Fate/stubborn Iron 作:@ccc
「可能性は高いでしょう」
沈黙の中で初めに言葉を発したのは、意外なことに遠坂でも俺でもなくて話題が変わってから黙り込んでいたバゼットだった。
「遠坂リン。貴女は魔術協会の調査結果を聞いていますか?」
「……ええ。聞いたわよ。エセ神父経由で」
まっすぐに見つめるバゼットから遠坂は逃げるように視線を逸らす。それを見たバゼットは一度頷くと語りを続けた。
「ならば話は早いですね。当時、第四次聖杯戦争後に魔術協会は遠坂時臣の死因を監督者であった聖堂教会に対して調べるように要求しています。調査員は言峰綺礼。当時の監督役の息子です」
言峰っていうと確か俺が親父に引き取られる前に行く予定だった孤児院の教会の名前がそんな名前だったような……。
それより気になることがある。
「なんで息子なんだよ」
普通、監督していた奴がいるなら、そいつが一番詳しいわけに決まってるし、最後まで責任持ってそいつがやるべきだ。
別に息子に頼むのがおかしいわけではないが少し気になった。
「それについては理由があります」
「理由?」
「ええ。第四次聖杯戦争中に当時の監視役の言峰摛正は何者かによって殺害されました。犯人は遠坂時臣を殺害した犯人と同じという結論に至りました」
「……つまり、遠坂の親父さんと監督役の人を殺したのは同じ奴ってことか」
「ええ、そしてその最有力候補がキリツグ。本名は衛宮切嗣。当時、魔術師殺しのキリツグと名が通っていました」
「—————」
一気に頭が真っ白になった。先程から言ってはいたが、そんな断言的に言われると頭にくる。
「そんなわけあるか。親父は俺を助けてくれた命の恩人だ。そんな親父が人殺しなんてしない」
「ですが、してるんです。実際に。この事件以外にも確実に彼が犯人であるという証拠がある事件もあります」
「…………」
突然のことに頭がついて行けてる様子はなかった。頭では理屈は分かっている。でも、それを拒否する部分があるのも確かだ。
親父が人殺し……? あの子どもがそのまま大人に成長したかのような親父が?
思い出にいる切嗣と聞かされているキリツグが俺の中で矛盾のように混ざり合わずにグルグルと回る。
「遠坂時臣、言峰離正。共に射殺で亡くなっています。これもキリツグの得意としていた武器が銃であったことからこれも決め手の一つとなった様です。魔術師は銃などは基本的に使いませんからね」
「でもさっきは可能性って……」
「ええ、その通りです。確たる証拠は無かったそうです。ですが、殺された状況や殺害方法、つまりさっき言った様な銃で殺された、という状況証拠が積み重なった結果、魔術協会ではキリツグがやったということで報告されています」
「そんな——」
信じることなんかできない。おれの知っている親父はあの頃のままだ。だが、それと遠坂が信じるのは別だ。
バゼットの隣にいる遠坂へと視線を向けると考え込むように顎に手を当てていた。
「……私の情報は以上ですが……話、聞いてました?」
「え? うん、聞いてた。———ねぇ、バゼット。貴方父さんの死因は銃殺って言ったわよね?」
遠坂が確認するように慎重に言葉を並べる。そしてその問いに答えるようにバゼットは頭を縦に振った。
「ええ、背後からの一発が致命傷になっていたと記憶してます。細かくは違うかもしれませんが背後からの射撃で亡くなったことは確かだと思います」
「そ。じゃあ、やっぱり確定ね」
「確定って……でも親父は!」
「あ、大丈夫よ、衛宮くん。確定したのは衛宮くんのお父さんの無実だから」
「いや、だからって…………え……、…………はぁ!?」
意味がわからない。どう見ても先ほどの会話の流れでは親父が犯人になるような流れだったのに。恐らくは相当な間抜け顔になっているのだろう。遠坂はこちらを見てクスクス笑っている。
そんな遠坂を見て、バゼットは訝しげに遠坂を見つめている。
「どういうことですか、遠坂凛」
「どういうことも何もそういうことよ。まあ、いきなりそんなこと言われてもわからないわよね。とりあえず順番に話していくわ。まず、衛宮くんのお父さんが犯人じゃないと判断した理由は父さんの死因よ。バゼット、もう一度聞くけど死因は?」
「背後からの銃殺です。詳しくはそれによる出血死ですが」
「そう、それ。それがおかしいのよ」
指摘するようにバゼットを指をさした遠坂がその指をそのまま自分の顔の横に持ってくる。
「私は魔術刻印を移植する関係上、一度父さんの死体を見ているわけなんだけど、どう見ても父さんの死因は背後からの
「刺殺………」
なるほど、確かに間違えようのない傷跡だ。銃とは鉛玉を飛ばして身体を貫通させて傷つけるもの。傷跡は必ず点であり、刃物のようなもので刺された傷跡とは似ることはない。
「で、ですが私は確かに」
「そうね。貴女の情報が間違っていたっていうことは一番怪しいのは貴女。私も最初は貴女を疑ったけど貴女はそんな器用な人には見えなかった」
「違いねぇ。俺もマスターほど不器用な女は見たことねぇしな」
「ラ、ランサー!!」
くくく、と背後で笑うランサー。それに恥ずかしそうに怒鳴るバゼットを見て嘘をつけそうな人とは思えない。
「じゃあ、いったい……」
「そう、問題は一体どうしてそんな情報が貴女に渡ったのか」
俺の零した言葉を引き継いで遠坂が言葉を紡ぐ。こういうところは優等生遠坂の面影があるんだけどな……。
「どうしたの、衛宮くん。私の顔をじっと見て?」
「い、いや、別になんでもないぞ、遠坂」
「そ、ならいいわ。それで話は続けるけど」
幸いにして遠坂は俺のことを気にする余裕がないようで下手に詮索されなかった。不幸中の幸いである。この遠坂、下手に行動するとそれをネタにからかわれかねない。
「私の考えがあっていれば、情報が間違っているのは
「ってことは、バゼットの情報の大元が間違っていたってことか」
「ちょと、ちょっと待って下さい! 遠坂リン。貴女はロンドン塔の強固な守りを知っているでしょう!? 情報が改変されたなんてあり得る話とはとても……」
「? 何言ってるのよ。そんなの無理に決まってるじゃない」
遠坂はさも当然かのように言う。
……ダメだ、意味がわからなくなってきた。
「まったく、衛宮くんもわかんないの? いい?
そう、つまりは魔術協会の情報ら偽物で、でもそこにある情報は改変できないとするなら……どうやって情報を偽物にしたんだ? 魔術協会強固な守りがあって、つまりそれを突破できる力量も持ち主か権力者が……。
いや、そうじゃない。それより簡単に偽物にすり替えられるじゃないか。
「えっと、その、つまり遠坂は魔術協会に報告された情報が間違っていたって言いたいのか?」
「—————正解」
そう、この話は簡単な話だったのだ。
でも、
「でも遠坂。これって———」
「ええ、そうね。報告者はエセ神父、つまり私の知り合い。っていうか私の兄弟子であり、後見人よ」
身内と言っても過言ではない人が自分のお父さんの事件について嘘をついたというのに遠坂はなんともない顔でその事実を受け止めた。
「と言ってもね、心当たりあるのよ。アイツが嘘をつく理由に」
「理由というのは……?」
「———あの聖杯戦争が終結した当時ね、お母様が倒れて遠坂家は私だけだったの」
「それがどうかしたのか?」
首を傾げる俺だがバゼットは何かに気づいたようで、遠坂に視線を送っている。
「衛宮くん、聖杯戦争の生い立ちは知ってる?」
「いや、まったく。ていうか聖杯戦争なんてさっき知ったばっかりだって話してただろ?」
「そういえば、そうだったわね。聖杯戦争っていうのはね、元々、ある魔術家系が聖杯を手に入れようとしてたことから始まるの。その魔術家系———アインツベルンと言うんだけど、何千年もの間単独で聖杯を追っていたの。だけれど、これではいつまで経っても手に入らないと考えたんでしょうね。ある二つの魔術家系に協力を要請した。それがウチの遠坂とマキリって家系よ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。この話と今の話はどう繋がるっていうんだ」
「そうね。時間もないし結論だけ言うけど、結局、三家系が聖杯を作ったんだけど、聖杯は一人にしか与えなかった。そこでこの三家系は対立を始めたの。で、今現在もその対立は続いている」
ここまで言ったらわかる? と遠坂がこちらを向いて確認を取る。
いや、わかったが……
「つまりこういうことだろ。遠坂を殺せば遠坂の家系は潰れるって。でも、聖杯戦争でない時に魔術家系が潰されるのはどうなんだ? 遠坂の家は冬木の霊脈を守っているって話だったろ? そんなことしたら大変なことになるんじゃないか?」
「ええ。確かに他家がウチをいきなり潰しに来たら問題になって冬木の土地を取り返しに協会から刺客が行くわね。でもね、
「つまり貴女はこう言いたいのですか。御三家のアインツベルンかマキリの者が貴女のお父さんを殺したと」
バゼットは確信を持っているのだろう。ほぼ断言的に言いきった。遠坂もその言葉を満足そうに頷く。
「アインツベルン家側の衛宮くんのお父さんの可能性もまだあるけど、多分マキリの方ね。衛宮くんのお父さんなら背後からの奇襲だけど、そう簡単にお父さんが背を取られたとは思えないし、銃にしなかった理由がない。確かその時のマキリの参加者にお父さんの友人がいた筈。知り合いならば油断させて背後から刺すこともできるかもしれない。同盟を組みたいとか何とか呼び出してね。まあとにかく、当時の私はまだ子供だったこともあってお父さんの仇が近くにいるって言われたらすぐに敵討ちに行っていたでしょうから、それを止める為に嘘の情報を作ったってことになる」
遠坂の言葉を纏めるとこうなる。
遠坂のお父さんを殺したのはマキリという家の男で遠坂の親父さんと知り合いだったらしい。油断させたところで後ろから一発。それを知った遠坂の兄弟子である奴が、遠坂にマキリによって殺されたと知らせない為に俺の親父が殺したっていう嘘の情報を作り出した。ということである。
なるほと、筋は通っている。
「こんなところかしら。とにかく、衛宮くんのお父さんは関係ない可能性が高いってわけ。さて、じゃあ話が終わったことだし教会へ行ってみましょうか」
長い長い話がここに終わって遠坂はよっこらしょ、と呟きながら立ち上がった。スッキリしたーと言わんばかりに背伸びをしている遠坂を見てると俺が思ってしまったちょっとした疑問を投げかけることに躊躇した。
まあいいか。別に全ての謎を解かないといけないわけでもない。
遠坂に続いて俺も立ち上がった。
「バゼット、貴女も綺礼に挨拶しに行く?」
「い、いえ、少しやることがありますので」
そ、と軽率にそう答えると遠坂はセイバーの方を向く。
「? リン、私に何か?」
「何かじゃなくて、そんな格好で外に出たら人気が少ないと言っても目立つでしょう。霊体化してていいわよ」
「えっと、そのことなんですが……」
このあと、俺の召喚が不出来だった為にセイバーとのパスがうまく通っていなく、霊体化ができないということを打ち明けられてまたひと騒ぎするのは別の話である。
◇
風が冷たい。
辺りは静まり返っていて、物音一つとしない。切れ切れの光になっている電柱には虫が
衛宮邸から出た一行は衛宮士郎率いる教会行き組とバゼット率いる撤退組とに分かれていた。
霊体化ができないと問題になっていたセイバーは今は黄色のカッパで鎧を隠している。応急的処置だが教会まで行って帰ってくるだけなら特に問題はないだろう。完全に不審者ではあるが。
「では、私は失礼させていただきます。士郎くん、今回間違えてしまって申し訳ありませんでした」
「気にしないでくれ。でもその喧嘩っ早い性格は治したほうがいいと思うぞ」
「そうですね、気をつけます」
苦笑するバゼット。リンにも別れを告げた彼女は最後に衛宮士郎のよこを通り過ぎる時、
「言峰綺礼に気をつけて」
そんなことを告げた。
「え?」
「それでは皆さん、次会う時はきっと聖杯を取り合う敵としてでしょう。それでは」
一礼をしたバゼットは近くにいるだろうランサーに行きますよ、と言って歩き出した。遠ざかる背を見つめ、先程の言葉を士郎は思い出す。『言峰綺礼に気をつけて』。
敵として現れた女性はそんなアドバイスと共に去っていった。
「どうしたのよ衛宮くん。いくわよ」
遠坂の急かす声が聞こえる。名残惜しげにバゼットの去る姿を見て、士郎は背を向けた。
◇
「ランサー」
「あいよ、なんだい」
角を曲がって士郎達から見えなくなったところでバゼットは立ち止まり、ランサーを呼び出す。ランサーは点滅している電柱の下に寄りかかってバゼットの方を向いていた。ランサーの見つめるバゼットの顔は士郎達と別れを告げていた時とは打って変わって強張っている。
「先ほどの話どう思いましたか」
「どうって……まあ、おかしいわな。嘘をつくなら嬢ちゃんだけで十分だ。バゼットの組織にまで嘘をつく必要はねーわな」
「そう——ですよね」
黙り込むバゼット。ある嫌な予想が頭をよぎる。恐らくこの予感は当たっている。だが相手の実力を知っているが故に準備を怠ることはできない。いや、そう言い訳をして会うのを拒んでいるのかもしれない。
先に向かう少年少女の心配もあるが、彼のことだ。最低限の監督役としての役割は果たすだろう。それに一応警告もしておいた。
「なあ、バゼット。相手は人間一人だけなんだろ? それならすぐに行っても良かったんじゃないか?」
「ええ、本人はなかなかの強者ですが、サーヴァントには匹敵しえません。相手もサーヴァントがいればまた話は別ですが、監督役は基本令呪の発現はありません。でも。奪い取ったのならば話は別です。用心に越したとこはないでしょう。今から切り札を取りに一度戻ります」
そういったバゼットはさも当然のようにランサーの背中にしがみついた。
「……なあ、バゼット。この移動方法止めね? いや、止めなくていいからおんぶは止めようぜ。俺が抱えてやるからさ」
「な、何言ってるんですか! お姫様抱っこだなんて———ッ!! そ、それにサーヴァントに移動させたほうが急いでいる時は効率がいいんです!!」
もう知らん、と後ろで五月蝿いバゼットを無視して拠点である館へと飛ぼうとした時、ランサーは通りの先からの殺気にいち早く気づいた。
「おい、バゼット」
「なんですか! ラン———。そういう事ですか」
バゼットも殺気に気づいたようでランサーの背から降りて邪魔にならない程度の距離を取る。ランサーは視線を変えぬまま、宙から紅棘の槍を手にし、構えを取った。
「次々とサーヴァントが集まるじゃねーか。もしかして今夜だけで全サーヴァントと会えるかもな」
「呑気なことを言っていないでください。来ますよ」
バゼットとランサーが見つめる先、殺気の根源が一歩一歩こちらへと近づいてきた。
最初に気づいたのはその槍だった。
「あぁ?」
手に持つのは血溜まりのような真紅の槍。ぴっちりとした赤い服が体に張り付いて鍛え上げられた肉体を強調する。空のように青より少し薄い色をしている髪が揺れる中で眼球から放たれる鋭利な視線がランサーの警戒レベルを一気に上げた。
強者。それは空気でわかった。だが、敵の姿を見たランサーは一瞬固まり、苦虫を噛んだような表情になる。
「その槍、その佇まい、その構え。クーフーリンとお見受けする」
「なに———!?」
バゼットが驚愕したのは二つ。
一つはランサーの真名を宝具を見せずに見抜いたことだ。真名とはその英霊の生前の名前。それを知られたことで物理的な実害はないが、アドバンテージがある。それはその英霊を調べれば弱点や死因などが知ることができる点だ。
英雄同士の戦いである聖杯戦争では戦略や知識などが勝敗を分けることもある。真名はその際たる例といえるだろう。だが、通常は英霊など見たことある人がいるわけがなく、その人物を見ただけで真名を看破するなどあり得るわけが無いのだ。
そして二つ目。これは至極単純な疑問。
—————一体何故相手は槍を持っているのか?
バゼットの呼び出した英霊、クーフーリンは間違いなくランサーである。本人も話しているし、伝説からもゲイボルグしか持っている彼はランサーのクラスであっているだろう。
だが、それだと目の前の英霊が槍を持っているのかわからない。クーフーリンでランサーが埋まっている以上、その他のクラスである。しかも、そのうちセイバーとアーチャー、さらに協会から来た魔術師がキャスターを召喚したという話を聞いたので除外。つまり残りはライダーとアサシン、そしてバーサーカーである。先ほどの会話を見る限り、理性を持ち合わせているのでバーサーカーではない。さらにいうなら正面からアサシンが出てくると思えない。残ったのはライダー。なるほど、確かに馬か何かに乗って槍を持ちながら戦った者もいたと聞く。その類の可能性はありえる。
だが、とそれでもその可能性をバゼットは疑っていた。ライダーならばあえて騎乗しないで相手の土俵で戦う必要はない。明らかにおかしい。それに先ほどのランサーの反応である。そう、その反応はまるで、
「ちっ。白々しい態度取りやがって」
やはり。ランサーにとって既知の人物。
「白々しい、とは? 俺と貴方、生前から距離は変わっていないだろうに。俺が貴方に挑戦し、貴方はそれを討つため槍を持つ。変わったものなど一つもない」
「そうらしい。変わらず闘争心を抑えるのが苦手みてぇだな。今は聖杯戦争だぜ? マスターの言うことを聞かなくてもいいのかよ。アルスターの流儀、忘れたとは言わせねぇぞ」
「安心してくれ。俺への命令はただ一つ。ランサーを倒せ、ということだけ。実に分かりやすい、かつ俺の方針と合う素晴らしい命令だ」
彼の言動からするとランサーと戦ったこともある様子だ。ならば、バゼットが知っている可能性が高い。なんせ、子供の頃に嫌という程
「バゼット、下がってろ」
ランサーの指示に従い、その場から数歩下がる。
赤に身を包んだサーヴァントは一歩一歩距離を縮める。その度にバゼットには長年の経験によって培った警報が鳴り響く。
「そういえば貴方は俺を殺したときを覚えているか?」
「さあな。そんな昔のこと覚えてねーよ」
「俺は昨日のことのように覚えているよ」
「そうかよ。なんの報告か知らないがボケていなくて安心だ」
「ふ、それはこっちのセリフだよ。また『お前は誰だ』なんて言われたらショックで立ち直れなくなっていただろうな」
「うそこけ、糞狗」
目の前の言葉の応酬にバゼットは言葉を発することができない。なにより、ランサーが狗を貶すような言葉を言うなどとは思いもしれなかった。
彼は一体———。
「さて始めるか。さっきの質問、いいハンデとなりそうだ」
「……ッ!!てめぇ、まさかっ!!」
何かに気づいたのか。ランサーは慌てた様子で槍を構え直す。槍の中央部を持ち、機動性重視に変えて大きく一歩下がった。
対してランサーに対峙する男は余裕気に槍を
「畜生、バゼットしゃがめぇぇぇぇ!!」
叫ぶが早いか。ほぼ同時に宙に現れた真紅の槍が降り注いだ。
それをランサーは一本の槍で捌き切る———!!
爆音と煙。
槍の雨が止むと立ち上がっていた煙が止み、その惨状を公開する。幾つもの大きな穴を開けているコンクリート。その中で唯一バゼットを中心とした円状である無傷の地帯が存在した。
「全く、嘘つきはどっちだ。覚えてるじゃないか」
「黙れクソ……!!」
余裕なさ気にランサーは愚痴る。
ああ、知っている。今の技は知っている技だ———。
なんにせよ、
「ッ——————オラァ!!」
轟ッ!! という爆音はランサーに追いつくことなく置いてきぼりにされる。一瞬で男の目の前へと位置を変えたランサーは溜めていた槍を突き出す。男へ吸い込まれる鉾先に割り込むのは男の持つ槍。がきんっ、という鈍い音で弾かれるが、途切れさせずに連続して槍を振るう。
百を超える刺突。
男の持つ槍は徐々に追いつけなくなっていく。そして、一際強い一撃をランサーが放ち、同時に男が割り込ませた槍が砕かれる。
「———よしっ!!」
バゼットの喜びの声漏れる。
これで奴に武器はない———!
ランサーが弾かれた槍を腕力で振り戻す。そうして、圧倒的な一撃が腹部へ叩き込まれた。
——————ランサーに。
「な——————!!!?」
ランサーが子供に投げられた玩具のようにバゼットの足元まで飛ばされてくる。ランサーは真っ赤に染まった唾を吐き出して
「チッ———完璧に習得してますってか?」
「貴方と違って優等生だったものでね」
口元を歪ませて男は笑う。
知らない。バゼットはこんな人物が過去にランサーと戦っているなんて知らない。槍を幾つも取り出して戦う者など聞いたこともない。
「貴方は、一体何者なんですか……」
呟いたはずのバゼットの言葉は男にも聞こえていたらしく、俺? と聞き返してくる。
「そういえば貴女には自己紹介がまだだった。これは失礼。では改めて」
こほん、と咳払いの後、場違いなほどに丁寧に、
「クラス、
クラスを告げた。
追記
そういえば今回のキリツグさんの誤解を解く部分ですが友達と話し合いながら作成しました。友達Kありがとう!