あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

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明日の予定が決定。
一日中冬休みの宿題。

せっかくの正月なのにな……。
あ、更新は一応しますので。


憎きあいつの仮彼女

頭がぼーっとしている。

先輩達が何かを言い残しながら立ち去っているのが見える。

水谷君の顔が至近距離真正面に見える。

唇に熱い何かが重なっている。

 

顔はとっても熱いのに、頭は完全にフリーズしている。

なんでだろう。

何一つ考えられない。

 

水谷君の顔がゆっくりと遠のいていき、同時にあたしの脳内もゆっくりと起動しはじめた。

 

ぱんっ!

 

そして気がつけばあたしは水谷君の頬を叩いていた。

 

「あんた……何してくれんのよ……」

 

心の動揺とは裏腹に零れる言葉は自分でも驚くくらいに冷静だ。

 

「あたし……キス…初めてだったのに……」

 

その言葉が出た時、目から涙が零れていることに気がつく。

でも、拭わなかった。

……いや、拭えなかった。

 

「なんで……なんであんたなんかにキスされないといけないわけ!?ぶつかっても謝りもしないし!人を勝手に下の名前で呼んで!変なことに巻き込んで!挙句の果てに人のファーストキス奪って……!どうしてくれんのよ!」

 

必死に水谷君に怒ることで精一杯で、それだけしか頭になくて。

でも水谷君はそんな焦るあたしとは対象に、ムカつくほどに冷静だった。

 

「俺だってファーストキスだっての。大体、そんなもん気にしてどうすんだ?責任とれってか?」

「ええそうよ!あんたに責任なんてとれるの!?あたしは……あたしはファーストキスは好きな人としたかったのに……!」

「そうだな。じゃあ木下、俺と付き合え。そしたら、責任とってやる」

「そんなことで責任とれるならやってみなさい………って…え?」

 

流れた水の勢いはすぐに止まった。

ダメだ。あたしの頭じゃ追いつけない。

こいつが何を言っているのか意味が分からない。

 

「好きな人とファーストキス出来ればいいんだろ?俺がお前を惚れさせる。お前は好きな人とファーストキスしたことになる。万事解決。どうだ?」

「あんたバカじゃないの!?あたしがあんたを好きになる!?ぜっっっっったいにないっ!ありえない!あんたを好きになるくらいなら死んだ方がましよ!」

「なんだ?俺にとっては女除けになっていい折衷案だと思ったのによ」

「折衷案……!? どこが!?というかここにきてもまだ自分のことしか考えないわけ!?本当に最低やつ!」

「まったく……こっちは折角お前が納得する形で終わらせてやろうってのに……あんまりこういうことはしたいくないんだよ。察しろエセ優等生」

「エセ……!?あ、あたしのどこがエセ優等生なわけ!?」

「しらばっくれるか?少なくとも、俺の優等生像だと優等生はBL本なんて買わないと思うが?」

「………………!?」

 

さっきのキスもショックだったが、こちらはこちらで同等に衝撃的だ。

な、なんでこいつがそれを……?

 

「なんだその『な、なんでこいつがそれを……?』みたいな顔は」

 

そして心をきっちり読まれてしまった。

なんてやつだ。

 

「変装しすぎなんだよ、お前。一昨日本屋で見かけたときすぐ分かったっての。何買うのか気になって見てみりゃBL本。笑ったね、あれは」

「〜〜〜〜〜〜っ!!う、うるさいっ!」

「まぁそんなことはどうでもいいんだ。本題は俺はお前のBL本件を黙っといてやるから、お前はしばらくの間俺の彼女ーー仮彼女になれ、ってことだ」

「………もしあたしが断ったら?」

「仕方ないな。交渉決裂で別の形で謝罪方法を考えてやる。だけど俺の見たてじゃお前はその優等生キャラを死守したいはずなんだけどな」

 

確かにこいつの言うとおりだ。

仮でもこいつの彼女になるのは嫌だけど、こんなに頑張って築き上げてきたものを、こんなやつの手によって崩されるのはもっと嫌だ。

ゆっくりと天秤が一方へ傾いてあたしの答えは決まった。

 

「…………分かったわよ。その条件、呑もうじゃない」

「理解が早くて助かるぜ。それじゃ、明日から頼むぜ。優子《・・》」

 

最後の名前を強調して、水谷君はその場を去ろうとする。

 

「ま、待って!」

「ん?どうした?」

「そ、その……あたしがBL本を買ってるって知って、幻滅…っていうか、失望した……?」

「失望?ん〜、そうだな。他のやつがどう思うかは知らねぇけど、俺はお前が無理して優等生やってるってことが面白かっただけ。それ以外、失望だの幻滅だの思ったりはしてない。が、俺でBL考えるのだけは勘弁な」

「そ、そんなことしないわよ!」

「ならいいんだが。あぁ、それと」

 

足をこちらに戻し、少し高い位置からしっかりあたしを目で捉えて、水谷君は言った。

 

「俺も初めてだったから他がとんなのかは知らないが、お前のキス、イチゴじゃないが甘かった。ついでに、泣き顔は可愛かったぜ?」

「な、な、な…………!///」

 

最後の最後まであたしを乱していく。

顔が紅くなったと自分でもわかるほどに熱い。

何がしたいんだ。

こいつは何を考えているんだ。

去って行く水谷君の後ろ姿を見ても、当然そんなものが分かるはずもなかった。




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非常に嬉しい限りです。

でも出来れば誰か感想くれないかな……ちらっ

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