あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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1週間以上あけちゃいましたね……
ぼ、盆で仕事が忙しかったんです!
なんでもしますから許してください!


ってなわけで短めですが投下です


悩んだ時は

 

「ん……あれ、優子もう起きてたんだ……」

 

「うん。ちょっとね」

 

 

 

結局、あの後部屋に戻っても中々寝付くことが出来ず、気がついた時には起床時間が近くなっていたため起きていることにした。

 

薄暗い部屋の中で、椅子に座りながら思い浮かべるのは、さっき水谷君に抱きしめられた時の感触だった。

 

後ろからぎゅとされて、それこそ寒くなんて無かったのにあの温もりを心地いいと思ってしまった自分がいる。

 

頭の香りを嗅がれた時だってそうだ。

 

羞恥心こそ感じたものの、嫌悪感は不思議と無かった。

 

あれだけ嫌いだって言ってたのに……。

 

ついこの間までの自分と全く違うことにもはや呆れてしまうレベルだ。

 

そりゃあこの間の買い物の件で少し見方は変わった。

 

あいつがあたしを…すす、好きってことを聞いて、以前ほどの拒絶はしなくなったと思う。

 

でもだからってあんな風にされていいなって思うだなんてまるであたしがあいつのことを好きみたいーーいやいやないない。

 

ナルシストで自信家で何でも自分の思い通りになると思ってるようなやつよ?

 

大体スルー仕掛けたけど昨晩のように女子部屋に勝手に入り込むなんて犯罪じゃない。

 

というか廊下でされたあれだってセクハラよセクハラ。

 

とかまぁなんとか。

 

同じようなこと、似たようなことを一晩中考えて、何かに言い訳して、気がついた時には朝を迎えていた。

 

 

「ふぅ。おはよう優子。なんかいつもに増して真面目な顔してるけど何か考え事でもしてたの?」

 

「んー、まぁそんなところ」

 

 

顔を洗って来た愛子があたしとは反対方向の椅子に座る。

 

寝起きの割によく気づいたわね。

 

それほどまでにあたしが悩んでいたってことなんだろうか。

 

そういえば今のあたしは水谷君の印象が最初の頃と大きく違うけど、愛子はどうなんだろうか?

 

普段会話しているところを見る感じ大きな嫌悪感は感じられない。

 

裏表のない子だし、実は嫌ってる、ってこともないと思うし。

 

印象は良さげ……なのかしら。

 

 

「愛子は水谷君のことをどう思う?」

 

「え?水谷君?……あぁ!大丈夫だよ優子。別にボクは水谷君のこと狙ってないし」

 

「は、はぁ!?そういう話じゃないわよ!ただ単に今の評価を愛子から見てどうかっていうのを聞きたいだけで」

 

 

わたわたと慌てるあたしを見て愛子はいつもみたいにイタズラ心満載の笑顔でニシシと笑う。

 

ううっ……。

 

こういうのってズルイ。

 

からかわれてるのに愛子だと許してしまう。

 

と、とにかく!

 

 

「いい人だとか、性格悪そうとか、見たままの評価でいいから」

 

「評価ねー。ボクあんまり水谷君と話さないからさ。優子の知ってる水谷君とは全然イメージ違うと思うんだケド、一つ言えることは意外とよく見てる人だなーって」

 

「よく見てる?」

 

「ウン。なんかさ、普段の感じだと何にも興味なくって、周りの人なんてどうでもいいって雰囲気出してるじゃん?」

 

 

どうでもいいか。

 

確かにクラスで積極的に何かやってるってことはないし、あまり喋ってる方ではないかも……。

 

 

「これは前にも言ったけどやっぱり水谷君は優子と弟くんをちゃんと見分けてると思うよ」

 

「……まぁ、確かに」

 

 

それはあいつがあたしのことを……なんて口が裂けても言えない。

 

でもそう考えるとちゃんと見分けてくれてるっていうのはポイント高かったり……?

 

 

「それにさ、代表のこともそう。今日坂本君達が盗撮犯だって疑われた時に代表が怒って部屋に向かったでしょ?あれを止めたのも水谷君だって言ってたし」

 

 

そうだ。

 

更衣室で愛子が盗撮カメラを見つけて、小山さん達が犯人はFクラスの坂本君達に違いないって決めつけた時に代表も真っ先に飛び出して行った。

 

でもその後落ち込んで部屋に戻って来て、何があったのか聞いたら水谷君に痛いとこ突かれたって言ってたっけ。

 

確かに代表は愛が大きすぎて暴走しちゃう時があるけど、それを止めるのが水谷君だとは思わなかった。

 

いくら相手が友達の坂本君だったとしても他人の恋愛なんて興味なさそうなのに。

 

 

「勿論優子を脅したりしててまだちょっと分からないところは多いけどさ、悪い人ではなさそう……カナ?優子に言うことじゃないケド」

 

「ううん。いいのよ。素直な感想を聞きたかっただけだし」

 

「………多分だけどこんな朝まで考えて、わざわざボクに水谷君のこと聞いたってことはさ、何かあった?」

 

「…………うん」

 

 

まぁ、そうなるわよね。

 

だってあからさまだもん。

 

 

「そっか。深い詮索はしないけど、ボクから一つアドバイス」

 

「アドバイス……?」

 

「難しいかもしれないけど、1度今までのことリセットしてみたら?脅されちゃったりとか、迷惑かけられたりしてるケド、多分優子のことはちゃんと考えてると思うから。優子も水谷君のことちゃんと見てみなよ」

 

「ちゃんと、見る」

 

「ボクより優子の方がよく話してるんだしさ、少しは気づいてるんじゃない?水谷君が良い人なのか、悪い人なのか」

 

 

どう……なんだろうか。

 

悪い人ではない、とは思う。

 

でもいつもからかわれて、振り回されて、あたしの心を乱してくる。

 

このままだと普段のあたしが消えてしまいそうで怖い。

 

だって猫を被ってないあたしはとてもじゃないけど人前に出られるものじゃないから。

 

この仮面が剥がされたら、今まで築き上げた評価も平和な生活も終わってしまう。

 

そういう点では危険視してる。

 

だからこそ悩んでいるんだ。

 

あいつの気持ちを聞いたとはいえ、今まであたしが大切にしてきたものを崩されそうなのに、なんで突き放せないんだろうって。

 

一体あたしがあいつに何を期待しているのか。

 

何を望んでいるのか。

 

愛子の言うみたいに1度切り離して考えたら見えてくるのだろうか……。

 

 

「見ただけが真実じゃない。話して見なきゃ分からないこともあるだろうしさ。優子の中で考えて、それでまた何か悩むようなことがあればボクに相談してよ。いつでも聞くからさ」

 

「ん……ありがとう愛子」

 

 

見ただけが真実じゃない……か。

 

…………あ。

 

 

「そういえば愛子と代表に言っておかなきゃいけないことがあるの」

 

「ボクと代表に?」

 

「えぇ。代表はまだ起きてないけど、先に話しておくわ。実は昨日の坂本君達の覗きの話なんだけどねーー」

 

 

なんとなくスッキリした。

 

まだ答えを出せるとは思えないけど少なくとも悩んだ時は愛子がいる。

 

そう思えただけで充分だ。

 

学校じゃ猫被ってばっかりなあたしだけど、本当にいい友達を持ったものだ。

 


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