父さんを殺したの?」

 

 見たことのない冷たい視線は背後に剣が当たっているかのような感覚と同時に体に染み込んだ。

 

 

     ◇◇

 

 

 夜は朝に向かって動き出す。その少年の運命を嘲笑うかのように。

 危機を乗り越えた少年には再び死線が迫り来る。巌の男にル—ン魔術使い、そしてここにも動き出す者がいた。

 金髪を揺らして彼女はそこに訪れる。

 

 旧冬木市民会館跡地。

 

 彼女の蒼眼はまるで何かを見つめるように何もない草原の中央を睨みつける。憎々し気な表情は本来穏やかな表情を浮かべる彼女の怒り度合いがわかるだろうか。

 

「ここにありましたか。しかし、クラスが例外とされている私、いや、どのサ—ヴァントもあれを触ることはできやしない」

 

 独り言のように漏らす声は悔しそうに後の方が小さくなっていった。

 呼び出されたということは、やはりそういうことなのだろう。

 聖杯戦争。

 クラス・ル—ラ—。

 この二つで既に厄介なことばかりだが、それより厄介なのは今回のサ—ヴァントの召喚は二つで別々に行われていること(・・・・・・・・・・・・・・)だった。

 はあ、と彼女はため息をついた。

 

 

—————仕方がない、私は私の役割を果たすとしましょう。今回は自由が利くようですし。にしても、私はどちらと言えるんでしょうね。

 

 

 彼女のクラスは"ル—ラ—"。

 真名は"ジャンヌ・ダルク"。

 

 

 旗を掲げる中立のサ—ヴァントが冬木の聖杯戦争に舞い降りた。

 

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