Fate/stubborn Iron   作:@ccc

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お待たせしました。どうぞ




 

「スレイ、ヤー…」

 

 英雄殺し(スレイヤー)

 聞いたことがないクラスだった。エクストラクラスの部類だろうが、そんな物騒なクラスがあるのだろうか。

 

「いや、細かく言うと俺はランサー・スレイヤー(槍兵殺し)なのだが。クラスの分類としてなら英雄殺し(スレイヤー)で間違いない」

 

「ランサー・スレイヤー? どういうことですか。まさか、()()()()()()()()()()、つまり貴方は吟遊詩人とでも言うのですか」

 

 ならば、スレイヤー。つまり英雄殺しの名はなるほど正しいのだろう。だが、例え英雄クーフーリンを殺したとはいえ、吟遊詩人これほど強いとは思えない。

 疑問が残るその問いに答えたのは怪我を無理して立ち上がるランサーだった。

 

「まさか。あいつはそんなザコじゃねぇ。それに(クーフーリン)を殺したのはコナハトの兵士だ。原因を作ったのは彼奴ら(吟遊詩人)なのは確かだが、直接結果を生み出したのは無銘の兵士だった」

 

「なら、あいつは———」

 

「ふむ、まあ真名はお互いに知っているし、隠していることは無駄と言えるか」

 

 スレイヤーと名乗る空色の槍兵は口角を酷く吊り上げた。

 

「俺は——————」

 

 

     ◇

 

 

「なあ、遠坂。今から会いに行く奴って、コトミネって奴なんだよな?」

 

「ええ、そうよ。いけ好かないエセ神父。一応、私の兄弟子でもある人よ」

 

「…………………」

 

 黙り込んでいるセイバーは黙々と後ろをついてきてくれている。アーチャーは知らない。おそらく、霊体化をして遠坂の周囲を警戒しているのだろう。

 足を進めて、現在は冬木大橋を渡りきった坂に差し掛かっていた。二本の道に分かれているが片方は新都の駅に向かう道だが、進むのはもう片方の道らしい。

 

「へぇ、街外れに教会はあるんだな」

 

 知らないことだったかのように何気なくそう呟く。

 

「寧ろあんなのが街中にあったら悲惨なことになるわ」

 

 きっと中華料理店が増えるんでしょうね、それもとびっきり辛いの、と意味不明なことを言いながら歩を早める遠坂。もう片方の道———つまり、俺たちが進む道は緩やかな坂になっている。墓地が近くにあるのでよく肝試しなどに使われているらしい場所だ。

 

「コトミネってのはどんな奴なんだ」

 

「何よ衛宮くん。あいつに興味があるの?」

 

「いや、聖杯戦争なんてものを監督する奴ってどんな奴なのかなって」

 

「別に物珍しいものじゃないわよ。そこらの魔術師との違いといえば聖堂協会からの派遣されたってことぐらいかしら」

 

「聖堂協会?」

 

「……まさか衛宮くん、知らないとか言わないわよね?」

 

「馬鹿にするな。それくらいは俺でも知ってる。でも、確か聖堂協会って魔術協会と仲悪いんじゃなかったか? っていうか聖堂協会側なのに魔術師って」

 

 確か、そんなことを切嗣が言っていた覚えがある。聖堂協会は異端を消し、人の手にあまる神秘の管理をすることであり、神秘の秘匿を目的とする魔術協会とは犬猿の仲だとか。刃も何度も交わらせたとかなんとか。

 

「まあ、そうね。基本、聖堂協会と魔術協会は相容れぬ関係だし。でも現在は協定が結ばれて、とりあえず吸血種を先に倒しましょ、ってことになってるのよ。今でもまだ裏では殺し合いがあるみたいだけど」

 

 そんなのいちいち気にしてられないわよね、と遠坂。

 協定を結んでいたのか……。それは全く聞いたことのない話だった。

 

「衛宮くんが聞きたいのは、どうしてその聖堂協会が魔術師が行う聖杯戦争に監督役として参加しているのか、でしょ? 簡単よ。聖杯とはつまり聖遺物。勿論、聖堂協会の管轄内よ。聖杯戦争って儀式は魔術師が行う者だから、公平性を確保して聖堂協会に監督を頼み込んだってわけ。魔術師は公平な監督が現れる。聖堂協会は聖遺物の管理をすることができる。これでお互いWin-Winの関係でしょ?」

 

 遠坂が坂の上から振り向く。月明かりに照らされて艶を持った黒の髪がキラキラとはためく。月光美人とはこういうことなのだろうか。

 

「どう? わかった?」

 

「あぁ、ありがとな遠坂」

 

 感謝を込めて言った言葉を受け取った遠坂は、はぁ、とため息をつく。

 

「緊張感ないわね。いずれ敵同士になるのになんでお礼言ってるんだか」

 

「それを言うなら遠坂だっていずれ敵になる俺に教えてくれてるだろ? それと同じだ」

 

 それをいうと、うっ、と呻いて黙り込む。

 

「……いいわ、もう早く行きましょう」

 

 そういうと遠坂はふんっ、と歩くのを再開する。

 唐突に照らしていた月明かりが途切れる。雲が月にかかったのか、空には黒い何かが月光を遮っており———

 

「避けろ遠坂!!」

 

 気付いたのは偶然だった。

 月を見上げた時、月明かりを遮った何か。強化によって視力を上げてそれを視認した。

 黒紫の巌のような、人より一回り二回りほど大きい岩石のような物が遠坂のいる辺りに落下してきたのだ。

 翻る赤。それで遠坂の無事を確認する。気に食わないが、アイツの力は本物だ。

 同時に爆音と共に巌は地に落ちた。

 

「大丈夫かね、凜」

 

「…っ、えぇ、助かったわアーチャー」

 

 赤の弓兵は既に遠坂を連れて俺たちの近くに立っていた。遠坂は頭を押さえていたが、どうやら急なスピードで移動したため、頭が回ってしまったらしい。

 

「遠坂!」

 

「油断したわ。まさか、1日でこんなにサーヴァントに対面するとは思ってなかったし」

 

 アーチャーから降ろしてもらった遠坂はミニスカートのポケットから宝石を取り出しながらそう呟く。

 アーチャーはそのまま両手に黒白の双剣を手に落下物に警戒をしている。それはセイバーも同じことで、既に着ていたカッパは脱ぎ捨てられており、不可視の剣を構えてアーチャーよりも先に状況を確認していた。

 膠着状態が続く。

 落ちてきた巌は動くことはなく、セイバーとアーチャーも様子を見て動くことはない。

 再び視力を高めて様子を伺う。

 巌は所々から白い蒸気を発している。黒い固形のものというのはわかっているが、それが何の形をしているのかはわからない。が、それは次第に()()()()部位によって導くことができた。

 最初に生えてきたのはゴツゴツとした岩が繋がった物だった。それは最終的に先で五つに分かれ、指を思わせた。それ故に反対に位置する場所にある長い物も反対の腕であることがわかる。

 次に現れたのは真っ赤な光を放つ玉を付けた塊だった。が、その塊は長い毛を生やすことによって人でいう顔という部分に相当すると理解できる。

 最後はその塊の中央に空いた大きな穴。それは蒸気が多くなるほどに徐々に塞がっていき、後ろに見えていた風景は見えなくなっていくのだった。

 よって生まれたのは、巌を思わす巨漢。その真っ赤な瞳は視線のみで人を刺殺し、人とは思えない岩のような腕は一振りで化け物さえも粉砕してしまうのではないかと思わせる。いや、実際そうなのであろう。あの暴力という塊で出来た者の一撃は優に強固な守りを撃破することだろう。故に、それに対抗し得るは同等とも言える強靭な一撃。そんなものが存在するのかはわからない。……もしかしたら、セイバーの剣さえも奴の撃砕の一撃の前には届かないかもしれない。

 とはいえ、俺でもわかる。

 今の起こったことは再生。

 ()()()()()()()()

 何かに攻撃された結果、傷を負って、それを再生させた。というならば、その攻撃をした対象が何処かに———。

 

「バーサーカー!!」

 

 悲痛な悲鳴だった。視界に銀の少女が遮る。一心不乱に巨漢へと向かうその少女を見ると同時に、俺は視認する。

 

「バッ——————」

 

 カ、という声が出る前に既に走り始めていた。そんな言葉を出していては間に合うわけがない。

 

「シロウ———!?」

 

「あんのバカ———!!」

 

 セイバーの驚く声と遠坂の罵る声が聞こえる。

———無視。

 自身の全力をもって疾走する中で空を見上げた。そこには大きな丸い月と一等星の如く光る五つの蒼い光がある。無論、一等星などは無い。それは流星。流れ星と言えば聞こえはいいが、どうみてもあれは異質。ランサーの槍同じく死をもたらす物。軌道上には銀の少女———!!

 

「——————ッ!!」

 

 間に合う。バーサーカーと呼ばれた巨漢に向かおうとする少女を少し強引に掴むとそのまま抱え込む。

 

「待って! バーサーカーが!! バーサーカーがまだ!!」

 

 火照った身体に鞭を打ってリターン。合間を縫って見た一等星は遠近法が先ほどはどれほど働いていたのかというほど大きくなって近づいていた。

 見て取れて三つ。此方に向かうは三つの光。直撃二発、ギリ外れるが被害を受けるのが一発。

 どう足掻いても軌道上から避け切れる物は無い。

 少女だけでもここから投げ飛ばせば逃げ切れ——————

 

 

「貴様が死ぬことには文句は無いが、助けようとした者と無理心中は些か問題だな」

 

「シロウ、早く下がって!!」

 

 轟音と同時に向かってきた光を討つ者が二人。二つの光はセイバーの剣撃により撃墜され、残る一つをアーチャーの二対の剣が弾く。

———否、二対の剣を軌道に乗せて勢いをそのままに向きを変えながら流しきった。

 魅せられたのはその技術故か。

 そんなことは頭から無理やり離し、セイバーの言葉通りに遠坂がいる辺りまで全力疾走する。その後方では未だ続く剣と光の応報が行われている。

 

「あんた本当に馬鹿じゃないの!!?」

 

「間に、合ったんだから、セーフ、だ」

 

 行き途絶え途絶えで返答するもブチ切れている遠坂を宥めるまでには至らない。

 

「そういう問題じゃない!! 助けようとするならセイバーに命令すれば済む話でしょ!?」

 

「あ———」

 

 確かにその通りだ。全くその結論に至らなかった。というか選択肢にもならなかった。

 

「———そう。まあ、ならいいわ。私にとっては脱落者が一人増えるだけなんだから。でも、気をつけなさい。あなたが負けたらセイバーも負けるの。貴方が飛び出てすぐに飛び出したセイバーの身にもなりなさい」

 

 そう言われるとぐうの音も出ない。セイバーは聖杯に願いがあってこの戦いに参加しているわけだ。それなのに俺が前に出ては例えセイバーがどれほど強いサーヴァントであっても勝率は著しく低くなる。

 

「確かに軽率な判断だった」

 

「気付いてくれたならいいわ。それよりもアーチャー達よ」

 

 状況を確認する。定期的に飛ばされてくる流星は悉くとしてセイバー達に討ち払われる。と言ってもジリ貧もいいとこだ。此方からも打って出ないとこのまま一方的な攻撃で終わってしまう。

 

「アーチャー。セイバーに守りは任せて貴方も本来の攻撃に移りなさい」

 

「了解し———!?」

 

 遠坂の一手を打つ時だった。アーチャーが相も変わらず降ってきた攻撃を流そうと剣を交わらせた瞬間、流星が弾けた。

 手に握られていた二本の剣は後方———俺の足元まで飛ばされ、衝撃により一瞬怯む。そこへ叩き込むように五本の光が飛び込んできた。それを、

 

「アーチャー、気にせず射撃を」

 

 見えざる剣で五本全てを叩き落とす。

 

「助かる」

 

 そう言ったアーチャーは後方へ一度ステップを踏み、屋敷の時と同じ黒塗りの弓を手に持って何処からか取り出した矢を数度射る。

 正確な射は降り注いできた光とぶつかり合い、消滅する。

 

「ふむ、普通の矢はこの程度で大丈夫か。だが、あれは」

 

 セイバーとアーチャーが見上げる空に煌めくは先ほどとは全く違う大きな光。相当な熱量なのか微かに歪んで見える。それが六つ。それぞれ三つずつ狙って来る。

 

「———あれは!?」

 

「言うならばようやく様子見が終わった、といったところか」

 

 チッ、と舌打ちをするアーチャーは虚無から矢を取り、弓を引く。だが、その矢は先ほどの数度とは違い、先から中程まで真っ直ぐな形をしていて矢というよりはまるで剣のような——————。

 

I am the ■■ of my ■■d.(体は■■で出■■る)

 

 何かをぼそりと呟く。それと同時にアーチャーの場の雰囲気が変わる。セイバーは己へと向かう光に対処するために構え直す。二人に向かう六本の光へとアーチャーは矢を振り絞り、解き放った。驚いたのはセイバーだ。射られた矢は先頭をきっていた光へと向かい、ぶつかると同時、爆破してセイバーへと向かっていた光をも吹き飛ばす。

 

「凄まじい威力ですね……。見事です、アーチャー」

 

「そう褒められたものじゃない。君の剣でも出力を上げれば対処出来ただろう。ただ、手間を省いただけさ」

 

「いえ、例えそうだとしても魔力消費を抑えたい今の状態では躊躇われる状況ではありました」

 

 フッ、と不敵に笑うアーチャー。それを褒めるセイバーを見て……なんかちょっと腹立つ。

 

「ちょっとあんたー!! 攻撃しなさいって言ったでしょー!!」

 

 ここで叫ぶのが我が隣にいる遠坂だ。先ほどまで背負っていた銀髪の少女は恐ろしいほど静かに変わっていて降ろすことにした。

 

「生憎と敵の位置がわからないと此方からの攻撃は難しくてね。少し待ってくれマスター」

 

「だったらさっさと探しなさい! 全く、大技なんて簡単に使って……!」

 

 怒り心頭な遠坂は睨みつけるようにして戦況を見つめる。俺はというと少女を降ろしてあげた。降ろされた少女は何も言わずただ少し空を見上げて、

 

「なんで? なんで弱っているバーサーカーを狙わないでセイバーやアーチャーを狙うの?」

 

「え、」

 

 そう呟いた。

 

「次が来るぞ!」

 

 アーチャーの叫びと同時に再び光の矢が空に見えた。今度は質より量らしい。幾多の矢がセイバーとアーチャーに降り注ぐ。

 

「シロウ、もう少し後方へ!」

 

 叫んだセイバーはまず来た矢を左右に切り払い、避けれるものを避けながら剣で防いでいく。対するアーチャーもこのような状況に慣れているのか、先ほどの黒白の双剣で滑らかに矢を流す。

 あれ? あの剣はさっき飛ばされたんじゃ……。

 足元を見ると同じ物がそこにあった。

  手に取る。重力は思っていたよりも無く、でもなさ過ぎることも無く。もっと筋力をつけたら振るうのに丁度いいだろうかというような物だった。

 

「ヤバイわね。少し押されてきているわ」

 

 遠坂の声に意識が戦場に戻る。セイバーは兎も角、本来の戦い方ではないアーチャーは少しずつ後方に下がりつつある。

 

「もう少し私達も後ろに行きましょうか……」

 

 彼らの戦いに巻き込まれまいと離れようとし、退がる遠坂について行こうとすると、

 

「ダメよ、リン!! 戻って!!」

 

 突然の少女の叫びに足が止まった。遠坂も名前を知られていることに驚いて此方を向いているがそれどころではない。少女が言っていたこと、今の警告を理解した俺は同時に遠坂に向かって駆け出した。流石というべきか、少女の言わんとしたことが遠坂にも一瞬で理解したらしく、しまった、という遠坂らしくない顔の後に手を振るって宝石を投げつける。

 

zehn(十番)——————!!」

 

 薄い青の膜が遠坂の斜め上前方に展開される。相当な魔力で出来ているのだろう。だが、恐らくそれでは光の矢を防ぐに至らない。

 防ぐ為の武器は持っている。両手にある黒白の双剣を握りなおす。だが、恐らくアーチャーが流すように使ったように、流すように使わなければこの武器は壊れてしまうだろう。だが、そんなことを出来る技量は俺にはない。なので、この武器にさらに強化を上乗せする。生憎と俺の魔術は足は止めずに口だけを動かすだけでそれで成り立つ。

 

同調、開始(トレース・オン)!!」

 

 魔術が開始される。今まで行ったことのない走りながらの強化だ。とはいえ今日は成功率が高い。得意な刃物なら尚更だろう。

 強く踏み込みながら工程を進める。

 

——————基本骨子、解明。

 

 流れるように骨子が理解できる。

 

——————構成材質、解明。

 

 ここで遠坂の張った結界へと打つかる光の矢を視認した。大きさは最初の数発と同じで小さい。やはり狙いはマスター。サーヴァントとマスターがある程度離れて、サーヴァントがすぐに助けに行けないこの瞬間を狙っていたのだろう。結界は既にヒビが入り始めていて、いち早く向かう必要性が出てきた。強く踏み込む。

 

——————基本骨子、解

陽剣干将陰剣莫耶宝具レベルC-春秋時代呉の王によって二振りの剣を献上することを命じられて干将が作った中国では有名な名剣名工である干将が作り上げた妻の莫耶の名と己の名前を付けた夫婦剣最高の素材と最高の職人の手によって作られた名剣と名高い剣としての能力もとても高いが儀式や魔除けなどの魔術的な一面も持つが現在不能三年もの年月を費やして作られた剣は頑丈の一言で通常の剣よりも軽くそして硬く作られている怪異への絶大な効果があるが現在不能白亜の刃を持つ莫耶と漆黒の刃を持つ干将は夫婦剣と名のつくように例えどんなに離れようとも引きつけられて離れることのないこの剣干将莫耶は陽剣陰剣の他に雄剣雌剣とも呼ばれている干将には亀裂紋様を莫耶には水波紋様がその刀身に浮かんでいる現在の衛宮士郎による最大使用能力二十パーセント鶴翼三連使用不可能形態オーバーエッジ変化可能経験記憶情報一時インストール停止のち現状最大である形態変化の情報を送信

 

 

「ア——————あ”ぁ———」

 

 思考が乱れた。何かが逆流するように身体を駆け巡って流れる。既に錆びて固まっている筈の通路を無理やりこじ開けて、通せや通せと言わんばかりに張り付いてしまったものを剥がしながら突き進む。

 視界がくらむ。

 ダメだ。今走ることをやめたら矢は遠坂に直撃する。

 振り絞る力を頼りにもう一度地面を蹴り上げた。

 乱れた思考の所為で先程までの強化は完全に切れてしまった。これで間に合うことは絶望的になった。

 従来のやり方のままなら。

 頭の前に身体が理解する。何処にどの量の魔力を流して、どのような変化、強化をもたらすのかを。

 身体中の魔術回路が熱を発していた。先程の何かが通って行った所為で塞がっていた物が動き出したのだろう。魔術回路を魔術前に作らなくとも最初から身体にあるという感覚は初めてだったが、そこを容赦なく使って魔力を生み出す。

 いつの間にか目の前には遠坂がいた。次の一歩で完全に割り込むことができる。だからそれと同時に叫ぶ。

 

強化、完了(トレース・オフ)!」

 

 一瞬のことである。

 手にしていた干将と莫耶は魔力を通して強化を行うことによって形状を変化させた。その刀身の長さは直剣ほどとなり、その強固な刃はより硬化した。その形態、翼の如く。

 強化四節など丸ごと無視。知っていることをわざわざ調べる必要など全くなく、魔力を流す一節に収まった。

 目を見開く遠坂の前で踏み出した右足を軸に向きを矢へと変える。

 

「お———らぁぁ!!!」

 

 振り抜く。出来るのはそれだけ。

 左右の剣を交差させるように振り抜いたがそれは矢と見事に交点で交わる。

 

———押されている。

 

 四肢が悲鳴をあげる。

 力に均衡はなく、一方的な傾きだった。踏み締めた右足の血管が切れた気がして、なお一層深く踏みしめた。

 

「———う———ぁ!?」

 

 問題は武器ではない。武器の性能に関してならば圧倒的に此方に軍配があがる。が、それが衛宮士郎が使うとなるとまた別だ。武器と見合わない身体、技術、力。何一つ足りるものがなくてはその性能を活かすことはできまい。

 限界が差し迫る。右手と左手から力が抜けていく。死を覚悟したその前に、

 

——————アイツの背を見た。

 

 

「ぁ——————ああぁあぁぁ!!!!!」

 

 身体に捻りを入れて回転を加えた。

 アイツが出来たらなら俺に出来ない道理はない!

 再生する。先程見た姿。あの赤い騎士の背を。矢の力を殺そうとするのではなく、矢の力を生かした上で最低限の動きで向きを微かに変えて流す。あの動きをそのまま模倣する。

 後方へと一歩と同時にそれを開始する。

 前方へと向けていた力を右腕と左腕を酷使することで横へと力を向ける。そのまま押し出すように身体をうねらせて右後方へと流しきった。

 

「はぁ———ぁはあ、」

 

 視界が抽象画のようになる。どうやら干将莫耶は魔力供給が無くなって元の姿に戻っているようだった。右足が折れて身体が地に沈んでいく。意識はとうに遠くになっていた。

 最後に、知らない筈の銀髪の少女が名前を呼んでいる気がした。

 

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