あたしと弱味と仮彼女:R   作:近衛龍一

9 / 20
コピー機の反乱

 

 

印刷室で作業を始めたあたしだったが、愛子や代表がいなくても特に問題はなかった。

いや、問題がそう簡単に起きても困るのだが、起こる可能性すらないのだ。

え?何故かって?

そんなのーー

 

「……………zzz」

 

ーーそんなの水谷君が備え付けのソファーで寝ているからだ。

仕事もしないで…! と怒りたい気持ちもあるが下手に起こしてこつちに危害が加わるのは避けたい。

だいたい最初に横になった時点で『寝るの?』と聞いたが『コピーなんて一人で十分だろ』と返されたため、コピーが終わるまでは寝ているだろう。

くつろいでいる人の後ろで自分だけ仕事をしているのはしゃくだが、一応冊子を作る作業は手伝ってくれるらしいのでそれまでの我慢だ。

 

ピーガタンピーガン……ピーー

 

……あ、あれ?

コピー機が止まった……?

画面にはエラーの表示。

『予期せぬエラーが発生しました』と書いてある。

全く……こういう時に限って……。

あたしは一度コピーを取り消し、電源を入れ直す。

 

ピーーー

………。

もう一度。

 

ピーーー

…………。

もう一度。

 

ピーーー

……………。

もう一度。

 

ピーーー

………………。

 

ドンッドンッドンッ!

何なのこれ!?

急に止まってどんな嫌がらせだ!

こんなもの……!こんなもの……!

 

…………くぅ!

落ち着けあたし!

これは学校の備品だ!

壊すわけにはいかない!

 

「うっせぇな……。何してんだ……?」

 

コピー機を叩く音に反応したのか、水谷君がむくりと起きた。

 

「えと……コピー機が止まっちゃって……」

「はぁ? ちょっと見せてみろ」

 

水谷君がコピー機前に立ち、あたしとまったく同様スタートボタンを押す。

するとーー

 

ピーガタン、ピーガタン

 

「なんだ、普通に使えるじゃねぇか」

「………うっ……でもさっきは……」

「ふぁ…。んじゃ俺はもう少し寝るから」

「う、うん……」

 

くそぅ…。

なんで水谷君がすると動いたんだ…?

まぁいっか。

気をとりなおして新しいコピーに移る。

よし、これでスタートを押して……。

 

ピーーー

 

…………え?

 

「み、水谷君、またエラーが……」

「ったく何だよ……」

 

ピーガタン、ピーガタン

 

「………………ごめん」

 

ピーーー

 

「み、水谷君………」

「………へいへい」

 

ピーガタン、ピーガタン

 

ピーーー

 

「もう!な・ん・な・の・よこれは!?あたしに喧嘩売ってんの!?」

「落ち着け木下。コピー機にきれんな」

 

意味が分からない!

あたしがやればすぐにエラーが発生するのに水谷君がすればすんなりいくなんて!

あれか!?

このコピー機面食いなのか!?

あたしがあんたに何をしたよ!?

 

恥をかかせるなぁぁーー!!

 

「俺がやるからお前頭冷やしてこい」

 

なんたる屈辱、なんたる恥……!

とても悔しかったがどうせあたしがしてもエラーになるだろうから、あたしは水谷君の言葉に甘えて印刷室を出た。

 

あのコピー機……!

いつか覚えてろ……!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。