それでもあいつはやってくる
ピンポーン
「んんっ……」
ピンポーン
「うっさいわね……。秀吉〜、誰か来たみたいだからあんた出なさい……」
「まったく姉上は……。別に構わんがもうすぐ10時じゃ。そろそろ起きたらどうかの」
「別にいいじゃない休日くらい……。まだ起きたくない……」
「はぁ……。本当に家だとズボラじゃのう」
そうため息を吐きながら秀吉は玄関へと向かった。
昨日、最悪の気分で家に帰ったあたしは、しばらく部屋で泣いていた。
あんなやつにいいように扱われるのが悔しくて、でもどうすることもできない自分に腹を立てていたのだ。
そもそもの発端はあたしのちっぽけなプライドのせいだ。
BL本好きの同性愛者というレッテルを貼られ、今の優等生という立ち位置を失うことが怖くてこんな風になってしまった。
自業自得。
あたしの中で一番仲のいい友達の愛子や代表にでさえも隠してきた罰なのだろう。
「あの〜姉上……」
「なによ」
「その……姉上の知り合い…というか、なんというか…」
「は?」
何やら口篭る秀吉にイラッとしていると、その来客がドアからひょこっと顔を出した。
「おい木下。今から出掛けるから準備しろ」
「な、ななななんであんたがここに!?」
そう。
顔を出したのは他でもない、水谷くんだった。
「つかお前、休日はそんなに気合い抜けてんのな」
「んなっ!余計なお世話よ!というか、なんであんたなんかと出掛けなきゃいけないわけ!?昨日言ったこと覚えてるでしょうが!」
「まぁとにかく出掛けるから。下で待ってる」
「行くわけないでしょバカ!」
手元の枕を投げつけるとそれを避けるようにフェードアウト。
階段を降りる足音と共に水谷君は消えた。
「秀吉。あんたなんでアイツを通したわけ?」
「す、すまんのじゃ……。ドアを開けたらすぐに足をねじ込まれての……。ワシが力で勝てるわけもなくこじ開けられたのじゃ……」
本当に何を考えてるのかしら!
昨日あれだけのことがあってまだ付きまとうわけ!?
それにしたって少しは気を遣いなさいよ!
何事も無かったかのように来るなんて本当に最低!
もう絶っっ対に許さないんだから!
「秀吉!とりあえず玄関に塩撒いておいて!!」
そう言ってあたしは今の苛立ちを押し付けるかのように、再びベットに倒れ込んだ。
「あれ……?あたしまた寝て……」
悪夢のような訪問者が来てからベットに倒れ込んだあたしは気がついた時には再び寝てしまったようで、時計を見ると時刻は12時を回ろうとしていた。
「…………お腹空いた」
お昼時ということもあり空腹感を感じたあたしはリビングに降りる。
秀吉とは知り合いみたいだし、もしかしたらまだいたりして……なんて思ったりもしたが、リビングには誰もおらず、杞憂に終わった。
まぁあれからもう2時間も経ってるしね。
今日は気分の悪いものを見てしまったんだし、お昼は少し贅沢でもしようかしら。
買い置きのカップ焼きそばを手にし、卵を追加することを決めたあたしはやかんに水を入れお湯を沸かす。
するとそこに同じく空腹感を覚えたのか、秀吉がリビングへとやってきた。
「あら秀吉。あんたもお昼?それにしても流石の水谷くんも帰ったみたいね」
ふふん、と勝ち誇っていると、秀吉が苦笑いで外に視線を向ける。
「それなんじゃがな姉上……。あやつ、あれから外でずっと待っておるのじゃ……」
「…………え?」
ちょっと待って。
待ってるって、外で!?
というか、まだ待ってたの!?
「姉上には申し訳ないが、流石のわしも見兼ねて30分ほど経った時に中で待っておれと声を掛けたのじゃが外で待ち続けるの一点張りでの……。今も少し様子を見に行ったが、まだ待っておる」
「バカじゃないの!?あたし行かないって言ったのに!」
「まぁそうなんじゃが……。わしもあやつがあそこまで頑固なのは初めて見たのじゃ。たぶんあの様子じゃとまだまだ待つじゃろう」
「なんなのよ本当に……」
「あの、姉上……」
「なに?」
「あやつがあそこまで執着するのには何が理由がある。それはきっと、今まで以上に怒っておる姉上に関係することなんじゃろう」
「………だからなによ」
「わしがこんなことを言うのは間違っとるとは思うのじゃ。でも、あやつは悪いヤツではないのじゃ。去年一緒に過ごした大切な友人じゃ。そしてそんな大切な友人と、大切な姉上が仲良くすることはわしにとってとても嬉しいことなのじゃ。だからーー」
「もういい」
「あ、姉上!お願いじゃから!」
「もういいって言ってるでしょ」
「ううっ……」
「…………ちょっと出掛けてくるから」
「姉上!」
「別にあんたに言われたからじゃないわよ。外に行く用事を思い出しただけだから。すぐに帰ってくるわ」
「うむ!了解なのじゃ!」
何嬉しそうな声出してるのよ。
ただあたしはカップ焼きそばの気分じゃなくなっただけ。
外に食べに行くからちょっとお洒落するだけで特に他意はないんだから。
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「行くわよ」
玄関先で壁に背を預けていた水谷君を見つけて声をかける。
本当にずっと待ってたのね……。
「おう、行くか」
そして特に驚くわけでも、戸惑うわけでもなく、まるであの後すぐあたしが来たかのように返事をして歩き出した水谷君。
……なんかイラッとした。
まぁいいわ。
向こうから誘ってきたんですもの。
今までの恨みも込めて存分にコキ使ってやるんだから。
そんな小さな復讐心と共にあたしは水谷君についていくのだった。
意外と待ってくれてる人がいて驚きましたw
とりあえずいちゃいちゃするところまでは頑張りたいw