あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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よくやく強化合宿が本格スタートです


バス車内、Aクラスは今日も平和(?)です

 

 

学力強化合宿。

 

文月学園の伝統行事の一つであり、その名の通り学力強化を目的とした合宿である。

 

その内容は自習メインで、他クラスと共に勉強することで互いに刺激し、今後の勉学に役立てるというものだ。

 

当然私達Aクラスはどのクラスに対しても学園の模範生として学生のあるべき姿勢を示さなければならない。

 

普段の学園生活よりも更に気を引き締めなければならないのだ。

 

つまり何が言いたいのかというと、この強化合宿で勉強以外にすることなんてないということ。

 

色恋沙汰なんていうのはもってのほかだ。

 

なのに……。

 

 

「………」

 

「おい木下。なんでそんなに不機嫌そうなんだよ」

 

「誰かさんがあたしを無理やり隣に座らせたからよ」

 

 

今思い出しても腹が立つ。

 

合宿所に向かうバスの中。

 

あたしは水谷君の隣で不貞腐れていた。

 

最初は愛子と代表の3人で、一番後ろの席に並んで座るつもりだった。

 

でも途中、『お前はこっち』の声と共に後からトンっと押され、二人座席の奥に押し込まれたと思ったら、隣に水谷君が座り見事封鎖されてしまったのだ。

 

文句を言おうにも周りがキャーキャー騒ぎ立ててはしゃいじゃったもんだから出るタイミングを見失ってしまい、渋々その席で甘んじることに。

 

強化合宿1日目。

 

いきなり幸先の悪いスタートとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優子ってさー」

 

「ん?」

 

 

合宿所に向かうバス車内。

 

隣の席派水谷君だが、後ろには愛子と代表が座ってくれた為、会話相手がいる分、少し気が楽だった。

 

ちなみにその水谷君は絶賛爆睡中。

 

寝るつもりだったならあたしを隣に座らせた必要性が尚のこと感じないんだけど?

 

 

「なんで代表と話す時敬語なの?」

 

「何でって言われても……代表だから?」

 

「……私は敬語じゃないほうが嬉しい」

 

「うっ……で、でもやっぱり代表にタメ口っていうのは……」

 

「別に目上の人って理由でもないんだよ?というか敬語使ってるの優子くらいだし」

 

「うーん……そうねぇ……」

 

「……翔子。リピートアフタミー」

 

「さ、流石に翔子は待ってくだ……よね。分かったわよ。敬語は使わないから」

 

「……嬉しい」

 

 

そんな抑揚の無い声で言われても……。

 

代表ってなんだか掴みどころがないのよね。

 

とても頼りにはなるんだけど。

 

 

「でも代表はよくちゃんと来たわね。秀吉に聞いたらFクラスは現地集合って言ってたからもしかしたらそっちに行っちゃうんじゃないかって少し心配してたのよ」

 

 

代表は頭もいいし常識人なんだけど、坂本君のことになるとちょっと頭のネジが緩くなってしまう。

 

小学生の頃からの片想いだって言ってたし恋する乙女故の暴走なんだろうけど。

 

 

「……本当は雄二を連れ込もうとしたけど高橋先生に止められた。でも代わりに合宿中の合同クラスをFクラスにしてもらった」

 

「あっ、既にやろうとしてたんだね……」

 

「というかあの変なクラス編成は代表のせいだったんだ……」

 

 

おかしいなとは思ったのよね。

 

BクラスとCクラス、DクラスとEクラスだったから、なんでここだけクラスの差が大きいんだろうって。

 

でも納得したわ。

 

高橋先生も大変ね。

 

 

「ん……腹へった……」

 

 

何を察知したのか、さっきまで寝ていた水谷君がもぞもぞ動いたかと思うとお腹を抑えて目を覚ます。

 

時計を見ると時間は1時。

 

話している内にお昼時になったようだ。

 

 

「もうお昼なんだね。じゃあボクもお弁当食べよっと。今日は自分で作ってきたんだよねー」

 

「へぇ。愛子ってお弁当作れるのね」

 

「あ、今バカにしたね?ボクだって料理くらいするんだから。女の子は料理出来た方がポイント高いんだよ?」

 

「……確かに女の子が料理を作ると男の人は喜ぶって聞く」

 

「ってことは代表もやっぱり手作り?」

 

「……うん。料理は花嫁修業でやってるから。そういう優子は?」

 

「私もよ。普段両親が家にいない時はあたしが作ってるし。秀吉が部活で帰ってくるの遅いしね」

 

「へぇ。お姉ちゃんしてるんだね。あれ、水谷君それはなに?」

 

「これか?タコスだ」

 

 

あたし達がお弁当の話題で盛り上がっている中、隣の水谷君が紙袋から何を取り出しているのを見て愛子が食いついた。

 

タコスか。

 

お弁当として持ってくるには変わってるわね。

 

というか普通に見ること自体珍しい。

 

出店かちょっぴり変わったお店でくらいしか見かけないし。

 

 

「陸人はタコス大好きだもんね」

 

「美味いだろタコス。弁当箱も要らないし」

 

「それ手作りなの?」

 

「そうだぞ」

 

「こう見えてこいつ一人暮らししてるからね。料理は結構上手なんだよ」

 

「へぇ、水谷君料理出来るんだ。ほんと何でも卒なくこなすね」

 

「……ちなみに雄二も料理は得意」

 

 

くそぅ。

 

美味しそうなもの作るじゃない……。

 

成績優秀、運動神経良し、容姿端麗、おまけに料理も出来るのか……。

 

本当に欠点らしい欠点はこの性格くらいじゃないのかしら。

 

 

「ん?なんだよ。お前も食いたいのか?」

 

 

自作というタコスを美味しそうに頬張るこのステータス化け物のことを恨めしげに見ていると、何を勘違いしたのか食べかけのタコスをこちらに向けて訳のわかないことを言い出した。

 

 

「は?何を言ってムグッ!?」

 

 

眉を顰めて訝しげに睨みを効かせたつもりだったのだが、途中言葉を遮られるかのように口の中に持っているタコスをつっこまれる。

 

う、うん。

 

レタスがシャキシャキしてて瑞々しいし、牛肉の甘辛さとサルサソースの酸味がいい具合に……ってそうじゃない!

 

 

「モグモグ…ゴクン。あ、あんた何勝手に……!」

 

「食べたかったんだろ?」

 

「だから違うってーー」

 

「代わりにそれ貰うな」

 

「あ!それあたしの唐揚げ!」

 

 

正に傍若無人。

 

人の口に勝手に突っ込んでおいて、挙句お弁当から唐揚げを強奪するなんて……!

 

 

「うん、普通」

 

「そこは美味しいっていいなさいよっ!」

 

 

そしてこの評価である。

 

本当にこいつは……!

 

 

「うーん……やっぱり2人って仲いいよね」

 

「はぁ!?愛子それ本気で言ってるの!?」

 

「ウン。だってなんだか喧嘩してるカップルみたいだし。ねぇ代表」

 

「……羨ましい」

 

「ちがっ!そんなんじゃないわよ!」

 

「違うな。食べさせ合いしてるカップルだ」

 

「あんたはちょっと黙ってなさい!」

 

 

どうにもこの騒がしさは模範生とは程遠い。

 

はぁ……こんなのと一緒にいて、合宿は上手く過ごせるのかしら……?

 

バスは合宿所に近づく一方で、不安は積もるばかりだった。

 

 

 

 




前回が長かった(当社比)分今回は短めですかねー

まぁとりあえず!

ここからは少しずつ糖分をあげていきたいなぁと思ってますw

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