Fate/stubborn Iron   作:@ccc

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デッドブリッジ ver.Archer

 

 少女は次々に戦果を挙げていった。

 

 

 初めは小柄の()()が選定の剣を引き抜いたと聞いて反抗を見せていた者もその剣の腕前に屈服させられ、取り入ろうとした者もその公私の私を持たぬ王に媚を得ることが無駄と知り、やがて遠ざかっていった。騎士も、王としての責務を果たすならばと反対する者も減っていった。

 

 少女は完璧な王だった。

 それはもう、誰も寄り付かないほどに。

 

 国民は言った。

 かの騎士の王の素を見たことはないと。

 騎士は言った。

 我らの王は人である前に王なのだと。

 側近は言った。

 我らが騎士王は決して笑わぬと。

 

 どうして誰も気付いてやれなかったのか。

 どうして誰も疑問に思わなかったのか。

 どうして——————。

 

 ある騎士は王に告げた。

 王は人の心がわからぬ、と。

 

 そうして、その騎士は去っていった。

 そうして、戻ってくることはなかった。

 それを見ていた者達は眉一つ反応を示さぬ王を見てまた囁きあうのだ。

 やはり、王は人の心をわからぬと。

 だから、国が終わるのも、王が死ぬのも必然だったのかもしれない。

 

 

 結局、国の為に生きた王は、その国に裏切られて殺されたのだ。

 

 

 何てことはない。

 この物語の話はこの一行に尽きるのだ。

 ただ、それを俺が認めたくないだけ。

 彼女の人生をその一行に纏めることは、それはあまりにも、———悲しすぎるから。辛すぎるから。

 それすらも、彼女にはわからないのだから。

 

 

     ◇

 

 

 衛宮士郎が倒れるのと同時に戦場は大きく動いた。

 矢の迎撃をしていたセイバーは矢の雨が止んだところで、一刻も早くマスターの下へと向かった。

 士郎の元へ辿り着いたセイバーは遠坂凛と銀髪の少女———イリヤスフィール・アインツベルンと二、三話すと士郎を背負い出した。

 

「ふむ、逃げるつもりか」

 

 そう呟いたのは新都のビルの上でセイバー達に射ていた女性だ。黒い髪を後ろに束ね、闇夜に隠れるために黒がメインの鎧が身を包み込んでいた。

 彼女の紅い瞳は抱えられた士郎を映していた。

 

 あの一撃、サーヴァント達に向けて撃ったものより弱かったとはいえ人の手には余るものだった。

 あれを完全に防ぐことができるものがこの世界で何人いようか。凌いだだけでもただの魔術師とは思えない結果だ。

 

——————面白い。

 

 ニヤリと口が弧を描く。

 標的(ターゲット)があまりにも呆気なさすぎて見かけたついでに襲った具合だが、なかなか良いものを見れた。

 

 坂を下るセイバーとマスター達を見つめながら紅色の弓を引く。

 

 この手を離して矢を放ったら今度は何が起きるだろうか。どんな手を使って防いでくるのだろうか。

 まるで子供がビックリ箱を開けるかのような心持ちで女性は狙いを済ます。

 

 が、そんな高ぶった感情は自らを狙って放たれた矢を避けたことによって分散する。

 

「ちっ」

 

 狙撃者は明白。坂に残っている弓兵(アーチャー)だ。

 逃げていく奴らに気が向いていて、アーチャーが此方を捉えていることに気づかなかった。

 

 こちらの場所を把握したアーチャーは先程までの仕返しというかのように膨大な数の矢を飛ばし始めた。

 

「マスターが狙われた仕返しということか」

 

 アーチャーの視線は冷徹なものだった。

 

 先ほどのマスターを狙う作戦をアーチャーは直前で気づいている様子であり、矢の数を増やして邪魔をしたのだ。

 守れない状態に持って行ったのだから守れなくて当然なのだが、それに対してアーチャーは譲れぬものがあったらしい。

 

 だから、こうして彼らが逃げるまでの殿を務めているのだろう。

 

「ならば、私も全力を持って潰しに行かせてもらおう」

 

 様々な軌道をもって狙ってくる矢の群へと紅蓮の弓を向ける。

 

 弦を引くと彼女の周囲に光が集まり始めた。それは一つ一つが彼女の周りに留まって光の球体の形を成す。

 

「私を狙うならその倍の数で向かってくるのだな」

 

 出来た球体は百。

 その一つ一つは周りのエーテルを集めて生み出した魔力の塊のようなものだった。

 

 女性の指から弦が離される。

 同時、百の球体は矢の軌道に合わせて細長い楕円の形を成して放たれた。

 

 先陣を切るように弓本体から放たれた矢を追随するように軌道にのる百の槍。

 アーチャーの矢とぶつかり合い、爆散する。

 

「その程度か、弓兵!」

 

 女性のその声に応えるようにアーチャーは建物へと飛び移りながら次々に矢を放つ。

 四方八方。緩急差。矢を死角にしたトラップ。

 様々な手段を持って止まることの無い攻撃が繰り広げられる。

 

 だが、それも一矢にして百の撃を突破することは叶わない。

 

「では、そろそろ私の番と行かせてもらおうか!」

 

 何度目となる百の矢がアーチャーの攻撃を凌ぐと彼女は動く。

 目を閉じ、弦を引きながら詠唱を始める。

 

「我は継ぐ者。記憶と共に弦を引く。お見せするのは第ニと第三の功業」

 

 同時、詠唱と弦を引く動作が終わる。

 それを見たアーチャーに悪寒が走った。

 

(ランクB相当の宝具の開帳———ッ!?)

 

 アーチャーから見た女はその弓から出る魔力によって歪んですら見えた。何も番えていないのに、何も現れていないのに。

 

それが、アーチャーに致命傷を与えうる一撃だとわかった。

 

(ここで受けるにも足元のビルの方が保たない———!)

 

 そうなると待つのは宝具に巻き込まれた背後の街の地獄のような光景。

 ビルの屋上階から飛び出すと街から離れるように逃げる。例え敵の宝具を避けたとしても街に被害が及ばないように。

 そうして移動した先は冬木大橋。

 アーチャーの知る得る中で最も強固な建造物。

 

 女性のサーヴァントは詠唱を終えているが、アーチャーの方を見て何かを待っているように見える。

 

———なるほど、勝利に固執するタイプではなく、戦いに固執するタイプか。

 

 ならば、とアーチャーは消していた黒塗りの弓を虚空から取り出す。

 

 サーヴァントには大抵二つのタイプがある。

 一つはセイバーのような勝利に固執するタイプ。この手の相手は勝つことを優先するため、有利な状況下ならば一切の容赦をせず相手を切り捨てる。セイバーはある程度は相手に敬意を払い、平等にしようとするが、相手が隙を見せていれば問答無用で切り捨てるだろう。

 

 もう一つの方はランサーなどが挙げられる。戦いに固執するタイプ。つまり、強い者と戦うことに己の利を生み出すタイプ。今回の女性もこれに当てはまるだろう。相手の全力で自分の全力を答えてもらいたい。ただ自分が楽しみたいだけなのだ。

 

 ならば、ある程度の欲を満たせてやれば逃げることも可能。

 

I am the born of my sword.(我が骨子は捻り狂う)

 

 自己暗示にて、右腕に一つの矢を生み出した。その矢は剣だった頃は螺旋剣(カルドボルク)と呼ばれた代物。

 アーチャーの数ある切り札のうちの一つとも言えるものだった。

 

「まさかこんなにも早く使うことになるとはな」

 

 イリヤスフィールが従えていた巌のサーヴァントにならともかく、まさか弓同士の戦いで使うとはアーチャーは想定していなかった。

 

 螺旋剣を番えて遙か三千メートル離れたビルの屋上を見上げる。

 屋上には女性のサーヴァント。

 紅蓮の弓を引き絞り、こちらと同じように相手の視線を捉えていた。

 

———解析してみたが、残念ながらあの弓は検索に引っかからない。ということは、あのサーヴァントは宝具は技術ということになる。

 

 同時に百の矢を放つ弓。アーチャーの考えでは名のある弓かと思われていたが、無銘のものだった。ならば、あの百の矢も技術という宝具が生み出した考えるべきだろう。

 いや、はたまた———。

 

 アーチャーの準備が終わった。

 空気の流れが変わる。

 

 距離は三千。

 その間の空間が全て凍りついた。

 

偽・螺旋剣(カルドボルクII)!!」

月の女神の黄金角の鹿(◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎)!」

 

 放ったのは同時。

 アーチャーは螺旋剣(カルドボルク)を、女性は何処からともなく現れた濃緑色の矢を解き放つ。

 

 まるで両端から燃える導火線のように引きつけられるようにして二つの矢は中央で接触した。

 

 同時、神秘の崩壊による爆発が起こる。

 

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 神秘の宿った物を自壊させることによって一種の爆弾とする技。

 先ほども同じ技を使って矢を撃墜していたが、今度の爆弾は先ほどとは違い無銘の剣ではなく、真名をもった一流の剣。神秘の量も、その爆発の威力も段違いである。

 

 指向性のある爆発が矢の勢いを殺す。

 それがアーチャーの狙いである。

 弓が宝具でない以上、矢が宝具の可能性は十二分にもある。勢いを殺せば、その矢がどれだけ強力な矢であり、破壊できなくとも、アーチャーへと届かせることを防ぐことができる。

 

 その作戦は成功したと言える。

 爆発に巻き込まれた濃緑色の矢がいとも簡単に吹き飛ばされるのが見えた。

 

———これで、退散を………!?

 

 背を向けて逃げ出そうとするアーチャーに突如、頭の中で警報が響いた。

 振り向くと、濃緑色の矢がすぐそばまで迫っていたのだ。

 

「ちっ!!」

 

 アーチャーは迫る矢を左に身を投げることで何とか回避する。

 だが、直後。完全に避けきった矢が()()()()()()()()、Uターンするように再びアーチャーを襲った。

 一回目の奇襲を避ける為に左に身を投げたというバランスを完全に崩した状態。

 まともに避けられるはずがなく、

 

「ッ! トレース・オン!!」

 

 ギリギリで投影した莫耶で矢の軌道を変える。

 それが正しい選択だったのだろう。

 矢はアーチャーの肩を擦りって橋の地面に突き刺さった。それで漸く動かなくなったようだ。

 

———まさか、赤原猟犬(フルディング)と似たような追尾を持たせた矢だったとは。完全にしてやられたか。

 

 女性を睨みつけるようにしながらアーチャーは霊体となり、姿を消す。

 故に気づくことのなかった。

 追尾のみの矢と信じた故に。

 

 

     ◇

 

 槍がアーチャーとの戦闘後の女性を狙った。女性は首を横へと傾けることでそれを回避する。

 

「出てこい、そこの」

 

 何処にいるのかは既に彼女はわかっていた。

 

 彼女背後にある貯水タンクの上、一人の男が立っていた。

 男は錆色のコートを着ており、顔はそのコートのフードによって隠させている。風が吹くたびにコートの下から見え隠れする肉体は鍛え抜かれている。身長は160近くの女性とは大きく離して190近くあり、その身長だけでも相応な威圧感があった。

 

「お前は……そうか、弓兵殺し(アーチャー・スレイヤー)か。何で邪魔をする。疾く答えろ」

 

弓兵(アーチャー)は俺の獲物だ。知っていながら手を出すお前が悪い。そうだろ?」

 

 男———弓兵殺しの声は壊れたラジオのように酷く掠れた声だった。

 弓兵殺しは貯水タンクから飛び降りると投げつけた得物を回収に向かう。投げつけられた本人である女性の目の前を横切るが両者は一線を越さない。

 

「私があやつを殺せば、お前は仕事をしないで済む。ほれ、お前も私も得をする」

 

「自分の目標(ターゲット)を仕留め損なう阿呆にそんなこと言われてもそんなこと戯言にしか聞こえないな。それにマスターの方を狙うとは。お前こそ、英雄殺し(スレイヤー)の目的を忘れているんじゃないか?」

 

 得物である槍を引き抜く。

 

「それに、俺たちは召喚された時に互いの目標(ターゲット)を消すことを禁じられているはずだが? それを破るというなら俺もそれなりの対処をしよう」

 

「ほう、例えば?」

 

「そうだな、例えば。アンタの目標(ターゲット)()()()()()()()()を先に倒してしまうとかね」

 

「——————かっか。かの有名な大英雄を名を残さなかった貴様程度が倒すというか。本心から入っているなら愉快なものだ」

 

 二人の睨み合いは続く。

 どちらかが動けばそれは殺し合いの始まりの合図。故に両者とも片手に武器を持ちながらも動かずにいた。

 

「———まあ、よい。私は今夜は楽しんだ。ここらで失礼させてもらうおう」

 

「それは賢明だな、狂戦士殺し(バーサーカー・スレイヤー)

 

 どちらともなく武器を手元から消すと女性———狂戦士殺し(バーサーカー・スレイヤー)は踵返してビルの端へと向かう。

 霊体化をして消えてゆく中、

 

「急げよ、弓兵殺し。アーチャー(あれ)は導火線に火がついたも同然。自分で殺したければ、疾く殺すといい」

 

 そんな言葉を残していった。

 

 残されたのは弓兵殺し。

 満月を一人眺め見て、

 

「英霊エミヤ、そして衛宮士郎。役者は揃った。あとは邪魔なマスターを離せばいい。なに、準備は三日といったところだ。

——————お前の好きな正義の味方に相応しい最期にして見せよう」

 

 まるで呪いのように告げるのだった。

 




以前から言っていたのですが、一時更新凍結します
とりあえず今年いっぱいはもう無理かと
来年も春あたりに復活できたらなぁ…と思っています
まあ、この時期的に察してもらえると有り難いです

ではまた
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