あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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久々……というのもおこがましいですね、はい
ずっとエタってて申し訳ないです
とりあえず行きます


そしてあたしは傷を負う

 

「先生、頼まれていた資料綴じが完成したので持ってきました」

 

 

結局あれから30分程でプリントを綴じる作業は完了した。

 

量はそれなりにあったものの、残りの作業は全て手作業。

 

先程の面食いコピー機とは違って誤作動なんて起きることもないため、割とスムーズに終わらせることができた。

 

 

「ありがとうございます木下さん。わざわざ持ってきてくれたんですね。……水谷君は?」

 

「あぁ、彼ならもう帰りました。これくらいの量なら私一人で十分でしたので。わざわざ2人で持ってくる必要もないかと」

 

 

50人分のしおりを私1人で持ってきたため、高橋先生が訝しげに水谷君の存在を確認するが彼はいない。

 

プリントを半々にわけ作業を開始したが水谷君はさっさと作業を済ませて先程同様さっさとソファーに寝転がってしまった。

 

どんだけ寝るんだお前は、と思いつつも私は残りを済ませて水谷君に声をかけることなくしおりをまとめてここに持ってきたわけである。

 

荷物運びを女子1人に任せるとは、と先生も思ったのかもしれないがこれは私が勝手にしたことだ。

 

プリンターの件もあるし、仮になかったとしてもわざわざ起こして運んでくれなんて頼めばなんて言われるかたまったものではない。

 

君子危うきに近寄らず。

 

常に安全策を取るのが賢い者の選択である。

 

 

「そうですか。ではお疲れ様です。帰っていいですよ」

 

「はい、失礼しました」

 

 

ガラッと扉を閉め、ふぅ、と一息つく。

 

一応ここでは優等生として通り、よく先生方から頼み事をされるため職員室の出入りは割とする方だが、やはり何度訪れてもあそこは緊張する。

 

私はググっと背筋を伸ばし体を解して帰途へ着く。

 

さぁーって。

 

一仕事終わったことだし、さっさと帰ってBL本でも読んで癒されよう!

 

ふふん、と機嫌よく鼻を鳴らしながら昨日買った趣味本の新刊のことを思い浮かべ、私は下駄箱に向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ陸人」

 

 

帰るために下駄箱までやってきたあたしだったが、Aクラスの下駄箱の前から聞き覚えのある声が聞こえ、一旦立ち止まる。

 

この声は水谷君の友人の爽地(さわち)君だ。

 

名前は空だったような気がする。

 

そしてその爽地君が水谷君の名前を呼んだということは水谷君がそこにいるということだろう。

 

危ない危ない。

 

こんなところで最後に水谷君と顔を合わせたら折角のこの清々しい気持ちが最悪になってしまう。

 

ここは二人がこの場を去るまで待とう。

 

と、二人の死角で待機を決めるあたし。

 

移動するのも面倒なため、計らずして二人の会話に聞き耳を立てる結果になってしまう。

 

けれど、まさかそれがあたしにとって不幸をもたらすものになろうとは考えもしなかった。

 

 

「なんだ」

 

「陸人はさ、木下さんのこと本気なわけ?」

 

「は?」

 

 

ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

 

水谷君が本気なのかどうか。

 

そんなのは本気じゃないに決まってる。

 

そりゃあたしを落とすという目的はある。

 

そこだけで見れば本気とも言えよう。

 

でもそれは水谷君にとってはその場しのぎに利用した償いに過ぎないわけで。

 

そう、理解してるはずなのに、あたしは何故か水谷君の答えを聞きたがっていた。

 

 

「だからさ、木下さんのこと本気かって。だって陸人が放課後何も言わずに付き合うなんて今までなかったじゃん?それが先生の頼みであってもさ」

 

「あの場でイヤですって断るわけにもいかねーだろ。一応建前上は付き合ってるってことになってんだ」

 

「ふーん。まぁ俺としてはそれ自体に疑問だけどね。キスしたとはいえその責任を取るって。本当に木下さん落としたらどーすんの?それで役目は終わったからじゃあなって捨てるわけ?」

 

「……お前には関係ないだろ」

 

「ないけどさ。でも流石にそれは可哀想じゃない?ファーストキス奪われて、挙句宣戦布告されて落とされて、最後はぽいっでしょ?」

 

「知るかよそんなの」

 

「うわっ…最低だこいつ……」

 

「言っとけ。それにあいつはそんなのでヘコむやつじゃねーよ、きっと」

 

「なにその自信」

 

「あいつは面白い。たぶん、俺が見てきた中で一番だ」

 

「へぇ、陸人がそんなこと言うとはね」

 

「ま、そうかもな。少なくともその辺のやつより芯は強いはずだ。それこそ簡単に俺に惚れるなんてことはねーんじゃねーの?」

 

「学園一のモテ男が何言ってんだか。それ本気で言ってる?」

 

「本気だよ。だからあいつを選んだ。きっとこの先俺を楽しませてくれるだろーよ」

 

 

ニヤリと笑う水谷君を見て、酷く苦しい感情が湧き上がった。

 

あぁそうだ。

 

やっぱりあたしは遊ばれてるんだ。

 

 

「ふーん、じゃああたしはあんたにとってのオモチャって訳ね」

 

「っ!?」

 

 

自分でも分かるくらい声が震えていた。

 

心は酷く冷たいのに、身体はとても熱かった。

 

知っていた。分かっていた。

 

所詮あたしはオモチャなんだって。

 

水谷君は本気じゃないんだって。

 

あたしが負けたらその先は捨てられるだけだって。

 

考えてた。

 

理解していた。

 

でも、いざ実際そう面と言われると何故だろう、心が痛い。

 

何考えてんだあたし。

 

こいつはあたしのファーストキスを自分の都合だけで奪ったクズ野郎だ。

 

何傷ついてんのよ。

 

自分を嘲笑し、情けないと叱咤する。

 

アホみたい。

 

やっぱこいつはあれだ。

 

あたしにとっての疫病神だ。

 

 

「言っとくけどあたしはあんたに負けるつもりはない。けど、あんたのオモチャになるつもりもないから」

 

 

気合いを入れて声を戻す。

 

そしてギッと水谷君を睨みつけてから前を通り過ぎ、自分の靴を取って履く。

 

 

「あとね、あたしは別に芯が強くなんてない。人並みに弱い部分もあるしヘコんだりもする。あんたにとっては期待外れかもしれないけどあわたしだって、傷つくこともあるんだから」

 

 

そう吐き捨てながら学校を去るあたしは、自分の意思とは関係なく泣いていた。

 




というわけで数年越しの更新
ふと思い出してハーメルンにやってきてこんなの書いてたなぁと思い出した次第です
これを最初に投稿した時の人がまだ残っているか分かりませんが……
すこしずつ書き置きを投下していきたいと思います

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